【芝居】「商人」シヅマ
2026.9.12 19:00
[CoRich]
シェイクスピアのベニスの商人の枠組みを元にシャイロックとアントニオウが友人だったという別視点へ転換して描くアーノルド・ウェスカー作の上演。ワタシは初見です。休憩10分をはさみ165分。
ベニスのゲットーで暮らすユダヤ人シャイロックは本が好きで友人アントニオウと共に時々会っては友好を深めている。 アントニオウの友人の息子が求婚のための金を借りたいと言ってくるが、引退間近で全ての財産を最後の貿易につぎ込んでおり手元の資金がなく、金貸しを営む友人であるシャイロックに金を借りる。シャイロックは友情に証文などいらないというが、アントウニオウは金貸しという商売なのだからと証文を交わす。 友情ゆえのふざけ半分で、金が返せなかった時には肉体1ポンドを渡すという。 アントニオウの船は到着せず、裁判が開かれる。 ユダヤ人がキリスト教徒に金を貸す時には契約は厳格に遂行されなければならないという決まりゆえに、二人の意思だけではもう契約を止めることはできない。
船底のように両側が湾曲してそそり立ったハーフパイプのような構造の装置。シェイクスピアの「ヴェニスの商人」では明確に悪者として描かれているユダヤ人のシャイロックだけれど、ユダヤ系の作家ウェスカーは注意深く物語に手を加え、シャイロックを教養と落ち着きのある人物にするばかりではなく、キリスト教徒の側のアントウニオウをその親友として描くという構造に変化させています。物語最大の対立点がなくなってしまうけれど、その外側に反ユダヤな差別主義者である若者たちを中心に、当時のユダヤ人が置かれたゲットーとキリスト教徒の住人たちの対立やそれを形にした法律の存在という構造ゆえに引き裂かれる友人たちの物語に変化させています。 元々の物語の枠組みを使いながら、まったく違う視点を与えるという意味でM.O.P.の「赤シャツ」や猫路一家の「ナツヤスミ語辞典」を思い出すワタシです。
知性ある女性によって実施が不可能となる裁判の判決は決してハッピーエンドではなく、命だけは助かったけれど、書物という生き甲斐を失ったシャイロック、あるいは知性を活躍させたけれど女性ゆえに限界も感じたポーシャが絶望し埋もれていくさまなど、ほろ苦い終幕に描いています。
この物語そのもののダイナミックな変化が楽しめるのが今作の最大の楽しさなのです。
シャイロックを演じた中田顕史郎は差別される側でも軽やかでバイタリティ溢れる人物の説得力。アントウニオウを演じた佐藤拓之がそれに巻き込まれるように親友であることが存分に描かれる前半は本当にたのしく、それゆえに後半での立場の変化がほんとうに深刻なのです。百花亜希を舞台で拝見するのはずいぶん久しぶりだけれど、溢れる知性と潑剌とした若者の格好良さが、それが押さえ込まれる終盤のコントラスト。 若者たちを演じた3人・牧凌平、小川哲也、岡田優がちょっと凄い。彼らは本当に楽しそうだしそれぞれの個性が豊かなのに、他への差別に何の躊躇もないということがむしろ現在のワタシたちの社会に地続きを感じさせます。
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