【芝居】「なぜけもののわかさはにがいのか」820製作所
2024.5.6 13:00 [CoRich]
2022年8月に予定していた公演が中止になり二年弱を経ての820製作所としての公演に、高校生キャストを加えて。アフターパフォーマンス10分を含めて130分ほど。5月6日までスタジオHIKARI。
高校生たち、教室や学校でのさまざまな風景。
仲のいい女二人、父親が若い女をつくったこととか、片方の彼氏の頭皮の匂いを嗅ぎたいとか、やらかす欲望はやばいと感じている。
男女、女は苦手な現代文の発表にひとり拍手をした男に馬鹿にされていると感じているし、言葉も人も不正確な定義が信じられず嫌いだが、男は歩み寄る。
男2と女2、園芸部の男は自分が何もしてないからクズだというが同級生の女に声をかけられても断ってしまう。それを目にしたもう一人の女が声をかけるが、実はふたりとも教室では浮いている。
コーチに殴られているが自分を責めている運動部の男が誘われ文芸部の部室を訪れる。文芸部の女は教室では全然目立たない。あとからやってきたもう一人の部員は教室では中心にいる陽キャで人気があるが、二人の部員はある小説のファンだと知り盛り上がっているのだ。
男たち4人、年寄りを襲う通り魔を捕まえようと盛り上がっている。
教室はいつもの毎日のように繰り返しているが、爆発音がおこり、彼らには日常だが、避難所になったり、できることも生徒も減っている。
二人から五人程度の小さなグループの会話を点描する前半。親のあれこれの嫌悪感とか褒められたことではないことをやりたくなってしまう衝動のやばさとか。親しくなれそうだとわかっているのに芽生えたプライドや異性のある種の眩しさが邪魔をして近づけないとか、若くてもこの年齢まで言葉に裏切られた経験の疑心暗鬼とか、教室で見せる顔と目立たないクラブ活動で見せる顔の違いなどいくつもの顔を持ち始めることとか。この年齢に徐々にみせる「けもののわかさ」。
中頃ではは彼らが一同に会する教室の姿。わりと盛りだくさんで、教室のあちこちでおこる小さな会話とか、二人きりなら仲良しでも皆の前ではつっけんどんなツンデレ具合とか、人の別荘に皆で行こうと盛り上がってたり、居眠りしてる友だちを起こそうとしていたり。なにかのものがたりというよりは、教室の日常の風景を人数とダイアログの個数という物量で奥行き深くつくりあげます。
後半はこの教室の風景の同じ会話を繰り返しながら、しかし彼らの置かれている状況がどんどん変化していくのです。日常だったはずだけど、何らかの緊急避難先になっていて戦車を見かけたり隕石と言われているがミサイルかもしれないと不穏な単語があったり、地震のような地響きのなか不安を抱えたり、生徒がだいぶ減っていて学校の外へ「調査隊」がいって絶望的な状態になったり、それは災害と戦争が日常の私たちに入り込んでいるということ、その場所にも子供たちはいて、成長していて、あるいは死んでいて、ということと重なり合うのです。
多くの人数、大量のダイアログ、同じ教室が変化していくことを重ね合わせて地層のように細やかに見せていくという意図はわかるものの、物語にワタシがかみ合う瞬間を逃してしまうとどう見たらいいか判らなくなりかねない危うさを感じるのだけれど、百戦錬磨の作演と役者たち、実はそんなことにはならないんだろうな、とも思ったり。
中央に帯状に舞台をつくり、いわゆる教室の椅子を動かしながら、教室や学校のあちこちを。それを挟むように両側に客席でじっさいのところ真ん中中央に座ったりすると首を左右に振る羽目になりそうなほどワイドなスパンに。私が座った奥の端からは、長い距離で奥行きが作られている町屋を表から覗いているような雰囲気でこれはこれで楽しくて。
いくつかの回に設定されていたアフターパフォーマンス、「私たちも年をとるのか」1988年から2083年までのそれぞれの時代の女子高生7人が突然一同に会して会話する10分間。変わっていると見做されていじめられることは時を経ても対象が変わるだけだったり、あるいは携帯が現れスマホになったり、服が替わったりということに驚いたり楽しんだりする彼女たちは実に眩しい。実は親子だったとか実は教師と教え子だったとか、いう偶然は10分の中ではやり過ぎな気がしないでもないけれど。さっと現れてさっと消える幻のようなこの空間は、演劇を教育に活かす効能として言われる「ロールプレイで他人は他人の考えや行動があることを理解する」というのを絵に描いたようでもあるのです。
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