【芝居】「フィクショナル香港IBM」やみ・あがりシアター
2024.5.3 14:00 [CoRich]
やみ・あがりシアターの新作はSF風味の、実はラブストーリー。CoRichの「観てきた」ではリピーターが続出、というのも頷ける120分。5月6日まで北とぴあペガサスホール。楽日までは台本が公開されていたようです。
1988年の香港。赤いドレスの女が待っていると、デートで待ち合わせた男が現れるが、これからみるSF映画をあらかじめ観て、あらすじをほぼ喋っちゃうような男に愛想を尽かしてもう二度と会わないと思う。
2088年、香港に作られた昔の空間を再現した仮想空間。人々は脳に電極を接続し、この世界で暮らしている。運営側のみが住人を現実世界に戻せない。この世界のルポルタージュを書くために招かれた男は、街で出逢った女を主人公に物語を書きたいと思う。
二つの物語が交互に進みます。一つは一組の男女が出逢って、いろいろ不本意で別れた筈なのに、そのあとも続いている話。もう一つは2088年の香港を模した仮想空間の起伏が激しいエンタメ的な物語。後半に至って、前者の二組が観た映画が後者のエンタメな物語なのだと判って唸るワタシです。うまく整理すればNetflixでもありそうな、エンタメなのです。
後者のエンタメは、サスペンス+SF+世界が崩れたり+フレッシュされたり+電子人間+コスチュームチェンジ(という、心と人間を入れ替われるチート)とか、と盛りだくさんでスピーディな映画の風味を存分に。めまぐるしくて、楽しい。
前者のラブストーリー、いろいろ間違っても進んでいる夫婦の話。いろいろな分岐点で間違ってしまったけれど、こちらもSF風味にリフレッシュすると、やり直せる感じで、正しい分岐点を選び直して、映画の設定である2088年まで生きようと思うファンタジーなのです。時に仲違いしながらも、100年の隔たりを二人で生き抜くために、医者になってみたり、仮想空間を作って脳だけをのこして、そこで3年分だけの想い出を繰り返していくとか、ゴールに向かって二人三脚で進む物語は純粋で美しいのです。
幅のある舞台の両端にすりガラスの衝立、時にラブホテルのシャワー、ときに街の影となる場所となったりしながら、それぞれの衝立の両側から出入りできるようになっていて、そこを八の字のように走り回ったりして、そんなに大きくない舞台に疾走感を作り出すのを観て、大昔の双数姉妹(という劇団)を思い出すのです。
未来の大統領を演じた、さんなぎ、ほぼ子供という設定のそれっぽさ。その大統領を肩に担ぎ続ける兄貴を演じた笹井雄吾、その弟分の鉄砲玉を演じた三枝佑のトリオが面白い。なんならヤッターマンの悪役3人みたいな。頭にパトランプをつけたセキュリティを演じた加瀬澤拓未とその娘を演じた冨岡英香の切ない物語の説得力。この仮想空間の運営こと補佐官を演じた小林義典のなにかを隠している不穏さの解像度。
ラブストーリーの男女。男を演じた森田亘はオタクな雰囲気から結婚するために頑張る気持ちとか、結婚してからのちょっと尊大な感じと、先を知ってから体験したい臆病さの振れ幅。女を演じた加藤睦望は先行き考えずに好奇心をもって行動したくて、予想外が楽しくて男の手を引いて先に進む明るさが印象的。
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