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2024.12.28

【芝居】「デウス・エクス・マキナ 〜完璧な首相〜」げんこつ団

2024.11.16 19:30 [CoRich]

げんこつ団の新作。11月17日まで小劇場楽園。公演終了後に、大量の舞台写真や戯曲が劇団サイトで公開されています。

国民全てが幸せになると訴えて当選した党首の首相就任会見直後に国会議事堂が回転し、表裏がひっくり返り国民達が書き割りになってしまう。居合わせた国会議員は首相を怪しく思い、取材していて命を落とした記者の娘にその調査を託す。
二人は潜入した国会議事堂地下で回転の仕掛をみつけ、裏方スタッフに連れられ長崎の隣「芝居のまち」大入県を立て直そうと60年前に上京した男が首相と同じ名前であること、上京した男が劇団に入りと並行して働いていた町工場で働いていたことを突き止めるが、すでに亡くなっていた。

すべての国民が平等に幸せになる、という誰も否定できないお題目で、しかし国民たちを書き割りとしか見えていない、あらかじめ台本のあるショーのように仕立てる「劇場型政治」を見せられているのだ、ということを壮大なスケールで描いていると感じるワタシです。そうなってしまった書き割りの側の国民たちは、演劇のまちで暮らしている、食べるものがないのに食べるマイムで生活している、補助金だよりの先細りで命を繋いでいるのに実態はほぼ滅んでいるというのがどこか自分たちの生活の地続きの先にあるようだし、腐敗したパフェで厳戒態勢なのに税金をつぎ込んだCMはハッピーを演出するものばかりというのもどこかで聞いたような。 その枠組を持ちながらも、その真ん中にいる首相自身はあくまでも正しいことをしていると信じて疑わず、それを成し遂げてしまった、ということの怖さ。

ずいぶんと直接的に社会批評の中身だけれど、私たちの今現在の姿をいろんな確度で描き、しかしコメディとしての楽しさ。じっさいのところ2時間で描くにしてはずいぶんと込み入っていた物語で、見応えたっぷり。記憶力がザルなわたしには戯曲の公開が有り難いのです。ガーディアンガーデン演劇フェスティバルで見かけてから30年弱すべてを観ているわけではないけれど、高みに上り詰めたなぁと感慨深いワタシ。

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2024.12.17

【芝居】「演劇部のキャリー」入江雅人

2024.11.4 15:00 [CoRich]

一人芝居でも知られる入江雅人の手による、パイプ椅子二脚だけの舞台での二人芝居(未見)、新たなキャストに桑原裕子を迎えリーディングを経て。11月4日まで劇場HOPE。110分。配られる当日パンフはB5フルカラー30ページ超の豪華版。

二人きりの高校演劇部。引退を前に、先輩の男がやりたいことをやろうと考える。映画が好きで映画「キャリー」を演劇で上演しようと考える。 高校でいじめにあっている女がプロムパーティーでベストカップルに選ばれるが全ては同級生たちの策略で舞台上で酷い仕打ちをうけるが、超能力に目覚め、怒りと悲しみを開放して人々を惨殺するというホラー映画だが、なかなか演劇での上演の筆が進まない。主演の女子高生を男子に変え、映画で意気投合した二人の男子高校生の物語として上演することにする。大きな観覧車があるだけの小さな田舎町での上演は好評で、しかし男は演劇を続けるために上京を決める。

二人のフリートーク風で開幕。販売している脚本の校正ミスに千秋楽の日に気づいて崩れ落ちるところから、演劇部経験者だとか話しながら学生服・セーラー服での本編。二人きりの演劇部でやりたいことを全力で悩みながら進め、芝居を勝ち取るという外側の物語に劇中劇としての「キャリー」。映画は未見だけれど、公式予告映像 YouTube)を観るだけでも表も裏も陰惨な物語。二重構造とすることで、コミカルにもできる外側と陰惨な内側を自在に行き来する演劇ならではの面白さ。しかし、その外側も、いわゆる地元に対してのある種の諦めが混じり、しかもそれを今でも芝居を続けている作家・入江雅人が過去を振り返るように語っていた、という体裁になるのがノスタルジックでもあって、気持ちが持って行かれる終幕。

清水宏や野口かおるが上演してきて、瞬発力と細やかさが同居するこの物語。還暦を過ぎた入江雅人がこのパワフルなことにも驚くし、アラフィフに届こうという年齢になった(!)桑原裕子と実力を持つ二人の丁々発止が楽しい。読み応え十分のパンフレットに掲載された多くの写真やインタビューが、稽古場の雰囲気の良さも感じさせるのも、「演劇部」の延長のよう。

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2024.12.13

【芝居】「式 三部作 第二話 『追悼式-まほろ汽船サンバード号 編-』」studio salt

2024.11.3 18:00 [CoRich]

スタジオソルトが「式」にまつわる物語の三部作、去年に続く二つめ。75分。11月4日までラゾーナ川崎プラザソル。

客船の沈没から15年経った追悼式の会場。久々に顔をみせた遺族が包丁を持って会場を閉め切り立てこもる。
沈没が迫る客船、広間に集められる乗客、ここに留まるようにと指示をされたりしている。

閉鎖された空間を、立てこもり犯が居る追悼式会場と、沈没直前の広間に見立てて、するりと入れ替えながら進む物語。正直にいえば、多くの人々が少々唐突に話し始める話題がバラバラで、戸惑う私です。徐々に、無理矢理にでも促されるうち、今朝食べたものを話したりすることが多くなります。年嵩のじいさん二人がいがみ合い、張り合うのに、それぞれの朝食の描写。片方は干物を添えた和食、もう片方は妻が焼いたパンと挽いた豆で淹れたコーヒーや喫茶店をしたいという夢。それぞれに繊細でしかも、その描写の美味そうなこと。

そうだ、ソルトの作家は「食べること」を大切に描くのだということを改めて思い出すのです。かつては舞台で必ず消え物を使っていたり、その会場でそのまま宴会したり、なんてことも遠い昔のはなし。いろいろ難しい昨今なのです。

盲腸のように回収されない物語の切れ端がいくつか。たとえば追悼式会場の立てこもりのキッカケと思われ、会社側も噂としては認識している陰謀論は、なぜその場に留まるように社長が言ったとされるのか、なぜ船は引き上げられないのか。副社長は何度か告白しようとして止められ、しかし語られずに終幕。どこかで見かけた感想でも、日航機事故やセウォル号沈没事故に紐づけて滔滔と語ったりしてるのがちらほら、なるほど立てこもり犯はこういう感じで信じちゃうのか、と思ったり。

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2024.12.07

【芝居】「ガラクタ」MCR

2024.11.2 18:00 [CoRich]

30周年を迎えるMCR。記念公演のような位置づけの75分。11月3日までOFF OFFシアター。

商店街にあるリサイクルショップ。店長とアルバイトが暇に任せてしょうもない話したり、特に買い物するでもないのに訪れる常連たちの日常。店長が冗談めかして「店をやめようかな」とぼやいたりする。アルバイトや客たちはそれを真に受けて困ると直訴したりする。

役者の名前がそのまま役名だったりするのはいつものこと、しかし離婚とか妻を亡くしたとか、この店=劇団を畳んだらほかに行き場所がないとか、役者たちのことを詳しく知らないから真偽の程はわからないけれど、どこか彼らのリアルに繋がってそうな、いやフィクションかみたいな危うい感じが楽しいのです。

それぞれがポンコツで愛しい人々が、軽口を叩きながら、あるいは時に悪口にもなりかねない言葉を交わしながらじゃれ合うのだけれど、 妻を亡くした店長を演じた櫻井智也、調子はいいけど今一つ使えないアルバイトを演じたおがわじゅんや、奥さんが時を経て変わりすぎた北島広貴(ヒロ)の三人のわちゃわちゃした感じ、いわゆるMCRの三人の男たちのたわいない会話の楽しさ。

ヒロの奥さんの若い頃を後藤飛鳥、最近の姿を伊達香苗というのは少々卑怯に過ぎる感はあるけれど、留守を守ってるという矜恃がカッコイイ。ベビーフェイスだと思ってたのに久々に拝見するとオジサンになってる三瓶大介と(日替わりの)三澤さきのどこまでもかみ合わない会話、堀靖明のびっくりするぐらい長台詞、虚実入り交じる話のなかで結婚したのかとおもったらそうじゃ無かったネタバレがのちほどtwitterで出てきて、あららとおもったり、も含めての観劇後感が楽しい。

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【芝居】「シハイスミレ」Q+

2024.11.2 15:00 [CoRich]

劇団Q+の新作。65分。楽園。

無人駅の待合室。大雪で列車が止まり、身動きが取れなくなった乗客たち。大学生、地元旅館の娘、地元から出て行きたい女子高生、金沢に嫁いだ女の妹と父親。薬売り。金沢や東京に行かなければならない人々。

偶然で居合わせた人々が豪雪で身動きがとれず待合室で話すうちに見えてくる人々の背景や思い。そこに列車を動かすために自己犠牲とも語られる行動をとった実在した鉄道員の話や、宗教ゆえに避妊も中絶も許されず命を落とした妊婦を物語に織り込むなど、キリスト教にまつわる見方や考え方が多く散りばめられるのが印象的。地元を出ていきたい女子高生が「自分の描いたものを見てくれる、まだ見ぬだれか」がいる場所として東京に出ていく、というのはある時代までの地方のリアルでもあって、この登場人物たちの中でもっとも若い人物ゆえの眩しさ。

実際に起きた五六豪雪をモデルにしているらしく、北小谷(きたおたり)という駅名も長野県を走る大糸線の実在する駅で、松本に住んでいたワタシにはちょっと身近な物語。もっとも、この区間は電化されていないのでセリフにある「電車」は走らないよなぁとか、松本方面はともかく、金沢方面といういい方この駅でするだろうかとか、余計なことが気になってしまうのは痛し痒し。

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