【芝居】「意味なしサチコ、三度目の朝」かるがも団地
2025.8.8 19:15 [CoRich]
かるがも団地が2021年に王子小劇場で上演した初演作を同じ役者陣で再演(当パンの当時の王子スタッフへの謝辞もすばらしい)。ワタシは初見です。8月11日まで吉祥寺シアター。110分。
元は八王子の地下アイドルで今は派遣社員で働く女、秋田・能代の実家の団地が取り壊しになるから引っ越しの荷物をまとめてほしいと父親から催促されて上京以来初めて地元に戻る。地元の友だちは新聞社に勤めたり、結婚したりしている。
あの時のもう一人の友だちはもう居なくなっている。団地の取り壊しの署名を集めている男が通りかかったりする。
上京はしたものの今ひとつ花開かず日々を暮らしている女、何年も帰ってなかった地元に戻り、地元に残った小学校のころからの当時の友だちの変わったこと、変わらないことのさまざま。イオンが出来ていれば変わっていたかもしれないけれど、反対運動の結果つくられることはなく、人が減り続けているという場所。当時そのままに残っていた団地を舞台に、しかしそれが取り壊されるというノスタルジーを起動力にして、心の中にずっと残っていたことが浮かび上がるのです。
高校卒業で地元に残っていれば人生の最初の転換点、ぐらいの24歳のライフステージ。上京して東京に出て地下アイドルの夢破れ派遣で働く女は、その王道のタイムラインには乗っていなくて、東京と地方だけが理由ではないけれど、自分だけが前に進めていない、と感じている感覚を描く前半。さまざまな困難があってそれでも地元に残り暮らしていた親友との思い出を並行して描くうち、彼女が自死していることが示されます。三回忌を迎えるここに至るまで前に進めなかったのはその親友が死んだからでもあり、それゆえ気持ちが前に進めなくなってしまっていたのだ、ということだったりとも感じるワタシです。
八王子の地下アイドル時代に、一度はその親友が上京して会いに来たというエピソードが長く離れていた二人の最後の若い女性のしかしぼそぼそと喋る距離感が絶妙で、しかも最後の邂逅でもあるというのがとてもいいのです。さらには、その後の親友の様子を「市役所の担当者」という「おじさん」が彼女を見かけて会話するというシーンはとても巧くて、自死直前までの様子をきちんと描き切ることで人物の解像度が何倍にもなっているのです。さらにはその「おじさん」が賛同なんかほぼ得られないのに団地の取り壊し反対を訴えているのが、その「生きていた証」を残したい気持ちゆえなのだというのが本当にセンチメンタルでグッとくるのです。
前説ではいつものように、スピーディに進めるために「靴の脱ぎ着は省略して」と人笑い取るけれど、あれ靴脱ぐシーンないんじゃなかと思ったりするのはご愛敬。(あったかもしれん)。
地元に久々に戻った女を演じた波多野伶奈は繊細に、等身大な24歳という解像度が瑞々しい。 市の担当者を演じたフジイヨウヘイの静かな、しかしやや挙動不審な感じが可愛らしささえあって印象的。 親友を演じた村上弦はパワフルで感情がとても豊かな造型のイノセントな感じから、八王子に現れたときのちょっと大人びた感じ、さらには行き詰まりやっとの思いで歩いているという終盤にいたるまでのダイナミックレンジの広さに本当に心奪われます。
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