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2024.07.28

【芝居】「逃奔政走」フジテレビジョン

2024.7.13 18:00 [CoRich]

アガリスクエンターテイメントの冨坂友が手掛けたフジテレビ放映の2回の生ドラマのうち、3月放送の「生ドラ!東京は24時-Starting Over-」を前日譚とする都知事をめぐるコメディ。135分。 7月16日まで三越劇場。そのあと京都。正直に云えば、有償のパンフがないと配役が分からない(サイトは主要キャストのみの配役表のみ、かと思えば劇場内に掲示も見つけられず)のは、少々けちくさい、と思ってしまう小劇場どっぷりなワタシです(すみません)。

NPO法人で活躍しテレビのコメンテーターなどを経て、生きやすい県政としがらみのないクリーンさを掲げて初当選した女性県知事。3年半を経て任期の終盤。知事室奥にシャワー室を新設しようとしていることが議会で問題になっている。既存のシャワー室が壊れていることにしようと画策したり、リークされた官製談合の事実を隠そうとしたり画策する。それもこれも、働きやすい、暮らしやすい生活を実現すことを鳴り物入りで公約に掲げた知事を守りたい一心でだった。

任期終盤を物語の起点として、シャワー室の新設をめぐる「小さな」ほころびを追求される議会を乗り切ろうと小さなその場しのぎの嘘を重ねたり、証拠となるSNS投稿をコントロールしようとしたり、答弁をのらりくらり交わしたり。物語が進むうち、しがらみがなくクリーンだった筈の知事が当選直後から公約実現のためとはいえ、大物政治家に抱き込まれ、特定の業者との癒着が始まっていて、それが続いていることがあきらかになります。その場しのぎの嘘や方便を重ねるシチュエーションコメディーなんだけど、逃げ場がなくなって公設秘書に罪を被せたり、PCの音声データのハードディスクをドリルで破壊したりと、現実の鏡写しのような解決策で、正直コメディとしてはセンスが無い現実を取り入れてしまうことで、現状の政治のありかたを批判的に描こうという意図はわかるけれど、かなり微妙には感じるワタシです。

正直にいえば、公設秘書の扱いで後味が悪かったり、無理矢理すぎるなど、コメディとしては完成度はたとえばこれまでの「SHINE SHOW!」 (1, 2)などに比べると、高いとは言えないのです。が、政治家が綻びをごまかして逃げ切るのでは無く、都民に向かって自分の過ちを告白し、抱き込んできた大物政治家の癒着を暴露して正しい道を歩もうという終幕の(現実ではワタシは寡黙にして最近の例を一つも例を知らないので)理想、つまり観客に向かって訴える「政治家は監視し続けなければ、何らかの不正をしていく、諦めずに監視を続けなければならない」というあまりに青臭い正論を、ある意味作家のある意味の成功であるはずの、この三越劇場とツアー(そこが京都、しかも早々に売り切れた)で、このタイミングで上演する(誰かの)意思が、もう、なんか凄い。

生ドラマ二つを経ての舞台主演となった鈴木保奈美のコメディエンヌとしての間の素晴らしさ、終盤のキリッとした美しさの説得力。大物政治家を演じた佐藤B作の人たらしな造形、物語ではヒールであり続ける強度が凄い。副知事を演じた相島一之の滅私奉公であり続けることと、終盤のリークに繋がる不倫旅行の人間っぽい感じ。都知事に担ぎ上げた私設秘書を演じ、ドラマターグも務める中田顕史郎の一癖も二癖も持っている、しかし彼の理想がある説得力。作演の劇団の役者をツアーも含めてきちんと役を付けているのは嬉しくなっちゃうワタシですが、自叙伝のライターを演じた淺越岳人がこれだけの出番?と思えば、文芸助手にクレジットされていて喜ぶワタシです。

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