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2023.09.30

【芝居】「眩く眩む」ムシラセ

2023.09.10 16:00 [CoRich]

ムシラセの新作は、アニメ制作の現場、創作し金を稼ぐ力と権力との物語。95分。9月10日までMOMO。作家のセルフライナーノーツも楽しい。

アニメ制作の会社。天才と呼ばれる男が作品を作り人気で、アニメーター志望は数多くやってくるが、愛想はないし後続を育てるという気も無い。一人でwebアニメを作り人気となった男が、チームでの作品を作りたいと就職してくるが、原画が採用されず焦ってトラブルを起こしたりする。制作側にはアニメには詳しくないが、たまたま名前が伝説のアニメキャラクタの名前なので採用された女もブラック企業から転職してくる。

天才と呼ばれる男の才能で作られるけれど、アニメーターや制作、営業などチームによって完成する作品。才能があると皆が認めていて、ずっとその屋台骨によって支えられてきたことで権力者となっていることに無自覚な男と、それを見て見ぬ振りしてきた会社のありかたが、新しく入ってきた二人によって、自覚するざるを得なくなっていく人々を描きます。webアニメでそこそこ売れた鼻っ柱の強い若者が原画を採用されず、天才は問題点を指摘するメモをつけるが、その言葉のあまりの強さにパワハラを感じ取った制作スタッフがメモを外してしまうことで、結果的に採用されない理由がわからないまま放置される若者の不安と不満がさまざまな問題を起こします。

社会的なそれを物語に組み込むことで私たちの地続きに感じられる、創作の仕事の現場をめぐるパワハラの物語ではあるのだけれど、角度を変えると天才のありかたの物語とも感じられるワタシです。パワハラといわれた天才は会社を去り、しかし会社はアニメーションの第三期の制作を続けており、webアニメの若者も戦力になっていて、世代交代が進んだように着地する物語。しかし、二人がテーブルを挟んで画を描くラストシーン、単に「天才が入れ替わり」もしかしたら権力構造の再生産あるいは相似形を暗示していると感じられて、若者が未来へ向かうハッピーエンドというよりは、才能がモノをいう世界がゆえに内包する不穏さを感じてしまうワタシです。

「天才」を演じた藤尾勘太郎の愛想のない職人気質と対比するようにときおり見えるほころびが可愛らしく、ある意味ヒールなのだけど切って捨てられない人たらしな造形が印象的。webアニメ出身の若者を演じた谷口継夏は、若さ故の鼻っ柱と繊細さを併せ持つ奥行き。転職してきた女を演じた瀬戸ゆりかは序盤ではこの業界の説明を引き出す役回り、中盤での毅然とパワハラに立ち向かう格好良さ、コミカルを散りばめながら要所を締めていく安定感が魅力。

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2023.09.18

【芝居】「地上の骨」アンパサンド

2023.09.09 18:30 [CoRich]

昨今、絶賛を聴くことが多くなった劇団、役者でありながら屈指のシアターゴアーの森下亮が2023年上半期版のイベントで大プッシュしていたのに押されて劇団初見。80分。9月10日まで三鷹市芸術文化センター・星のホール。

オフィスの終業近づく時間帯。電話を受けた女は小さな仕事を抱え込む。それを見ていた男は昼食を取れずにこの時間に自作の弁当を食べている。魚の佃煮を勧めてくるが女はそれを断りたくて小さな嘘をつく。同僚は勧められる魚の佃煮を食べる。
突然、勧めた男の喉から魚の骨が飛び出す。

100%の善意を断るために小さな嘘をついて膨れ上がること、その100%の善意が原因となって大惨事を起こすことを対比しながら、荒唐無稽な不条理をパワフルに押し切って描きます。

人が魚に「変身」していくさまを、服に隠してあった筒状の黒布で全身を包み、人を無かったことにする黒子的なお約束。そこに魚の頭や尻尾をつけたり、小さな魚がついていたりと消えていく様を舞台でパワフルに押し切ります。

正体の分からないスーパーの魚の佃煮をなれなれしく勧めてくる男、それを嫌だと感じるけれど、嫌だと伝えることができない、というこの小さなキッカケこそが本作のピークだと感じるワタシです。そのあとに何人もの同僚がそれぞれの小さなストレスを抱えながら佃煮を違和感なく受け入れ、それが招く大惨事は客席こそ大爆笑なのです。ワタシはといえば五反田団系の役者が多いこと、魚を勧める男を演じた黒田大輔の過剰を楽しむつくりになっていることもあって、五反田団あるいは新年工場見学会のバリエーションが続くように感じて、短編コント集の一編としてぎゅっと濃縮、30分弱ぐらいで見たいなと思ったり。

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2023.09.16

【芝居】「濫吹」やみ・あがりシアター

2023.09.09 14:00 [CoRich]

やみ・あがりシアターの新作。110分。9月10日までシアタートップス。

PTAの副会長になった女はPTAのスリム化を進めてきた。朝の通学時間の横断歩道の見守りもフォームでの報告など省力化を進めてきたが、いよいよPTAで行わずシルバー人材センターに外注しようとしていた矢先、親でも親族でもない女がサボっているPAT会員の代わりに勝手に入り旗を振っていることが判明する。

トップスの奈落が丸見えになるような空間を作り、役者たちをスタンバイ。その上にある舞台は浮いているよう(ステージナタリー)な設えは度肝を抜かれます。ワタシは読んだことのない韓非子で書かれているという「濫吹」をタイトルに。紛れていればわからなかった才能の差は、それぞれの才能を個別に吟味されるようになるとあからさまとなるというモチーフかなと思います。もう一つ、「秩序を乱す」と意味もあるようでそれも重なるよう。

PTAをめぐる昨今のとスリム化の流れ、あるいは商店街から人手を期待されてしまうといったコミュニティとの関係、子供たちを見守るということは必要だけれど、都会では誰もが顔見知りというわけにもいかず、不審者を排除するざるを得ないという事情を丁寧に自然に描きます。正直に云えば、登場人物が少々多い感じはあるのだけれど、何度も挟まれる竽(う)という笛を人の歌声で表現するという奥行きは、この人数とこの広さの劇場ゆえに表現できるとも思うのです。

二人登場する子供は役者や人形すら使わず、繋いだ手の位置や視線で人が現れる、演劇ゆえの見立ての楽しさ。

肉屋の兄弟を演じた笹井雄吾、南大空はパワフルでコミカル、二人居る面白さというか。コミカルといえば「そうめんのように白くて細い」と説明される女を演じたさんなぎも、要所を要所をコミカルに、とりわけ誘われて早く帰りたいからペットボトルを飲み干すあたりは面白い(けれどそこまで身体張らなくてもと思いつつ)。PTA以外で家を出して貰えないITに詳しいPTA役員を演じた佐野剛が、飲み友達として町議と出逢うのは、本筋には何の関係も無いけれど嬉しくなるワタシです。演じた加瀬澤拓未のおだやかさ、きっちり。「不審者」を演じた加藤睦望は紛れ、逃げ出す人の生きづらさを持つ人物をずっとフラットで演じる凄み。

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2023.09.15

【芝居】「蒲田行進曲」おのまさしあたあ

2023.09.03 14:00 [CoRich]

アクターズスクールの授業の体裁。 酷い話ではあって、物語というより熱量と熱狂を伝えるちからとしての一人芝居。 スケールの大きな物語を一人芝居でつづける、おのまさしあたあ (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7) の新作。9月3日まで、小劇場楽園。100分ほど。

アクターズスクールの講師の授業。映画における蒲田行進曲を教える。

1982年、深作欣二のヒット作、配信にあるのを観たら映画は107分。ほぼ同じ時間を費やしながら、しかし物語を絶妙に編集して印象の異なる物語に。スターの銀ちゃん、大部屋役者のヤス、銀ちゃんの子供を身籠もる小夏。というほぼ3人の物語なのは勿論変わらずなのだけど、実はあんまり映画をちゃんと見てなかったワタシです。

父親になる覚悟を決めたヤス、小夏は自分を向いてくれないけれど、地元・人吉に連れて行けば歓迎される。いっぽうで実直な息子を心配する母親は芸能人である小夏に対して息子を裏切らないように覚悟を問うなど、交錯する思い。毎日日払いで仕事を取る大部屋俳優であるヤスは稼母子と暮らすために危険な立ち回りなどの役をどんどん取って稼ごうとする物語を緻密なぞるかとおもえば、編集でつままれるシーンもあったり、いわゆる階段落ちのシーンは映像に比べてヤケに長かったりと。なるほど、作家、演出の意図に応じて編集する確かなちから。

演出に訊いたら、モチーフとなるジェームスディーンはヤスがなりたいと思っている憧れなのだと云います。ああ、なるほど。

次回作も検討中だといいます、もうね、ますます楽しみなワタシです。

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2023.09.10

【芝居】「SHINE SHOW!」東宝

2023.09.02 [CoRich]

去年秋、小劇場での上演作を、東宝の制作で。4日までシアタークリエ。休憩25分含み、170分。

いわゆる小劇場での枠組みから、何人かは引き継ぎつつメインキャスト陣をいわゆる商業演劇の領域の役者たちに。ワタシはほぼ未見だけれど、いい意味で統制の取れた宝塚ファン含め、女性の観客が圧倒的な客席。

今年4年振りの開催となった新宿三井ビルの名物企画・会社対抗のど自慢大会をモチーフに、さまざまな背景をもつ会社員の出演者たちに振り回されるバックステージのスタッフたちの奮闘を描くのは初演と同じ。登場人物全てを丁寧に描くあまり時間長め、というのもそのままなのはご愛敬だけれど、むしろ商業演劇のスタイルなら合ってる気もします。

記憶力のないワタシでも判る大きな変更は、ラップによる告発の流れで、初演では孫請け会社の社員が元請けの社長に労働環境を告発するというイマドキな感じだったけれど、今作では家庭を顧みなかった会社社長を息子が告発するという親子の物語に。どちらがいいかは判らないけれど、日本の現在を描こうとした初演に比べてより普遍的な物語にしているという気がします(とはいえ、この「現在」はそう簡単に変わらない普遍性があるのも悲しいけれど)。

元アイドルを演じた花乃まりあ、ぶりぶりのコメディエンヌにアイドル曲の圧倒的な盛り上がりの凄み。デスマーチ中のIT会社員を演じた木内健人、おそらくはもっとキリッとした人なのにコメディアンに徹しきるパワー。 管理会社スタッフを演じた朝夏まなとのキリリとした美しく有能なスーツ姿が格好良く、しかし元宝塚のトップに音痴設定を突き通す潔さは凄いけれど、勿体なすぎないか。プロポーズしたい男を演じた中川晃教の小物人物な造形と歌声のギャップ、告発を仕掛ける男を演じた増本尚とその父親を演じた石坂勇のラップバトルの迫力(客席がヒップホップのレスポンスになれてないのは相変わらず、勿体ないけれど)。 警備員を演じた淺越岳人、MCを演じた鹿島ゆきこ、広告代理店を演じた伊藤圭太、有能すぎるアルバイトスタッフを演じた前田友里子、ゲストを演じた山下雷舞、ライターを演じた三原一太(役は違うけれど)、小劇場から引き続き出演する役者たちのフックアップも楽しいし、きっちり渡り合って嬉しくて。

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2023.09.08

【芝居】「オイ!」小松台東

2023.8.12 19:00 [CoRich]

宮崎の人々を描く劇団、1997年の高校生たちの物語。115分、8月13日まで スズナリ。

高校生たち。いつも立ち寄っている家。同じ学校の生徒に絡まれ、泣きつきたくて訪れる。この家の父親は怪我をして仕事は多分クビになる。その息子が父を同級生の父親の会社(電気工事)で雇って貰いたいと云いたいが言い出せない。その電業店の息子は部活を頑張って引退して何をしたらいいかわからなくて、この家に通っていて、その彼女は卒業して東京の短大に行くといっている。
父親が定年で千葉から引っ越してきて喫茶店を開いた転校生は音楽が好きで、あんまり会話が弾まないし人と群れないけれど、レコードを一緒に買って聞いてみたい同級生女子がいたりする。
この家の妹は拾ってきた犬を飼いたいと主張して、飼う。ほんの少しの時間だけれど、父親、息子、娘が繋がった救世主だった。

物語としてはこの物語から何年か後、誰かの葬式に集まっている、という流れになっています。前半は群像劇で、それぞれの鬱屈したり何かの希望があったり、楽しいことがあったり、切実に家族を何とかしようとおもった人々を丁寧に描きます。なんか空気読めないけれど連んでいるのがいたり、あるいは転校してきて距離を詰められないのがいたりして。

葬式のシーンでは、これらの人々が結婚したり、子供が居たり、家業を継いで社長になっていたり、あのとき泣きつきたくてこの家に来た男はパートナーと暮らしていて、絡まれたところを見ていたのに見捨てた男はそれをキッカケにカメラマンになっていたり。同性愛者だったということを地元に居る人々は判っているのか判って触れないのかという感じで、殊更に騒ぐのは卒業してから東京に戻ったカメラマンだったりという温度感というこのシーン、時間を経てのもう一つの群像劇になっているのです。

この家の息子を演じた小椋毅の苦悩の解像度、父親を演じた今村裕次郎 のほぼ聞き取れない宮崎弁と何者か判らないラスボス感。妹を演じた小園茉奈の家族を取り戻したい切実さ。泣きつきたくて訪れた同級生を演じた尾方宣久のひた隠して言えなかった子どもの頃と、年月を経て言えるようになった現在のコントラスト。部活を辞めた電業店(デンギョー!初演) の息子を演じた松本哲也 の空気読めないけれどいい奴。その恋人を演じた吉田久美の東京を夢見る気持ち、だけれど戻って妻になった現在の対比。転校生を演じた瓜生和成の、ややいけ好かない東京(千葉)モンだけれど、好きなものを一人でも楽しめる文系っぽさ。その男にちょっとちょっかいを出しつつ、同じ事をしたくて音楽聴き始めたりする同級生を演じた竹原千恵の積極的な潑剌の可愛らしさ、結婚してからの地元のおばちゃん感のコントラストが楽しい。

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