【芝居】「氷は溶けるのか、解けるのか」螺旋階段
2024.7.28 13:00 [CoRich]
小田原と横浜でのほぼ交互での上演を重ねる螺旋階段の新作。7月28日までスタジオHIKARI。90分。
小さいながら丁寧な仕事の土木工事会社。夜中、現場の囲いの扉を開けて幼児が忍び込み、水たまりに落ちて溺死する事故が起きる。 子供を失った両親。妻は夫が子にかける対する愛情が少なかったからだと詰り、実家に戻ってしまう。更に妻の両親は結婚は間違いだったと離婚を迫る。事故を起こした会社は社員の友人が現場にあった注意の立て看板を倒して直さなかったことを妹が知り、子を亡くした夫の元に通うようになる。それは謝罪というよりは、話を聞きたいという気持ちからだった。
ワタシにはわりと笑いと人情の芝居が多い印象の劇団ですが、今作は笑いを大幅に削ぎ落とし家族と死を巡る物語をときに(いわゆる)毒親、あるいは不謹慎かもしれないけれど、他人の事情に少し踏み込みすぎる若者を駆動力にして進む物語。
会社の側の人々は問題は問題として、生活を明るく回していこうと前向きなマイルドヤンキー風味。否定的な文脈で語られがちな言葉だけれど、地元密着で先輩後輩の関係が濃く生活していくという意味で今作においてはポジティブな原動力になっています。 対して子供を亡くした夫婦と妻の両親の物語、もともと結婚に前向きでなかった両親、夫を見下しがちな妻と、階級とまでは行かなくてもこれまで育ってきた環境が違うと思わせる喧嘩がちな夫婦、息子が亡くなったのも口論の夜に抜け出した結果だし、ストレスとアルコールにまみれ、あまりに救いのない家族の唯一ともいっていい希望だった子供を亡くして時間が止まってしまった感じ。
立て看板を倒して直さなかった、囲いの扉が施錠されていなかったという落ち度がないわけではないけれど、あくまで子供が忍び込み水たまりに落ちたという不幸。 子供を流産していた女がふとしたきっかけで被害者夫婦の家に通うようになり、話を聞くようになるという距離の詰め方は少々強引にすぎるし、その女と話をするようになる形で語られる夫の物語も、ちょっと無理があるような気がしないでもないけれど、もしかしたらその日々が、夫を孤立させなかったともいえるわけで、癒えるための時間ともいえるかもしれません。
会社の側、ネットはまだ事故を騒いでいても丁寧な仕事を続けている会社自体の業界での評判はわるくなくて、真面目で、酒場で馬鹿話もして、仲間として仕事を続けているということのなんていうんだろう、尊い人々の描き方。その意味でこのパートは下町人情ドラマという仕上がりではあるのだけれど、夫婦の問題と並行して描かれることで全体としては実に独特な仕上がりになっています。
固着ともいえるほど身動きとれなくなっていた夫婦がやっと直接話しをするようになった終幕、ロックオンザグラスのウイスキーが象徴的で、少しだけわだかまりが「溶けて」前に進む余韻だけ、という些細な動き。
妻の両親を演じた田代真佐美、露木幹也。一つも悪意がないのに完全にヒールであり続ける役者としての胆力と迫力。工事会社の社長を演じた水野琢磨の目一杯の誠意で真面目に生き続けるいい男。
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