【芝居】「残響」白狐舎+下北澤姉妹社+演劇実験室∴紅王国
2025.8.7 14:00 [CoRich]
演劇実験室∴紅王国の野中友博が闘病中に温めていた企画を没後に白狐舎の三井快が引き継いでの公演。110分、8月12日までシアター711。
東京・多摩地区に60年代に建てられた団地は住民が高齢化がしていて、管理人の夫婦は元教員で、妻は癌を患い次の治療をすることになっている。 定年を迎えた夫は昔の仲間に誘われ社会運動的なことをしているが、団地でも「蛍会」として、蛍を育て放流をしている。 蛍会に誘われた40代の人々は非正規の仕事についていて将来が見通せない。それぞれの親も宗教への献金に熱心だったり、マルチ商法に取り込まれ娘に浄水器を売りに来たりしている。 一人で暮らしている男を心配して妹が訪ねてくる。部屋には物がなく、南京錠が掛けられた部屋からは火薬のような臭いがする。
安倍元首相を暗殺した山上徹也をモデルに多摩ニュータウンとおぼしき古い団地に暮らしていると置き換えたのが物語の骨格だけれど、そこに当時から現在まで変わらず日本が置かれたさまざまな問題をこれでもかと詰め込んでいます。
それは非正規就労で不安定な生活を強いられていること、バブル世代が現役を退きある種の逃げ切りであること、宗教二世の問題と、映し鏡のように描かれるマルチ商法など、確かに事件に直接的に繋がりそうなことから、PAFSの水質汚染、・引退期を迎えつつある人々、つまり元首相の世代を広く取り込んで描こうとした結果、登場人物がそう多くないのにものすごく多くの事柄を詰め込んでいて、要素をあますことなく入れようという問題意識はワタシも同じですが、物語としては要素が多すぎるという意味で正直、少々散漫にも感じるワタシです。
「蛍会」という団地の自治会の有志活動を縦糸にして、それぞれの立場の人々を繋ぐように描かれています。 引退しつつある世代、同棲していて妊娠が判明しても非正規ゆえに手放しで喜べないいわゆる氷河期世代のど真ん中、あるいは宗教二世で、もしかしたらそれゆえに家族を作ることに躊躇しているかもしれない独り身の男とその周辺の人々を濃密につなぎあわせるのが、全く関係ない蛍なのだ、というのはちょっとした美しい発明なのです。
シンプルな舞台は、蛍を飼っている水槽がある部屋の中(二部屋)と、小さなベンチがある団地の広場、あるいは川原の鉄橋の下など細やかに切替えて成立しています。それぞれの場所でのシーンが別の場所に切り替わっているけれど、例えばベランダから広場への呼びかけや、部屋で聞こえる別の部屋の物音など、いくつかの同期点がちりばめらられていて、少しずつ重なった時間軸で、ごく短い時間のできごとを丁寧に広がりを持って描き出すのです。
管理人を演じた丸尾聡は今作の全ての要素をつなぎ合わせるオールマイティで本当に大活躍。やる気みなぎる壮年、という力強さ。 妻を演じた松岡洋子、当日パンフによれば「ヒロインではなくマドンナ」なのだそうで、健気でしかし「難病も治る」にすがってしまう弱さも丁寧に。一人暮らしの男を演じた浅倉洋介は優しい男が、現在の自分がこうなってしまったことを見つめ直し、しかし自分の境遇を解決出来る目処が立たないために溜め込んだ心が細やかに。妹を演じた山西未紗は兄を心配するイノセント、兄との取っ組み合いで蹴ったりするパワフルなシーンはご愛敬。同棲カップルを演じた荻野貴継と大石ともこはこの境遇でも、生きていこうという前向き。 その母親を演じた三浦美穂子はほぼヒールで居続ける、しかしあんまりいい事をしていないという自覚はあるという造型。
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