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2023.08.14

【芝居】「Sign of the times」オフィスプロジェクトM

2023.07.30 18:00 [CoRich]

還暦間近の丸尾聡が三人の若い作家たちとともに三人芝居として構成する短編集。110分。Paperback Studioで7月31日まで。

前説的に話し始めた男、自分はかつてプロレスラーになりたかったとかなんとか
初老の大学教授の男、女の教え子。教え子は自分の恋心を隠すこともなく思わせぶりな態度だけれど、男は自分を律している。
しばらくしてから、その妹が大学教授のもとを訪れている。姉はあいたくないといって引き籠もっているという。妹はSNSにのった姉の言葉を拾い男を責めるが、男はホテルにはいったが男だけが裸になり女は下着を外すことはなかったといい、指一本触れていないのだという「背中を向ける」(作・吉田康一)
記憶喪失となった劇団主宰の男。妹が劇団の稽古場に男を連れてくる。劇団員の作家志望の女も立ち会っている。男はかつて劇団でパワハラを繰り返していて、その不満から俳優の男が殴りかかったのだという。主宰の男はそれが本当ならこころから謝罪したいというが、「記憶がない状態での謝罪」は心から謝ったことになるのかと指摘される。かといって、記憶が戻って元の性格を取り戻せばパワハラを謝罪することすらしないかもしれない。「もらえるまで」(作・大西弘記)
0と1の間の無限の可能性を表現しうる量子コンピュータ、その無限の可能性ゆえに一歩も踏み出せなくなってしまう量子AI。酒浸りの「物語探偵」は、たった一筋の物語の流れを選び取ることが仕事。量子探偵は10万年に一回のすりぬける瞬間を観察し選び取ることで壁抜けをすることを利用して、量子コンピュータのプログラムとなった物語探偵も10年続れば壁抜けできるはずで、それで物語を「選び取ろう」という。「量子探偵のフレーム密室」(作・小野寺邦彦)

「世相」を謳うタイトル、なるほどイマドキのセクハラ、パワハラ、AIといった言葉が思い浮かぶラインナップ。

「背中〜」はいい歳をした男と教え子の若い女。舞台での描かれ方をそのまま客観のカメラとして受け取れば、女から誘ったように見えるし、二人きりで男は裸になり女は下着を外さなかったとしてもなお、男は無罪放免とはならない感じ。もちろん、最初の「誘ったよう」は、男の側の視点に過ぎずに認知が歪んでる可能性はあるし、二人きりで指一本触れなかったといったって説得力はないわけで。何が真実だったのかを描くというより、男の側から感じた眩しさとちょっとした浮かれ具合にやけに共感してしまうワタシですが、観る人によってずいぶんと感じ方が違うだろうなと思うのです。

「もらえるまで」はパワハラ的な男が記憶を無くして穏やかに変わったがその状態での謝罪は意味があるのか、というある種のパラドクス。その状態でも劇作家なのだから戯曲として書き、許されなかったとしても謝罪を許されるまで続けること、というのは呪いともいえるけれど、一つの考え方ではあります。それはたとえば侵略や戦争といった責任をそれ以降の世代が背負い続けなければいけないのかというのともちょっと似ている感じもします。作家がそれを意図したかはわからないけれど。

うってかわって、ポップでSF風味の「量子探偵〜」。無限の可能性から一つの物語を選び取ることの奇跡を「10万年に一回のすり抜け」の瞬間の観測になぞる発想の面白さ。可能性が多すぎて一歩も進めなかった娘が一歩を踏み出すことを言祝ぐような気持ちになるワタシです。AIとか量子コンピュータといった最先端を、物語を創り出すこと、に落とし込む発想の面白さ。

ほぼ出突っ張りの丸尾聡のさまざま、しかも膨大なセリフな上に派手に動き回り。年齢を重ねたって現役で突っ走るのが頼もしい。江花実里、江花明里の姉妹共演、さまざまな表情も楽しく。

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