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2023.11.03

【芝居】「挙式-山下順平 編」studio salt

2023.10.09 13:00 [CoRich]

スタジオソルト20周年、式三部作と題したシリーズ企画の一本目。100分。10月9日まで、ラゾーナ川崎プラザソル。

うだつが上がらない中年の男。ドールが好きで、余命宣告を受けたのをきっかけに、仲間の協力を得てドールとの挙式を挙げようとしている。披露宴の司会をする妹とも10年ぶり、母親とは何十年も会っていない。母親は式場に現れるが、ドールとの結婚と聞いて会場を出てしまう。

ラゾーナ川崎プラザソルの客席を披露宴のように丸テーブルを配置。観客は披露宴にやってきた招待客という感じ。ペットボトルの水こそあるけど、「料理に見立てた」写真を置いて、飾り付けも手作り感満載に。公演前から並行して、主人公の男のブログという体裁の日記を準備。公演後には公演の写真を交えて何が起こったかを簡潔に記録が残るのも嬉しい。

一人で生きてきてあまりいいことなかった人生に降って湧いた肺がんの余命宣告。生きたいように生きよう、そのためにドールとの生活も宣言して結婚式もしようという想いだけれど、久しぶりにあう妹は同性パートナーと暮らしているし、もっと会っていなかった母親は驚きすぎて拒絶されてしまう。「気持ち悪い」というたった一言の言葉がこの物語、現在の文脈ではかなり強い拒絶だけれど、同時に「育て方を間違ったかしら」という自責も併せ持っていたりとして、母親の生きてきた時代の感覚としては悪意とは違う包み隠さない本心というのもまたほんとうなのです。

この断絶を序盤に描き、母親をいったん物語上は退場させつつ、仲間たちと披露宴の時間は、物語を運ぶ上では、人物のキャラクタを描く以上の意味は持たないけれど、物語全体としてはこの「時間」が大切で、母親が考えていた時間、戻ってきてからの母親の想いの吐露や、家族が取り戻されていくきっかけが見えるさまは結婚式と並んで大切な時間を紡ぎ出すのです。

ここに集う人々と対比するようなビデオレター。それは元の劇団の仲間が幸せに妻も子供もいて、いわゆる「家族」として暮らしている姿であったり、病院のベッドから送られた死の淵かもしれない人からだったり。いくつもの分岐の先には自分が居たかもしれないありようを並べて見せるのはある意味残酷だけれど、結婚式とか人があつまるとそれがリアルに感じられたりするのはワタシがそういう歳だってことなのだけれど。

母親の不在の間に友人たちの余興としてのダンスをいちど行うけれど、母親が戻ってきてもういちど余興のダンス。妹もそのパートナーも、母親さえもきっちり踊り切るこのシーンは決してリアルではないのだけれど、それはこの人々が思い描く、幸福になる未来の姿という気がするワタシです。

母親が思いを吐露するシーン、とても長い一人喋りは母親がもと教師という属性に説得力。演じた服部妙子が支える確かな役者のちから、踊るしすごい。新郎を演じた浅生礼史、多くはないけれど友人たちがちゃんとあつまる人という説得力。ピアノを弾く友人を演じた堂本修一、生演奏のリアル。映像出演ではあるけれど、元の劇団の仲間(ソルトとしても元の劇団員)として登場する高野雄二が私には懐かしく、しかも家族もきっちり、うれしい。ぐるりとひとめぐりした時間を感じるのです。

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