【芝居】「はぐらかしたり、もてなしたり」iaku
2025.6.30 14:00 [CoRich]
iakuの新作。105分。7月6日までシアタートラム。そのあと、大阪、三重・四日市、愛知・豊橋。
さまざまな人々の一晩、2日間の物語。
妻が上司の介護をすると言って家をでて二年経ち、戻ってくると言う。夫は再婚で、教え子だった妻が出て行ってからずっと待っていた。
妻は戻りづらく同級生だった親友に声をかけるが、その日は二人にとっての同級生が亡くなって9年目、偲ぶ会が開かれている。
娘は偶然であった事故を目撃した時に居合わせた若い男とよく話をして会うようになっていて、録画したドラマを見ようと誘い男が泊まりに来る。
仕事が変わったばかりの男は上司との出張の帰りのコンビニで上司を困惑させる。
偲ぶ会に来たのは夫だった家主の男と、亡くなった妻の親友だった独身の女だけで二人で話すうち、泊まるよう誘うと女はそれを拒む。
夜遅く偲ぶ会に来た男は、亡妻と浮気していて、夫婦の「動画」を流出させてしまったことを告白し謝罪する。
一晩の現在進行の出来事と過去の出来事をとりまぜ、情報を小出しにしながら、それぞれの男女のすれ違いと想いを紡ぎ上げます。たった8人の登場人物(+1名の登場しない人物)だけれど、あり得ないほどにソコとソコがつながる、という複雑に絡み合う物語で、あらすじ書くのはもう放棄気味のワタシです。 過去の回想は断片的に挟まるものの、物語の時間軸はほぼ一晩のできごとで、恋人たちの話、夫婦の話、登場人物が読んでいる小説の一シーンという劇中劇のような仕掛け、おかしなことを言う登場人物が物語の要素を縦横無尽につなぎ合わせる、という道具立ては、「夏の夜の夢」と感じるワタシです。物語は全く違うのに。
中心になるのは、高校生の時に恋をしてなかば略奪するかのように結婚し子どもを育ててきたのに、お世話になった上司の介護をするといって2年間、家を出てしまっていた妻が戻ってくるという話だけれど、その娘の若く可愛らしい恋や同級生の亡くなった女と夫をめぐり9年目にして明るみになること、謎めいた不思議ちゃんな男はヤケにもてるしといったぐあいに、網の目のように張り巡らされた関係が複雑に絡み合い、コンパクトなのに胸焼けするぐらいに濃密な物語なのです。
物語の起点は、夫婦の綻び。「オムライスにウインナーが入っていたかどうか」をめぐる喧嘩とも云えない些細なすれ違いを象徴的に描きます。でも、そう簡単でもないことが徐々に明かされるのです。世話になったとはいえ家族の居るもと上司の介護のため家を2年も空けるとはただごとではありません。妊娠で仕事を辞めるざるを得なかったこと、仕事をしていたときの私を待っていてくれた上司は、もう一つの選択肢をとったらあったかもしれない妻が持ち続けていた幻影なのです。 いっぽう、バツイチで結婚した夫は、しかし出て行った妻が戻ってくるのを男やもめのような状態になりつつあってもずっと待っていて、玄関が使いづらいという一言から玄関だけリフォームし待ってるみたいなのもちょっと泣かせる感じなのに、でも、もう妻にとってはこの家は戻るべき場所ではなくなっている、というのもどうしようもないこととはいえ、相当なホラーな感じでもあります。
若い男女の微笑ましい恋の話は、しかし、泊まるとかなんとかなドギマギはちょっと生々しく、しかし初々しく微笑ましい。あるいは年齢が倍ほど違う女と、亡くなった同級生の元夫との年齢が進んだゆえの恋というかもうすこし切実さみたいなものと年齢ゆえのプライドというか臆病さのグラデーション。こちらはワタシにとってもうすこし身近に感じるのです。
物語の飛び道具になっているのは、いたって真面目なのに、言動が少々ズレた不思議ちゃんな男の存在。コメディとしてのものすごい切れ味なのだけれど、ふっと真実みたいなことをいってみたり、 若い男女の出会いの切っ掛けになったかと思えば、バツイチ夫の元妻に不器用に恋心を告白して一夜を過ごしてみたり、かとおもえば9年前に亡くなった女の浮気相手でとんでもない動画をもらっていたりと、いくつもの物語の断片がこれでつながる大活躍。 人物としちゃ、近くにいたらミステリーになりかねないけれど、物語を通してみれば、不可欠なピースで、なおかつちょっと親近感を感じてしまったりもするのです。
夫を演じた瓜生和成はあくまでも穏やかでフラット、男やもめのオジサン感はちょっと珍しい感じもしますが、会いには行かず、待っている男というのはとても会っている感じ。妻を演じた竹田モモコは奔放という感じでもない造型だけれど、力強く進む説得力。娘を演じた高橋紗良は夫婦の関係に絶妙な距離感をもつ大人の雰囲気。彼氏を演じた井上拓哉は恋愛経験ゼロで本を読んで疑似体験しているというのが若く可愛らしいぐらい。二人が初めて夜を過ごす前のコンビニのシーンのワチャワチャが楽しいし、「筆をおろす」みたいな下世話な台詞を言わせる作家の意地悪も楽しく。
妻の親友を演じた異儀田夏葉は明るく豪快なのに唐突な恋には防御に入るというのも独り身のまま40歳をきっちり解像度の高く造型で素晴らしい。亡くなった妻と暮らしていた家で九年目の偲ぶ会を開く男を演じた富川一人はこの会に一人だけ来た同級生との絶妙な距離感の駆け引きという中年の恋心を描きながら、その後に突然現れた男が妻と浮気していたことを突きつけられる悲喜劇というダイナミックレンジをしっかり。
今作で(夏夢のパックのように)縦横無尽に物語を繋ぐトリックスターたる不思議ちゃんな男を演じた近藤フクは、平坦におかしな事を確信をもって言い続けるということで成立するほんとうに絶妙なバランスの役が素晴らしい。その上司を演じた小林さやかは、バツイチ男の元の妻という年齢、部下に翻弄されるコメディエンヌの楽しさ、顔が好みで恋に落ちるし、下世話な動画を見て喜んだりと振り幅が楽しい。
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