【芝居】「ハッピーターン」劇団チリ
2024.8.25 11:30 [CoRich]
前夜祭翌日、同じ場所での一日限り、二回公演。短編集4本。80分。
男女がエレベータに閉じ込められた。同い年、同じ誕生日でふたりとも運命は感じるけれど、男ほどには女は前向きじゃない「童貞、閉じ込められる」
先輩を呼び出して部屋で呑む男二人。深酒して浴槽で溺れ死んた友人のバックに残された8000万円、死体は埋めて金は山分けすることに決めたが落ち着かない。キャバクラに行こうと盛り上がるが「いつまでもここにいる」
サッカーを観るために男友達の家を訪れる男。そこに女も居て、結婚したのだと告げられる。かつて不倫の末に奥さんを殺した女は出所後に同じ物件に住んでいた男をかつての不倫相手と思ったが見知らぬ女だという「ハッピーターン」
倉庫に逃げ込んだ3人。ゾンビに噛まれた女を外に追い出さないとと思うが、初めてできた恋人を諦められない四十歳男。もうひとりの女はこの男に片想いをしていたし、噛まれた女はこの片想いしている女のことが好きで振り向かせようと四十歳男に告白していた「おかしな3人」
非日常のシチュエーションと拗らせた人々で描く物語は少々突飛だったりもするけれど、登場人物の感情は私たちに手の届く説得力と卑近さを持ち合わせていて、ねじ伏せる力量のある役者たちと相まって短いのに満腹になるのです。
「童貞〜」は青年漫画にありそうな拗らせ男に降って湧いた一方的で、はた迷惑な恋の予感コメディ。女だって「きれいなからだ」で思うところはあるし、偶然にしてはできすぎな運命を感じなくはないけれど、さらさらそんな気はない押し問答。 暴力でねじ伏せられるような恐怖を女が感じないのは現代ではもう牧歌的ともとれるけれど、男を演じた本井博之という役者のちょっと情けない感じの解像度の高さと、どこかお嬢様風で怖い目にあったことがなさそうな女を演じた金沢涼恵のコンビネーションはこのファンタジーに説得力を持たせるのです。
「いつまでも〜」は偶然とはいえ大金を残し死んだ男と、その大金に目がくらんで死体を埋めたが罪悪感に苛まれ続ける男たち。死んだ男が霊のようにただよい、残された男二人に突っ込んだりしながら見守る物語。物語としてはその大金が危ない金であること、チャイムが鳴り不穏なまま終わる終幕だけれど、持て余す大金とそれの使い道がキャバクラという卑近さの男たちのドタバタはずっとみていられるのです。死んだ男を演じた友松栄はうだつの上がらない感じの、しかしなんだか友達に温かい視線すら。先輩を演じた西山聡と後輩を演じた未来也のホモソーシャル目一杯な、しかし微笑ましいふたりがたのしく。
タイトルでもある「ハッピー〜」は殺人で出所してきた、しかしひたすら腰の低い女に巻き込まれた男、という体裁で始まるけれど、女が帰ったあとに部屋で見つけてしまった「男の」整形外科の請求書で、くるりと状況が変わるホラー。住んでいる男は巻き込まれたんじゃなくて、不倫の末に妻を殺されても同じ場所に顔を変え住んでいた男だということなんだけれど、住み続けて過去を捨てようとしてるのも意味がわからなくて微妙に怖い。訪ねてきた男を演じた中川智明は巻き込まれた真実に気づいてしまった恐怖をしかしどこまでも軽やかに。居座ろうとした女を演じた仲坪由紀子はなぜかこういう薄幸で愛想のいい女の解像度がものすごく高くて、ずっと見続けてしまいそう。住んでいる男を演じた池村匡紀の結果としてはサイコな感じが怖い。
「おかしな〜」はゾンビ物シチュエーションに追い込まれた友人たち、噛まれた一人を見捨てるか、見捨てないかのせめぎあいだけど、そこに三角関係とモテない四十男を組み合わせてラブストーリー仕立てに。この男、一本目でモテなかった男があのときは結局成就できずここに至っていて、女二人の恋の駆け引きに利用されているともいえるけれど、そんなにも身近な女からの片想いにまったく気づかない鈍感さゆえの自業自得感が楽しい。男を演じた本井博之の鈍感を描く解像度の高さ、片思いする女を演じた帯金ゆかりは久しぶりに観るけれど、見せる感情の瞬発力の凄さはよく拝見していたころのままで嬉しい。噛まれた女を演じた鮫島うたはほぼセリフなしだけれど、二人をハッピーエンドに向かわせ自分は去るラストがかっこいい。
「細く長く」を謳う劇団チリとして、継続的な公演をするという宣言も嬉しく、立川はワタシの住んでいるところからだったらめちゃくちゃ遠いというわけでもなく。 プロの世界で活躍する劇作家・役者を、小劇場のフォーマットでコンパクトに見られることの魅力というのは確かにあって、若い世代が行うそれとも、いわゆる地方の劇団というのとも違って新たなベクトルを感じるのです。
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