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2023.11.25

【芝居】「静流、白むまで行け」かるがも団地

2023.11.11 17:00 [CoRich]

旗揚げ5周年の劇団。110分。11月11日までスタジオHIKARI。なぜか土曜日千穐楽(日曜日までやってほしい...)

青森に生まれ子供の多い場所で元気に育った女、子供の相手が巧く18歳で上京して幼稚園教諭になったがある出来事をきっかけに転職し、都内を離れ小田原のかまぼこ会社に勤めているが、あんまりデスクワークは得意じゃない。出入りの清掃会社の男も、かつてはアニメや教育番組を作っていたが、書けなくなり逃げてしまい今の仕事をしているがYouTuberのスタッフだったりしてものづくりを諦めていない。

一度は夢破れて別の仕事に就いているけれど、次の一歩を踏み出すまでの物語。若い劇団なので「大人たちの物語」というけれど、ワタシからみれば、実に眩しく見える人々。失敗して思いあぐねたりもするけれど、同じような境遇の人と出会い、話し、考えて先を目指せることこそが若いと云うことだなぁと感じるオジサンのワタシです。

かまぼこ会社の人々、清掃会社の人々、その間をリンクするようにYouTuberや家族、外側に話しを聞いてくれる母親だったり親友だったり。まあまあ人数の居る座組だけれど、くるくると役を変え、子供から大人まで変幻自在になのは彼らの持ち味。意外なほど混乱はしないのも実はちょっと凄いのではないかとおもったりします。

多摩地区を舞台にすることが多い印象の彼らが選んだ小田原という場所。地元から小田急で行ける、流れての最果ての地、というにはあまりに近くこじんまりしているのも、良くも悪くも世代な感じではあって、地に足がついた物語だと思います。この自分たちが立っている場所を中心に描く感じは、ポップで、しかしこれが彼らの年齢と共にどう変わっていくかはとても興味があるワタシで、見続けちゃうんだろうなぁ。

みんながコミュニケーションが上手なわけではなくて不器用な同僚がいたり、あるいはコミュニケーション空回りの同僚がいたりもさまざまだし、BBQは唐突に過ぎる気はしますが、海辺で気楽にBBQできる(小田原市)というのは好きなワタシはちょっと羨ましい。

教諭を辞めた女を演じた土本燈子はここ何作 (1, 2, 3, 4) かを拝見して外れ無し。思ってても口に出せない感じとかもちょっといい。 子供番組を作っていた男をを演じた後関貴大のちょっと影を背負うよう。 バイトをハシゴし、気楽に稼ぐ女を演じた梶川七海の軽快な雰囲気が楽しい。 この劇団の看板といっていいほど印象的なのに「ほか」役しかクレジットされない宮野風紗音、しかし一度観たら忘れない強烈な印象。スーパー店員がいいなぁ。

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【芝居】「〜マジカル♡びっくり♧どっきり♢ミステリー♤ツアー〜」麦の会

2023.11.11 14:00 [CoRich]

横浜の社会人たちの市民劇団。各地への旅行に、ツアーガイドと共にという体裁の短編集。休憩を挟んで120分ほど。11月12日まで、のげシャーレ。

旅館に泊まり散歩に出かけツチノコを探している男が道に迷う。現れたのは自分探しをする旅人を狩る女たちだった「自分探しの旅人」(作・榎本かおり)
家を出た息子はずいぶん長い間戻ってこない。」旅先からは絵が送られている。突然戻った男は息子を名乗るが「家族写真」(作・池浦典子)
男の前に現れたもう一人の男は自分がおまえの分身なのだと名乗る「卒業」(作・江島裕一郎)
団子屋の前で子供に虐められていた猫を買い取る店主が皿で餌を与えていると、行商人が通りかかり、器が値打ちものだと見抜く「猫の皿」(小金井敏邦/落語)
温泉旅館、娘の結婚式の前夜。父親は結婚に納得していない。母親は突然ある話を始める「結婚前夜〜長女すず編」(作・山口雄大)
コンビニで働く母親、息子が授業参観で将来の夢を書いた作文を読み上げる。母親がかつてやっていた魔法少女になりたいのだという「夢」(草地樹里)

老若男女で目一杯、知り合い同士も多い客席。まさに芝居小屋の雰囲気。「自分〜」は木訥な男が自分探しの旅に出ていると思わせて、実は裕福だし親のレールに乗って医者になることに疑問を感じていないし、何だったらモテてたりもして。自分探しは自分と取り巻く環境に疑問を感じるところから始まるのに、そのスタート地点の疑問を持たないまま幸せに暮らせそうなのは、いいんだか悪いんだかではあるけれど。いえ、コメディなのでそういう奥深さを狙ったモノではないんだろうけれど。

「家族写真」は息子を名乗る男、母親は息子の顔の記憶も朧だったりして。じつは同居する娘が依頼して兄になりすまして呼んだ男。母親は待っているけれど、父と娘は山に行った息子が山で遭難して亡くなってることをDNA鑑定で知っていて、けじめをつけるためにこの男を呼んだのだ。とはいえ母親は気付いていても。なんとなくもう戻ってこないことは全員が判っているけれど、兄の描いた絵をたよりに生きていこうという前向きを感じさせたり。

「卒業」いい歳になった男の自分の分身、はさっき捨ててきた童貞だったという出落ち感満載の始まりだけれどなかなかどうして、そんなに好きじゃない女の子を相手に、自分が焦るがあまりこうなってしまったけれど、相手への思いやりが足りなすぎないか、と思い至るまでがワンセットで、大人になる、ということだという実はちょっとばかりほっこりな着地点。
同名の落語をほぼそのまま舞台にした「猫の皿」。こうやってみると、大衆演劇風味だし、客席の子供も喜んでたりするし、懐が深いなぁと思ったりして、これはいろいろバリエーションができそう。

「結婚前夜」は前回の公演でも似たようなシチュエーションのワンシーンがあって、娘を育て上げた夫婦の時にはコントのような、時にはしんみりとした会話から。母親が始める話はまあ有名な「のび太の結婚前夜」(TV朝日, 1)。娘が居なくなって少し寂しくなっても思い出で温かく居きられるという両親の気持ち。実はこの夫婦だって結婚反対されたのだったという終幕、娘と同じような服になった母親、時間のながれをギュッと圧縮するような見事さ。

「夢」も出落ち感ある「魔法少女」で、もう引退して母親となりコンビニでバイトしている日々に、息子の夢を聞いてちょっと思い出し、人類の危機となれば今からでも(オバさんになっても)魔法少女になれる、という活躍が頼もしいしカッコイイ。バディが居たりするのもプリキュア風味。正直に云えば、キッカケとなった息子の話何処行ったと思わないでは無いけれど、大きな問題ではありません。

精度の高い胃の痛くなるような芝居とは対極に位置するようなラインナップ。客席の年齢層も幅広く、多くの人の日常の中に芝居があった昔に想いを馳せたりして、これはこれでいいものなのです。

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2023.11.19

【芝居】「未開の議場 2023」萩島商店街青年部

2023.11.5 17:00 [CoRich]

カムヰヤッセンの2014年に初演(ワタシは未見)作、ワタシは2016年の北区民版、2020年のオンライン版は観たみたいなんだけど、多分呑みながら観てて曖昧。120分。千穐楽を観ました。

町内の会議の話しとずっと煮込まれている外国の鍋ばかりが印象に残っていて、例によって物語の細部を忘れがちなワタシです。外国人と地元の日本人との話しだとか、あるいはここに居場所を見つけたNPOの男の空回りは何となく思い出したり。

行政書士も工場の総務職員も不動産もあるいは実習生を受け入れているブローカー的な仕事をする男、外国人が多く住んでいることで経済が回って居るという現実。いっぽうで微妙な差別意識があったり、スーパーやコンビニは被害に遭っていて積極的にはなれない、暴行事件の被害者が身近にいたりという人々がそれでも折り合ったりしていこうとしている中、物静かに居た女が「自分以外の全員が心から仲良くする」という不可能を突きつけたりとダイナミックに会話が「空回り」する絶望感。

終幕、差別意識は残したまま先送りして解散してしまうのは、なんかワタシたちの地続きに感じるけれど、これはこれで折り合っていく過程の話しなんだと思ったりします。北区民版ではおそらく登場していなかったケーブルテレビのスタッフ、トメニア語を流ちょうに操り何か本編のハイライトを喋ってる気もするけれどその談笑はワタシを不穏な気持ちにして、現実に向き合う人々の気持ちを感じさせる巧さ。

役者たちがみな主宰となり、舞台制作のプロセスを動画配信やSNSなどで公開し、「分断」を見つめ直すためのアクセシビリティを徹底し、クラウドファンディングで制作する試みは面白い。劇団ではなくワンショットの座組だから出来る方法という気もするけれど。タブレットを利用した字幕、音声だけで場所役名、置いてある物などをきちんと説明するなどのアクセシビリティは手間がかかるけれど、とても重要なのです。

喫茶店オーナーを演じ開場中に鍋料理を煮ている女を演じたハマカワフミエの料理の手際の良さと終盤の強烈なある種の潔癖さが印象的。ゲームセンターの店長を演じた宮原奨伍の兄貴っぷり、スナックのママを演じた小林春世の「らしさ」、スーパー店長を演じた安藤理樹の人の良さとスーパーに変わった拘泥ぶり、石井舞の生真面目さ、行政書士を演じた木村聡太が担う序盤のヒール感。 ケーブルテレビスタッフを演じたコロブチカの全般に有能な仕切りっぷり、それゆえ終幕、トメニア語で会話をするシーンの不穏さが増す感じ。会話の相手となる会議室管理の職員を演じた渡邉とかげの出番が少ないのはちょっと残念だけれども。

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【芝居】「夜明け前」オフィスリコ

2023.11.3 19:30 [CoRich]

昭和の事件をを高橋いさをの作で連続上演する企画。2019年初演ですが、ワタシは初見です。11月15日まですみだパークシアター倉。100分ほど。

四歳児の誘拐事件は公開捜査に切り替えられ、脅迫電話の音声が公開されラジオやテレビで耳にした男が自分の兄が犯人ではないかと疑い始める。借金に苦しんでいたはずの兄の金回りが急によくなったことは兄弟たちも、あるいは兄と暮らしている水商売の女も知っているが、犯人となれば自分たちの生活も、あるいは田舎の親もどうなってしまうかが怖くなって、身内以外には言えずに居る。

吉展ちゃん誘拐殺人事件をモチーフに、犯人の側の家族、人々を描きます。金回りが急に良くなった身内が犯人かと疑い、果たしてそれはほぼ確実だけれど、犯人の家族と知れたらどんな目に遭うかわからないゆえにそれを告発できずにいる家族たち。そのあと二年経ってアリバイを崩す刑事の手によって犯人が逮捕されるのですが。

正直に云えば、戯曲の参考文献に挙げられている刑事・平塚八兵衛の著作とwikipediaを引いて史実っぽく描く必要がよく分からないワタシです。主題となる家族の物語を描くなら架空の事件を描けばいいものを、そのとき確実に生きていた人々が告発しなかったことをわざわざ史実みたいにつるし上げてしまう結果に感じてしまうワタシは、作家のある種自覚の無さに怖さを感じるのです。もちろん開演前のアナウンスで史実を元にしたフィクション、とは云っているけれども。

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2023.11.12

【芝居】「好男子の行方」オフィスリコ

2023.11.3 19:30 [CoRich]

ショーマの高橋いさをが昭和の事件のアナザーストーリーとして近年戯曲発表したり上演したりという演目四本を連続上演する企画。三億円事件で金を奪われた銀行員たちの悲喜こもごものコメディ。2018年初演ですが、ワタシは初見です。100分ほど。11月14日まで、すみだパークシアター倉。

事件の数日後、事情聴取の合間に支店長室に集められた行員たち。現金を輸送していて奪われた四人、支店長と次長、書記として新人。大雨の中の事件、四人はいずれも顔をきちんとは見ていなかったが、警察はモンタージュで手配写真を作るという。銀行の体面もあって、そのことは伏せて、口裏を合わせることにする。色白の好男子という印象にたまたまハマった新人にヘルメットをかぶせて。

三億円事件という大枠を用いながら、記憶のない行員たちというwikipediaにあるような小さな事実ワンアイディアを悲喜こもごものコメディとして。 事件をコメディの体裁として描くものが無いわけではないけれど、なかなか近年では見かけないテイスト。事件そのものはきっかけでしかなくて、行員たちのどたばたと、時効となった七年後の再会という流れを描きます。

良くも悪くも軽薄な語り口は高橋いさをっぽい。三億円事件はわりとシリアスな話しとして捉えるワタシは喜劇としての描き方には違和感をもちつつ、それほど遠くになりにけりという気もします。戯曲の参考文献もわりと刑事・平塚八兵衛の著作だったりして。勝手にパラ定のアレっぽいものを期待してしまった、ということだったりもするのですが。

困り続ける支店長を演じた若杉宏二の真剣の中に出てしまうおかしみ、巻き込まれる新人を演じた銀(しろがね)ゲンタは色白の好男子を体現。同乗者を演じた杉木隆幸のコメディはホントに嬉しいワタシです。初日となったワタシの観た回は取っ組み合いの最中に椅子の脚が折れてたけど、アレはアクシデントなのかしら、何事も無くなにより。

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【芝居】「UNDER」(B) Q+

2023.11.3 15:00 [CoRich]

キャスト違いで3バージョン、70分ほどの芝居を毎日時間帯をずらしながら公演。11月5日まで小劇場楽園。ワタシが拝見したのはBキャスト。

大晦日、工事中のホームセンターの天井が崩落する。母親、三人の娘と息子、長女の夫という家族らしく見えたが、実は偶然居合わせた人々だった。わずかな食料、聞こえる気がする紅白など年末の音。

たとえば長女に見えた女は夫との待ち合わせで夫の心配をしていて、息子に見えた男と夫に見えた男は同性パートナーだったりと偶然居合わせた人々。それぞれが背負っているもの、それぞれの心情、それぞれに隠していることなどを少しずつ提示しながら物語が進みます。崩落によってコンクリートで閉じ込められた場所、外からの重機の音がしたりしつつ、終幕サイレン、吠える犬といった助けがやってくるように見えます。母親に呼びかける声も聞こえるし、母親以外には聞こえてる風はないけれど、母親はそれを確かに聞いていて、それなのにあえて無視するかのように、声を出さず、この場の「家族」が居るコタツに戻るさま。じつは母親以外は亡くなっていて、母親は一人生き残っていて、死者たちを見守るようと不穏を感じるワタシ、勝手な深読みが過ぎるかしらとおもったりも。

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2023.11.11

【芝居】「写真」普通

2023.10.22 17:30 [CoRich]

茨城弁による家族の物語を続ける「普通」の新作。60分ほど。10月22日までカフェムリウイ。

夫婦の家に訪ねてくる妻の弟は車関係の仕事をしていて単身のアパート住まい。金を出し合い両親を老人ホームに入れて弟は面会に行ったようだ。帰ろうとする弟を引き留めながら、子供の居ない大人だけの静かな家で話を続けている。

日常に少しアクセントになるのが訪ねてくる妻の弟、それゆえにお土産を持たせようとか、あるいは弟に恋人や友だちはいるのかということであったり、家の前に街灯ができたとか、庭木を減らしたとか、町内会がどうとか、近所に新しい人々が引っ越してきたとか、些細なことを話して、時間を潰していくのです。

1979年生まれという作家、まだまだ子供の居ない両親の介護には時間がありそうな気はするけれど、親も自分も老いていって子供が居ない生活の風景が目の前に繰り広げられて、この小さな空間で見ているワタシの身に迫るのです。とりわけ、子供がいないということは自分たちの老後を自分たちで観ていかなければならないという切実さ。なんかほんとうに。

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2023.11.04

【芝居】「マイン」チタキヨ

2023.10.21 19:30 [CoRich]

結成10年を超え、4年振りの公演。80分。10月22日までイズモギャラリー。

イラストレーターの仕事が忙しく、ママ友にアシスタントを頼んでいる女。仕事は更に増え、だいぶ稼げるようになってきて税金対策を考えるようになり、同じママ友だった税理士とひさしぶりに会うことにする。

稼いでいるイラストレーターはいろいろ身の回りとか食事とか帳簿が回らない。それをサポートするアシスタントは夫がコロナ禍で心折れて失業していて男が稼ぎ手だという呪縛から逃れられずに扶養の範囲に束縛されていて。税理士の女は離婚をきっかけに一念発起して取得して、という背景と、三人は同じ距離感ではなく、アシスタントの女が仲介するかたちで繋がっていて実はあまりウマがあわないと思っていたりもして、という関係性を提示していく物語の運びが見事なのです。

個人事業主の白色青色申告とか、法人化の流れ、ママ友三人のプロジェクトに。ウマが合わなくてもどこか尊敬していたり、いいなと思っていたりする関係が見えてくるのです。アシスタントの夫は心折れて投資詐欺に遭い妻は混乱していて、ここからお金に困る未来を心配してもっと給料が欲しいという。これまでの苦労に対して、というよりもこのアシスタントが書き続けていたBL小説にどんだけ救われたかに対しての対価を払うということ。作り上げる作品への適切な対価を支払うことの重要さをきちんと。

イラストレータを演じた田中周子はクリエータとしての確かな力と拘りの説得力。 アシスタントを演じた中村貴子は悩みを内包しつつ、後半の収入への不安を訴える場面のパワフルさ。 税理士を演じた高橋恭子はきちんとした知識を持っている人物をしっかりと。

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2023.11.03

【芝居】「挙式-山下順平 編」studio salt

2023.10.09 13:00 [CoRich]

スタジオソルト20周年、式三部作と題したシリーズ企画の一本目。100分。10月9日まで、ラゾーナ川崎プラザソル。

うだつが上がらない中年の男。ドールが好きで、余命宣告を受けたのをきっかけに、仲間の協力を得てドールとの挙式を挙げようとしている。披露宴の司会をする妹とも10年ぶり、母親とは何十年も会っていない。母親は式場に現れるが、ドールとの結婚と聞いて会場を出てしまう。

ラゾーナ川崎プラザソルの客席を披露宴のように丸テーブルを配置。観客は披露宴にやってきた招待客という感じ。ペットボトルの水こそあるけど、「料理に見立てた」写真を置いて、飾り付けも手作り感満載に。公演前から並行して、主人公の男のブログという体裁の日記を準備。公演後には公演の写真を交えて何が起こったかを簡潔に記録が残るのも嬉しい。

一人で生きてきてあまりいいことなかった人生に降って湧いた肺がんの余命宣告。生きたいように生きよう、そのためにドールとの生活も宣言して結婚式もしようという想いだけれど、久しぶりにあう妹は同性パートナーと暮らしているし、もっと会っていなかった母親は驚きすぎて拒絶されてしまう。「気持ち悪い」というたった一言の言葉がこの物語、現在の文脈ではかなり強い拒絶だけれど、同時に「育て方を間違ったかしら」という自責も併せ持っていたりとして、母親の生きてきた時代の感覚としては悪意とは違う包み隠さない本心というのもまたほんとうなのです。

この断絶を序盤に描き、母親をいったん物語上は退場させつつ、仲間たちと披露宴の時間は、物語を運ぶ上では、人物のキャラクタを描く以上の意味は持たないけれど、物語全体としてはこの「時間」が大切で、母親が考えていた時間、戻ってきてからの母親の想いの吐露や、家族が取り戻されていくきっかけが見えるさまは結婚式と並んで大切な時間を紡ぎ出すのです。

ここに集う人々と対比するようなビデオレター。それは元の劇団の仲間が幸せに妻も子供もいて、いわゆる「家族」として暮らしている姿であったり、病院のベッドから送られた死の淵かもしれない人からだったり。いくつもの分岐の先には自分が居たかもしれないありようを並べて見せるのはある意味残酷だけれど、結婚式とか人があつまるとそれがリアルに感じられたりするのはワタシがそういう歳だってことなのだけれど。

母親の不在の間に友人たちの余興としてのダンスをいちど行うけれど、母親が戻ってきてもういちど余興のダンス。妹もそのパートナーも、母親さえもきっちり踊り切るこのシーンは決してリアルではないのだけれど、それはこの人々が思い描く、幸福になる未来の姿という気がするワタシです。

母親が思いを吐露するシーン、とても長い一人喋りは母親がもと教師という属性に説得力。演じた服部妙子が支える確かな役者のちから、踊るしすごい。新郎を演じた浅生礼史、多くはないけれど友人たちがちゃんとあつまる人という説得力。ピアノを弾く友人を演じた堂本修一、生演奏のリアル。映像出演ではあるけれど、元の劇団の仲間(ソルトとしても元の劇団員)として登場する高野雄二が私には懐かしく、しかも家族もきっちり、うれしい。ぐるりとひとめぐりした時間を感じるのです。

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