【芝居】「おわたり」タカハ劇団
2023.07.02 19:00 [CoRich]
年に一度、海で亡くなった人々を山に葬るため、住民は一晩家に籠もり、人形は一箇所に集めて隠している間、高台に屋敷を構える一族が霊を鎮める儀式をおこなっているという奇祭、「おわたり」。調査のために研究者と友人の作家の女、研究者の助手が訪れる。
作家は最近、死んだ友人の幻影を見るようになっており、この霊能力者に相談を持ちかけようと考えている。
わりと強い縛りを持つ奇祭だなぁと思えば、ネットで漏れ聞くところによると伊豆諸島に伝わる「海難法師」(wikipedia) をモチーフにしたよう。舞台を下田の海が見える高台の屋敷として、単にホラーというよりは、隠された「不都合な真実」があらわになっていく人々の営みを描く物語。
過去の地震の津波で、高台のこの屋敷だけが被災を免れた中で、見殺し人あった人々からの恨みを恐れたゆえの奇祭なのだということが徐々に語られます。ずっと昔の祖先が行った過ちを背負い続けていることは外から見れば狂気だけれど、本人たちにとってはしごく真面目に続けているある種の禊ぎなのです。それを明らかにすることができないまま続けて行くことの苦しさ。これとは別にもうひとつ、作家自身が明かせない秘密がもう一つの物語として並行して語られます。それは亡くなった婚約者の未発表の原稿に書き足して自分のものとして発表し賞を取ったという過去なのです。実際の所関係の無い二つの物語なのだけれど、一つの枠組みの中で起きることを並べて相互に作用させていくと、人々の欲望や願いがない交ぜになってホラー味が倍増しているのだ、ということが後から考えると見えてきたりもするのです。
序盤、信州・松本の駅チカの百貨店で毎年出会っていた男の子の話(の怪談)から始まり、すっかり「御神渡り(おみわたり)」がモチーフになっているかと思いこんで途中まで頭をひねっていたワタシです。思い込み怖い。
研究者を演じた西尾友樹の実直に人を思い、しかし巻き込まれる人間の細やかさ。 洗練された人当たりのいい男を演じた神農直隆の、笑顔の裏に隠れたどうしようもない女癖という欲望と、人を人とも思わないコンプラアウトぶりの造形がモンスターのようで目が離せません。老婆を演じたかんのひとみの迫力、町議を演じた土屋佑壱の少々がさつなガハハ笑いの人好きな感じと隠した使い込みの借金の落差。駐在を演じた猪俣三四郎の、分家ゆえの虐げられた立場を隠した想い。
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