2023.01.28

【芝居】「エゴ/エバ」酔ひどれ船

2023.1.7 18:00 [CoRich]

西嶋咲紀による個人企画による「企み事」の二回目。ワタシは初見の劇団です。1月9日まで、絵空箱。80分。

三人姉妹の長女と三女は両親がおらず、叔父が同居している。長女と同じ介護施設で働く叔父は、ある日出勤を渋るが理由を答えない。次女は家を出ていた次女が帰ってくる。

絵空箱のバーカウンター側を舞台に、ダイニングキッチンのカウンターを模した形は珍しい。まだ三人とも結婚していないと思われる三人姉妹、介護施設で働き生真面目な長女、次女は家を出ていて、会社勤めをしているが水商売もしていてある日酔ってこの家に戻ってくる。三女は仕事はしているらしいけれど、パソコンばかりしているという造形。

三人姉妹がそれぞれの生き方を模索しながら生きている、という家族の物語。親は居なくなっていて叔父さんが同居しているという設定は三人姉妹と叔父さんの距離感がうまく醸される設定で巧い。長女が恋心を抱いている同僚から叔父さんがいじめられている、というのが物語の幹になるけれど、正直に云えばこの一つの幹が三人姉妹全体には波及せず、それぞれの悩みや考え方を持っている、ということにとどまるのは惜しい感じがします。

居なくなった母親の不倫や水商売が許せないという三女を軸にのもう一つ物語。次女が三人とも子供を育てていないと指摘するのは水商売をダブルワークでやっているがために見えるという視点で、あるいはもう少しそもそも年上だったから母親の生き方に寄り添うような対比軸になっていて、それゆえに三女もかつて母親が学校に呼び出されたあとに、パピコを分けてくれた思い出が蘇ったりと距離感の変化がここからの前向きを予感させるのです。

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2023.01.22

【芝居】「すずめのなみだだん!」やみ・あがりシアター

2023.1.7 14:00 [CoRich]

2017年初演作、劇団の再演希望アンケートで1位という触れ込みの100分。ワタシは初見です。1月8日まで駅前劇場。

「横の声は聞かず、ダダンの縦の声を地面から聞く」教えを忠実に守り世間から隔絶して暮らす人々。その教えを広める期待を背負って若い二人が郷里を離れて人里へおりていく。

途中で離ればなれとなった二人の一人は、靴職人の家に住むことになる。地面の音を聞くために靴を履くのを嫌がりダダンの教えを守りながら通う定時制の学校にはさまざまな人が居る。そんな日々のなか、久しぶりに再会したもう一人はマッサージ師として働きむしろ地面から離れたいと考えている。

大勢で足踏みならす序盤の圧巻、そして一人足を踏みならし続ける力強さを通奏しつつ、 隔絶されある宗教を信じてくらす人々の中から、いわゆる私たちに近い価値観の現在の世界にやってきたことで巻き起こす物語。クリスチャンとその子供の関係なども交えていて、初演がどうだったかわからないけれど、宗教二世という「問題」が通奏低音のように流れていると感じるワタシです。

隔絶されている宗教、横の声とは人の意見、縦の声とは過去の人々つまり自分で考えるという教えなのだけどあとになって、その実、考えを口にすることで人々が考えをすり合わせて落ち着き処に着地するという説明が見事で、一人になったすーちゃんにダダンの声は聞こえず不安になる、ということの説得力。もう一人は閉鎖された宗教的集団の中でネットを通じて外の世界を知り得たからここから抜け出したいと思うというのも、昨今の宗教二世に通じる感覚なのです。

ひたすらに明るくまっすぐであるヒロインは、工事現場でキツイ仕事をする若者だったり半笑いで軽薄に生きているように見える若者、若くして妊娠する女、友だちが居なくて帰りたいといい続ける女、子供のために手に職を付けたい女などさまざまな人々を巻き込み、郷里が無くなってしまった彼女はこのコミュニティの中で生きていくことを決めるのです。終幕、若者が作ってくれた靴を履くシーンがとても象徴的。

ヒロインを演じた土本燈子は裸足のままで演じ続ける底ぢからと、人々を巻き込む説得力。もう一人郷里を出てきた女を演じた加藤睦望はその逆にひっそりと、郷里を忘れて生きていきたいがゆえにさっさと靴を履きこちら側で生きているリアリティ。ヤンキーだけど簿記を勉強したい女を演じた星秀美の生きる力、マッサージに通う男を演じたふじおあつやの斜に構えるけれど人に向き合う感じ、帰りたいといいつづける女を演じた小林桃香の生きづらさの解像度が印象に残ります。

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2023.01.19

【芝居】「gaku-GAY-kai 2022 贋作・テンペスト」フライングステージ

2022.12.30 14:00 [CoRich]

フライングステージの年末恒例企画。70分の演劇「贋作・テンペスト」の前半と、さまざまな余興的バラエティの後半を組み合わせて2時間半ほど。12月30日までシアターミラクル。

第一部「贋作・テンペスト」
女装を理由に新宿を追い出された男は孤島にたどりつき女装の道を選び美しく育っている。 新宿の王と渋谷の王は旅の途中、嵐で船が難破して、この島に別々にたどりつく。渋谷の王子は女装の男に恋をする。
第二部

  • 「佐藤達のかみしばい 僕の話をきいてください」佐藤達
  • 「ドラァグクイーンクイーンストーリータイム のばら 小川未明」関根信一
  • 「水月モニカのクイアリーディング 超訳サロメ」水月モニカ
  • 「小夜子なりきりショウ リヴァイタル:メテオール」モイラ
  • 「中森夏奈子のスパンコール・チャイナイト vol.14」中森夏奈子
  • 「今年もアタシ、第二部で何かやろうかねぇ」エスムラルダ

年末の風物詩、いつもの楽しみ。「~テンペスト」は贋作として、新宿という土地、恋する男女を男と「女装」で組みあわせて、しかしコンパクトにまとめられているとはいえ、わりとキッチリとテンペスト。魔法の杖を置くのが百恵ちゃんぽかったり、孤島だった場所が地続きとなり新宿二丁目になる、なんてあたりの洒落っ気も楽しい。

「~かみしばい」ももうすっかり定着の一本。年末のビッグニュースがあっても特に触れることはなく、しかし皆その祝福ムードで温かく。五反田駅前のポストで助けてくれた郵便のおじさんの恩返しをしたいたぬきのはなし、ほっこり。
「ドラァグクイーン~」は小川未明「のばら」(青空文庫)大国と小国の国境に居るそれぞれの国の兵士の物語、ロシア・ウクライナのいまだからこそ。
「クイアリーディング」はサロメ、コンパクトに。
「小夜子~」の妖艶でスローでタイトなダンス。
「チャイナイト」は定着の明菜ネタだけれど、ご本人の露出少なめでも、毎年観られる嬉しさと歌唱力の迫力と。
「今年もアタシ~」曲に会わせてのフリがちょっと怖かったりと楽しめるし、ジャグリングやって、そしてラストナンバー「エスムラルダでマンボ」で大団円。

年末たった二日の公演、なかなか行けるかどうかが綱渡りの昨今の私だけれど、今年も拝見出来た嬉しさ、観劇納め。

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2023.01.12

【芝居】「RAIN~改訂版~」螺旋階段

2022.12.24 18:00 [CoRich]

16年前の旗揚げ公演を改定しての再演とのこと。ワタシは初見です。12月25日まで小田原市生涯学習センターけやき。105分。

2006年の探偵事務所。夫の浮気を疑う妻が探偵の依頼に訪れたりしている。その事務所にやってきた男は、自転車で恋人の元に向かう途中で気がついたら自分の居た1976年からこの時代にタイムスリップしてきたという。超高速で自転車を走らせ元の時代に送り返しても、すぐ男は戻ってきてしまう。浮気を疑われた夫は、両親亡きあと結婚することもなく育ててくれた伯母が病気で先が長くないことを妻に隠していた。

タイムスリップして消えてしまった男を待ち続けた恋人は独身のまま歳を重ねていて、その寿命も尽きかけようとしているときに待ち続けた恋人が若いまま現れ再会する、という物語は二つの時代を超えたクリスマスらしいファンタジー色の強いラブロマンス。振り返ってみれば、このシンプルで太い物語にきちんと収束するように、浮気を巡る話、養子をとって育てた独身の女、あるいはマセラティを駆るライバルの粋な探偵、わりとやりたい放題の大家など、緻密に組み合わされた人物も魅力的で見応えがある一本だし、バック・トゥ・ザ・フューチャー風味のタイムスリップや、きっちりボンネットを再現した高級外車みたいな外連も楽しいのです。

探偵よりも年上の探偵助手を演じた露木幹也は落ち着き、時にコミカル。やりたい放題の大家を演じた岡本みゆきの軽快なコミカルと会わせて物語にリズムを。ライバル探偵を演じた水野琢磨はキメてもどこか三枚目風味の楽しさ。待つ女を演じた田代真佐美と「時をかける中年」を演じた緑慎一郎は、ひたすらシリアスラインであり続けるラブストーリーの要をしっかり。実は男はタイムスリップではなく、亡くなっているのだという終幕は悲しいけれど、きっちりクリスマスらしく。

公共ホールではわりとありがちな広い客席の劇場だけれど、客席の場所をぎゅっと狭くしてすくなくとも濃密な空間を作り出すのはとてもいいアイディアで、三鷹市芸術文化センター星のホールの手法でよく知られるけれど、もっと使われていい方法だと思います。

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2023.01.08

【芝居】「パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。」趣向

2022.12.24 11:00 [CoRich]

コロナ禍で書かれた2021年作を再演。ワタシは初見です。東京の風姿花伝での上演は12月25日まで、兵庫での公演は中止に。

コロナ禍で家に集まり、戯曲「人形の家」「三月の5日間」「サロメ」を持ち寄り、読み合わせをする人々。描かれた登場人物を共感したり糞だといったりしあう。友だちを連れてきたりして続ける。

読み合わせをきっかけに、再び繋がって集う人々、コロナ禍関係無くそもそも生きづらい人も混じっている。サロメの登場人物、ヨカナーンを(戯曲で読み合わせして)「支援団体の人みたい、説教するし」という台詞が秀逸で、もちろんそれぞれの立場ではあるけれど、彼らがそう思っていることをこの場所だから云える場所。むしろ肩寄せ合わない、踏み込まない、さらりとした人物。心地よい居場所ともちょっと違うある種の緊張感を持った人々が集える場所の重要さを端的に描くのです。

登場人物の名前はアルファ、ベータと名付けられていて、当日パンフには、一言で人物の見た目(髪の色や髪型、着てるモノなど)が書かれているのが記憶力ザルのワタシにはありがたい。ひたすら明るいピンクの髪の女性(アルファ)を演じた三澤さきは、性的虐待の過去を内包する強いコントラストが明暗を繊細に。安らげない家を出て一人暮らしを始めた女性(デルタ)を演じたKAKAZUはすらりと背が高く、裕福な家をわざわざ出て行きたい理由の襞。しかし手作り4品、冷食NGとか有るかも知れない現在の問題もきちんと。正義が時に暴走するおかっぱ頭(オメガ)を演じた大川翔子、決して大きくはない背丈で飛びかかるような勢いに驚くワタシです。もうずいぶん長いこと拝見してる役者の安心感。ワタシが勝手に作家を投影する主催者を演じた伊藤昌子(イプシロン)、物語の中では全体を包み込むような存在なのに、彼女もまた不完全だったり何かが欠落している造型の人物を描くのが作家、自分にも容赦がない(と勝手に思うワタシ)。

生きづらいこと、生きていくことを耐える、ということ。パンは生物として生き、バラは心で生きるというタイトルに戻る終幕。 ワタシの観た回は更に手話通訳者が3名舞台の上で登場人物に混じり、手話をしながら、という演出は、さまざまな人々が集う場所、というこの物語の説得力。

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2023.01.06

【芝居】「秒で飛び立つハミングバード」かるがも団地

2022.12.18 17:00 [CoRich]

かるがも団地の新作は、20代後半の男女が燃え尽きたり迷ったりの110分。OFF OFFシアター千穐楽。

倉庫でアルバイトしている男はアスリートとして大成できず燃え尽きている。鳥が好きすぎる教員の女はいろいろ不器用。二人は同棲を始めたカップルの引っ越しの手伝いで出逢う。カップルの男は会社員だがわりと職場で使われないと思われがちで自己肯定感が上がらない。女は歯科医で順風満帆に来たがルーチンにはまり何かを変えるなら最後だと思っている。倉庫のアルバイトの同僚には寿退社と言ったのに仕事を続けて居づらい女がいたりするし、教員の女が勤める中学には目標とする先輩が居たが休職している。教員の新人の男は何かと気にしていてドライブに誘うが、なぜか倉庫アルバイトの男とかたくさんついてくる。

周囲には後輩の世代、先輩の世代などを配して奥行きを持たせつつ、社会に出て何かの立場になったり、何かを失ったり、何者にもなれていなかったりという20代後半の人々を中心に描きます。カップルは出てくるしほのかな恋心がコミカルに描かれたりはするけれど、基本的には自分の来し方と処し方を迷ったり考えたり不安になったりというそれぞれを描くのです。

女性教師を演じた柿原寛子、不器用に一所懸命だけれど、鳥となると軽快で前のめりのパワーのコントラストの人物像。倉庫で働く男を演じた袖山駿は燃え尽きた男のレジリエンスの力強い造形。カップルの女を演じた武田紗保はハイスペの充実してる中でもルーチンというこの物語の中では孤高の強さ。その恋人を演じた大嵜逸生は自己肯定感低めだけれど、部活の先輩とのわちゃわちゃ楽しい会話の雰囲気が楽しい。一年目の教師を演じた家入健都は先輩に憧れる感じ、困ったことになっても受け入れちゃう若いゆえの柔軟さ。元同僚の先輩教師を演じた一嶋琉衣は不器用な女教師が目標とする少し上の存在の説得力。倉庫バイトの同僚を演じた助川紗和子、凛としてすらりとカッコよい立ち姿と声質、ヨガ講師の説得力。「森羅万象」を演じた宮野風紗音の軽やかなコミカル、大家から歯科医院の院長まで自在に、物語というよりは舞台のリズムを作る確かな存在という稀有な役者。

日本にいないハチドリを見つけた、という大団円かに見せてアウトな大家、という終幕がクスリと、楽しい。

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2022.12.25

【芝居】「世界が私を嫌っても」劇団劇作家

2022.12.17 18:00 [CoRich]

2019年にリーディング公演として拝見した諏訪生まれの女性の物語。120分TACCS1179。

諏訪で女性に学は必要ないといわれた娘、母親を振り切って女学校に入ったたい子は、教師を目指す伊藤千代子、紡績会社のミツと仲良くなる。卒業式の日その足で諏訪を出ることに決め上京する。社会運動家やアナーキストと恋に落ちたり満州に渡ったりしつも、戦後は不死鳥と呼ばれ、「転向作家」とよばれながらも夫と、身のまわりの面倒を見てもらうために雇ったミツと暮らしているが、二人は愛人関係になっていて。

リーディングでは平林たい子以外の人物はわりと別の名前にしていたりとフィクションにしていました。とりわけ、三吉という変幻自在な創作された人物が物語を縫い合わせていたのです。今作では、現実に居る同じ時代の人物が友だちだったかもしれないというフィクションを滑り込ませます。史実を増やしたことによって、その史実をなぞるために手間取るように感じるワタシで、リーディグの自由さが少し懐かしくなったりするのです。

フィクションであった三吉の代わりとなるフィクションの人物は紡績会社の娘であるミツだと思うけれど、会社がたち行かなくなり、半ば家政婦のように住み込んでいて、しかも居なくなったと思ったら(平林たい子の)夫が愛人として他に囲っていたという飛躍よりは、ワタシはリーディングの小作から駅員、刑事という変幻自在のフィクションを楽しかったと思うのです。今作では、融通をきかせる刑事にその痕跡があります。いろいろな理由や調べてブラッシュアップしたが故の窮屈なのかもしれません。

平林たい子を演じた小石川桃子は小学生から女学生、妻でもあって、力強く生きる確かな造型。社会運動家の伊藤千代子を演じた小泉まきはある種たい子に「かぶれて」人生が流転したという人物の細やかな造型。恐らくは創作された人物・岡谷ミツを演じた山本由奈はいい家の子にうまれたゆったりとしていたのに、夫を労働争議の余波で亡くし、それゆえに忙しく働くという長いスパンの説得力。

母・かつ美を演じた久行敬子は女性に「諦めて」家に入るべきという時代ゆえの規範と、かつて女学生であった本人が理不尽をなんとかしようと思っていたのに、娘にはその規範に従うようにしていく引き裂かれるような気持ちを細やかに。父を演じた中嶌聡は理解ある父親、やりたいことをやらせたいというけれど、あたふたする感じの弱さ。

アナーキストを演じた近藤隼は強面のチンピラ風情の格好良さ。林芙美子を演じた秦由香里は華やかな雰囲気を纏い続けて、いわゆる「人気者」であっただろう説得力が圧倒的なのです。

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2022.12.24

【芝居】「凪の果て」動物自殺倶楽部

2022.12.17 18:00 [CoRich]

鵺的の高木登による個人ユニット。95分。久々に訪れた雑遊はいつの間にか地下ではなく一階に移っていました。

夫が愛人を作り、夫妻両方が弁護士を立てて争う。妻は高圧的な言葉を投げつけ、しかし決して離婚はしないと言い張る。 原因を作った夫はおどおどした態度で離婚して愛人と暮らしたいと言い続けばかりで妻との対話は拒否していて、謝罪すらも拒み、双方の弁護士は困っている。
その少し前、夫の弁護士が夫の愛人と会っているところに妻が訪れる。愛人はストーカーめいた電話も困っているし、結婚を積極的には望んでいないし、法廷にも立ちたくないというのは、実は暴力を振るう夫から逃れたいのと、暴力を振るわないで泣き言を言うだけの男が傍らにいてくれることが平穏の暮らしなのだという。

暴れる妻と、怖がり続ける夫という描写で始まる物語、観客はもちろん夫の側に近い感情だと思うのだけれど、徐々に夫の意味の分からない拗らせが徐々に明かされます。負けた気がするから謝りたくないし、かといって、妻の剣幕が怖いから、妻の側で勝手に忖度して、離婚が成立して、愛人と一緒になりたいのだということが判ってくるにいたり、夫の難しさと周りの困り具合が明らかになるのです。

妻の側の弁護士(男性)は優秀で、夫の側の弁護士(女性)とかつて夫婦で、やや上からの目線で、この案件から手を引くことを決めるというのが一幕の結末。

時間は巻き戻り、愛人を加えて、登場人物の女性三人(愛人、妻、夫の弁護士)での会話劇になります。実は愛人もそこまでは結婚を望んでいないこと、だけれど誰か男が傍らにいてほしい「タイプ」でずるずると関係を続けていることが明らかになることと、 愛人の存在を妻の優秀な弁護士は利用して離婚をちからづくで勝ち取ってしまうアングルを読んだ弁護士は依頼者である夫を裏切ることを決めるのです。つまり離婚を成立させないために女性三人がスクラムを組む、というどんでん返しは職業論理的に悩んでるように見えないと言う点でやや強引だけれど、痛快ではあるのです。全体の構図としては愛人を結婚させず、離婚を成立させず、しかも上から目線の男性弁護士の裏をかいたという意味で女性弁護士もある意味で勝つ、という三人の女性の勝利もまた痛快。とはいえ、勝利になんかグラデーションある気はするけれど。

三脚の椅子、観客を向いていたりしていても、それは向かい合っていたりという役者を正面から捉えるという演出。終始、不穏な「音」が流れている舞台の不安さもちょっとおどろおどろしく。

男性二人は結果的にはヒールの立ち回り。妻の弁護士を演じた函波窓は上から目線の造型でいけすかない感じ。夫を演じた橋本恵一郞はすさまじく拗らせて面倒という言葉では言い表せないほどの扱いづらい造型で邪悪なヒールをきっちりと。

愛人を演じたハマカワフミエは、夫の暴力には耐えかねていて、暴力を振るわないというだけで傍らにいてしまうという、男が居ないと不安で仕方ない人物を細やかに奥行きを。妻を演じた三浦葵は暴れ回り強い言葉と強い目力でシンボリックな造型で、強烈な印象を残します。夫の弁護士を演じた赤猫座ちこは若い女性だけれど芯の力強さという「希望」を物語に貫く役をしっかりと。

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2022.12.15

【芝居】「瞬きと閃光」ムシラセ

2022.12.4 17:00 [CoRich]

ムシラセの新作。女子校の写真部をめぐる濃縮の120分。12月4日までシアター風姿花伝。似顔絵の相関図が有り難い。1月30日まで配信中

ミッション系の女子校、写真部。兼部も居るし、写真の好き度合いもさまざまな部員たち。コンクールが近づいてそれぞれ作品を作るが、もう十年ぐらい賞を取っていない。文化祭も近づいてる。
部員の一人は優等生だけれど、コンテストになんとしても入賞したいと知恵を巡らせる。写真がもの凄く好きな一人は、部室の中で「お化け」を見てしまうが、「もじゃ」と呼び、仲良くなって写真を教えて貰ったりする。

女子高生たちと、彼女たちが仕事とか恋とか、これから先の人生に思いを巡らせたり、あるいは大人たちが過去の自分を重ねたりと交差するつくりは、まさにジュブナイル。骨格をこのままに60分にできれば、高校演劇で人気になりそう。

物語の骨格は後半になって明らかになるのだけれど、写真好きな女と親友、あるいは「もじゃ」と親友だった教師の一人、という二組の親友たち。写真が好きすぎるのに、入賞したのはそれほど写真好きでもない親友の方で、喧嘩してしまう、という鏡映しの構造。高校生たるもの、才能と友情とプライドを巡る彼女たちの葛藤やある種の不安定さ、それは時代が変わってもそこかしこで起こっていることで、そのただ中の彼女達の姿が本当に眩しいのです。過去の一組は仲直り出来ずに亡くなってしまうけれど、いまただ中の一組はきちんと修復できるという希望の結末はとてもよくて。

この骨格を持ちつつ、写真をめぐる様々を現在の価値観できちんと。たとえば、一人はルッキズムを巡る男女の非対称性やその変化を大人びて語り(それは家族の想いの通りには行きたくないという戦略によるものだけれど)、一人は女性で写真家を仕事にしようとするときに直面してきた様々な理不尽を語るのです。それはもちろん、女性でもあり写真家でもある作家ゆえの切実さを持った言葉として強い力をもつのです。

スタジオで使うような背景幕をいれた舞台も美しいし、序盤で使うフラッシュ、あるいは暗室で使うような赤いライトの光のコントロールもとてもいいのです。

写真好きを演じた輝蕗はホントに元気いっぱいなボーイッシュで物語を牽引。親友を演じた元水颯香は見守るようで、このどこまでも親友な雰囲気のよさ。男性に対してやたらに厳しい女性教師を演じた渡辺実希はすらりと、しかしどこかズレたようなコミカルを挟みつつリズムを。やる気の無い顧問を演じた辻響平のしかし生徒を見ていることの繊細、終幕これもただ早く帰りたいだけじゃなくて、介護なのだという人物の救いもいいし、恋心を持った同僚を演じた小口ふみかの「頑張っている」という見方の正しさでもあって。教務主任を演じた菊池美里はどこまでも温かくしっかり、という役が私の記憶の限りではちょっと珍しく印象的。「もじゃ」を演じた工藤さやのラフさから、あるいは女子高生たちの少し先輩な視点から眺める表情がいちいち優しく、見守る大人。あるいは、仕事で理不尽に揉まれてきたことの説得力も細やかに。学校の中を歩いている部外者はついに舞台に現れないのだけれど、キャストに名前のある松尾太稀、なるほど舞台を見守っているよう、とも感じてしまうけど、でもそれはそれで。R.I.P.

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2022.12.13

【芝居】「蛍」第27班

2022.12.3 18:00 [CoRich]

第27班の新作、135分。再演のようですが、ワタシは未見です。11日まで三鷹市芸術文化センター 星のホール。

ライターとして認められたい女、同居するメイクの女の紹介で新進気鋭の棋士のインタビューをする。要領を得ない感じだが歩いて話すうち、名前が売れたい、それ連絡の取れない姉に見つけられて再会を願っている。
演劇部部室で将棋を刺す男の一人やたらに強く、プロ棋士の女が負けられない戦いの前に練習のために通う。
妻が顔を見てもいない冷え切った夫婦。夫は後輩との出張の一夜で過ちを起こす。
DVする母親のもとで暮らす男児、無職の男と遊びゲームをするとやたらに強い。出所してきた「姉」は母親から離れて東京に逃れようとしていたが、思い直し、弟だけを東京に逃がす。

四つの舞台それぞれの組の役者で舞台を構成します。つまり、「天才棋士の物語を追う記者の部屋」「部室に集まる学生たち」「冷めきった夫婦と不貞する男」「とある家族の過去」(当日パンフによれば)。それぞれ独立に始まる物語をカットバックで見せて、実は終盤に向かって時間軸の前後関係、別々の役者による一人の人物の重なりが徐々にするするとピントが合ってくる構成の巧みさ。

ネタバレ覚悟で云えば、無職の男と遊ぶ男児は天才棋士に成長して記者の奮闘で「姉」の居場所を知り会いに行くが会えず、DV母から事実を告げられますし、部室で強かった男はプロ棋士を目指し告白するが別の友だちと付き合っていることを知り絶望しかけるが、プロ棋士になり、そのあと結婚した妻とはとっくに冷え切っていて。ビッグタイトルで天才棋士とプロ棋士の男と対決するのです。静かな対局のなかで、それぞれの役者が個々までに積み重ねて来たことを心の声として思い切り叫ぶのが圧巻の迫力。あるいはその妻の心の平穏を取り戻す切っ掛けが天才棋士だったり、あるいは天才棋士となるキッカケは無職の男が餞別代わりにくれた小さな将棋セットだったりとか。伏線を余すところ回収する緻密さ。

正直に云えば、夫がそれほどのビッグタイトルで対戦する男の顔を知らない、というのは少々ひっかかりますが、まあ夫に興味が無いということかなと思ったり。

母を演じた石井舞のやさぐれた迫力と、ずっと秘めてきた告白の細やかな説得力。無職の男を演じた大垣友のふわっとしたダメ男だけれど男児が救われる風のリアリティ。ライターと同居する二人の女を演じた鈴木あかりと、もりみさきの二人の近しさの繊細。

とりわけ、終盤のプロ棋士対局の4人のコントラスト。静かに対局する天才棋士を演じた松田将希と髙橋龍児の「静」と、それぞれの心の声を演じたふたり、男児だった天才棋士を演じた小関えりかと、学生だった男を演じた佐藤新太のそれぞれの振り絞るような絶叫の「動」。あるいは互いの「天才」と「努力家」もまたもう一つのコントラストなのです。

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