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2024.05.26

【芝居】「法螺貝吹いたら川を渡れ」渡辺源四郎商店

2024.5.3 19:30 [CoRich]

渡辺源四郎商店の新作は「戦争と平和を考える2作品連続上演」として。105分。青森でのプレ公演を経て5月6日までスズナリ。そのあと5月29日まで彼らのアトリエともいうべき、渡辺源四郎商店しんまち本店。

幕末、川を挟んで津軽と南部が向き合うマタギの村。行き来は表向き禁じられていても、住民たちはひそかに交流していた。明治元年のある日、小湊に駐屯していた津軽の兵が出陣し、南部の村に放火し全戸消失させたが制圧直前で撤退し終結。それから3時間ほど、まだこの知らせはこの村には届いて居ない。津軽藩から、南部を襲撃する命が下るが、「ふり」の茶番でもいいのではないかと南部に持ちかけ、誰も傷つかない筈だったが。

舞台の左右を赤と青の布、津軽や南部の家門を配し左右に分割。エレキギターやキーボードの生演奏を添えてライブ感たっぷりに。

今は青森県という一つの県になっている土地、津軽と南部を隔てる蒜内川(ひるないがわ)という仮想の川を設定し、そこに野辺地戦争という史実を織り交ぜて、どこでもいつでも起こりうる戦争と暮らし。敵とされている隣人、中央からの指令での戦争。人間の営みも土地も地続きにグラデーションなのに、なにかの境界を引いて国をつくり、それゆえに中央には利害関係が起こるのです。グラデーションの筈なのに。

マタギという武器を持つがゆえに戦争にかり出されそうな二つの村の間の男女の恋、あるいは山の神と崇める気持ち。女が間者でそもそもの仲違いは盛岡藩南部家と弘前藩津軽家の確執(相馬大作事件)で、そこからずいぶん時間が経ってるのにもかかわらず囚われているということ、もちろん忘れられないこともあるだろうけれど。

更に物語には津軽アイヌが登場して、少数民族も絡めて、抗争と日々との物語の奥行きがぐっと広がるのです。正直言えば、要素がそれほど多い訳ではないのに、ものがたりがごちゃついていている感じを受けるワタシです。

久しぶりに拝見する長谷川等、元気でなにより。未亡人を演じた山上由美子の物語を駆動するちからと、やけに色っぽい瞬間。音喜多咲子の子供のやけにクオリティの高いのはいつもの通りで安心。南部藩目付とギーター・キーボードを演奏した高坂明生もとてもよいのです。

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2024.05.22

【芝居】「フィクショナル香港IBM」やみ・あがりシアター

2024.5.3 14:00 [CoRich]

やみ・あがりシアターの新作はSF風味の、実はラブストーリー。CoRichの「観てきた」ではリピーターが続出、というのも頷ける120分。5月6日まで北とぴあペガサスホール。楽日までは台本が公開されていたようです。

1988年の香港。赤いドレスの女が待っていると、デートで待ち合わせた男が現れるが、これからみるSF映画をあらかじめ観て、あらすじをほぼ喋っちゃうような男に愛想を尽かしてもう二度と会わないと思う。
2088年、香港に作られた昔の空間を再現した仮想空間。人々は脳に電極を接続し、この世界で暮らしている。運営側のみが住人を現実世界に戻せない。この世界のルポルタージュを書くために招かれた男は、街で出逢った女を主人公に物語を書きたいと思う。

二つの物語が交互に進みます。一つは一組の男女が出逢って、いろいろ不本意で別れた筈なのに、そのあとも続いている話。もう一つは2088年の香港を模した仮想空間の起伏が激しいエンタメ的な物語。後半に至って、前者の二組が観た映画が後者のエンタメな物語なのだと判って唸るワタシです。うまく整理すればNetflixでもありそうな、エンタメなのです。

後者のエンタメは、サスペンス+SF+世界が崩れたり+フレッシュされたり+電子人間+コスチュームチェンジ(という、心と人間を入れ替われるチート)とか、と盛りだくさんでスピーディな映画の風味を存分に。めまぐるしくて、楽しい。

前者のラブストーリー、いろいろ間違っても進んでいる夫婦の話。いろいろな分岐点で間違ってしまったけれど、こちらもSF風味にリフレッシュすると、やり直せる感じで、正しい分岐点を選び直して、映画の設定である2088年まで生きようと思うファンタジーなのです。時に仲違いしながらも、100年の隔たりを二人で生き抜くために、医者になってみたり、仮想空間を作って脳だけをのこして、そこで3年分だけの想い出を繰り返していくとか、ゴールに向かって二人三脚で進む物語は純粋で美しいのです。

幅のある舞台の両端にすりガラスの衝立、時にラブホテルのシャワー、ときに街の影となる場所となったりしながら、それぞれの衝立の両側から出入りできるようになっていて、そこを八の字のように走り回ったりして、そんなに大きくない舞台に疾走感を作り出すのを観て、大昔の双数姉妹(という劇団)を思い出すのです。

未来の大統領を演じた、さんなぎ、ほぼ子供という設定のそれっぽさ。その大統領を肩に担ぎ続ける兄貴を演じた笹井雄吾、その弟分の鉄砲玉を演じた三枝佑のトリオが面白い。なんならヤッターマンの悪役3人みたいな。頭にパトランプをつけたセキュリティを演じた加瀬澤拓未とその娘を演じた冨岡英香の切ない物語の説得力。この仮想空間の運営こと補佐官を演じた小林義典のなにかを隠している不穏さの解像度。

ラブストーリーの男女。男を演じた森田亘はオタクな雰囲気から結婚するために頑張る気持ちとか、結婚してからのちょっと尊大な感じと、先を知ってから体験したい臆病さの振れ幅。女を演じた加藤睦望は先行き考えずに好奇心をもって行動したくて、予想外が楽しくて男の手を引いて先に進む明るさが印象的。

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2024.05.18

【芝居】「前髪(あなたに全て捧げるけど前髪だけは触るな)」MCR

2024.4.28 18:00 [CoRich]

MCRの新作。120分。4月30日まで、ザ・スズナリ。

女は通ってくる恋人を待っているが、その男は優しいけれど、プリンとかすき焼きなど食べ物の話で詰めてきがち。据えかねた女は刺してしまう。数日前に計画されて行けなかった学生時代の仲良しとの友だちが、来なかったことに腹を立てて訪れる。その瞬間に。
死体をクルマに載せて運ぶ途中、クルマをぶつけてしまう、ヤクザの男は死体の処分を引き受けるという。処分をした債権者は丁寧に仕事をしてしまい、足が付く。

犯人は明かされていて、犯人が追い詰められる過程を見せるサスペンス風味を持つけれど、作家の主眼はそこではないと思うワタシです。どうしようもない気持ちの持って行き場とか、ままならなさに翻弄されてしまうこととか、どこか諦めたような冷めた目線を感じるのです。

優しそうに見える男が実はモラハラ、という役を珍しく演じた堀靖明、グラデーションで怖くなっていって、観たことないほどの凄み。死んでいい人になって寄り添う、みたいな「殺した側でも、その人が良かった時の記憶のバイアスがかかる」というのは面白く、その振れ幅をしっかり。子分がいる女を演じた徳橋みのりも珍しい役と思ったけど、観たことあった。細やかな陰影が印象的。刑事を演じた澤唯は狂ったこの世界でほぼ唯一マトモな人物を違和感なく。妻を演じた伊達香苗はいい人っぽさはいつも通りに。しかし終幕、夫を殺した女と友だちになる怖い人物の説得力。

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【芝居】「夜会行」動物自殺倶楽部

2024.4.28 14:00 [CoRich]

2021年、鵺的での初演作(観劇三昧の配信あり)。今回は赤猫座ちこと高木登の二人ユニット「動物自殺倶楽部」として若手俳優中心のキャスティングで。赤猫座ちこの俳優活動休止前の触れ込みでしたが体調不良のため降板しキャストを変更しての上演。4月28日まで「劇」小劇場。

誕生日パーティに集まる二組のレズビアンカップルと、一人のフリーの女の一幕、という構成。小さなキッチン、テーブル、ソファで小さな部屋でくらす印象が強かったサンモールスタジオでの初演に比べると、ワイドスパンでガラス張り、下手側で階下に玄関、上手側で階上にも部屋という感じでどちらかというと木造一軒家という雰囲気の再演。さらに、コロナ禍真っ只中だった21年は皆がマスク、注意深く消毒、背を向けての乾杯という感じだったけれど、24年の現在を描くようにマスクなど感染症の捉え方がバラバラになっているなど、時間の経過を感じさせます。

今回も物語の一番のテンションとなるのは、別れた男からヨリを戻そうとしつこく掛かってくる電話のシーンで、女性と同棲しているのだといってからの「理解のある」ポリコレしぐさの腹立たしいマッチョイズムの腹立たしさ。いつの間にか舞台に大量に敷かれた風船を、男の言葉を聞いた女たちが一つ一つ割っていく演出は、怒りを風船の破裂音に託すのは象徴的で印象的。「かんしゃく玉」(青空文庫)を思い出すワタシ。音といえば、意図的に多くのノイズが劇中に混ぜられているのは最近の鵺的な感じでもあります。クレジットにも「ノイズ」の記載が。

記憶は薄れているけれど、イラストだけが残り二人がどうなったかについては不穏さを残す印象だった初演にくらべると、新たな画材を手にして先に進む終幕は、少し違う雰囲気を残します。

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2024.05.11

【芝居】「なかなか失われない30年」Aga-risk Entertainment

2024.4.27 19:00 [CoRich]

商業演劇 (1, 2)やテレビへの露出も増える作家の劇団、アガリスクエンターテイメントの新作。去年6月をもって閉館した新宿シアター・ミラクルへのオマージュを近くのシアタートップスで120分。5月18日まで配信があります。

2024年4月、雑居ビルにあった劇場跡地を片付けるビルオーナーは、次の買い手を待っている。電気設備の点検に訪れた男がいちど電源を落とすと。
1994年の同じ場所、街金の事務所では取引に必要な大金を用立てた男が金を無くして探している。2004年の同じ場所、風俗店の待機部屋の女たちはそれぞれの理由で絶対に接客したくない一人の客を押しつけ合っている。2014年の同じ場所、小劇場の楽屋では主宰を若い俳優、主宰の妻のもつれた話で多くの役者が降板した舞台の上演中。再び照明が復帰すると。

4つの時代が雑居ビルの同じフロアに重なり合って、それぞれの時代の人々それぞれのショーマストゴーオンというSFの設定。街金の店長がハードなSF好きで、何か起こしたことがバタフライ効果を生んでしまうなどの設定を序盤で早々に説明。 その部屋の中では時代が違う人も見えるし会話出来るし、物も受け渡せるけれど、その部屋を出てしまえば2024年の状態に戻るので人も物も消えてしまう、という少々判りにくい制約は作家も自覚しているようで、何度か説明するのも親切です。

時代の設定を縦断するように朝ドラを会話にするのもいいし(風俗の女性たちが歳のさば読みしてるとかもご愛敬で)、震災を折り込むのもまた時代の縦糸。

熱狂というか、ダブルコール。もしかしたらサンシャインボーイズ(←ワタシは観てない)かピスタチオかキャラメルボックスか遊眠舎か新感線か。そこまでの熱狂に乗れなかったのは物理的に気温が高すぎた劇場で、もっと詰め込んでた昔のトップスでもここまではという温度で、それは熱気以前の問題(劇場の設備も老朽化しているのだろうけれど)。

全席指定でしたが、当日近くになって、見切れ席が出来たので席を変更するとのお知らせ。確かに上手端にある柱が邪魔になるシーンがそこそこあって、心配りがすばらしい。場所の記憶を芝居にする、という意味ではトリのマークを思い出すワタシです。

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2024.05.03

【芝居】「S高原から」青年団

2024.4.6 18:00 [CoRich]

青年団で91年に初演。94年の再演までは未見で、2005年の再々演を初めて観て、19年ぶりに。(2005年はS高原を若手がつくるニセS高原の企画( 1, 2) もありました。4月22日まで、こまばアゴラ劇場。ワタシとしては、アゴラ見納め。

随分前に拝見してるだけだし、記憶力がザルなワタシなのだけど、やっぱり観始めれば記憶が思い浮かびます。驚くのはびっくりするほど感想が変わらないということなのです。とはいえ、久々に2005年のキャストを眺めてみれば、きら星のように思い浮かぶ役者たち。亡くなってしまったひと、テレビや映画で活躍するひと、今でもあちこちで見かけるひと、あの時の強烈な印象が今でもありありと思い浮かぶのです。 そう思えば今作もまた、次の時代の役者たちが並んでいるという期待感。全く関係無いけど、青年座も青年座スタジオの公演もやらなくなったなぁ。建物はそのままあると思うんだけど。

しかし、青年団やはりたいしたもの。劇団サイトでタグでの検索も含めてアーカイブがきっちり。直近20年ぐらいは公演詳細ページもそのまま残っているのです。(どの劇団でも出来るコトじゃありません。なので、独自サイトを維持出来なくなるかもしれないことを考えて、各劇団にはせめてCoRichに公演登録も切にお願いしたいのです。記憶力は衰えるワタシ、検索に頼りたい。過去のものも。)

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