【芝居】「眩く眩む」ムシラセ
2023.09.10 16:00 [CoRich]
ムシラセの新作は、アニメ制作の現場、創作し金を稼ぐ力と権力との物語。95分。9月10日までMOMO。作家のセルフライナーノーツも楽しい。
アニメ制作の会社。天才と呼ばれる男が作品を作り人気で、アニメーター志望は数多くやってくるが、愛想はないし後続を育てるという気も無い。一人でwebアニメを作り人気となった男が、チームでの作品を作りたいと就職してくるが、原画が採用されず焦ってトラブルを起こしたりする。制作側にはアニメには詳しくないが、たまたま名前が伝説のアニメキャラクタの名前なので採用された女もブラック企業から転職してくる。
天才と呼ばれる男の才能で作られるけれど、アニメーターや制作、営業などチームによって完成する作品。才能があると皆が認めていて、ずっとその屋台骨によって支えられてきたことで権力者となっていることに無自覚な男と、それを見て見ぬ振りしてきた会社のありかたが、新しく入ってきた二人によって、自覚するざるを得なくなっていく人々を描きます。webアニメでそこそこ売れた鼻っ柱の強い若者が原画を採用されず、天才は問題点を指摘するメモをつけるが、その言葉のあまりの強さにパワハラを感じ取った制作スタッフがメモを外してしまうことで、結果的に採用されない理由がわからないまま放置される若者の不安と不満がさまざまな問題を起こします。
社会的なそれを物語に組み込むことで私たちの地続きに感じられる、創作の仕事の現場をめぐるパワハラの物語ではあるのだけれど、角度を変えると天才のありかたの物語とも感じられるワタシです。パワハラといわれた天才は会社を去り、しかし会社はアニメーションの第三期の制作を続けており、webアニメの若者も戦力になっていて、世代交代が進んだように着地する物語。しかし、二人がテーブルを挟んで画を描くラストシーン、単に「天才が入れ替わり」もしかしたら権力構造の再生産あるいは相似形を暗示していると感じられて、若者が未来へ向かうハッピーエンドというよりは、才能がモノをいう世界がゆえに内包する不穏さを感じてしまうワタシです。
「天才」を演じた藤尾勘太郎の愛想のない職人気質と対比するようにときおり見えるほころびが可愛らしく、ある意味ヒールなのだけど切って捨てられない人たらしな造形が印象的。webアニメ出身の若者を演じた谷口継夏は、若さ故の鼻っ柱と繊細さを併せ持つ奥行き。転職してきた女を演じた瀬戸ゆりかは序盤ではこの業界の説明を引き出す役回り、中盤での毅然とパワハラに立ち向かう格好良さ、コミカルを散りばめながら要所を締めていく安定感が魅力。
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