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2023.12.28

【芝居】「ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us-」waqu:iraz

2023.12.16 14:00 [CoRich]

9月に八戸で上演した作品(未見)を再構築して上演。12月17日までSTスポット。

派遣社員として働く女、特別にやりたいこともないけれど、イベントで知り合った社内の男性は誠実そうで好感を持つが実は本社の正社員で少し距離を感じたりもする。女のことを何でも知ってるという幼なじみの男はアスリートの一家でそれはそそれで比べられて辛い。インフルエンサーの女は女だからこそ得してることもあると思っている。帰国子女の女はさまざまなことを自分の手で勝ち取ってきた。それぞれの日常だったり、想いだったり。

ランウェイ風に十字に組まれた舞台の田の字の四箇所に客席を設え、作演を兼ねる役者(小林真梨恵)がDJコントローラーで音響を流しつつ、しかも恐らくは全曲がオリジナルのミュージカルあるいはラップ風味だったりというスタイリッシュ。

ワタシは未見のバレエ・ジゼルを翻案。 農民の娘のジゼルを派遣社員、公爵のアルブレヒトをエリートだが誠実な正社員、門番のヒラリオンを幼なじみ、公爵の婚約者バチルダを女を存分に発揮するインフルエンサ、女王のミルタを帰国子女で勝ち取ってきた女としてという翻案はなるほど見事。女らしさ、女らしくないこと、男らしさ、男らしさゆえに弱音を吐きづらいということ、あるいは旧来の価値観を存分に利用するか、それと対峙して勝ち取るかというさまざまな価値観の揺らぎ。ワタシよりはずっと若い世代の作家、自分たちに地続きなありかたをすくい上げ、ジゼルの枠組みを使いながら描くくことで現代の私たちのパーソナリティを点描して浮かび上がらせます。

ジゼルを演じた宮﨑悠理は素朴、アルブレヒトを演じた金川周平はフラットで誠実、ヒラリオンを演じた若尾颯太はマッチョな価値観と自分の弱さの相克、バティルドを演じた関森絵美は華やかさ、ミルタを演じた武井希未は力強く勝ち取る女、それぞれのキャラクタがとてもマッチしていて、エンタメとしての違和感がみじんもない凄さなのです。

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2023.12.25

【芝居】「5deer」ユニークポイント

2023.12.10 15:00 [CoRich]

教師たちの会話劇かつ英語で単数・複数で変わらない単語がタイトルのシリーズ( 1, 2)、 三本目。70分。ユニークポイントの白子ノ劇場での最後の新作。12月11日まで。

大学の数学科で入試問題を持ち寄り決める教員たち。一人はまもなく子供が生まれるので遅れ、そして早く戻る。

開演前に前説代わりに数学の教師でもある作家がごく短く、素数と三平方の定理の講義。

徐々に人が集まり、数学についての話題だったり、同僚の話だったり。持ってる特性は天才的だったり、真面目で面白みがなかったり研究者肌だったり、数学の美しさだったり、あるいは子供の出産に際していろいろ見失ってる、個性あるひとびとの会話。

今作の素晴らしさは数学の美しさとある種の泥臭さ、将来に向けてもしかしたら何かにつかわれるだろうという想像力という数学者であると同時に、受験生に対して語りかけるように問題の意図がありこう答えてほしいと問題をつくる教育者を間違いなく併せ持つ人々の幸せな世界であることなのです。

円周率が3.05以上である証明まではなんとか理解出来ても、オイラー関数、暗号化の話など、外枠までで歯が立たず理系なのに数学がダメだったワタシです。だけれど熱を持った会話の面白さは感じるし、正解があるかわからない研究と正解はある入学試験の違いを「(行き詰まったら)引き返す勇気」と表すこと、その言語感覚も面白いのです。

どの時代の話かが徐々に判っていく構成が良いのです。マークシートでの共通一次の導入前、コンピューター安価になりつつ多くの研究に使えるようになること、あるいは女性が子育てして大学院に入り直すことが今よりずっと困難だった時代。終盤では企業の依頼で暗号化技術の萌芽が見えて、それに皆が夢中になるシーンは史実とは違うとは思うけれど、夢があるのです。

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2023.12.23

【芝居】「仮面劇・預言者」フライングシアター自由劇場

2023.12.9 17:00 [CoRich]

新たに「フライングシアター自由劇場」を立ち上げた串田和美の新作。スワヴォーミル・ムロージェクの『予言者』を原作に、というけれど、ワタシにはどこが繋がってるのかさっぱりわからない90分。12月12日まで高田馬場ラビネスト。当日券で滑り込みました。松本でも公演。

首相がバルコニーに現れ民衆たちに、預言者がいよいよ訪れることを伝え、民衆の期待は高まる。が、現れたのは瓜二つどころか行動や所作、予言までまったく同じ、二人の預言者だった。迎えた首相と三人の賢者は話し合うばかりで結論は出ない。どちらも同じことを言うのだから、どちらかを殺してしまえと、小使に殺させ、首が転がっている。コミカルな見た目に反して、殺人だったり、あるいはそこに端を発して預言者が殺され混乱する民衆たちなど不穏な空気は今の私たちとつながるよう。

コントめかしてコミカルな動きや言葉で道化のように振る舞う三賢者、どちらかというと従う立場だけれど、小悪党な感じがうまい小使、権力はあるけれどどこか小心者な首相、ときにコミカルではあるけれど、同じふるまい同じ言葉を持つ二人の預言者。様々な人々がめいめいにに滑稽で、なるほどキャバレーの風味を残す串田和美の味わい。

かつての綱渡りの少女が老婆を見世物に混乱を収拾しようとするも、民衆の上から風に煽られ落ちてしまう寓話的な。空中キャバレーとゆるやかにつながるようなのも印象的。

原作の「予言者」(図書館にあった)はたったの二ページ、街中に居る男を市民たちが蔑んだり笑いものにしたりすることの残酷さ、さらにエスカレートして何もかもなくしてしまう人々を描いた話だと思うのだけれど、串田和美のある種の河原乞食イズムみたいなものかとおもったり思わなかったり。

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【芝居】「小田原みなとものがたり~大漁めでたい編~」螺旋階段

2023.12.2 18:00 [CoRich]

小田原の港町で暮らす父娘を描く三部作( 1) の完結編。第二部を見逃しましたが、これは拝見できました。130分。12月3日まで。初めて伺った小田原・三の丸ホールは駅からもほど近く新しいホール。

小田原の港のそばに暮らす漁師の父は男手一つで娘を育ててきた。父は再婚し同棲を始めた。地元の土産屋を引き継いだ娘は、家を出て父が新しい母親と二人でくらせるようにしようと考え、誤解と親子喧嘩が騒動になる。
ある日、土産物屋を訪れた旅の男も騒動に巻き込まれるが、この土地が気に入って、繰り返し訪れる。

仲間のためなら何でもするが、自分が人を頼ったりしない男気溢れる男と、その娘の二人暮らしのものがたり。気のいい仲間たち、仕事がきつくてやめた新人、漁師の仕事に誇りを持つ中堅、漁師として使い物にならずマグロ漁船で鍛えられてるはずなのにいつの間にか舞い戻るおとこ、何かといろいろ首を突っ込み車椅子探偵を名乗りかき回す女、その介護のために漁師を止めて時間が自由になる仕事に就こうとする弟。 妊娠で浮かれる女だったり、地元民だけで回って居るスナックの店主と年増のホステスと、多彩な人々が行き交い、それぞれに暮らしを持っている小さなコミュニティの人間模様はどこまでも温かく、ほっこりと。誰もが気楽に楽しめる仕上がりです。 父親が再婚し、娘は繰り返し訪れる旅人との結婚を決めるけれど、頑固オヤジよろしく頭に血が上ったりしてでも迎えた結婚式当日、目が覚めたら当日夕方で、まさかの「父が出席しない結婚式」という大技で、この場所に結婚式を引っ張ってくるのは少々強引だけれど、巧い。

父親を演じた水野琢磨と娘を演じたモハメディ亜沙南はどちらも不器用で親子を演じきります。スナック店主を演じた露木幹也、漁業組合副会長を演じた新井人志、ホステスを演じた岡本みゆきといった個性溢れる役者たちが魅力的。 旅人を演じた中根道治の勘違いした空回り感を続ける胆力も凄い。作家・緑慎一郎のボケ倒しも楽しく。

「おさるのかごや」「小田原小唄」などを取り込んだ地元の祭りなのだそうで、それを役者たちがパワフルに舞い踊る圧巻。この場所でここの人々を描く事にこだわり続けた三部作の堂々完結編なのです。

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2023.12.19

【芝居】「モモンバのくくり罠」iaku

2023.11.25 18:00 [CoRich]

iakuの新作は、山中で猟をして一人で暮らす女とその家族たちのものがたり。110分。トラム、12月3日まで。

山中で猟をして一人暮らしをする女。娘も一緒に暮らしていたが一年程前から山での生活を嫌って町で別居している夫と暮らすようになったが、近所の猟師仲間の友人の息子が動物園勤務で屠体給餌を学ぶために訪れているある日、久しぶりに二人で訪れて話があるのだという。

自分が食べる分だけ仕留める一人暮らしを選び取った女。実際の所は自給自足ではなく夫が光熱費を払い支えて居て、娘はここで育ち猟を覚えたが母の暮らしを選ばずに山を下りている。散々と苦労した挙げ句にたどり着いた夫は、近所の居抜きのバーを若い女にやらせていて、そこに芽生えた恋心を告げようとしているという、若い女に入れあげた男の物語が動くのかと思えばさああらず、それはアッサリとフラれてしまいます。

娘は山で暮らしていたが、その母親が示していた生き方しかないことを嫌う、それは世間の「普通」がわからないからだというのは宗教二世の物語のようでもあります。 山の新鮮な食べ物で育ったがために町の食事が口に合わないという郷愁を原動力に、この場所を再び認め、父親が若い女に任せていた店を居抜きでジビエ料理の店でも開くのだろう、という「町で暮らしながら山とも繋がり、娘を介して家族が繋がる」という着地点は少々トリッキーで無茶に過ぎる気はするけれど、コミカルを交えた軽妙な会話がよどみなく続く終盤の役者たちの力量と相まってねじ伏せるように「観せられて」しまうのはiakuという座組の強みだと感じるワタシです。

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2023.12.16

【芝居】「1/0」げんこつ団

2023.11.19 15:00 [CoRich]

ほぼ年一回の公演になりつつある、げんこつ団の新作。ゼロで除算というエラーをタイトルに、一つの部屋を多次元的にシェアするという「発明」で押し切るある種、ちからわざの120分の凄み。11月19日まで楽園。

六ヶ所村から上京してきた女が紹介されたのは、多くの人が同じ場所に重なり合うように暮らしている「シェアハウス」だった。関東以北は祖母が一人で原子力から再生エネルギーまですべてを担っていて、それが嫌で上京してきた。
シェアハウスの大家である母親は誕生日を前に三日帰ってこなくて、子供たちは毎日サプライズを仕掛けては空振りしている。長女は一人で大家業で後を継がされそうな不安を抱え、次女は如才なく大手の不動産業界に居て、夫は上京してきた女にこの物件を紹介して真面目だが妻がより稼いでいる。

映像を交えつつ、全てが女優というフォーマットはいつものとおり。コント風味だったかつての姿よりはもっと作り込んだ複雑な一つの物語になっています。AIが席巻してメタバースが忘れられつつある今、むしろそのメタ感を自覚的にやっているのかなと思ったりしつつ。

東北が首都圏のエネルギーを担っていて、(物語には全く出てこないけれど)事故があっても時間が経ちそれを忘れていること、都市は都市でスペースが足りないことを狭小を超えて人々が重なり合うように暮らすという局所最適で生活していることという二つの世界の対比、あるいは(お茶くみとかの)「女の資格」を取って上京してきた女の意気込みに影響されて景気が良くなったタイミングで独り者の長女が「女の資格」を取ろうとしたりと、恐らくは女性であろう作家が見てきたこれまでの理不尽とこれからの変わりそうもなさそうな絶望感がない交ぜに感じるのです。

終盤、北側を一人で担っていた祖母がいよいよ持たず、上京した孫娘を呼び戻そうというのもまた絶望ではあるのです。作家が山盛りに想いを乗せながらも基本的にはコントでコミカルを作り上げる気迫。いつからか入るようになった、キレキレのダンスだったり、全員がスピーディに着替え黒で決めたカーテンコールのスタイリッシュは唯一無二の彼女たちのフォーマットなのです。

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2023.12.04

【芝居】「獄窓の雪」オフィスリコ

2023.11.12 18:00 [CoRich]

昭和の事件をモチーフに描く高橋いさをのシリーズ。帝銀事件を題材に。120分。

銀行に現れた男が行員らを騙して毒殺し現金と小切手を奪った事件。テンペラ画家が犯人とされたが、行員の生き残りの一人の女が似てはいるが犯人と同一人物であるとは思われないと一貫して証言を続ける。女を取材した新聞記者は足繁く通う。

帝銀事件を題材にした芝居と云えばパラドックス定数の「731」が緻密で印象深い一本なワタシです。今作は犯人とされた男、自白を翻すこと、それを支える証言を続ける女、という父娘ほど年の違う二人を主軸に物語を進めます。劇中でも語られているとおり、刑事訴訟法が新しい考え方に基づいたものに移行される狭間で、自白が重要視され、疑わしきは罰しない、という原則ではないという流れゆえに、一度は自白したこと、疑わしい状況証拠はいっぱいあるがゆえに司法の判断が覆らないのは、確かにその時代なのかもしれません。

今作はなにより、犯人とされた男を演じた中田顕史郎が、少しばかりの怪しさと飄々とした雰囲気と苦悩を持ち合わせた複雑な人物を造形するのを楽しむ芝居と感じるワタシです。証言する女を演じた堂ノ下沙羅の真っ直ぐさ、その母を演じたかんのひとみの包み込み支える母たる存在。ワタシ的には脇を固めた正義派の弁護士を演じた酒巻誉洋の格好良さ、証言を変える支店長代理を演じた三原一太の軽く見えながらなかなか細やかな造形など頼もしい。

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