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2024.09.29

【芝居】「ハッピーターン」劇団チリ

2024.8.25 11:30 [CoRich]

前夜祭翌日、同じ場所での一日限り、二回公演。短編集4本。80分。

男女がエレベータに閉じ込められた。同い年、同じ誕生日でふたりとも運命は感じるけれど、男ほどには女は前向きじゃない「童貞、閉じ込められる」
先輩を呼び出して部屋で呑む男二人。深酒して浴槽で溺れ死んた友人のバックに残された8000万円、死体は埋めて金は山分けすることに決めたが落ち着かない。キャバクラに行こうと盛り上がるが「いつまでもここにいる」
サッカーを観るために男友達の家を訪れる男。そこに女も居て、結婚したのだと告げられる。かつて不倫の末に奥さんを殺した女は出所後に同じ物件に住んでいた男をかつての不倫相手と思ったが見知らぬ女だという「ハッピーターン」
倉庫に逃げ込んだ3人。ゾンビに噛まれた女を外に追い出さないとと思うが、初めてできた恋人を諦められない四十歳男。もうひとりの女はこの男に片想いをしていたし、噛まれた女はこの片想いしている女のことが好きで振り向かせようと四十歳男に告白していた「おかしな3人」

非日常のシチュエーションと拗らせた人々で描く物語は少々突飛だったりもするけれど、登場人物の感情は私たちに手の届く説得力と卑近さを持ち合わせていて、ねじ伏せる力量のある役者たちと相まって短いのに満腹になるのです。

「童貞〜」は青年漫画にありそうな拗らせ男に降って湧いた一方的で、はた迷惑な恋の予感コメディ。女だって「きれいなからだ」で思うところはあるし、偶然にしてはできすぎな運命を感じなくはないけれど、さらさらそんな気はない押し問答。 暴力でねじ伏せられるような恐怖を女が感じないのは現代ではもう牧歌的ともとれるけれど、男を演じた本井博之という役者のちょっと情けない感じの解像度の高さと、どこかお嬢様風で怖い目にあったことがなさそうな女を演じた金沢涼恵のコンビネーションはこのファンタジーに説得力を持たせるのです。

「いつまでも〜」は偶然とはいえ大金を残し死んだ男と、その大金に目がくらんで死体を埋めたが罪悪感に苛まれ続ける男たち。死んだ男が霊のようにただよい、残された男二人に突っ込んだりしながら見守る物語。物語としてはその大金が危ない金であること、チャイムが鳴り不穏なまま終わる終幕だけれど、持て余す大金とそれの使い道がキャバクラという卑近さの男たちのドタバタはずっとみていられるのです。死んだ男を演じた友松栄はうだつの上がらない感じの、しかしなんだか友達に温かい視線すら。先輩を演じた西山聡と後輩を演じた未来也のホモソーシャル目一杯な、しかし微笑ましいふたりがたのしく。

タイトルでもある「ハッピー〜」は殺人で出所してきた、しかしひたすら腰の低い女に巻き込まれた男、という体裁で始まるけれど、女が帰ったあとに部屋で見つけてしまった「男の」整形外科の請求書で、くるりと状況が変わるホラー。住んでいる男は巻き込まれたんじゃなくて、不倫の末に妻を殺されても同じ場所に顔を変え住んでいた男だということなんだけれど、住み続けて過去を捨てようとしてるのも意味がわからなくて微妙に怖い。訪ねてきた男を演じた中川智明は巻き込まれた真実に気づいてしまった恐怖をしかしどこまでも軽やかに。居座ろうとした女を演じた仲坪由紀子はなぜかこういう薄幸で愛想のいい女の解像度がものすごく高くて、ずっと見続けてしまいそう。住んでいる男を演じた池村匡紀の結果としてはサイコな感じが怖い。

「おかしな〜」はゾンビ物シチュエーションに追い込まれた友人たち、噛まれた一人を見捨てるか、見捨てないかのせめぎあいだけど、そこに三角関係とモテない四十男を組み合わせてラブストーリー仕立てに。この男、一本目でモテなかった男があのときは結局成就できずここに至っていて、女二人の恋の駆け引きに利用されているともいえるけれど、そんなにも身近な女からの片想いにまったく気づかない鈍感さゆえの自業自得感が楽しい。男を演じた本井博之の鈍感を描く解像度の高さ、片思いする女を演じた帯金ゆかりは久しぶりに観るけれど、見せる感情の瞬発力の凄さはよく拝見していたころのままで嬉しい。噛まれた女を演じた鮫島うたはほぼセリフなしだけれど、二人をハッピーエンドに向かわせ自分は去るラストがかっこいい。

「細く長く」を謳う劇団チリとして、継続的な公演をするという宣言も嬉しく、立川はワタシの住んでいるところからだったらめちゃくちゃ遠いというわけでもなく。 プロの世界で活躍する劇作家・役者を、小劇場のフォーマットでコンパクトに見られることの魅力というのは確かにあって、若い世代が行うそれとも、いわゆる地方の劇団というのとも違って新たなベクトルを感じるのです。

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2024.09.16

【芝居】「昼だけど前夜祭」劇団チリ

2024.8.24 15:30 [CoRich]

劇団ブラジルのブラジリィー・アン・山田が一日だけ上演する企画公演の前日、同じ会場で行ったインプロ(即興)上演。JR立川駅ほど近く、コトブキヤホール。

感想を書くのがいいことなのか迷いながら、自分への備忘録もかねて。

  • 双子エチュード(一つの役を二人の役者が入れ替わりながら。相手役は一名)
    • 「バイトの面接」 中川・金沢・金川
    • 「監督インタビュー」 金川・中坪・平田
    • 「失踪以来10年ぶりに再会した母」 佐藤・小川・?
  • IN & OUT(舞台上には二人。その外の役者はタイミングを見計らって舞台に上がるが、10秒?以内にそれまでの役者のどちらかは舞台からハケなければならない)
    • 「病院」あれは誰ですか 中川・金川・西山・時岡
    • 「小学校」 わかるひと、父さん、盗んでない 佐藤・中川・金沢・森田
    • 「TV局」 布袋、吉川晃司 本井・時岡・西山・小川・佐藤
  • あいうえおあるある(与えられたシチュエーションのあるあるの頭の文字を五十音順に出していく)
    • 「カラオケ」 小川・西山・櫻井・平田・本井・中川
    • 「お母さん」 金沢・金川・森田・中坪・平田・佐藤
  • 回想エチュード(二人芝居をしている中、四人の役者が回想シーンを間に作る)
    • [佐藤・平田] 金沢・金川・櫻井・中川 どらえもん、サイコガン、お腹にボタン
    • 西山・中坪・小川・本井・森田・時岡 「バンジージャンプ」
    • 櫻井・佐藤・平田・小川・中坪・金沢 「化け猫」
  • PAPERS(観客から集めたメモの中の紙のセリフを引いて、必ず云わなければいけない
    • 西山・時田・森田 ツモ!
    • 中川・中坪・本井 引越、目玉焼き、
    • 金川・金沢・平田 ヤッターマンが来たぞ
    • 小川・櫻井・佐藤 痴漢盗撮注意
    • 平田・西山・佐藤・櫻井・本井?

役者たちの即興を見せることで上演をするいわゆる「インプロ」は対戦形式で勝ち負けを決めるシアターゲームを始めさまざまな上演があります。 ワタシ個人としては、役者の訓練であるとか創作に向けてのいろいろなヒントになるとは思うものの、同じ役者で複数のステージを行ったとしてもクオリティを担保できないのに対価を取るというリスクの高い上演形式だと思っています。 が、今作、揃えられた役者たちの力はこれまでもさまざまな上演を通して知っているし、(前夜)祭ならば乗りましょう、な気持ちで。見知った役者というのはまあ親戚の子どもや友だちの上演を観る、わるくいえば学芸会の底上げされたところからなわけで、小さな会場で気軽に見られる楽しさは間違いがないのです。

なるほど、稽古場で行われるいわゆる「訓練としての」インプロが見られる楽しさ。あらかじめ戯曲という地図があるわけではなく、役者同士があらかじめ打ち合わせているわけではないので、与えられたシチュエーションでともかく物語を駆動し、あわよくばどこかで落とし所に持っていこうという気持ちは一緒だけれど、それが空回りしたり、悪意なく正反対に行こうとしたり、ワンアイディアで入った広がらない役をただ繰り返すだけで物語の駆動に寄与しない役者がいたり、正直、どうにもならず空中分解寸前なものもあったけれど、ずっとドリブルで盛り上がらないところに突然かき回すことと、そこから(恐らく偶然に)ベクトルが一致することで奇跡のような瞬間があることもあって、これだけの本数があれば、いくつかはそんな瞬間が楽しくて、まさに「祭り」なのです。

もう十年にはなろうかと久々の復活の中川智明がキレキレで本当に嬉しい私です。「病院」での「アレは誰ですか」という台詞の秀逸。(説明難しい)。回想エチュードの「ドラえもん」でロボットまわりで迷走する感じの楽しさ、「化け猫」でトンネルの向こう側の実家という無茶な設定、佐藤滋が緻密に持っていこうとした着地点に「乗りたくねぇなぁ」という一言でひっくり返す櫻井智也のちからわざ、どちらもすごい。

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2024.09.08

【芝居】「朝日のような夕日をつれて 2024」サードステージ

2024.8.12 19:00
2024.8.25 14:00 [CoRich]

鴻上尚史の代表作、10年ぶりの再演。キャストを一新し、ついに第三舞台時代からの役者なしの朝日。120分。9月1日まで紀伊國屋ホール。そのあと大阪。 (1, 2, 3)

劣勢の立花トーイの開発した新しい「おもちゃ」は、少しのストレスはかかるけれど絶対に自分を傷つけないAIたちがいるMR(Mixed Reality)の世界。再びみよこに会いたくて、男たちは暇つぶしをしながら待っている。

大量ではあるけれど無限ではないDNAの組み合わせが再びみよこに結実するのを待つために暇をつぶす男たち、ルービックキューブからコンピュータゲーム、ネットワークゲーム、VR。朝日という物語の骨子はそのままなのに間違いなくその時代の流行をきっちり取り込んでいく化け物のような一本。技術だけではなく、2.5次元演劇や大坂なおみ、SPY×FAMILYといったさまざまを取り込んでいます。誰もが同じ流行を知っているという時代ではないので、出てきた小ネタがすべてわかるかといわれれば怪しいけれど、圧倒的なセリフの量とほぼ全編走り抜けるような疾走感は、キャストが全面的に若返ってよりダイナミックに。とはいえ10年前に50代だった二人がこれをやってたというのもすごいことなのだけれど。

コンピュータの向こう側の他者ではなくて、AIが作り出した「傷つけない他者」たちの世界に溶け込む私たち。それだけではなく現実とも溶け合うようなMR("Mixed" Reality)になって、現実との境界は曖昧にみえるけれど、しかしゴーグルで隔て現実とは明確に隔絶し閉塞し閉じこもっていることはより浮き彫りになるようにも感じます。

無限とも思える時間を待ち続ける男たち、いわゆるゴドー待ちだけれど、ずっと「朝日」に出ていた二人の役者が変わるということは、生身の人間が無限に待ち続ける=演じ続けることはできないのだ、ということでもあるのだな、と思ったりもします。いままではモノクロだったキャッチビジュアルが、レインボーカラーになったことに何かのメッセージがあるのかなと思ったけれど、そういう方向の改訂はなかった気がします。何でも結びつけちゃう癖はよくないかもしれません。

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2024.09.01

【芝居】「雑種 小夜の月」あやめ十八番

2024.8.12 13:30 [CoRich]

あやめ十八番の団子屋の話( 0, 1, 2) と云われれば行かないわけにはいきません。だいぶ久々に拝見。120分ほど。8月18日まで、座・高円寺1。

参道横にある家族経営の団子屋。店主の妻である母親と三人姉妹と新しい若い女の従業員で毎日仕込みから始めている。 長女は結婚して不妊治療を決心している。次女も結婚し娘も連れて店を手伝う。三女はここ実家暮らし。 住み込みの従業員は東京神田からこの場所に惚れ込んで働くことを決めた。 蕎麦屋の夫婦とは家族ぐるみで仲が良い。そば打ちを失敗したときに作るスコーンのほうがむしろ人気がある。 いとこの女医は母と二人暮らしをしながらこの土地で開業しているが、母の認知症が進み施設にいれることを決める。 母はかつて電電公社勤めの男と恋をして、しかし団子屋の一人娘として婿を取ることを求められ、思い余って駆け落ちを決めるが、その 駆け落ち先はすぐ裏の「おんちゃん」の家だった。
おんちゃんは亡くなったばかり。今年もお盆の季節がやってきた。

幅広の舞台、長辺を挟むように対面の客席。短辺側の端に鳥居、反対側の端は楽団ピット、天井からは社の屋根を釣った高い天井の空間。 団子屋の朝の仕込みから開店直前までの毎日のルーチンをリズムに乗せての幕開け。団子の作られる過程と、これまでの作品と共通するようにこの家族や場所の成り立ちを盛り込んだオープニングは、このシリーズの定番に。

今作は、お盆の季節に合わせ、すでに亡くなっている先代の夫婦や婿として入った当代の店主の夫、近所に住んでいたが亡くなったばかりの「おんちゃん」たちが「戻って来る」、迎え火から送り火までのお盆の時期、ここに暮らしていた昭和62年の人々と、暮らしている令和の人々を描きます。先代の店主と一人娘と「おんちゃん」を巡る昭和の物語は、可愛らしい駆け落ちの話を中心に、おんちゃんと当代の店主に繋がる物語。 令和の物語はほぼ現在の話。登場人物として「店主」とされている夫は、亡くなっていると勘違いしてしまいそうなぐらいに実に影が薄い描き方なのがちょっと気に掛かるワタシです。(余計なお世話)

本家、分家などという言葉も交えながら団子屋の人々をベースに描くけれど、ワタシが作家の目線として感じられるのは、元は神職で今は一人暮らししつつ祭りの下座連にはキッチリ参加して頼りにされていたと描かれる「おんちゃん」。田舎ではいわゆる「外れた」人になりかねないけれど、コミュニティにきちんと溶け込んでいる男。もう一つ作家の視線で描かれたと思うのは認知症の母親と暮らす女医で、認知症で施設に入れることを決めて、そのあと舞台全体をぐるりと回って、歩いて、スーパーに入る長い無言のあと、泣き崩れるシーンは実に印象的です。

広い舞台を平面として使えるようにしたことで、神社の広い敷地、団子屋の店内で忙しく働く人々、葬式の場面、あるいはリレーをする運動会のグランド、祭りといった場面に説得力と迫力が生まれていてダイナミックなのです。

三姉妹の母を演じた井上啓子は二つの年代をするりと切り替えます。女医を演じた蓮見のりこのスーパーをカートで無言で一回り、たった一人で場を維持する力。おんちゃんを演じた原川浩明の人が良くて溶け込んでいる頼りにされる男の説得力。駆け落ちの二人が出て行ったあとに寂しくなって養子(松浦康太)を取って育てる物語が実に良くて。語り部でもある三女を演じた小口ふみかは快活に、先代の妻を演じた川田希の極妻の迫力。
当日パンフには主宰の堀越涼(当代の店主)と女優の金子侑加(長女役)が千葉に移り住み、間違いなく実家の団子屋で働いていたこと、そして芝居を再開したこと、あるいは大森茉利子(次女役)が出産し娘も出演していることなど、劇団の「物語」もまるで大衆芸能のように。ああそうか、団子屋行けば良かったなぁ。

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