【芝居】「BIRTHDAY」本多劇場グループ
2024.7.27 15:00 [CoRich]
本多劇場グループが海外の戯曲を上演するシリーズの第四弾、2021年に行われたリーディングも含め初見です。110分ほど。7月30日までシアタートップス。
男性が妊娠出産できるようになった時代、イギリスの公的病院で出産を待つ夫婦。妻はすでに出産していて、第二子は夫が出産することを決めた。NHS(国民保険サービス)か私立の病院での出産かを迷い前者を選んだ。いろいろ心配事は起こるが病院のスタッフは愛想はいいけれど、なかなか対応して貰えない。いよいよ出産となりやっとやってきた医師は研修医で頼りない。
「妊娠した男性」というファンタジー一点突破で、いままで存在していても気づきづらかったさまざま。男女のこと、人種のこと、格差のことが次々明らかになって、さらには産んだら産んだで感染症、夫婦仲が最悪になったりと混乱の極みになるけれど、生まれた子供の感染症治療がうまくいって大団円、というのは実際のところ、それまでの殆どの問題は解決してないのだけれど、ギュッと詰め込んだ混乱に物語として強引ともいえる一区切りをつけるのは力技でちょっとおもしろい。
イギリスで2012年に初演されたという物語は、たとえばイギリスでの健保のしくみ、白人夫婦と、スタッフとして働く有色人種との間にある格差の意識を、笑いとして描くことにドキッとするわたしです。モンティ・パイソンの時代ならいざしらず、ほぼ現代に至ってもなおこうなんだ、というスノップな感じ。アフリカ系と思われる設定の助産師は愛想は良くてしかしなんか雑だし知識は今ひとつだし、研修医は手袋こそするけれど、はずしたらすぐ放り投げたりとこちらもなんか雑。とはいえ、どちらも本当のエマージェンシーならちゃんと対処するプロフェッショナルとは描かれるものの、確実に存在している人種偏見が根深く、それをどちらも違和感を感じていないし、それを描きながらも批判的な視線があるでもなく、かといってポリコレ上等とばかりに喧嘩を売るわけでもなく、日常として存在するものとして淡々としかもコミカルに描くことにびっくりしてしまうワタシなのです。
夫を演じた阿岐之将一はオーバーアクション、コミカルでありながら男性側の気づきの視座である重要な位置をブレなくしっかり。妻を演じた宮菜穂子はそのコミカルに乗りながらも、いままでの弱者=女性の視座をもちちつ、しかしミドルクラスの白人であるという見下す側の視座も併せ持つハイブリッドの説得力。石山蓮華はどこかステロタイプに造形された研修医を絶妙のコミカルさで。ラジオ番組のレギュラーとして知るようになったワタシ、なんか我がことのように嬉しい。黒人の助産師を演じた山崎静代はほんとうに素晴らしくて。セリフの上では中盤まで黒人であるということは明確にはされていないけれど、イギリスでの上演ではおそらく黒人の俳優が演じた役で最初からその前提で観客はみているはずで、日本の上演では穏やかだけどどこか鈍い人みたいな造形のまま中盤まで乗り切る説得力、なるほどステロタイプな黒人の感じ、というのも含めて人種に対するワタシを含めた偏見を含め良くも悪くも包み込んでしまうような説得力。
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