【芝居】「華氏マイナス320度」野田地図
2026.4.18 19:00
[CoRich]
野田地図2年ぶりの新作。140分。5月31日まで東京芸術劇場プレイハウス。そのあと福岡、大阪。
発掘された化石は天使の骨だとされ、同じ骨をもつ男の手に共鳴する「骨伝導理論」で天使たちの病を治療する研究をしている。スポンサーの製薬会社は内部抗争で対立している。中世の研究室、古代の洞窟と時代をさかのぼるうち、同じ研究をしている研究者や、胎児が天使の病かを見分けられる巫女と出会う。
焚書のディストピアを描いた「華氏451度」に対して、液体窒素の沸点(-196℃)という生物試料の凍結保存温度をタイトルに。 多くの社会的事象や文化をマッシュアップして組みあわせる野田地図は何度も通うリピータも多くて、確かに過去リピート観劇したときは複数回観れば腑に落ちたりしみこむ感じはありましたが、今回はこれ一回キリの予定のワタシ、断片や瞬発力で濃密な観劇の体験ではあるのだけれど、振り返ってみれば何の話なんだっけ、と思っちゃうのもまあいつもの話。
人間がいつのまにか神よりも高い位置にいるようになってしまったという言葉をまぶしながら、古代・中世・現代を「骨」を通じた「骨伝導」を軸として、医学や薬学といった科学と天使やメフィストやハメルンの笛吹きや巫女といったファンタジーを捻り合わせながら語る物語。 15歳までしか生きられなかった筈の男が医学によって生き延び科学を信じ、その骨から天使たちの病を治せたはずと信じ、あるいはそこからの創薬を目論む製薬会社の思惑。
病気を治すという医学の行き着く先、出生前診断などによってそうなる確率の高い芽を摘むと言う方向は時間軸をずらすだけでハメルンの笛吹きよろしく子供たちを笛で踊らせネズミを退治するかのように消してしまうということは、うっかりすると易々と飛び越えてしまいそうになるぐらいに近い関係で、科学というもののありかたの危うさが浮かび上がるのです。
主役とともに語り手も兼ねるタスケテを演じた阿部サダヲは笑いからシリアスまでグラデーション細やかに。メフィストを演じた広瀬すずの軽やかで陰影のある造型、教授を演じた深津絵里の安定感。大倉孝二が演じた笛吹き男はどういう人物かの見え方の落差が圧巻。小劇場勢のアンサンブルキャスト、安東信助、大村わたるの活躍が嬉しい。
終幕、音楽と手話の美しいシーン。音が消えても鳴り続けているよう。


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