【芝居】「Yes Means Yes」serial number
2025.1.19 14:00 [CoRich]
2025年1月期のTBS日曜劇場でも注目される詩森ろばの新作は夫婦の間の性的合意をめぐって。1月20日までスズナリ。105分。
子どものいない共稼ぎのパワーカップル。ともに穏やかな日々を過ごしている。 毎週金曜日は「夫婦の日」の営みがルーチンになっているが、スウェーデンで成立した「YES MEANS YES法」を報じるテレビを夫が突然消したことに妻は違和感を感じて、その夜をやんわり断ったが、 翌日、夫は食事から外出まですべてを完璧にお膳立てして、夜、妻の「疲れている」の言葉を夫は「明日は日曜日だよ」と遮って求めてきた。 妻はそれをレイプと感じる。
穏やかな日々を暮らす夫婦の、セックスにまつわる(外から見れば些細な)違和感やすれ違いをきっかけに、女性が感じてきた、あるいは受けてきた性にまつわるトピックを中盤で、終盤では夫婦が前に進めるかもしれないスタート地点に立つまでを描きます。 5人の役者で構成されているけれど、あくまで女性ひとりの語りを中心に、ほかの男性5人で夫や、過去に関わってきた男たちを描き出す形で、女性から見える性の風景。
中2の時に吹奏楽部顧問に突然キスされたことを誰にも言えなかったこと、その影響で高校はすべての交際を「秒で断り」やり過ごしたこと、 大学生になり上京して付き合った男は「私を動物にしてくてた、自意識が溶けるような気持ち」にしてれて好きだったが、なあなあに転がり込んでバイトも授業もおろそかな上に、借金のカタに友人に恋人を抱かせるようなクズだったこと。 就職し仕事一筋のなかで、偶然週末に同じ映画をみたことをきっかけに付き合うようになった同僚と結婚して穏やかな日々を暮らしてること。 女性なら誰でも経験することなのかはわからないけれど、男からどこか対等に扱われていないことで「ひどい目にあっても仕方ない」という低い自己肯定感を内面化してしまった、ということ。 現在の夫との暮らしは穏やかだけれど、(程度の差こそあれ)、それでも対等でないと感じる違和感を丁寧に描くのです。
そんな日々の中、メンタルクリニックで出会った少々無遠慮な若い同性愛者の男と話し、彼が過去に母親からの性的虐待を受けたことを告白されて、「それに比べれば私のされてきたことはたいしたことがない」と閉じ込めようとする女に、閉じ込めてはいけない、声に出すべきなのだ、と内面化された規範の呪縛から抜け出すきっかけを受け取るのです。
単に男を断罪するだけではありません。分量こそ少ないけれど、男の側の「理由」も。 たとえば現在の夫の側の視点は終盤で。夫もまた(種類の違う)低い自己肯定感で、金曜日は「受け入れてもらえた」安心感であり、マッチョイズムに起因したものではない、とか。あるいは、母親からの性的虐待を受けた男からは、男の性被害者はまた、異性間であれば「能動的である」という女とは違う呪縛があることとか。 ともかくたくさんの要素を隙間なく詰め込んでいる感じで濃密なのです。
終盤、夫婦の会話。妻は自分を大切にするために、感じた違和感を率直に話し、「NoをNoといわなければいけないということを誰も教えてくれなかった」といい、夫もまた正面に向き合って会話するのです。 「金曜日の営み」をぎこちなく始める二人は、互いに「していいこと」を声に出して確認し、声に出して反応しあって、歩み始めるのです。 あまりにぎこちない二人の会話はまるでコントのようだと感じてしまうほどなのだけれど、ベースとなる信頼がじつはまだ構築されていなかったことを認識した二人にとっては大真面目で、このぎこちない会話が、すべての始まりの一歩で、言葉がなくてもコミュニケーションやコンテキストが共有できるようになる関係はそのずっと先にあるものなのです。 たとえばこれが初体験同士の二人なら、微笑ましいと感じる会話なのに、結婚して何年も体を触れ合ってきた二人が「ここから始めなければいけない」ことに気づけて、二人で歩くことを決めたことは、希望を見せる終幕なのです。
意地悪ないいかたをすれば、この会話、すべてYESで進んでいるのだけれど、 そこでどちらかがNOを発した時にどう折り合えるか、からが始まりなのではないか、と思うけれど、それはまた次の話で、最初の違和感を語り合えたことが最初のNoなわけで、きっと折り合える、と言うことなのでしょう。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「メモリーがいっぱい」ラゾーナ川崎プラザソル(2025.02.12)
- 【芝居】「Yes Means Yes」serial number(2025.02.02)
- 【芝居】「飛び出せ!還暦」おのまさし(2025.01.22)
- 【芝居】「父と暮せば」酔ひどれ船(2025.01.19)
- R/【FORKER】遊気舎(1999.04.24)
コメント