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2025.08.16

【芝居】「りすん 2025 edition」ナビロフト

2025.8.8 14:00 [CoRich]

諏訪哲史による同名の小説(amazon)を原作に、天野天街が2010年に初演した作品を2025 editionのリ・クリエイションツアーとして 名古屋、岡山、多治見、伊丹を経て横浜での公演は8月10日まで。120分。ワタシは初見です。

病室で妹の看病をする大学生の兄。妹は中国で生まれ、父を亡くして4歳で帰国し母を亡くしている。兄もまた父がおかしくなり、母親は逃げてしまった。実の兄妹ではないよう。おばあちゃん、が時々訪ねてくる。
なかなか病状が回復しない、夜遅くまで寝ない妹、兄はちゃんと向き合って話をする。父がかつて持っていた海辺のホテルの思いでを語り合う。カーテン越しの隣のベッドには若い女が入院していて、ウォークマンとラジカセを持ち込んで作業をしている。少し覗いてみたら、録音ボタンが押されている。

神奈川芸術劇場KAATの大スタジオの舞台面中央にカーテンで囲った病室、その両側に囲みで客席。序盤はカーテン越しの会話だったりプロジェクターの映像だったりの静かな、しかしときおりフラッシュバックするような会話。中盤ではカーテンが開き、おばあちゃん(実は叔母さん)が訪ねてきて、いろいろ噂話したり、悩み事を聞いて貰ったり。難病でドナーを待っている、という不安であるとか、それまでの生い立ちが語られます。後半で不穏さを増すのは、隣のベッドの女が会話を録音していたり、会話を書き起こしていたり、ということが明らかになってから。つまりは普通の生活での会話だって聞かれていたりはするけれど、明確に記録されたりということのある種の気持ち悪さを起点に、しかし芝居ってのは記録された会話を繰り返しているということに気付くワタシ、ああそうだ、この舞台全体が作家の書いたものなのだ、という幾重にもメタに張り巡らされている構造の巧さに唸るのです。

後半では病室だった舞台は、後半、妹の病状が悪化して別の個室に移されることを示すように棚や冷蔵庫がなくなり、引き戸が左側(下手側)から右側に移動し、さらには悪化して「宇宙=無菌室」に移り、出入り口がなくなり、終盤ではベッドもなくなり抽象度があがるというか、死に近づくようになっていきます。まっさらになった舞台ではダンスだったり、自由に飛び回ったりとインスタレーションのように美しいのです。

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2025.08.15

【芝居】「水星とレトログラード」道学先生

2025.8.7 19:00 [CoRich]

保坂萌作の戯曲を有馬自由が演出での新作。110分。8月11日までザ・スズナリ。

夫を亡くして一年、一人暮らしの祖母が自分は同じ一週間を繰り返しタイムリープしていると言い出す。 娘夫婦は二人とも忙しく働いているので、心配して夫婦の作家志望である息子(つまり祖母の孫)が暫く一緒に住むことになるって、先輩の漫画家とタイムリープの話を聴いてたりする。息子夫婦の方は、アートで成功できずに愛想を尽かして妻が逃げている。その娘は大学で理系で、同じ理系の親友と連んでいる 向かいの家には親友の夫婦が居て毎日通って馬鹿話をしている。ヤクルトレディが毎日のように訪れるが契約する気はない。

祖母がタイムリープしていると言い出して、認知症を疑ったりしながらもどうもそうらしいというSFな起点から、近所に住む長年の親友をからませつつ、祖母の子供たちの介護への向かい方を描く中盤。終盤ではその親友とのシスターフッドの成り立ちで一気に伏線回収という見事にまとまった物語は強力です。

終盤で語られるシスターフッドというか女性の在り方は、全体に通底しています。 祖母と親友が50年にわたる親友というばかりではなく、親友からは最初から「大人の目線で」祖母のことを見ていて、夫の死後の祖母が幸せそうに見えず、意図的にタイムリープを起こして子どもたちが変わることを期待しているのです。子どもを育て上げたけれど、意図的にせよ無意識にせよなかなか向き合わない子どもたち。子どもたちを息子、娘としたのも巧くて、いわゆる介護は女性が担うもの、という呪縛が女性自身をも縛りかねないこと、男の側の無神経な発言がその深刻さを刻み込むのです。孫の世代では女性が理系に進む古い価値観を難なく突破するものの、同性愛的な感じ方にはまだグラデーションがあるということまでを語ります。SF的な設定はここでも巧く機能していて、私たちより進んだ文明という設定が、「女ばかりが我慢してきた」時代ではなく、将来への夢となる終幕が見事なのです。

祖母を演じたかんのひとみは、もう祖母を演じるという年代になったかと感慨深く、親友を演じた田中真弓は、安定した視座の役柄なのにコミカルな場面での瞬発力が変わらないことに感嘆しつつ、二人の掛け合いが楽しい。娘を演じたみょんふぁはいわゆるバリキャリな仕事の人、だけれど、女性が介護みたいな呪縛に反発しつつ逃れられない造型を細やかに。ヤクルトレディを演じた菊池美里はどこまでも怪しく、しかし飄々としたコミカルな雰囲気が楽しい。息子を演じた青山勝はダメなアップデート出来てない男を煮詰めたようなヒールだけれどどこか憎めない感じなのもちょっといい。 タイトルのレトログラードは、機械式時計のジャンプして戻る機構なのだそうで、タイムリープを巧くあらわすことば、水星はヘルメス神、両性具有みたいな?と思ったりしつつ。ああそうか、「水星の魔女」はシスターフッドの話だったと思い出したりも。孫娘を演じた中野亜美と、孫の先輩の漫画家を演じた川合耀祐は、いわゆるSF的なことを科学の側面と空想の物語の側面から解説を加えるような役割があって、これを二人に分けたのはちょっとした発明で見やすいし、大量のセリフをきっちり、わかりやすくというのも心強い。

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2025.08.12

【芝居】「残響」白狐舎+下北澤姉妹社+演劇実験室∴紅王国

2025.8.7 14:00 [CoRich]

演劇実験室∴紅王国の野中友博が闘病中に温めていた企画を没後に白狐舎の三井快が引き継いでの公演。110分、8月12日までシアター711。

東京・多摩地区に60年代に建てられた団地は住民が高齢化がしていて、管理人の夫婦は元教員で、妻は癌を患い次の治療をすることになっている。 定年を迎えた夫は昔の仲間に誘われ社会運動的なことをしているが、団地でも「蛍会」として、蛍を育て放流をしている。 蛍会に誘われた40代の人々は非正規の仕事についていて将来が見通せない。それぞれの親も宗教への献金に熱心だったり、マルチ商法に取り込まれ娘に浄水器を売りに来たりしている。 一人で暮らしている男を心配して妹が訪ねてくる。部屋には物がなく、南京錠が掛けられた部屋からは火薬のような臭いがする。

安倍元首相を暗殺した山上徹也をモデルに多摩ニュータウンとおぼしき古い団地に暮らしていると置き換えたのが物語の骨格だけれど、そこに当時から現在まで変わらず日本が置かれたさまざまな問題をこれでもかと詰め込んでいます。
それは非正規就労で不安定な生活を強いられていること、バブル世代が現役を退きある種の逃げ切りであること、宗教二世の問題と、映し鏡のように描かれるマルチ商法など、確かに事件に直接的に繋がりそうなことから、PAFSの水質汚染、・引退期を迎えつつある人々、つまり元首相の世代を広く取り込んで描こうとした結果、登場人物がそう多くないのにものすごく多くの事柄を詰め込んでいて、要素をあますことなく入れようという問題意識はワタシも同じですが、物語としては要素が多すぎるという意味で正直、少々散漫にも感じるワタシです。

「蛍会」という団地の自治会の有志活動を縦糸にして、それぞれの立場の人々を繋ぐように描かれています。 引退しつつある世代、同棲していて妊娠が判明しても非正規ゆえに手放しで喜べないいわゆる氷河期世代のど真ん中、あるいは宗教二世で、もしかしたらそれゆえに家族を作ることに躊躇しているかもしれない独り身の男とその周辺の人々を濃密につなぎあわせるのが、全く関係ない蛍なのだ、というのはちょっとした美しい発明なのです。

シンプルな舞台は、蛍を飼っている水槽がある部屋の中(二部屋)と、小さなベンチがある団地の広場、あるいは川原の鉄橋の下など細やかに切替えて成立しています。それぞれの場所でのシーンが別の場所に切り替わっているけれど、例えばベランダから広場への呼びかけや、部屋で聞こえる別の部屋の物音など、いくつかの同期点がちりばめらられていて、少しずつ重なった時間軸で、ごく短い時間のできごとを丁寧に広がりを持って描き出すのです。

管理人を演じた丸尾聡は今作の全ての要素をつなぎ合わせるオールマイティで本当に大活躍。やる気みなぎる壮年、という力強さ。 妻を演じた松岡洋子、当日パンフによれば「ヒロインではなくマドンナ」なのだそうで、健気でしかし「難病も治る」にすがってしまう弱さも丁寧に。一人暮らしの男を演じた浅倉洋介は優しい男が、現在の自分がこうなってしまったことを見つめ直し、しかし自分の境遇を解決出来る目処が立たないために溜め込んだ心が細やかに。妹を演じた山西未紗は兄を心配するイノセント、兄との取っ組み合いで蹴ったりするパワフルなシーンはご愛敬。同棲カップルを演じた荻野貴継と大石ともこはこの境遇でも、生きていこうという前向き。 その母親を演じた三浦美穂子はほぼヒールで居続ける、しかしあんまりいい事をしていないという自覚はあるという造型。

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2025.08.06

【芝居】「残響に沈んでゆく」螺旋階段

2025.7.20 18:00 [CoRich]

小田原と横浜で公演を続ける螺旋階段の新作。老舗のうどん屋を舞台に舞い戻った長女を巡る130分。7月21日まで、神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI。

老舗のうどん屋。店主は妻を早くに亡くしていて、長女も家を出たきり顔を見せない。次女とその夫が店を手伝い、地元のローカルテレビ局にもとりあげられて店は繁盛している。
棟続きの家の広間。パートが休憩していたり、詩人ニートと嘯く長男や顔なじみの常連客まで顔を出したりしているいつもの昼休み、突然長女が戻ってくる。

しっかりと建て込んだ日本家屋風の広間、手前に縁側、奥に廊下で、下手側が店舗、上手側に住居、という仕立て。大きなちゃぶ台。序盤は、軽口を叩きながら、コミカルでスピーディな会話で手早くしかしくっきりと人物を造型。 店主である父親は職人だけれど、どこか女にだらしなく、次女は店を支えているし、その夫は職人として入り婿になっている????? パートのおばちゃんたちも楽しく働いているし、出入りの業者との関係も良好で、いわば全てがうまくまわっている、という雰囲気。

長女が突然戻って来て、口は悪く傍若無人な振る舞いで、家業を支えてきた自負がある次女こそ明らかに嫌っているものの、ほかの皆は扱いに困る感じなのに、後から思えばどこか腫れ物に触るようで踏み込めないのです。が、すぐにはその理由は明かされません。 中盤を超えて、かつて大雨の中、母親と長女が防波堤に出かけずぶ濡れで戻った長女が「母親を殺した」といっていること、その結果小学校を代わりどこかに引っ越していったことが語られるものの、何があったのかは明確には語られません。自分の罪が家族に及ばないように姿を消したということのようで、長女自身は次女のことも、詩人ニートたる弟のことも心配しているということが見えてきます。序盤で中盤と、女にだらしなく、女を見る目がない父親、というほぼコミカルにしかならないと思われる要素が、この物語のすべての始まりであったことに、作家の隅々まで広げた伏線に唸るワタシです。

長女を演じた村井彩子はヒールで居続けるのにしかし人たらしで新しい人にはすぐに馴染む造型をしっかり。店主である父親を演じた露木幹也はコミカルな駄目オヤジな造型だけれど、この物語の起点ともなるバランスの難しいところを細やかに。取り仕切る次女を演じた竹村果夏はここに居続けた人の強さ、その夫を演じた根本健は振り回される感じが時に可愛らしく。詩人ニートの弟を演じた須藤旭のキャスターへの恋心も可愛らしく、詩人というキャラクタもちょっといい。 経理を担う従業員を演じた木村衣織はちょっと守銭奴なキャラクタをコミカルに、パート従業員を演じた岡本みゆき、田代真佐美のいわゆるおばちゃんの噂話やら昔話のリズムが心地いい。常連客を演じた水野琢磨は借金しがちなダメ男を愛らしく。テレビキャスターを演じた影島沙絵はいわゆるモテそうな女な造型。製粉所の配達担当を演じた森海雫は爽やかにみえてなかなかチャラい軽薄な男をペラペラに(いえ、造型が。褒め言葉)

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2025.08.05

【芝居】「Venus誕生 第二幕」劇団Venus

2025.7.18 19:00 [CoRich]

埼玉の女子プロレス団体・アイスリボンによる演劇ユニットが隔月の金曜に上演を続ける連続公演。女優たちを練習生として迎え物語を紡ぎながらデビューを目指すと謳います。80分。第二幕として8月1日まで、レッスル武闘館。

新たに設立された女子プロレス団体に、プロモータが協力を申し出るが、練習生の一人を8月末の興行でデビューさせることを条件として出される。練習生たちから離れていたメンバーも合流し再び練習の日々を過ごす。スパークリングを通してデビューする練習生を選ぶことになる。

今回は開演時にはロープを張らない状態でスタートし(実際ロープがないと見やすい)、途中挟まれた休憩時間を使ってロープを張る作業も見られたりとなかなか見られないところを見られる社会科見学的な楽しさ。

演出の中山朋文がやや怪しげなプロモータとして登場。第一幕の終盤で距離を取っていたメンバーが戻り「プロレスは一人ではできない」ことで再び走り出したメンバーたちだが、誰が先行デビューを飾るかで起こる軋轢を描きます。第一幕の終わりの不穏さは早々に回収してしまっているけれど、新たな不穏の種を蒔いて、 群れたくない女を演じたきら(白)、スパークリングを頑張って勝ったがデビューを手にできなかった伊田惟吹(赤)、負けたけれど負けっぷりを買われデビューする直江ミう(黄)といったそれぞれの練習生のキャラクターを色とともに印象づけます。スパークリングの前には花道の登場シーンも挟んで華やかさも。

劇中、デビューを決めた直江ミうのデビュー戦を8月31日に設定(それに先立ち7/26にエキシビジョンマッチ。レポートを団体自身が発信というのは有り難い。)、つまり母体のプロレス団体であるアイスリボンの興行ともリンクさせて、物語とリアルを溶け合わせるのはちょっと面白い試み。

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2025.08.04

【芝居】「葉山より愛をこめて」ケーキを海底のポストへ投函

2025.7.13 16:00 [CoRich]

劇団Q+系を発祥とする劇団のようで、ワタシは初見です。7月13日まで、神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI。110分。

生きる意欲を無くして意気消沈している男、妻からの葉山に来てほしいという電話を受ける。男は車好きで出入りしていた整備工場に車を久しぶりに持っていって整備して貰おうとするが、黒ずくめの三人組に追われ、技能実習生の整備工とともにクルマで追われながら葉山に向かう。
妻はなぜか馬鹿でかいスマホを買っていた。妻は亡くなっているはずなのだが、電話はかかってくる。

「参考作品」に「今度は愛妻家」を上げているので、もうその時点で亡くした妻を追い求める男の話、ではあるのだけれど、そこに怪しげな黒ずくめからカーチェイスだったり、宇宙人的なものとの対決やAI的なものの登場などの「少し不思議」(SF)要素があったり、埼玉から横浜、大船、葉山へと移ろっていくロードムービー風だったりとエンタメ要素が目一杯詰め込まれた二時間弱なのです。

クルマの描写がヤケに解像度高い割に、唐突とも思えるほど、警察官、自動車整備工、技能実習生の監理団体なる怪しげな人々や、三代続く金持ちなお得意様など、登場人物の解像度が少々荒かったりというムラはあって、物語要素がやたらに詰め込まれてると感じないことはないのだけれど、回想シーンなどはあるにせよ基本的には一直線に進む物語は、ある種の若さというか疾走感のようなものがあって飽きさせないのです。

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