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2025.03.22

【芝居】「業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~」Tom's collection

2025.3.2 17:00 [CoRich]

コロナ禍で知られるようになったノーミーツ主宰による新作。110分。

大学サークルから演劇を始めた男は、脚本家として売れるようになり、AI映画を流行らせたメディアクリエイターを名乗るようになる。大きな企業の新事業としてAIロボットとの映像作品の脚本を任され、軽く受けることにする。業界らしく人脈を作るためのパーティにいったり、後輩の別の映画の企画にも関わろうと、忙しく立ち回る。 しかし脚本をなかなか書くことができないし、後輩とのプロジェクトもうまくいかない。使えないと思ってた若者は海外で活躍している。

作家のnoteによれば、クリエータとして活動で生活ができるようになったものの、どこか罪悪感のようなものが積み重なって書いた作品だといいます。業界のあるあるネタ、なのかどうかはよくわからないけれど、うまく立ち回って人脈とひらめきで脚光をあびても、「本物」のクリエーターが作り出すものにどこかかなわないと感じている風景を濃密に描きます。

大学サークルの旗揚げだった劇団はいまいち売れてはいなくて、そこから就職して抜け出した男だけれど、残された劇団員たちは真剣だし、小さな賞だけれど評価を得て進んでいるし、映画会社でそれっぽく企画をでっちあげてもそれは見透かされていて、そこに居たコミュニケーションがあまり上手じゃなかった監督志望の若い女が気がつけば海外で評価をうけていたり。業界っぽい人脈パーティで、あれとこれのコラボ、みたいな話はあったとしても実際に何かを持っている人でなければなにかに結びつくこともないのです。忙しくたちまわっていても、何かを生み出したときに評価され、その余韻であるていどやり過ごすことはできても、ものを作り出し続けて評価され続けることの積み重ねでその場所にはいられない、ということの残酷さ。 彼にしても、最初に評価されたAI映画というのは、その時点のいろいろなバランスできっと評価に値するひらめきと出来上がりだったと思うのです。でも、それは出発点にすぎなくて、クリエータとして生活し続けるということは何度も評価を受けていくことでしかなしえない、ワタシにはわからない怖さ。

劇団の現在の演出家や時間調整全力投球するスタッフを演じたオツハタは、他にもこまごまと印象的で目を奪われます。腰の低い有能な劇団制作やディレクターを演じた高野ゆらこは安定してきっちり任せられる心強い人物の説得力。当日パンフには役者の名前しかなかったけれど、配役表を出してくれたのもありがたい。でも、ホントは当日パンフに載せるべきだとは思います。

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2025.03.20

【芝居】「ズベズダ」パラドックス定数

2025.2.24 13:00 / 18:30 [CoRich]

2021年の青年座上演作(180分)を、作家自身の劇団で大幅にパワーアップして120分✕三部作として上演。3月2日までザ・ポケット。

第二次世界大戦後、ソビエトはナチスドイツが開発したV2ロケットをもとに、多段式ロケットを開発し、人類初の人工衛星を成功させる。 慌てた米国は宇宙開発を猛追するなか、ソビエトは有人宇宙飛行を成功させるが、その技術は核戦争が現実味を帯びてくることになる。 米国の猛追が続き、やがてソビエトは追い詰められていく。

ソ連の宇宙開発に関わった科学者、プロジェクトのトップ・セルゲイとエンジンの開発トップ・グルシュコの「軍事的な意味から名前を残すことを許されなかった英雄」二人を核に、宇宙開発を積極的に推し進めたフルシチョフ、「国威発揚のために名前を残され、縛られた英雄」ガガーリンを絡めながら、戦後すぐから現在につながる宇宙を目指す人々の物語は、まるで大河ドラマのよう。

時間をたっぷりとれるようになった三部作、革命記念日に合わせた計画など、国威発揚と軍事を背負わされた悲喜こもごもの中盤をややコミカルに描いているし、フルシチョフの人の良さみたいなものも楽しく、偉業をなしとげた彼らにも日常がある、という感じでもあります。 いっぽうで青年座版では、グルシュコが偽りの告発でセルゲイを陥れたシーンももう少し書き込まれていた印象だけれど、今作ではそこはほんの少しになり、本心では許し会えない二人の、しかしトップの技術者として実力を認め合うバディ感が強調されているように感じます。

ダントツで宇宙開発のトップを走った第一部、アメリカの急速な追い上げと弾道ミサイルの影が忍び寄る第二部、有人宇宙開発は減速し地球上でのコロナ禍や戦争など現在に続くゆるやかな衰退や老いを描く第三部という構成。物語としてダイナミックで圧倒的に面白いのは第一部第二部だになるのは仕方ないけれど現在の私たちに繋がる第三部をわざわざ描くというのも作家の心意気。

エンジン設計者を演じた神農直隆の人間臭い造形の奥行きがすばらしい。開発主任を演じた植村宏司のトップで走り続ける牽引力の格好良さ。フルシチョフを演じた今里真の軽薄さと宇宙開発の思いの人たらし。国防工業大臣を演じた谷仲恵輔の絵に描いたようなオジサン感がなんか微笑ましい。久々の出演となった前園あかりが戻って来たのが嬉しいワタシです。

劇団サイトに置かれている人物相関図と背景の宇宙開発のまとめがとてもいいんだけど、まさか劇場に一枚掲示されてるだけとは思わず。慌ててダウンロードしてセブンイレブンのネットプリントで印刷したワタシ。カラーのこれを配るのはコスト的な厳しさがあるかもだけど、劇団がネットプリント載せて各自セブンイレブンで印刷、なんてやってくれたらうれしいかもなと思ったりします。

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2025.03.08

【芝居】「夜明けのジルバ」トローチ

2025.2.23 17:00 [CoRich]

11年目で7本目となる トローチ(1, 2, 3, 4, 5, 6) の新作。久々に太田善也の作演で。120分?3月2日まで赤坂RED/THEATER。

マンガ喫茶。地元の人気シェフ、地元からでたミュージシャン、資産家の女と付き人、地元の鼻つまみ者な男、常連客の女、初めての客。大雪の日の夜、閉じ込められている客たち。探偵も客として訪れている。鼻つまみ者な男が死んでいるのが見つかる。近くの駐在はすぐに来たが応援の警官は朝まで来られない。

オーバーな仕草で気取った探偵、癖が強めな客たちの(半)密室ミステリー。吐瀉物を喉に詰まらせた事故死と思わせつつも、その死んだ男が探偵にだけ見える幽霊となって現れる、というのが一筋縄ではいかない太田善也節。 特に前半で要素が多めどころか過剰な感じもまた、作家の雰囲気で楽しい。 ちょっとミステリー風味の白い仮面とか停電とかを交えながらも、それは敵が多い別の男を殺そうとして起こった悲劇なのだということがわかります。地元ゆえの濃密な人間関係から、その男がどうして恨まれるに至ったか、コミカルに運んでいた前半とはうってかわっての後半は、登場人物たちの多くがかかわる自殺した女を鍵にして繋がるさまは、まさにミステリーの様相。

殺された男を演じた今井勝法はこの手の癖強人物が多い役者ですが、ペーソスともいえる悲哀を滲ませ、幽霊という特殊な立ち位置をコミカルに。 探偵を演じた東地宏樹のオーバーな仕草のキレキレなステロタイプ。一作目にしてもうシリーズ作品の何本目かのような問答無用の説得力。地元の常連の女を演じた小林さやかはジャージ姿の華の無さがコミカルでしかし地に足がついた感じ。店員を演じた荒波タテオは少しとぼけた味わい。駐在を演じた辻親八は後半に見せる泣かせる芝居の説得力が凄い。公演直前に代役として入った資産家の女と付き人を演じた山像かおりと磯部莉菜子の違和感のなさもすばらしいのです。

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2025.03.01

【芝居】「ユアちゃんママとバウムクーヘン」iaku

2025.2.23 14:00 [CoRich]

iaku主宰の横山拓也が2024年に発表した同名の短編をリーディング公演として立ち上げる試み。70分。2月25日まで新宿眼科画廊 地下。

ドイツで本場のバームクーヘンの取材を終えて帰国したライターはその足で息子のサッカーチームの応援にかけつける。県大会を決めたコーチとチームの夏合宿の下見を一泊二日で引き受けることになった。が、当日現れたのは息子のチームメイト・ユアちゃんのママだった。

親のサポートを前提として成立させているいまどきの地域クラブスポーツを下敷きに、比較的時間が自由になるからと夏合宿下見を引き受けることになる男が「巻き込まれた」物語。男二人のはずが、チームメイトの妙齢の母親との一泊二日の旅になって混乱する男、それなのに相手の女は知ってか知らずか奔放でずるずると旅を続けてしまうのです。冒頭から唐突に出てくる欧州の甘くなく複雑なスパイスのバウムクーヘンが終盤、車の運転という逃げ道を塞ぐアルコールにつながるというのが周到で、小さく悲鳴を上げてしまう私です。終幕、体調不良でこられなかったコーチからの「大丈夫ですか」の電話に至ってはもう怪談の域で、振り返ってみればバウムクーヘンをモチーフにしたチラシの写真すらも怖い。

当パンによれば、講談師・神田松麻呂の語り口があってこの形での上演となったそう。あくまでライターである主人公の視点で語り、ユアちゃんママのそとから見える行動は描いてもどうしてそういう行動をするのかは描かないことこそが今作のポイントで、たしかに講談の語り口がぴったりとハマるのです。ユアちゃんママを演じた橋爪未萠里は明るくてミステリアスで、なるほど得体が知れない。

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