« 2024年9月 | トップページ | 2024年11月 »

2024.10.27

【芝居】「招待されなかった客」アルプス乙女ユニオンズ

2024.10.12 11:30 [CoRich]

別役実の「招待されなかった客」(初見)をしっかり60分。10月13日まで下馬出しホール。

魔女の家。中央にはワイルダー「わが町」の舞台グローヴァーズ・コーナーズの模型がある。そこに招待状を持った神父が訪ねてくる。神父は禁じられていた魔女狩り裁判を続けていて、魔女は禁じられた魔法を使ったことで、ふたりとも居場所を失っていた。ふたりとも「わが町」の記憶を共有している。

不条理劇で知られる別役実は、笑い多めに演出されたケラ版こそ、そこそこ見ているけれど、おそらくはオリジナルに忠実な今作。それぞれの役割を信じて続けていたのに、それを仲間から避難され、コミュニティーから追放されて長い時間を経たふたりの会話。認められないといっても、二人は神父であり魔女であると少なくとも自分は思っていて、その胸を張って生きている二人は凛々しいけれど、しかしそれでもある意味孤独でも生きていかなければならない、というのも不条理といえば不条理なことで。

決してわかりやすい物語ではないに弾けるパッションというとの無縁だけれど、コンパクトな会話劇をきちんと仕上げる誠実さ、多彩な芝居があつまる演劇祭だからこそ、こんな一本が混じっていることもとてもいいことだと思ったりもするのです。

| | コメント (0)

【芝居】「はかりやのせん」あまんじゃく

2024.10.12 10:00 [CoRich]

まつもと演劇祭の二日目トップ。10月13日まで上土劇場。

山道で理由は告げられないまま幼い子どもを日光山につれていくよう頼まれる、せん。それを阻み狙う妖魔たちは、妖魔王の復活を狙っている。子どもは実は帝の子で王の印を見つけられるのはこの若君だけなのだ。

ロードームービー風に行く人々と、それを阻む敵が次々と現れること、シンプルなストーリーラインに、妖魔姉妹の確執や裏切り、意外なつながり、コミカルなお調子ものや、主役・せんに込められた千年の確執とそれを断ち切ること、命と望みを秤にかける「はかりや」の存在などをスピーディーな剣劇を組み合わせながら描きます。そう、とても新感線の風味で(カーテンコールのスタイルなんかまさにそれで)、それを小劇場できっちりやり切る胆力が素晴らしい。

確執ある姉妹を演じた、ひらのみゆきと、作田令子の振り切った掛け合いと、大きな身体でお調子者な妖魔を演じた伊藤利幸が楽しい。

| | コメント (0)

2024.10.26

【芝居】「盆地 The Rock!」Human Error

2024.10.11 20:30 [CoRich]

「アラフォー演劇人3名によるロックバンド」なのだけれど、バンド演奏はしながらも、そこに青春物語を重ねた40分。まつもと演劇祭参加。10月13日まで上土シネマ。

高校の部室、在学中最後のライブに向けて籠もる3人。ロックだったり、JPOPだったり、パンクロックだったり、モテたかったり、MCはあんまり気が進まなかったり。赤点すれすれで、英語教師の女ははたまに顔を出して、歌わせてくれたら単位をくれるという。

古い映画館を改装した会場。低い天井で間口広めなのが印象的。バンドセットを自前で持ち込んでるのだそうで、耳栓配ってフルボリュームでの演奏を交えてライブハウスの話かと思えば埼玉県の高校の部室でのだらだらとした体温の低い会話が続きます。ワタシバンドこそやってないけれど、あああの時の時間がいくらでもある感じは懐かしい。

中盤で動く物語。現在やホンの少し先のことを喋っていただけなのに、英語教師の女が実は大手事務所からデビューしていてその中古CDを見つけてしまったことをきっかけに、必ずしも光り輝く未来ばかりでないことに想いを馳せるようになるのです。終幕近くになって男三人が東京のスタジオで趣味としてバンドをする未来。オジサンになった人々はそれぞれの「生活が発生」しているけれど、バンド活動を仕事にしなくても、今でも「何かを表現」しながら暮らしている男たち。年代的には過ぎ去ってしまったぐらいの少し若い頃の話だけれど、こんなに体温低い会話なのに、何か元気になるような物語なのです。

| | コメント (0)

【芝居】「馬とバカ」札幌ハムプロジェクト

2024.10.11 18:00 [CoRich]

札幌から舞台美術から役者までミニバン一台に詰め込んで旅公演を行うハムプロジェクトの全国縦断興行は、10年ぶり参加のまつもと演劇祭が最終目的地に。10月13日まで上土劇場。60分。

https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2014/11/post-3e36.html 弱小で細々と続く新興宗教の教団施設に、アラサーで始めたばかりのYouTuberの女が潜入を試みる。係員と名乗る男に教団ビデオを延々みせられることに疲れたころ、3日だけの体験入信を勧められて、それに乗ることにする。怪しげな壺を買わされたりすることもなく、悩みどころにちょうどいいアドバイス、高くないちょうどいいグッズがあったりして、想像とは違うことにとまどいながら、3日が過ぎても女は帰らず、入信したいという。

四畳半ほどのごくコンパクトな舞台美術に混沌と詰め込まれたものの数々、広い劇場からスタジオ公演的なものまでこのコンパクトな一部屋で起こる物語を濃密に作り上げます。弱小新興宗教を物見遊山と何が起こるか妄想まみれで潜入レポするYouTuberだけれど、普通にちゃんと向き合って話を聞いてくれるし、ちょうどよくてフィットする気持ち。親から継いで三代目教祖となった男は借金まみれでやめようと思ってガソリンを撒いて火を放とうとすら思ってるところを、教団シンボルの馬の頭をはずしたところに現れる新しい「なにか」で浄化されるよう。やる気に満ち溢れ前向きな女と、この新しい何かは希望なのか地獄の一丁目なのかわからず戸惑う男の終幕が見事。

演劇祭以前、松本に住んでいた頃に何度か拝見( 1, 2, 3) していました。平日夜に自主公演として何度もこの地で公演を重ねたからこその地元の圧倒的な信頼感。これを日本各地で重ねてきたのだろうなという厚みを感じるのです。劇団としては拝見してるのに、ワタシとしてはおそらく、主宰・すがの公の芝居を観るのは初めて。いや、ほんとに巧い。すごいなぁ。

| | コメント (0)

2024.10.16

【芝居】「THE STUBBORNS」THE ROB CARLTON

2024.10.5 18:00 [CoRich]

MITAKA Nextとして選ばれた二本目、初見の劇団です。80分。そのあと大阪ABCホール。なるほど三鷹は公共のホールだからチケット代がだいぶ安い、なんて思いつつ。

ホテルの会議室で会話する三人。西洋人らしい感じだけれど、母語がバラバラで、共通で使える言語として慣れないけれど日本語で会話する。社長の息子、政治家にフックアップされた男、上司に連れてこられた女。それぞれのボスが妥協点をみつけられそうにないと考え、三人だけで集まったのだ。

前半の構造は、慣れない日本語の聞き間違い、言い間違いが誤解を生む話で、日本語が母語ではあり得ない誤解を生むために外国人設定なのです。ほぼどこでも共通語として用いられる英語ではなく、日本語という無茶設定は咎めないのがお約束です。(交渉のため)「隙を見せない」と「好きをみせない」(好きなのに告白できない) から始まり、「呆れている」と「ほうけている」(=惚れてる)に至るまで、無茶な聞き間違いをオーバアクションや、多くのウンチクやらそれぞれの心配りやらをノイズにしつつ笑いを生み出す力技が見事。

後半はその30年後の同じ人々という設定。それぞれに成功して再会して30年前の同じ部屋で互いに聞き間違いの恥ずかしい思いをしたという思い出話をするのだけれど、年齢を重ねて記憶は改竄されているし、無かった出来事が追加されてたり、告白した側が告白されたと思ってるし、と記憶をつなぎ合わせて再生(または再現)するけれど、その改竄だらけの出来事は前半をギュッと圧縮しつつ、まったく意味の無い、しかし笑える出来事になるのです。三人とも何をやってるんだと思いつつ、「頑固者たち」というタイトルどおり、謝れないままの終幕は、いい着地点。

ちょっと無茶な設定ではあって、ほぼコントの領域の仕上がり(ええ、長尺のコントも好きですとも)、他の作品はどうなんだろう、という興味が俄然出てしまうのです。

| | コメント (0)

2024.10.15

【芝居】「すきなように」111

2024.9.28 18:40 [CoRich]

俳優・大塚秀記、舞踏家・オオナカエイジ、音響・関根正幸の男性3人によるユニット111(ワンワンワン)(1)、久々に拝見。詩人・向井久夫の詩集「すきなように」を丸々朗読の45分。一回だけの上演。自閉症者と知的障碍者のアート作品を展示するJギャラリー&カフェにて。

ガン闘病の後亡くなった詩人。下ネタも、恋心も、自分の体調も、両親が老いていることなど、ワタシからも地続きに感じることがところどころにあって気持ちにぐっと入ってきたり、あれれ違うなと思ったりの波が楽しいのです。

最前列、ほぼずっとぐずったり、ゴキゲンだったりの子供の観客。場を破壊しかねないものだけれど、ギャラリーの成り立ちがそうさせるのか、あるいはそれを横目で見ながら時に演者がパワーで抑えたり、時に気を逸らすような動きをしたりと、あの手この手で(直接は関わらない)場を保ちつつ、しかし行きすぎないバランスが絶妙ではあって、ああ、生身の観客を相手にして場を成立させるとは凄いことなのだなぁとホントに思うのです。

| | コメント (0)

2024.10.14

【芝居】「青色文庫‐其五、夜長月の童話集‐(A)」青☆組

2024.9.15 18:00 [CoRich]

古民家で上演していた劇団のリーディングシリーズ。プログラムAは鳥二篇と題してオスカーワイルドの切なさあふれる短編。70分ほど。9月15日までアトリエ春風舎。

恋のさえずりと言われるナイチンゲール(小夜鳴鳥)は、名前に反して恋を知らなかった。恋をしている哲学の学生をみて惹かれる。その学生は教授の娘に赤いバラをプレゼントすれば踊ってもらえると思い、その思いと汲んだ鳥は季節外れの赤いバラを探すがみつからないが、心臓に棘を刺し歌い続けて赤く染め上げれば手に入るのだという「小夜鳴鳥と赤い薔薇」
街の真ん中に立つ王子の像、越冬に出遅れた燕が一夜泊まるために王子の像の足元に降り立つ。王子は貧しい人々に自らに埋め込まれた宝石を運ぶように燕に頼む。「幸福の王子」

「小夜鳴鳥~」片想いしている学生の恋を成就させるために、命を賭けて季節外れの赤い薔薇を手に入れるナイチンゲール(という鳥)、赤い薔薇を手にした学生の恋はあっさりと敗れてしまうのが、階級の格差で隔てられたゆえ、というこんなに短い物語なの人間と鳥、苦学生と上流階級という二つの溝が隔てて伝わらない想いがとても残酷で。トークショーでは「命がけで作品=バラを作っても報われない」という作家側の視点での感想(倉迫康史 / Theatre Ort)も、ああなるほど。そうだよなぁと思ったり。

「〜王子」は2011年2012年の上演からなので、青色文庫としては久々に拝見。ごく知られた物語だけれど、終盤近く宝石を失った王子像をめぐるごたごたの物語がすっかり抜け落ちているワタシです。ここ以外にも随分みてるはずなのになぁ。

| | コメント (0)

【芝居】「青色文庫‐其五、夜長月の童話集‐(B)」青☆組

2024.9.15 14:00 [CoRich]

古民家で上演していた劇団のリーディングシリーズを久しぶりに。小川未明原作の月を巡る三篇プログラムAから。55分。9月16日までアトリエ春風舎。

国境を隔てた老兵士と若い兵士。平和な日々だったが戦争が始まり「野ばら」(青空文庫)
子どもが行方不明になりずっと待ち続けているアザラシ。風に訪ねたが返事はない。月は気にかけている。「月と海豹」(青空文庫)
一人で暮らす老婆。ある夜、メガネ売りの男が戸を叩く。ぴったりのメガネを手に入れたら何もかもがしゃっきりと見えて。「月夜とめがね」(青空文庫)

「野ばら」は2015年にも上演したレパートリー。ごく短い物語で、ワタシはどちらかというと昼間の印象が強く、月という印象があまりない一編なのだけど、終幕の夢のあたりが月ということかなと思ったり。

「〜海豹」は子を失い待ち続けるアザラシを見守り続ける月の話。「さびしいか」と問いかけ、ずっと心に留めてくれる者がいることの有り難さ、じっさいのところ、子供が戻ることはないけれど、些細なことでも、生き続けるキッカケとなるものを手にすることの希望が温かいのです。

「〜めがね」は、月夜に訪れたメガネ屋から買ったメガネによって起こった、ちょっとSF風味な物語。ぼんやりと見える世界で少女と思われていたものが、メガネをかけて鮮明にみると、それは綺麗な「こちょう」(胡蝶)だったという世界がぱっと変わって見える感覚は、メガネというツールだからこその不思議さで、それは時代が変わった現在でも新鮮に感じられるのです。どの作品もそうだけれど、環境音などのSEも含めて役者たち、というミニマルさが潔い。

| | コメント (0)

【芝居】「それでは登場して頂きましょう」艶∞ポリス

2024.9.14 17:00 [CoRich]

女優・村川絵梨が企画し、岸本鮎佳が作演というコンパクトな二人芝居を艶∞ポリスの番外公演として上演する70分。9月16日までニューサンナイ。ワンドリンクオーダー制。

オーディション会場で小劇場出身の女優と大手事務所の女優が出逢う。お互いに意識して、オーディションを競い合う。CMカメラテストだったり、葬儀レディとして対決する二人の勝負。しかし、実はかつて二人は共演したことがあった。

オーディション会場でアピール合戦しあう二人が、オーディションでやった寸劇をやっている、という体裁。「男よりも頼りになる保険」とか、「東西の葬儀会社のそれぞれのスター葬儀会社員が、感動のナレーション演出で勝負」とか、あるいは実は出逢っていた過去の現場での「極妻風味の」再会など、バディというよりは張り合う二人の維持と矜持、小劇場と大手事務所の立ち位置の違いで笑わせたり、葬儀レディ対決ではふたりとも絶妙な三流CM感でベタベタに演じたりと、バラエティ豊かというよりはリアリティライン皆無な「つくりもの」で並べる楽しさ。ワンドリンクでアルコールを選べばふんわりした感じで気楽に笑える一本なのです。巧い女優じゃなくて、面白い女優になるんだという宣言はカッコイイ。

| | コメント (0)

2024.10.10

【芝居】「三ノ輪の三姉妹」かるがも団地

2024.9.7 18:00 [CoRich]

かるがも団地の新作。三鷹市芸術文化センターが選ぶ MITAKA Next Selectionの一本。120分。9月8日まで三鷹市芸術文化センター 星のホール。

三ノ輪に住む箕輪家の次女は母と二人暮らしの会社員だが、母親の入院、余命宣告を受け見舞いの日々だが、当の母親は手際よく身の回りを整理しているし母親の親戚との付き合いはほぼなくなっていて、あまりすることはないが、勤め先のベンチャーでは社長のハラスメント、要領の悪い新入社員に挟まれている。
三姉妹の二人は家を出ており、長女はだめな自分でも褒めてくれていた父親が亡くなり、無愛想で勉強もあまりできない長女は実家を出て連絡もつかないまま10年が経っている。アパレルに就職したかった三女は居酒屋のアルバイトで副店長にもなり人望も集めている。白金高輪の実家住まいの恋人に同棲を提案するが男は怖気づいている。
ある日、次女は長女を偶然見かけて再会する。職を転々としたものの、造園業についていて実は近くに住んでいることがわかる。
三姉妹で母親を見舞うが、母親は余命どおりにどんどん弱っていく。持ち家だと思っていた家は借家だったし、家族にだけはやさしかった父親が実は店員に怒鳴ったり、人にぶつかって謝らないような男だったなど知らないこともたくさんあった。

現在の私たちの地続きの場所に暮らす三姉妹たちの物語を、長い確執や葛藤を抱えた姿をときにコミカルを交えながら濃密に描きます。 事務力と人の調停を背負わされがちな次女を中心に、コミュ力低め無愛想で容量も悪い長女、コミュ力高めで要領良さげな三女の三姉妹が、母の余命宣告と再会をきっかけに、互いの立場を見つめ直して、しかし三人はそれぞれの道を歩むのです。親が居る間はなんだかんだいっても、そこにつながりはあるけれど、一度ぎゅっとあつまり、しかし再び別れて生きていく姿。この作家や役者たちワタシよりもずいぶん若いけれど、ワタシにももう少ししたらみえて来そうな未来なのです。

どちらかというと賑やかなファンタジーとかノスタルジーが持ち味の若い作家の語り口だと思っていたけれど、どんどん、生きることの奥行を悲哀交えて描くような語り口になってきていると感じます。ワタシよりずいぶん若いはず、なのに。

語り部的な位置でもあり次女を演じた冨岡英香は、調整型でぐずぐず巻き込まれながらも、物語を牽引するちから。母を演じたはぎわら水雨子の、終活も全部終わらせているある種の身綺麗がかっこいい。三女を演じた瀧口さくらは、要領よく、まわりの誰からも好かれるポップさが印象的。長女を演じた中島梓織は木訥で、要領もわるいけれど芯が強い造形をしっかり。近所の美容師を演じた柿原寛子の、ずけずけと踏み込むおばちゃん感がすごい。

| | コメント (0)

« 2024年9月 | トップページ | 2024年11月 »