【芝居】「おまえの血は汚れているか」鵺的
2024.10.20 14:00 [CoRich]
以前上演した「荒野1/7」(未見)を同じテーマで描き下ろした新作。90分。10月27日までスズナリ。
妻を殺した父親の子どもたち5人。別々の家で養子として引き取られ交わることなく育ったが、30年経ったある日、長男が5人を呼び、戸惑いながら集まる。長男の妻は本屋を継ぎ、その兄と同居。次男は関わり合いになるのを避けたい。三男は派遣で食いつなぎ兄弟に助けてもらえるかという期待を胸に。四男は穏やかで人がよく、丸め込まれるのを恐れて妻が一緒にやってくる。末娘は親の記憶はほとんどない。長男は死んだと思われていた父親と連絡を取り続けていたが、脳梗塞にたおれ、親をどうするか、全員で背負うかそれを拒否するかを決めたいとおもって集めている。
上手側にある書店の裏側、小さな中庭を挟んで下手側の奥に引き戸の玄関、中央手前に大きく畳敷きの広間に大きな座卓が置かれた古い日本家屋風。自分たちの母親を殺した父親の子供たち5人が成人して会いたい会いたくない会わなきゃいけないの温度差のある状況での久々の再会で渦巻くできごと。集めた側にはそうする理由はあるけれど、集められた側にはどうでもいいことだったりも温度差から物語が始まります。
父が酒に溺れた挙げ句に母を殺したのだということになっていたけれど、当の子供たちは父親に殴られた記憶はなくて、むしろ母親が子供に対して虐待していたのが日常ということ。もちろんその状況を知る他の大人はいなくて、子供たちそれぞれの記憶を手繰り、記憶と気持ちが揺れ動きます。子供の育つ状況を過酷にしたのはもちろん父親なのだけれど、子供たちを守ったのは実は父親なのかもしれないのだ、ということは長男が覚えている、父親の「(この虐待の状況を)なんとかするから」の言葉であり、それゆえに長男だけは父親を裏切れないというきもち。
並行して描かれる子供たちの現在。書店を建て直したものの先行きは暗く、子供もできず、それを義兄に詰られる長男、「普通の」家庭を築けていて現在を守りたい次男、独身無職でこの兄弟に縋り一発逆転を狙いたい三男、妻にコントロールされがちだけど兄弟たちへの郷愁もある四男、実は母親が異なる末娘。バラエティに過ぎるだろという箱庭感はあるけれど、ぎゅっと詰め込まれた濃縮の凄み。「血は汚れているか」というおどろおどろしいタイトル、作家がよく描く印象があるいろんな意味で怪奇と狂気にあふれる血縁の呪いみたいなものよりはずっと日常の延長線にありうる家族のドラマの体裁で、しかしそれでも、しっかりと「血縁」をめぐる物語なのです。
物語の主軸とは明確に異質であり続けるのが、この書店を継がず、女にも逃げられた穀潰し、といわれる長男の妻の兄。書店を立て直すこともせず威張り散らすヒールで、見続けてしまう怖さ、演じた谷仲恵輔の暴力的な凄み。無職の三男を演じた今井勝法の人なつっこさかと思えば金が掛かり自分の利益にはならないと判ると否や冷たくなる利己な表裏のコントラスト。関わりたくない次男を演じた杉木隆幸のブレなさのなかに一瞬心動くさざ波の細やかさ。
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