【芝居】「夏の日の陽炎」麦の会
2025.6.14 18:00 [CoRich]
1999年初演で、横浜の市民劇団、麦の会が定期的に上演を続ける太平洋戦争の銃後の人々を描く130分(10分の休憩込み)。6月15日まで、のげシャーレ。
子爵高倉家の敷地内、ワイン貯蔵庫を作り替えた町の防空壕。 息子を出征させている国防婦人会の班長、幼子を抱え夫を知覧に出征させている妻、高倉家の娘は兄が出征し、その兄が口にしたホイットマンの詩を心の支えにしている。 一人の見慣れぬ男や高倉家の娘が弾くピアノに憧れる学生も避難してくる。学生は実は漫画家を志していて、 空襲警報で避難している中、自作の「大福仮面」を実演してみせているうち、これを芝居にしようと盛り上がるが、学生も出征することになる。
戦時中、健康な男子は出征して、学生や傷痍兵や憲兵ぐらいしか男が居ないけれど、大きな土地を持っている子爵邸に作られた近所の人々も来る防空壕という「境界」を舞台にする物語。 コンパクトな町内の人情の物語ではあるけれど、子爵と町内の人々という格差はあって、子爵の出征先と同じ部隊に配属された同じ町内の班長の息子、特攻にかり出される夫など戦場では微妙に違う立場ではあっても、銃後の彼らには等しく空襲を受ける立場で、言い換えればほとんどの男たちを送り出し、待っているしかない女性たちの物語。 そこにふらりと訪れた足の悪い男、学生、あるいはお調子者の憲兵というコントラストを持ちながら、「芝居の稽古」という大胆なフィクションを加えて気楽でコミカルな要素をふんだんに盛り込んでいます。
それに並行して戦場に若者を送り出し玉砕を命じるような教育をしてしまった男の苦悩、大空襲の絶望なども地続きに描く濃密さ。
そんな些細な日常、あるいは希望すらも破壊されてしまう終盤から、それでも歩き出す人々。戦争が終わるところまでは描かれないので、まだまだ地獄は続くのだけれど、ウオルト・ホイットマンの「O Me! O Life!」の一節であったり、あるいはこの時には存在しないはずの海に踊りに行く若者たちの歌であったり、あるいは大福仮面と納豆仮面の対決といったマンガや芝居であったりがあり続けることで、 音楽や物語や詩を心の支えに進むことを描くのです。
今作の上演2025年6月中旬時点では「大福仮面」に「戦時中の国防婦人会」や「戦場に若者たちを送り込んだ教育者」など、今期の朝ドラ「あんぱん」が描いている時代と非常に似通った世界観。彼らもそれはわかっていてカーテンコールでは「似ているけれど、こっちが先です」という声に爆笑が起こる客席。どうなんだろうと調べてみれば、だいぶ以前に既に戯曲がすべて公開(判りづらいけれど、「戯曲を読む」からリンクがあります)されていて、なるほど、こっちが先か、と思って物語の普遍性を感じると同時にアーカイブの頼もしさも感じるのです。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【イベント】「劇作家フェスティバル岡山『げきじゃ!』」劇作家協会(2026.02.07)
- 【芝居】「さらば曽古野遊園地」アガリスクエンターテイメント(2026.02.14)
- 【芝居】「夜の横顔」ジャブジャブサーキット(2026.02.14)
- 【芝居】「gaku-GAY-kai 2025 贋作・真面目が肝心」フライングステージ(2026.02.03)
- 【芝居】「怪力乱神ヲ語ラズ」劇団肋骨蜜柑同好会(2026.01.24)


コメント