【芝居】「水星とレトログラード」道学先生
2025.8.7 19:00 [CoRich]
保坂萌作の戯曲を有馬自由が演出での新作。110分。8月11日までザ・スズナリ。
夫を亡くして一年、一人暮らしの祖母が自分は同じ一週間を繰り返しタイムリープしていると言い出す。 娘夫婦は二人とも忙しく働いているので、心配して夫婦の作家志望である息子(つまり祖母の孫)が暫く一緒に住むことになるって、先輩の漫画家とタイムリープの話を聴いてたりする。息子夫婦の方は、アートで成功できずに愛想を尽かして妻が逃げている。その娘は大学で理系で、同じ理系の親友と連んでいる 向かいの家には親友の夫婦が居て毎日通って馬鹿話をしている。ヤクルトレディが毎日のように訪れるが契約する気はない。
祖母がタイムリープしていると言い出して、認知症を疑ったりしながらもどうもそうらしいというSFな起点から、近所に住む長年の親友をからませつつ、祖母の子供たちの介護への向かい方を描く中盤。終盤ではその親友とのシスターフッドの成り立ちで一気に伏線回収という見事にまとまった物語は強力です。
終盤で語られるシスターフッドというか女性の在り方は、全体に通底しています。 祖母と親友が50年にわたる親友というばかりではなく、親友からは最初から「大人の目線で」祖母のことを見ていて、夫の死後の祖母が幸せそうに見えず、意図的にタイムリープを起こして子どもたちが変わることを期待しているのです。子どもを育て上げたけれど、意図的にせよ無意識にせよなかなか向き合わない子どもたち。子どもたちを息子、娘としたのも巧くて、いわゆる介護は女性が担うもの、という呪縛が女性自身をも縛りかねないこと、男の側の無神経な発言がその深刻さを刻み込むのです。孫の世代では女性が理系に進む古い価値観を難なく突破するものの、同性愛的な感じ方にはまだグラデーションがあるということまでを語ります。SF的な設定はここでも巧く機能していて、私たちより進んだ文明という設定が、「女ばかりが我慢してきた」時代ではなく、将来への夢となる終幕が見事なのです。
祖母を演じたかんのひとみは、もう祖母を演じるという年代になったかと感慨深く、親友を演じた田中真弓は、安定した視座の役柄なのにコミカルな場面での瞬発力が変わらないことに感嘆しつつ、二人の掛け合いが楽しい。娘を演じたみょんふぁはいわゆるバリキャリな仕事の人、だけれど、女性が介護みたいな呪縛に反発しつつ逃れられない造型を細やかに。ヤクルトレディを演じた菊池美里はどこまでも怪しく、しかし飄々としたコミカルな雰囲気が楽しい。息子を演じた青山勝はダメなアップデート出来てない男を煮詰めたようなヒールだけれどどこか憎めない感じなのもちょっといい。 タイトルのレトログラードは、機械式時計のジャンプして戻る機構なのだそうで、タイムリープを巧くあらわすことば、水星はヘルメス神、両性具有みたいな?と思ったりしつつ。ああそうか、「水星の魔女」はシスターフッドの話だったと思い出したりも。孫娘を演じた中野亜美と、孫の先輩の漫画家を演じた川合耀祐は、いわゆるSF的なことを科学の側面と空想の物語の側面から解説を加えるような役割があって、これを二人に分けたのはちょっとした発明で見やすいし、大量のセリフをきっちり、わかりやすくというのも心強い。
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