【芝居】「あるアルル」やみ・あがりシアター
2025.5.6 17:00 [CoRich]
やみ・あがりシアターの新作。北とぴあ・ペガサスホール。125分。5月6日まで。 公演期間中に上演台本の無料公開までしてしまう心意気。
いろんなことで、起こりがち・ありがちなことを言い当てることを得意とする「あるある仙人」を名乗る男。一日一回昼ちょうどに「あるある」をひとつ「授かる」のだという。それには真実が込められていて、結果、自分の知りたいことにたどり着けるのだという能力は高校生の頃から友人たちの間では知られていた。
行方不明のゴッホの左耳といわれるホルマリン漬けを闇取引でヘマをしてなくしてしまったが、その行方を知りたいと、久しぶりにあるある仙人に会いに行くが、6年前に自殺した、弟子でもあった妻のことをずっと考えてマンションに閉じこもっている。
亡くなった妻のことを考え続けている仙人、仙人を許していない妻の母親、闇取引のブツを探している闇バイト、美大生の妹を応援しようと怪しげな取引のブツを盗み出したフリーターの姉、売れないシュールコントの芸人と売れたいマネージャー、脳外科の医師とセフレの看護師といったひと癖ふた癖な人々が入り交じり、ご神託ともいえるほどの「あるある」を「授か」ろうとすることで起こるドタバタを通して、「授かった」ことばで人生が変わったり、やがて妻もかつて関わっていた闇バイトが物語の起点につながっていきます。
「あるある」と南フランスの地名「アルル」をベースに、その地で暮らしたゴッホを人々が奪い合うマクガフィン的なものとして扱い、さらに代表作「ひまわり」を妻の名に、おもいついた「あるある」を顔の周りに貼り付けた付箋はもまた「ひまわり」というタイトルベースでの思いつきの連鎖は面白い。 正直にいえば、このタイトルからの思いつきの連鎖に縛られてしまっているがゆえに物語を描くときに身動きがとれなくなっている感じはあって、「あるある」に縛られているけれど、物語の中での機能は「お告げ」とか「ご神託」みたいなものだし、ご神託でゆるやかにつながる人々のそれぞれの人生が実はあんまり繋がっていないのは惜しいところ。それでもいわゆる端役がなくて、全ての人々に物語があって、それぞれの人生を編み上げて一つの物語に組み上げるのは、やみ・あがりシアターの美点なのです。
売れないシュールコント芸人を演じた大見祥太郎、福原瑞穂の低体温なブレ無さと、売りたいマネージャーを演じた宮崎柊太のコントラストが楽しい。亡くなった妻の母親を演じた川田希のちょっと場末のやさぐれた感はめずらしい気が。美大生を演じたチカナガチサトの元気気合いなキャラクタは眩しい。その姉を演じたさんなぎはコミカルさのまま通底低音のようで頼もしい。
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