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2025.06.10

【芝居】「ソファー」小松台東

2025.5.18 14:00 [CoRich]

小松台東の新作。大きなソファーを巡る物語。110分。5月18日までスズナリ。

一人暮らしだった父親が亡くなり、兄弟たちが集まる。実家にはソファーだけが残っている。長女はそのソファーの思い入れが強く、処分することができない。その夫も連れてきている。東京に出ている長男は久しぶりに来たが相談なく実家を処分することを決められたことが不満に思っている。再婚た次男は若い妻を連れてきている。
母親は先に亡くなった。夜の仕事で帰りが遅い妻を待つために、父親はこのソファーを買い、ここで待っている。

幕開け、娘は買ったばかりのソファにまたがって寝てる(大人の女性がやっても不自然じゃなく子どもに見えるぐらいに大きいソファーという存在感)、母親は水商売にでかけ、父親が車で送ろうとしている夕方の風景。おそらくは娘から見えているソファと父親を結びつける最初の風景。そこからソファはそのままに、父親が亡くなったあとの子供たちの話し合いと交互に物語は進みます。 長女はとりわけソファに想いが強く、長男次男はそうでもなくて。そこに同席する「他人」の存在が巧くて、長女の夫は序盤の緩衝材、中盤で言うべき点をキリッと言い物語をキュッと締め、次男の若い妻は面白がると言う機能で物語を先に進める駆動力に。

母はちょっと奔放に描かれていて、地元の老舗和菓子屋の若旦那を酔っ払って連れ帰るシーンはわりと強烈です。それでも穏やかに応対する父とのもう、なんだか判らないバランスオブパワーがくるくるとかわる濃密な空間は目が離せません。 父親を演じた佐藤達は木訥で、しかし待ち続ける強い想いをベースに持ちながら、和菓子屋の若旦那を演じた瓜生和成(このワンポイントの登場)のヒールにキッチリ対峙するシーンなのです。

あるいは、母が酔って朝帰りして父と二人けだるい昼過ぎ、もとは同級生だった二人だけれど、卒業後に母は女優を志して上京したけど夢破れて戻り、父は再会して結婚にこぎ着けたとか、今度の同窓会に行くか、いや夜職だから二次会で迎える側だ、というフラットな会話で二人の過ごしてきた長い時間が濃密に描かれます。母を演じた江間直子の華やかだけれど年齢を重ねているという雰囲気が説得力。

そこから続く二人のちょっと性愛的な雰囲気は何かが戻りそうなとても幸福なシーンだけれど、しかし「機能」しなくて、それでも妻が寄り添い抱きしめて戻るかと思った瞬間に娘が帰宅してしまいそこで終わりになってしまうのです。もしかしたら、それこそが最後の二人が恋人的な関係であったかもしれない切なさ。

終盤、長女が恋人を連れ、次男も再婚相手を連れてきて、長男を合わせた家族たち7人が勢揃いする瞬間、もしかしたらこれは存在してない瞬間なのかもしれないけれど、きっとあったはずの、「家族」が幸せに揃う瞬間は記念写真のよう。長女を演じた山下真琴は物語の核をきっちり背負い切ります。長女の夫を演じた今里真は緩衝材のような板挟みのような立場なのに、ここ言うべきというポイントでしっかり言う素晴らしさ。 次男を演じた今村裕次郎はややダサ目に着こなした赤いセータがやけに可愛い。(チラシにある写真のそれを借りてるらしいと、終演後の挨拶で)その妻を演じた道本成美は面白がるという役割に違わぬ奔放に明るい雰囲気が楽しい。

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