【芝居】「鯛の鯛」きらら
2026.7.10 19:30
[CoRich]
鯛の中にある骨の一本がまるで鯛のようにみえるのでそう名付けられたといタイトルの100分。熊本、宮崎を経て、インディペンデントシアターOji(ex 王子小劇場)。7月12日まで。
不動産屋の人々、5年目の28歳、居酒屋バイトから転職してきたばかりの33歳、ベテラン社員。アルバイトの女子学生は内見に一人で行けるようになれば時給アップできると頑張っている。5年目社員はアルバイトに恋心を抱くが言い出せない。
ある日、若者が物件を探しにやってくるが保証人は居ないし無職だというが、高級車に乗っていてイケメンで、でもどこか抜けているというかほんわりしていて。
椅子のように縦に置いた箱馬を舞台奥に向かって半円形に並べて椅子として、役者たちは袖に引っ込むことなく出ずっぱりという、きららのスタイルはそのまま健在なことに安心感を覚えるワタシです。
「新聞に載らない大変なことなんか、いーっぱいある。人生みんな大変よ」というセリフを体現するように、それぞれの人物が考え生きて生活しているというベース。元居酒屋バイトは子連れの元カノに街で出会って未だバイトなのという言葉に目覚めて一念発起、けれどあの居酒屋バイトの日々は楽しく今でも思い出している。アルバイトは奨学金を返すための一生懸命。ベテランはこれまでのいろいろを積み重ねながら、しかし時にはサボり川で吠えたりする緩急を身につけていて。23歳社員は仕事は一通り覚えて指導する側だけれど、恋心をどうしていいかあたふたすること。あらゆる年代や立場にどこかマッチするような布陣をこの少人数に押し込む座組の強さ。
不動産業らしく、入院した一人暮らしの家の残置物残留物確認での物理的心理的ダメージや、駐車場への飛び降りがあってもすぐ清掃してクルは停まるようになるというある種の冷たさ、女性スタッフが一人で内見に同行する危うさなどの描写リアリティ。あるいは仕事は仕事として割り切り終業後はきっぱり忘れることの重要さ、「のみくだせないこと」を吐き出す方法を持っていることの強さなど、生きていくこと仕事していくことの重要な胆力を折り込みながら。
暗くなりがちな話だけれど、そこに客として現れる正体不明のハイスペイケメンが笑いも交え物語を駆動します。明らかにいいひとなのに、どこか常識がなくて、どこか仙人のように達観していて、安アパートの隣家の騒音も物音も楽しんでるし、TVはあるけれど照明代わりでPCで論文読んだり書いたりしててという立ち位置は不思議なのだけれど、タイミーさんを通じて「普通の暮らし」をAIのように貪欲に取り込んでいく過程の面白さ。演じた富士咲ジョーは唯一無二と思わせるこの無垢なキャラクタの説得力を持つのです。
元居酒屋バイトを演じた、たろまるようたは大人という年代にさしかかり何者にもなっていないという焦りと、若者に対しての優しさを併せ持つあたたかさ。頼りになる5年目社員を演じた磯田渉はテキパキと仕事をこなすけれど、仕事の割り切り方もしっかり社会人の説得力。アルバイトを演じた岩本一花は怖い目に遭い、鍵を忘れてオオゴトになったりしても、しかしめげない底力が頼もしい。ベテランを演じたオニムラルミはサボり方の伝授から、犬の遠吠えの音圧まで、こちらもゆるい大御所感満載で。「声たち」とクレジットされる作演を兼ねる池田美樹はそれぞれの声、音を他の役者たちとともに担います。前説として登場して「鯛の鯛」の実物を持ち出して説明するというアイディアも楽しい。
元居酒屋バイトの居酒屋時代や、ハイスペックイケメンが仕事を辞めて戻るまでの間はある種のモラトリアムで、寂しさ孤独を交えた夏休みや、夏休みの終わり感じさせます。なぜかキャラメルボックス「ナツヤスミ語辞典」をなぜか思い出すワタシです。
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