« 【芝居】「夏の夜の夢」theater 045 syndicate | トップページ | 【芝居】「三國志」おのまさしあたあ »

2025.09.13

【芝居】「われわれなりのロマンティック」いいへんじ

2025.9.4 14:00 [CoRich]

三鷹市芸術文化センター 星のホールが選び、次世代を紹介するNext枠のひとつ。120分。9月7日まで。

大学のフェミニズム研究会で知り合った男女。互いに好きだとはおもうが恋ではなくて付き合うということにはならない。コロナ禍の中社会人になってゆるく繋がっていようとマンションの隣同士に住んでいる。 女は編集者になりライターの男とともに、カメラマンの女も加わってセクシュアリティについての本を出そうとしている。故郷の茨城で事実婚をしている友人たちの話を聞いたりもしている。 男は教師になり、同じ学校で高校生のためにセクシュアリティについてのさまざまな取り組みをしている司書の女と知り合う。 フェミニズム研究会の同期の女はお笑い芸人になるがレズビアンの自身の性指向とのギャップを感じている。

フェミニズム研究会を起点に性自認と性指向のさまざまな組み合わせを持った人々がギュッとつめこまれた人間関係、そこには恋愛や性愛の意味合いでのロマンティックが、何次元の軸があるかわからないぐらいの多次元なグラデーションで存在しているのだということを丁寧に細やかに描きます。

アセクシャル(性的なことを感じない)とデミセクシャル(強い絆を感じる相手にだけ性的魅力を感じる)の男女を軸に描いてはいて、もちろんこれだって彼らの「ロマンティック」なのだけれど、まさに生活がかかっている地方在住で家父長制に縛られるテロセクシュアルのカップルの別れであったり、レズビアンの女性が男目線のジェンダー観が今なお色濃いお笑いを目指している矛盾とかこれでもか、と詰め込んでいます。

たいていの物語を男女の性愛+友情+所謂ホモセクシュアルぐらいで紡ぐことができた時代は、いまから思えばシンプルで牧歌的だけれど、今作ほどに「ロマンティック」に対する解像度が低かっただけかもしれないということがよくわかります。今作のようにそういう人たちが存在しているということを丁寧に描くだけでもこのボリューム。それに加えていわゆる「伝統的」な「シスジェンダー(性自認と身体的性別が一致)かつヘテロセクシュアル(性指向が異性愛である)」側であってもポリアモニーやアセクシャルだったり、あるいは自分のジェンダーに対して気持ち悪さを抱えていたりと、ほんとうに千差万別で一筋縄にステロタイプには描けないということこそが今作の描きたいことなのかとも思います。

今作は、物語の上ではあまりセクシュアリティについての単語を多用しないものの、わかりやすさのために配役表ではセクシュアリティを示すカタカナ語で細かいラベル付けすることによって判りやすくなった反面、さまざまな要素を真摯にすべて書き込んだために、要素が多すぎると感じたりもするのですが、今作はまさにそのセクシュアリティを主題に据えてできる限り解像度を高く描く事で「という現実」を箱庭のような密度で描きだし、さらにそれを単に「多様性」という言葉で思考停止せずに考え続けることの真摯さ。彼らの持ち味であり美点なのだと思います。

レズビアンの女性に好意を寄せられたバイセクシャルの女性がその好意は嬉しく感じながらも「女二人で生きていくことが幸せそうだと感じられない」というのはこの物語のなかでもとりわけ深刻な話で非正規だったり男女の所得差だったりという現在の私たちの暮らしが変わらず旧態依然であることを端的に表します。

茨城から上京してきた女を演じた小澤南穂子は、コミカルな序盤から自分の頭で考え続ける人物として出突っ張りの凄み。伴に生きていく男を演じた小見朋生はおだかやかである種の理想的な男な造型は何となく女性の作家ゆえと感じるワタシです。お笑い芸人を目指すレズビアンの女性を演じた百瀬葉は序盤でずかずか踏み込む無神経かと思えば時にかき回し、しかし恋心の繊細さで印象的。ノンバイナリーなカメラマンを演じた飯尾朋花はどちらかといえばジャージのような姿が多いのに、やけに色気を感じてしまうシス男性ヘテロセクシャルのワタシですが、これは意図して作られた造型なのか、ある種の役者の個性なのかはどうなんだろう。バイセクシャルの司書を演じた冨岡英香は好意を感じているのに踏み出せない機微を細やかに。

|

« 【芝居】「夏の夜の夢」theater 045 syndicate | トップページ | 【芝居】「三國志」おのまさしあたあ »

演劇・芝居」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 【芝居】「夏の夜の夢」theater 045 syndicate | トップページ | 【芝居】「三國志」おのまさしあたあ »