【芝居】「ヒトラーを画家にする話」タカハ劇団
2023.10.1 15:30 [CoRich]
ヒトラーについて高校生たちが名前ぐらいしかしらない、と聞いた作家の劇団新作、2022年7月の公演延期を経て。休憩10分を含み170分。10月1日まで東京芸術劇場シアターイースト。
美大のアトリエ。卒業制作のテーマを決められない男とともだち。教授はふとしたことでタイムマシーンを発明してしまい、学生3人が送られたのは1908年のベルリンだった。たまたま出会ったアドルフは画家になりたくて一浪した美大に再び挑戦しようとしている。あの悲劇が起こる前に、画家にしようと画策する学生たちだが、再び自分たちの時代に戻れるまでのタイムリミットが迫る。
タイムスリップをベースとするSFだけれど、時代を超えてスマホで通話やネットができたりという幾つもの嘘を重ねつつ、大人になろうとする若者たちの姿をヒトラーの青春時代に重ねて描きます。ヒトラーを描くのにコメディの体裁というのもチャレンジ。高校生たちへの入門編という目論見のために必要な要素、差別に基づく虐殺という歴史の流れ、それを時間を超えて止めるという物語の主軸をわかりやすくつくりあげ、果たして、客席に沢山の高校生とおぼしき若者たち。役者狙いかもしれないけれど。
その枠組みをベースにして、現在の学生たちがその時代に暮らして感じることを描きます。ヒトラーという怪物を作り上げていく時代の背景と雰囲気、人々を描くことで、たった一人が成し遂げたわけではない、時代は良くも悪くも人々が作り上げていくもので、それは客席に居る私たちもその一端を担うことを描く決意を感じるワタシです。それは、現在の私たちと地続きなのだ、ということを明示的には描かないけれど、ちゃんと伝わるといいなと思ったり。
歴史の問題とは別に、どの時代でも成長する子供と親の間のギャップ、あるいは才能の在り方と生かし方をどうするか。大人の入口に立った 親の考える子供の未来と子供が望む自分の未来のギャップ、才能のありかたと活かし方の問題などこの年代だからこその苦悩を重ね合わせたり、タイトルはイマドキのライトノベル風だったり、当日パンフでは、SNSの投稿に際しての配慮すべき点(鉤十字などのモチーフを使わないようになど)を無用な混乱に若者達を巻き込まないための配慮が行き渡り、考え抜かれたパッケージもすばらしい。
三人の若者を演じた名村辰、芳村宗治郎、渡邉蒼は生き方がそれぞれ変わっていくことが見え始めたこの年代故のナイーブさをきちんと。ヒトラーを演じた犬飼直紀と友人を演じた川野快晴、ポーランド系ユダヤ人を演じた山﨑光の三人の若者たちの決定的な生き方の差とのコントラスト。美大教授を演じた有馬自由はある種の大人の汚さを一身に背負うヒールをきちんと。母親を演じた柿丸美智恵の何にも動じない安心感。タイムマシンを発明してしまった教授を演じた異儀田夏葉、BTFのドク的なパンクさがコミカルなリズムを作ります。しかし、ラストシーン、修理したタイムマシーンを抱えて嬉々として彼女は何処へ行ったんだろうとおもったり。
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