2021.07.22

【芝居】「夜会行」鵺的

2021.7.3 19:00 [CoRich]

女優5人だけによる一室でのワンシチュエーションを描く会話劇。75分。7月7日までサンモールスタジオ。7月24日から8月13日まで配信が予定されています。

女性同士の恋人が暮らすマンションの一室。コロナ禍の中、誕生日を祝いにレズビアンの友人たちが集まっている。訪れた友人の一人に新しくできた年下の恋人もあとからやってくる。新しい恋人は以前は男と付き合っていて、はっきり別れたと云っているが、このパーティの間も電話がひっきりなしにかかってくる。

ベランダにカーテン、広いダイニングとキッチン。女性らしく、というと語弊があるけれど、お洒落な持ち寄りパーティという雰囲気で物語は始まります。コロナ禍らしくマスク姿、背を向けて乾杯したりとやや滑稽だけれど、私たちの現実に地続きな世界の物語なのだとはっきりわかるオープニング。

この家に暮らす二人と、今は独りで職場でもカミングアウトしている「強い人」という三人は、やっと失恋から立ち直った女をずっと見守っていて心から心配しています。すでに友人関係にある4人に対して後から現れる新しい恋人は年下なのに実にしっかりしていて。幸せそうではあるのだけれど、かつては男性と付き合っていたということがわかり友人たちが心配する中盤は、レズビアンとバイセクシュアルなど性指向のグラデーションのありかた、マイノリティだからこそアイデンティティーや安寧を脅かすような要素を注意深く排除しようという静かな強さのようなものが渦巻く見応え。5人が対立しても会話で理解しあう空間。実は同性愛だからというわけではなくて、要素や立場を替えればあらゆる恋人関係にあるいは人との関係に敷衍できそうな人々のありかたで、何度も噛みしめたくなるような会話のラリーなのです。

終盤に向けての盛り上がりは、しつこくかかってくる電話が別れたはずの男からのもので、その男が女を力で屈服させ、あるいは甘えてくるという絵に描いたようなモラハラ男。女たちの憎悪にも似た気持ちが燃え上がり、何人かは「殴りに行こうぜ」(あるいはそれを守りに行く)というイキオイで去って行く、どこか爽快な感じすら感じさせるのです。 今作でのこの男のありかたは、メスを取り合い、メスを屈服させるオスというマッチョイズムの権化に造型してこの場の5人(と観客全て)をイラッとさせ、あからさまなヒールという立場に。 更には恋人が同性だと聞くと(オスとのメスの取り合いで負けたわけではないと)冷静になり、理解しているよという素振りのポリコレフレイバーをまぶすのだけれど、マッチョイズムであることを深く印象づけるのです。この理解してからの後半が憎悪を増幅するということを理解出来るかどうかが、ある種のリトマス試験紙になる気がします。

残された二人。「別れないよ」という一言があるけれど、少しの暗転のあと、カーテンにクリップされたクレヨン画の似顔絵というシーン。二人の関係がどうなったのかは明確には語られないのだけれど、ちょっともやっとする終幕だけれど、どの在り方でもそれぞれがきちんと歩んでいると感じるワタシです。

今はフリーの女を演じた奥野亮子は、理知的なのに時折見せる感情の噴出のダイナミックレンジが魅力。誕生日の女を演じた福永マリカ、鵺的ではサイコな人物を演じることが多くて身構えてしまうけれど、今作では不器用なナイーブさを繊細に。その恋人を演じた笠島智、待ち続ける女という感じだけれど、それゆえフラットに物語のゼロ点の立ち位置であり続ける柱。失恋から立ち直り新しく恋愛を始めた女を演じたハマカワフミエは感情が勝る人物を魅力的に。新しい恋人を演じた青山祥子は年下でしっかりして、クズ男に一人で立ち向かってきたという力強い人物の説得力が凄い。

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2021.07.17

【芝居】「バクで、あらんことを(B)」くによし組

2021.7.3 16:00 [CoRich]

くによし組の新作、完全ダブルキャストでの上演。80分。7月4日まで王子小劇場。

オーディションを経て芸能界デビューしたものの、その映画は中止となりオワコン女優とまで揶揄されるようになった女が地元を10年ぶりにドキュメンタリー映画のために訪れる。
10年前、その町では有名な映画監督による町の住人の女性を主役に抜擢するオーディションが開催されることになった。自己評価そこそこ低めの女も応募し、勝ち進んだ最終審査で、オーディションの役である「バク」に顔を整形して現れる。

優しい友達がいった映画館を再興したいという思いをキッカケにオーディションを受けた自己評価低めの女、醜い整形をしてまで役を取るという欲、同じオーディションのライバルたちも煽られるようにばたばたとする。芸能界での自分もたいして有名にもなっておらず、女優として寄りドッキリ番組要員だったりという微妙な立ち位置のまま訪れた10年ぶり地元の風景は変わりないように見えて、しかし後押ししてくれた友人の男が亡くなっていたということを知らず。

芸能界なる場所にいること、10年続けてはいるけれど、最初の整形に始まった間違い続きの空回りゆえのオワコン感というその場所に居続ける人の物語。前半では物語は素っ頓狂なほどファンタジーで、メデューサ、豊胸などデフォルメされた異形の者たちが作り出す世界そのものがオーディションを勝ち残った女が観ていた夢を主観的に描き出している気がします。後半、10年保留されていた映画の再開という現実への着地はしかし、10年を経てヨゴレ(女優)とか異形な者の見世物とするような芸能界の在り方がポリコレ的正しさゆえに規制される変化への戸惑いのようなものの出方がわの感じ方が細やかに描かれるのです。

いっぽうで、その場所に送り出した側の物語も描かれます。地元を出て行ったかつてのライバルの心の支えであった男の死を知れば芸能界を辞めてしまうと危惧して男の死を隠し続けるメデュコなる地元の有力企業の経営者を描く事で、有名にはなれなくても地元で支え見つめる人々の存在をきちんとフォローするのです。

体型や美醜といった見た目であるとか、(今作では描かれないけれど)障がいであったり性的なありかたを芸能の場所でどう扱うかが大きく変化したという意味ではこの10年は確かにいいタイムスパンの取り方で、今作はそれを声高に批判したり懐かしんだりはしないのだけれど、ただただ戸惑っているという描き方がとても素直で小劇場ゆえに描く事が出来る手触りを感じるワタシです。

10年ぶりに訪れた女優を演じた菊池美里のおどおどとした、しかし間違いなく存在感のある姿が印象に残ります。地元で見続けているメデュコなる女を演じた堀靖明は出オチかと思わせて面白く厚みのある人物をきちんと。

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2021.07.14

【芝居】「廻る座椅子で夢を見る」螺旋階段

2021.6.26 18:00 [CoRich]

120分。神奈川県立青少年センター HIKARI。6月27日まで。

同居している父親の所在確認を行うために女の住む家を訪れる年金事務所職員。女は引きこもり働いている風でもない。かつてこの家で暮らしていた家族の話になる。
1998年、夫婦と娘たちが暮らしている。次女は外資系に就職し三女は卒業間近、バイトの日々。バブル崩壊のあおりで父親の会社は倒産しているが家族に言えないある日、家を出ていた長女が男を連れて戻ってくる。父親の事情を知っていて家のリビングでDVDの不法コピーをして稼ぎ始める。

舞台中央に回転する座椅子、大きな家具のようなボード、それなりに大きな家のリビングで暮らしていた人々を描きます。 一家の大黒柱たる父親、専業主婦の母親、外資系に就職した娘、自宅を構えといったことが、絵に描いたような幸せであったかつての頃から、時代が大きく動き崩れ始め、今作ではバブルが弾けた90年代後半、大黒柱でなくなった父親だったり、素人が危うい仕事に手を出せるようになった感じ、あるいはビデオがDVDに代わり、素人もののAVが流行始めたという風景を合わせて描くのです。

父親に代わり長女がDVDの不法コピーで稼ぎ家族たちを養えるようになる前半を経て、その奇妙なバランスが日常になったころ、二番底が抜けるように次女のAV出演が物語に明かされ、伝えてないのに目にしてしまった母親が自死に至るのです。母親を失ったことの大きさに気づき娘たちと父親が和解しようかとする刹那、更に底が抜けるように警察に踏み込まれる一家離散となったあの頃の激動が描かれます。唐突にみえたAVダビングも長女が妹のAVを知りそれ以外を大量に流通させようという想いゆえという少々荒唐無稽な感じも、その想いの深さを感じます。

家族を振り回すようでぼんやりして見える母親の造型は前半こそ不思議ちゃんな違和感だけれど、後半の喪失感に説得力を持たせます。演じた岡本みゆきは、なかなかない感じの役柄だけれど存在感。ヤクザまがいに現れる長女とチンピラの男のちゃらい感じから、序盤の掛け合いや注意深くやっていたはずのAV撮影がルールを守ってなかったと毒づくあたりの緊迫感、ドライブ感が圧巻で見応え。演じた竹内もみと緑慎一郎の丁々発止も楽しい。

母親が家族を繋いでいて、居なくなって判るその欠損の大きさというのはこの上演前後にテレビ放映されていたテレビ東京系「生きるとか死ぬとか父親とか」をちょっと思い出したり、AVと時代のかかわりという意味ではNetflix「全裸監督」も多彩な登場人物のキャラクタという意味でも重なるところも多くて。

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2021.07.12

【芝居】「走れメロス ~TOKYO20XX~」劇団肋骨蜜柑同好会

2021.6.13 18:00 [CoRich]

古典のテキストを使うmeetsCLASSICSというシリーズの第三弾、このシリーズは初見です。80分。サブテレニアン。千秋楽。 アーカイブ期間として2021年6月28日(月)まで配信。

友を人質として置き走り続ける「走れメロス」を軸にしながら、遊びすぎて太宰治からの連絡を受けた妻から金を託され巻き込まれる檀一雄の逸話を重ね合わせて進む物語。残される側と残した側、その関係性はかならずしも同じではないけれど、「走れメロス」の作家が、こういうことをしていたという面白さは、並行して二つの物語を語ることで醸し出される面白さなのです。

ジャージ姿の役者たち。舞台に置いたトレッドミルで走り続け役者の肉体の疲れをリアルに見せてみたり、実は走り続けているという速度ではないんじゃないかなどの細かなツッコミも楽しい。透明な面のようなマウスシールド、狭い劇場ゆえの感染対策的な意味というよりは赤く塗られた鼻もあって、どこか仮面のような雰囲気を纏います。

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【芝居】「どこか行く舟」Pityman

2021.6.12 16:00 [CoRich]

2012年にAAF戯曲賞を受賞した室屋和美による二人芝居を山下由の演出による上演。110分。6月16日まで新宿眼科画廊0。

出会い系サイトで知り合い、女の家を訪れた男。女の実家で集会が行われる新興宗教で繋がっていることを知り、男は家をよく訪れるようになる。男は結婚しているが妻は殴るといい家に帰りたくないという。女は自分のことをだらしないといい、他の男とも出会い系で逢い続けている。

女の家を訪れる男というシチュエーションを重ねて語る物語。出会い系でさまざまな男と奔放に付き合い暮らす女と、家庭も仕事もあるけれど居場所がなくてこの女の家にいる時間が愛おしく不倫とはいえ一途な男の対比。いわゆる色っぽいシーンはほとんどなくて、穏やかに会話をする二人の積み重ね。男関係に限らず人間関係一般ですら年賀状4枚とか働きたくないから出会い系と、見方によってはだらしない女で、どこまでも優しく男を受け入れるように見えて別の男の影が見えるシーンでは嘘泣きはするし、あとから電話で呼び出したりと、誰に対してもフラットに描かれる感情のありかたは何にも拘泥すること無く、漂うように生きているという浮き草暮らしという感じなのです。

序盤こそ、同じ新興宗教を根っこに持つという共通項があり会うようになるのだけれど、二人は逢瀬の時間を共有していても、男は自分の居場所、女は何かの感情は捨てて生きていくための方法と割り切っていて、不思議なほど感情の行き来がなくて低い温度のままであって、それは実に儚く崩れるのです。

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2021.06.27

【芝居】「THE Negotiation:Returns」T-works

2021.6.5 18:00 [CoRich]

2019年初演作の再演。 110分。サンモールスタジオ。

続編だと思ったら、再演だったのですが、記憶がザルなワタシは新鮮に楽しむのです。当時の自分の感想を読み返すと、びっくりするほど同じ感想のワタシなのです。

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【芝居】「フェイクスピア」NODA MAP

2021.5.29 18:00 [CoRich]

NODA MAPの新作。休憩込みの125分。東京芸術劇場 プレイハウス、7月11日まで。コロナ禍の中、前売り完売というわけにはいかないようで、今までよりは比較的楽にチケットが確保できました。前回のやたらに厳しい本人確認も今回は無し。

森の中、神様の使いが探す言の葉。イタコ見習いのもとにやってくる記憶を失った男二人。一人は箱を抱え、一人は年配でやがて二人の会話はシェイクスピアの台詞を喋る。

フェイク、ということからいわゆるフェイクニュースとか、政治を糾弾する体裁を勝手に期待していったワタシですが、今作は違う切り口でした。人の心の底からの言葉を心に抱きつつある男がさまよう物語なのです。36年の時を超えてまだ彷徨い続けている男の着地点。

以下ネタバレ。

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2021.06.06

【芝居】「アルビオン」青年座

2021.5.29 14:00 [CoRich]

マイク・バーレットの2017年上演作を青年座が上演。5月30日まで俳優座劇場。休憩10分を挟んで170分。

子供の頃憧れた英国式庭園の屋敷を買い取った成功した女。ロンドンを引き払いセミリタイアを目論んで移り住んで来た。荒れた庭園の再生に打ち込む。それまで村の広場として使われていた庭に他人が入ることを嫌い憧れた通りの庭園を作りたいと考えている。息子はテロにより亡くなっていて、娘は一緒に引っ越してくる。

裕福な夫婦と大人になりつつある娘、小説家の叔母、これまで屋敷で働いていた家政婦と庭師の夫婦や出入りするようになって庭師の修行を積む男、亡くなった息子の恋人、移民の若い家政婦、隣の家のひとびとで物語を運びます。当日パンフレットによれば、「アルビオン(ALBION)」はグレートブリテン島の古い呼び方で、英国や英国人の異称なのだそう。なるほど、英国という国の姿を造型しようという意気込み。

かつての美しい庭を再生したいという思いが、かつて美しくあった国を取り戻したい、という気持ちに重なるように物語を駆動します。さらにはその庭を独占し他人を入れたくないという閉鎖的な振る舞い。それは例えば移民と言うとちょっと身構える感じ、あるいは娘と叔母の同性愛を許さない姿勢はやや頑固に過ぎるものだけれど、人間も国家も年を重ねればそうなっていくものだと言うことのような気もするのです。

あるいは老いた夫婦の存在はもちろん敬うけれど、、やや邪険にすることだったり、若い世代が大学に進むために多くの借金を抱える現実、一方で裕福な家族は次の世代も階層にとどまれると言う分断など、何もかもがイギリスの、あるいは寛容ではなくなった多くの国の姿を写し鏡のように造型するのです。これだけの情報を詰め込見つつ、きちんと人々のドラマになっていると言う二重構造になっていることに気づいてびっくりするワタシです。すばらしい。

寛容であり続ける夫を演じた山野史人の穏やかな雰囲気はまさに英国の紳士という風情。やや頑固な妻を演じた津田真澄はパワフルに生きて財をなしてきてこれから自分の理想を作り上げようとするのに周囲との乖離に気づくという絶望を受け止めるしっかりした女を。叔母を演じた小林さやかは理性的な人物を、しかし娘を演じた那須凛と互いに愛し合ってしまうという戸惑い、しかし強い意志を持った人物を繊細に。 -->

アルビオン
アルビオン
2021/05/21 (金) ~ 2021/05/30 (日)
会場:俳優座劇場(東京都)
出演:名取幸政、山野史人、青木鉄仁、前田聖太、鹿野宗健、五味多恵子、津田真澄、小林さやか、安藤瞳、世奈、那須凜
脚本:マイク・バートレット
演出:伊藤大

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2021.06.05

【芝居】「おのまさしあたあ ひとり寄席 其の一」おのまさしあたあ

2021.5.28 19:30 [CoRich]

一人芝居のシリーズ、いつもと趣向を変えて短編二つで構成。休憩込み60分。5月30日までベイサイドスタジオ。

一人暮らしのご隠居は人使いが荒く使用人が居つかない。それを承知でやってきた新しい使用人は黙々と仕事をこなし三年が経ったが、主人が近くの怪物がでると噂される洋館に引っ越すと聞き、怖がって暇をもらってしまう。引っ越しも終わり、一人のご隠居、夜中になりぞくぞくっとすると、牙の鋭い男が現れたので、早速用事を言いつけこき使う。翌日はつぎはぎだらけの大男が、三日目は月夜に獣に変身する男が現れるが、同じようにこき使う。「怪物使い」
神と悪魔が、学者の老人をたぶらかせばという賭けをする。老人の前に現れた悪魔は、死後の魂の交換のかわりに現世のあらゆる快楽と悲哀を味わわせるという交換条件をのみ、世界の王にする。700ページの長編を30分にぎゅっと圧縮し「ファウスト」ならぬ「ファースト」

落語「化け物使い」に着想した「怪物使い」は引越し先を洋館に、もとは一つ目、大入道、のっぺらぼうと代わる代わる現れる化け物を、ドラキュラ、フランケン、狼男に置き換えて、牙だったり喋れなかったり、月夜のことだったりとリメイク。もともとの落語では三匹の化け物は一匹のタヌキが化けていて「化け物使いが荒い」というオチなのだけど、今作で最後に現れるのはキャップをかぶり黄色い髪の子供、つまりあのキャラクタ。一人が化けているわけではないけれど、リーダーというか保護者的立場だから出てきたってことかしら。まあ置き換えの面白さ。

落語風に着物姿で高座にあがるけれど、いわゆる「上下を切る」喋り方はあまりなくて、ちょっとめずらしい感じ。題材の特性なのかもしれないけど。口調はもともとの役者自体がどこか噺家という雰囲気の喋りでもあるので、違和感はびっくりするほどなくて。

「ファースト」はギュッと圧縮して、といいながら、世界の王はつまり世界のホームラン王・王貞治になる、つまり「ファースト王」が多重に掛詞になる面白さ。ホームラン王になりつつも、その価値を感じ取れない男が世界記録の前日にデットボールというフィクションを巧みに混ぜることで、難病の子供の約束で打席にたち、世界記録を打ち立てるという、どこかでみたような感動物語をあえて混ぜて、ホームランを打つ瞬間を「時間よ止まれ」の一言で「ファウスト」に回収するのが見事なのです。

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2021.05.31

【芝居】「てげ最悪な男へ」小松台東

2021.5.22 18:00 [CoRich]

小松台東の新作。休憩10分込み120分。三鷹市芸術文化センター星のホール。5月30日まで。

2007年と2021年の二つの時代の物語。2007年。母親と女子高生の娘は二人で暮らしている。父親は浮気相手の家の火事で亡くなっているが、近所にくらすその弟である叔父が頻繁に訪れている。母親は別れた恋人と長く会わなかったが、一度頼って再会してからよりを戻そうとしつこく訪れる。娘は初恋に浮かれていて、恋人と二人きりで一夜を過ごす。2021年。母親を亡くした女は同じ家に叔父と住んでいる。

宮崎弁を駆使してドラマを描く作家。かつては、がさつではあっても温かい雰囲気の物語だったけれど、最近ではヒリヒリとするような悪意や暴力があったり、行き所の無い行き詰まり感だったりを持つ人物が描かれるようになった印象があります。今作はタレント知事が生まれ沸き立っていた頃と、現在という二つの時間を隔てて、成長する若い女性と、それを見守り続ける叔父を軸に描く物語は14年の時間の重みすら感じさせます。二人の間の関係の距離と質に大きな隔たりが露わになる終盤もまた、ある種の閉塞の中で育まれたものなのです。 女が去り際に書き残す「酷く最悪な男へ」という終幕の言葉だけれど、それでも完全に切り捨てられない気持ちがにじみ出る重厚さ。

昼のラジオ番組の人生相談でよく聞くような、ある種の状況に囚われ雁字搦めになってる女性という姿が思い浮かびます。それは母親ももしかしたらそうだったし、娘はそこから逃げ出す事が出来たという違いはあっても。方言によって描かれることがそれを補強してるような感じはするけれど、ラジオの相談者は東京だったりもするのだから、別に地方だから、ということでもないよなと思い直したりするワタシです。

母親を演じたは荻野友里ははすっぱな雰囲気がやけに色っぽく、青年団で演じる役柄とのギャップも楽しい。彼女の出自は描かれないけれど、県外から来て狭いコミュニティの中で浮気で夫を失ってどこか周囲から浮いてしまった、なんて人物を妄想したりもするワタシです。娘を演じた小園茉奈は二つの時間で成長した女性のグラデーションを違和感なくしっかりと魅力的に。叔父を演じた瓜生和成は秘めたる気持ちと、それを抑える理性のギリギリの境界線が良いのです。松本哲也が前半で演じる愛人はどこまでもがさつで暴力的で人懐っこくはあっても不愉快極まりない人物だけれど、後半で演じるその男の娘の婚約者は理性的に見えて、人の迷惑を顧みないで押しかける厚かましさと正しさを背負ってると信じ切ってる人物の別の意味の怖さを精密に描き分けるのです。

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