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2023.07.29

【芝居】「この雨やむとき」海外戯曲をやってみる会

2023.07.02 15:00 [CoRich]

俳優・松本みゆきと、演出家・森田あやによる海外戯曲の読み合わせや上演を行うユニット。リーディングライブを重ねて初の上演。私は団体初見。7月9日まで雑遊。125分。

幼いうちに父が家を出て以来会ったことのない男が成長し、父から送られた絵はがきを頼りに足跡を辿るためオーストラリアを訪ねる。宿を営む女と行きずりの一夜を過ごすが、この街を抜け出したい女は男と旅に出るが、ずっと続く平原の一本道で事故を起こしてしまい男は亡くなり、女は通りがかった男に助けられる。死んだ男の子供を宿していた女は助けた男と暮らし始める。その息子が一人で暮らしている家、世界の終わりが近づく2039年のオーストラリア。降り続く雨の中20年前に別れた息子から電話があり、会いたいという。

オーストラリアを舞台に、父と息子とその母を巡る四世代の物語。降り続く雨、食事としてのスープを準備し人と囲む食卓、外出から戻って置く帽子といった道具立てで繋ぎ、帰宅する人、それを待つ人、あるいは探しに行く人を象徴的に描きます。雨、スープ、帽子をモチーフにしながら、これらの世代を行き来して描き始める序盤は本当にバラバラなピースなのだけれど、徐々に、最初の世代の夫がペドフィリアで息子の安全のために妻によって追いだされたこと、父が行っていたオーストラリアを旅して出逢った女と恋に落ち子供も出来るが、実は女の兄が旅をしていたペドフィリアの男に殺されたこと、事故で夫を亡くした女を見守る、助けた男といった波瀾万丈すぎる構造が見えてきます。この混乱の次の世代の父と息子の物語は冒頭と終盤だけなのだけれど、降り続いている雨が降やむ時にこの世界が終わり、四世代に渡って続いてきた呪いの終わりも迎えるというきれいなまとまり。

四世代の男たちを中心に継ぎ紡ぐ物語は丁寧だけれど、起点であるペドフィリアの男、その息子と恋人、ともう一人の男という最初の二世代がドラマチックに盛り上がりも多いのに比べると、正直に言えば後の二世代はそれまでの物語とのつながりが薄い感じで「世界の後片付け」という役割しか担わされていないのが少々肩透かしな感じというか、語られる話の偏りを感じる私ですが、物語の骨格の強さは間違いないのです。

行きずりで恋に落ちた男女を演じた三宅勝と松本みゆきのヒッピームーブメントの時代らしい多幸感、同じ女を演じた田中里衣と(恋人の死後)助けて一緒に暮らし見守る男を演じた山森信太郎のカップルの陰鬱のコントラスト。とりわけ山森信太郎のおどおどした、しかし愛情一杯に見守る男の人物造形の格好良さ。

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2023.07.24

【芝居】「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」チョコレートケーキ

2023.07.01 19:00 [CoRich]

骨太な歴史物を得意とするチョコレートケーキの新機軸(なのかな)。ウルトラマンのような特撮を作る人々を描く125分。7月16日までシアタートラム、そのあと愛知メニコンシアター(7/29-30)、まつもと市民芸術館(8/5)。

ドラマの脚本から外され、新たに子供向けの特撮作品の脚本を任された男。「ユーバーマン」の第2シリーズが終わり、平成に新シリーズが作られるまでの空白の期間にオマージュというかパクリで企画されたワンダーマン。赤字が続き予算の削減を云われている。男は工業地帯の河原を舞台にイジメをうける少年の物語を差別をベースに描く事を決める。

史実であるウルトラマン、たとえばNHKの「ふたりのウルトラマン」や、実在の特撮エピソード「怪獣使いと少年」(帰ってきたウルトラマン)、「ノンマルトの使者」(ウルトラセブン)といった、いわゆる子供向け番組なのに大人にも訴えかける弱者への視点をもった物語をつくった人々を描きます。ウルトラマンを作った彼ら自身が差別される側の当事者であったのとは異なり、今作ではそれまで気にしていなかった若い作家が、さまざまな差別の存在に気付いて「勉強して」描く形を取ります。そのなかで「橋の向こう側の友だちと遊んではいけない」であったり、大阪の下町で育ちごく身近なものであったことなど、さまざまな「証言」を折り込み、それをフィクションに昇華する人物を描くのです。

差別する側される側といった当事者を劇中劇に留め、芝居の中心としては描かず、距離感を持って描くことで、物語の持つインパクトは弱くなった感じはするのだけれど、放映を躊躇する「大人の論理」と戦う姿を描くことで、差別を温存し連鎖する現実、無自覚にそれに加担する側になっていることを折り込みつつ、差別からはどこか遠いところに居ると感じているワタシにも、考え続けるべきなのだと突きつけるのです。

手慣れた歴史の史実の隙間というよりは現実に着想したフィクションを、より現代に近い舞台でポップに描く、劇団としては珍しい一歩で、こなれていない感じがするといえばそうなのだけど、ワタシは(題材はともかく、描き方としては)ポップなこんな感じの彼らをもう少し観てみたい、という気はするのです。

なんせワタシ、ウルトラマンドンピシャの世代、その当時はもちろん大人の視点など知る由も無いけれど、こういうものを作り出す熱い人々の物語は素直に喜んじゃうのです。伝説のシリーズであったユーバーマンの系譜が一時的に途切れた時期に同じ作り手たちが、オマージュ(パクリ)として別の企画として作り出した、なんてあたりがちょっと熱いと感じるワタシです。

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2023.07.19

【芝居】「オノマリコフェス」趣向

2023.06.25 13:00 [CoRich]

劇作家オノマリコの一人ユニットだった「趣向」に大川翔子、前原麻希が加入し劇団化したことを記念し、これまで(=オノマリコ単独時代)を振り返ると銘打つ2DAYS。ワタシは2日目の後半だけをなんとか(通し券じゃなくても良かったw)。6月25日まで神奈川県立青少年センター・スタジオHIKARI。

逗子開成中学のボート部の生徒を載せたボートが転覆した三男の行き先で出逢った、「泡」(waqu:iraz)
月に人類が降りた足跡を信じられないのに、数学含めて天才的で天真爛漫な長女、見合いはうまくいかなかったり。 父親はチベット仏教にハマり鳥葬をしたいと考え家をでてそれきり。弟はきちんと暮らしている。「わたしのお父さん」(坂本玲)
戸籍の婚姻関係(戸籍婚)には至らないケア婚という制度が導入時されて戸惑ったり意見を聞いたりしたいと思う人々が集う場。違和感もあるし、実績と思ってる政治家もいる。「べつのほしにいくまえに」ワークインプログレスリーディング・トーク
「オノマリコ×後藤浩明LIVE&クロージング」ライブ

「泡」はかつての海難事故を元に、亡くなった四兄弟の三男が見たもの、という体裁の物語。彼は見ていたかも知れないし、生きているかも。人魚の肉を食べたことで、息はしていなくても生きていて、人魚になったのだという鎮魂とも人々の望みともなる物語になっています。てっきりこのステージはダンスだけなのだと思っていたので、開宴ギリギリに汗だくで飛び込んで、実は意表を突かれました。まあまあの人数をたった四人で、しかも一つの役を役者たちをスムーズに入れ替えながらというのは、演出の役者を信じる力の結実。

「わたしの〜」は、実はワタシ初見です。天真爛漫で生きづらく暮らしづらいけれどギフテッドな娘をとりまく家族の物語。一つのことに固執しがちで、折角の見合いも、たった一つの父母の共同作業で頑張ったのに我関せず、兄も心配していて、みたいな物語の暖かさ。鳥葬されたいと願って家を出た父親を出さない、というのもコンパクトで巧い。娘を演じた三澤さきはこういう、年齢を重ねても天真爛漫であり続ける役が実に巧くて、印象に残ります。

ワークインプログレスは、家族や恋愛、あるいは共棲への視線を感じるオノマリコ(おのま/りこ)の新作のほんの触り。どんな関係であろうとも生きて暮らしていくためのあらゆる単位を「ケア婚」と主張する著作(amazon)を根底に敷きながら、日本でそれをやると従来からの家族観である夫婦のありかた(男女で、一夫一妻で、など)を「ケア婚」とは別の「戸籍婚」と名付けて拘泥する勢力があることを匂わせるあたりまでが上演されました。作家が「ケア婚」をどう考えているかは知る由もないけれど、戸籍婚とは別立てにしようと考えるだろうな、という作家の危機感を勝手に感じ取るワタシです。

トークショーは芝居のブラッシュアップではなく、背景について研究者と語るもの。時間が少々短くて、ケア婚に対して研究者がほぼ諸手を上げて賛成な雰囲気の語り口と、そこへの懸念を描いた(とワタシが思う)作家の危機感をギャップに感じてしまうのは考えすぎかもですが。

ライブはこれまでのオノマリコ関連の作品で上演された芝居の曲をてんこ盛りで、しかもショー形式で。これを生バンドで成立させるという主催の心意気、これからも楽しみに。

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2023.07.17

【芝居】「ホテル・ミラクル The filnal(R)」feblabo × シアターミラクルP

2023.06.18 18:00 [CoRich]

シアターミラクルの最終公演。2バージョンのうち、REST(ご休憩)版。

男女、シャワールームで交わす焦らし合いのような前説「おし問答」。
親しい女二人。一人は議員の娘でお嬢様。失恋し職場の先輩の男とホテルへ行った話を聞かせている相手の女が自分に恋心を持っていたり、その男とセフレだったりということは知らない「シェヘラザード」
いい歳の独身男女、秘密にしている社内恋愛だが、セックスレスで結婚が見えない女の不満。冷静に話すために部下の男を読んで話を聞いてもらうといいだす男、金さえ払えば口は固いし、問題解決能力もあるという「よるをこめて」
レズビアン風俗だが不慣れな嬢は人間を愛したことがないとまで言う。客はそれを慰める「きゅうじっぷんさんまんえん」
酔い潰れた女と一夜を過ごした男。別の男と結婚を決めた女は男のことが好きだった。男は女の結婚を先に聞かされ知っていた「グリーブランド」
巨大生物襲来をきっかけに女を口説きホテルで過ごすことになった女。女にはその気はなかったが、50男の三股の三番目といわれたり、巨大生物が来たりしてなにかの気の迷いで。怪獣が迫りくる中、元カレからの電話で呼び出されれば、女はそちらを選んでしまうし「獣、あるいは、近付くのが早過ぎる」

私の見る順番は逆になってしまいましたが、REST→STAYの順番が想定されてるように思えます。とはいえ、まあどちらでも大丈夫なオムニバス。新作旧作とりまぜて、2人もしくは3人、欲望の駆け引きなどさまざまなバリエーションで作り続けてきたオムニバスシリーズもいよいよ。

「シェヘラザード」は同性愛的な愛情を口に出せない片思い、それぞれにワンナイトラブだったりセフレだったりと男と寝たりしていることを話せるぐらいのある種の奔放さの似たもの同士でもあって。女二人が「姉妹」(しかし下品だね、この言い方。劇中に出てくることばではありませんが)であり、肉体的な快楽と、ある種の愛情とがきれいな三角関係になっているちょっとしたドキドキと。

「よるを〜」はいい歳、セックスレスなカップルの諍いまではバリエーションさまざまあれどよくあるシチュエーション。それを「金で解決する口の固い男」という異物を、しかも三人とも同じ会社の中という関係性で放り込むことで生まれるコメディ。「子作りのためのセックスなら」みたいな不用意な男の一言と、それを受け絶望的な気持ちになる女など、わりとシリアスなことも入れ込みつつも、あくまでもコミカルで見やすく。

「きゅうじっぷん〜」は「人間を愛することができない」とまで言い切る卑屈で自己評価低すぎる嬢と、結婚を決めた最近になってレズビアン風俗に通ってしまう客の女と。どちらも溢れる思いを大量のセリフで吐き出すのが圧巻なのは変わらず、そんな二人がここでしばしの時間を過ごせるということ、実は何も解決してないけれど、しばしの時間が何かを変えてくれそうな気もする愛おしい時間。

「クリーブ〜」は、明確には語られないけれど、男はゲイで恋人と喧嘩していて、そんな男への恋心を言い出せない女、その想いを気づいていても応えない男。初演のときに「結婚」の要素があったっけなと思ったりする程度に記憶力がザルな私だけど、結果的にこちらも同性愛を交えた三角関係な感じではあって、似た感じなものが並んでしまったという感は否めませんが、仲直りに前向きな終幕は希望でもあって。

「獣〜」は迫りくる巨大生物と、欲望のままに女ににじり寄る男がなんか相似形で、その距離感の詰め方のおかしさがコミカルで楽しく。

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2023.07.12

【芝居】「M.O.S.ヤングタウン」かるがも団地

2023.6.17 18:00 [CoRich]

かるがも団地の新作。前売りが早々に完売になり、当日券キャンセル待ちで潜り込みました。 八王子・南大沢を舞台に暮らす人々の物語。105分。6月18日までSPACE EDGE。配信は7月18日まで。配信終了に向けての動画も十分に戦略的です。

多摩ニュータウンの南大沢。中一の女子はこの街を抜け出したい。同じように抜け出したい小学校の同級生と一緒に抜け出すべく都立を受験したが、二人とも落ちてしまい、同級生は学校に行けなくなってしまう。
その兄は中二で、生徒会の独裁が許せない。生徒会長は製薬会社社長、ニュータウンの中の一戸建ての友人ばかりを優遇している。
この街の大学生は中学校の頃引っ越してきて馴染めなかったが、ここ街の大学で建築を学び、団地のデザインを考えている。

生まれ育った場所は早々には抜けられないし、中学生ともなれば学校の中のコミュニティ、あるいは前からの友だちとの関係が変化していって、いろいろジェットコースターのように感じる日々、という瑞々しさを丁寧に紡ぎます。同じ地区の中にいわゆる団地、一戸建て、分譲、賃貸が区画に分かれているのが多摩ニュータウンの特徴で、その地区の間を車道が分断し、歩行者はその上を立体交差で動けるという、あの時の計画の素晴らしさがキチンと実現されている場所。しかし、それは結果的に、ある程度の貧(という程ではないにせよ)富の差が明確に可視化されてしまい、子供たちですら、それを感じながら育っているという残酷な感じでもあって。

主役となる中学校一年生、この場所を抜け出したいという一緒に都立中を落ちた友だちの設定が絶妙で、幼いうちに挫折を経験して耐えられるか耐えられないかという、それぞれのパーソナリティではあるのだけれど、そのコントラストを繊細に描く骨格が実に見事なのです。その外側で起きる兄の(生徒会に対する)反体制の気持ちとか、強大な(生徒会という)独裁体制を続けるために後輩に生徒会長になって貰うべく、「替え玉無料券」を配ったりするという買収活動など、なりふり構わない大人の政治家たちの相似形を描きつつ、これはそれぞれの生徒たちが暮らしている場所の威信を賭けた戦いなのだという重ね合わせという相似形を丁寧に重ね合わせて、奥行きのある物語の空間をきちんと作り出すのです。

同じ場所に大学(都立大・南大沢キャンパス)があり、街のことを考えている建築学の学生を設定しているのは絶妙で、この街に図書館やコミュニティを作り出すという、卒制ゆえの純粋なこの街の発展を願うという気持ちが、街の未来を見ているよう。

セットはカラフルな積木を団地や家に見立てた感じがニュータウンらしく、もう一つ若い役者ゆえに昇ることも出来るイントレで高さ方向の空間の埋め方が見事なのです。ポロシャツの右胸に付けた数字が学年なんだというくだらなさも楽しい。

やる気がなさそうな英語科教員を演じた大西薫の振り幅が良くて、終盤でしかし生徒を絶対に守るというセリフにちょっと涙ぐむワタシです。母親やラーメン屋店主を演じた長井健一はコミカルな役がとてもよいけれど、元無線部員としては無線部の扱いがあまりにも、とは思いますが大きな問題ではありません。とはいえ、看板は宮野風紗音だなぁと思います。(顔を覚えられながちなワタシだからかもですがw)

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2023.07.09

【芝居】「ホテル・ミラクル The Final(S)」feblabo×シアターミラクルP

2023.06.11 18:00 [CoRich]

閉館を迎えた歌舞伎町・シアターミラクルの最終公演、人気シリーズを2バージョンで。まずは「STAY」バージョン。6月20日までシアターミラクル。

いろいろ注意事項など「ホンバンの前に」
同級生の男女、男は童貞が卒業できそうで浮かれ、女は手慣れた感じだが、元カレは暴力的だし、そもそもこの部屋に二人で入った経緯は覚えてないし、財布も携帯もなくしていて。「THE WORLD IS YONCHAN's」(新作, 河村慎也)
女性お笑いコンビの一人が、彼女のファンでもある後輩のピン芸人の男がホテルの一室に呼び出されている。男はなにかあるかと浮かれているが、女にはその気はなく、解散が決まったので久々にネタを書こうとしているのだと打ち明ける。相方を呼び出し、ネタを書き切ると宣言し、恋人は相方にしないのだというが、男は相方にも恋人にもなりたくて悶々とする「噛痕と飛べ」(新作, 加糖熱量)
不倫の二人、男は絶倫で女もいい雰囲気で関係を続けているが、実は女は娘一人いるものの、かつて堕胎していて、今回も妊娠して堕ろすことを決めている。女の携帯に電話がかかってくる。男の妻から。「愛(がない)と平和 -Bagism by Love&Peace.-」(ホテルミラクル3, 古川貴義)
女子高生とあしながおじさんという関係で続けている。女は声優になりたくて金を貯めているが、コンビニでもバイトしてたりする。男は女を撮った写真を東京していたりする。声優よりは芸能人になれるといいうが。「スーパーアニマル」(ホテル・ミラクル, ハセガワアユム)
女子高生と花火師を名乗る男がホテルの一室。地球に危機が迫っていて、その地響きも聞こえてくる。綿密に決められた避難計画はあって、それでも逃げない人もいるし、この二人も逃げる気は無い。唐突なフラッシュバックの数々。「最後の奇蹟」(ホテル・ミラクル6, フジタタイセイ)

「〜YONCHAN's」は、手慣れた風の女と浮かれる童貞男の同級生カップルのコメディかと思えばさにあらず、二人でここに入った経緯も覚えてないミステリー風味を経て、二人とも失神させられた上でここに運び込まれたという、女の元カレによるイジメの結果という陰湿極まりない絶望。しかし、互いに助けようという気持ち、弱虫でも立ち向かおうと決心する男。結果がどうなったかはわからないけれど、短編の映画の前半のようなキャッチーでくるくると変わる展開に目が離せない感じ。

「噛痕〜」は、女性お笑いコンビ解散を考えていて、久しぶりにネタを書こうと決めた女が、ファンでもある後輩の男とホテルの一室、男は浮かれるが女にその気はないけどネタ書きの監視役のため、このホテルで両親がセックスしたから自分が生まれたことを聞いていたからこのラブホテルという設定のやや無理矢理感はあれど、ゆるい権力勾配はありつつも軽口たたき合う二人の信頼感のある会話の語り口は軽快で楽しい。
このお笑いコンビは実は女性同士の同性愛カップルで、前説パート「ホンバン〜」と繋がり、別れを決めた故の解散、だから「恋人を相方にはしない」という決心。男は下心一杯で(しかし暴力的に襲うことはせず、それは同じ業界の先輩後輩、ファンでもある敬意が絶妙に効いてる)恋人にはなりたいし、しかし芽が出ないピン芸人として相方にはなりたし、という焦燥感。何かが解決するわけでは無いけれど、二人で笑い合い、飛び跳ね服を脱ぎ始め踊るラストはひたすら眩しいのです。

「愛(がない)と〜」はだいぶ歳を重ねた不倫カップル。互いの配偶者には踏み込まないまま続けている大人の関係が続いてきたけれど、女が堕胎したことを隠していたから続いていることでもあるというのは初演にあったかどうか覚えてないワタシですが、もしかしたらアップデートされているのかもしれません。まるでAVのように欲望にまみれたラストカットは強烈な印象を残すけれど、性的な相性と愛情が必ずしも一致しないという微妙さを持ち合わせ互いに認めている二人の会話は業のようであり、通奏低音のように響きます。

「〜アニマル」は夢のある女子高生と、それを応援すると嘯くあしながおじさん。金で女を撮りラブホテルに二人きりというやや露悪的な関係。女は声優になりたいというのに出役になるべきだという男に対して、「有名になった自分をテレビや映画で見かけて育てたと思いたい」のだと論破する女の痛快さ、というか多かれ少なかれ小劇場に通うと芽生える気持ちを言い当てられて、ちょっと恥ずかしかったりも。

「最後の〜」は、危機迫る地球の一室、地響きも聞こえてくるなか。綿密な避難計画があっても逃げない二人。ホテルミラクルのこれまでのさまざまなシーンをフラッシュバックさせる唐突感はあるけれど、何本もシリーズを見てきたワタシには感慨深く、ある種の走馬燈で、この劇場とこのシリーズの名残惜しさを象徴的に。

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2023.07.01

【芝居】「ラフカット2023」プラチナ・ペーパーズ

2023.06.11 14:00 [CoRich]

実は毎年続けているラフカット、最近は飛び飛びになりがちなワタシ (1997, 2004, 2005, 2006, 2009, 2015)。 6月11日まで、スペースゼロ。

ヤクザの事務所に半裸の男二人、デリヘルの女二人、組員たち。若い組員の父親はかつて、厳格な野球審判で厳しすぎる判定で世間を騒がせ、妻が自死してしまう、がその自分の父親が目の前で半裸で縛られている。「愚かなる人」(太田善也, 2015)
コインランドリーに集う人々、「コインランドリーマンズ」(桑原裕子, 2005,2017)
台風から3年、防災公園を兼ねたふれあいパークが作られるが、テナント出店も振るわないなか、かつてやんちゃだった男は反省してラーメン屋を続けている。かつてボランティアで訪れていた男女はそのあと付き合い、男が勤める会社がスポンサーとなっていたが、打ち切りが決まる。ラーメン屋の妻はボランティアだった若い女が色目を遣っていると感じていて穏やかではない。同じ女をみかけた引きこもりだった男は希望を感じて外に出るようになり、プレゼントをしようとするが断られる。「ダンスフロアに華やかな光」(堤泰之)
地方の旅館、就活中の大学生がアルバイトしている、訪れる金持ちのカップル客の男はそのアルバイトに声を掛けて採用をもちかけるが、翌朝、女は婚約指輪がないと騒ぎになり、従業員たちを疑う。「パーはチョキより弱いのか」(2007, 2018)

「愚か〜」はあからさまに出落ちの半裸の男、チャイナドレス、ヤクザなどわかりやすく記号化された登場人物の見やすさ。物語の軸となるのは、ヤクザの下っ端としてデリヘル嬢の通報で捕まえてみれば、半裸で縛られるプレイしているカタブツの父親だったという起点から、殺し屋や刑事が紛れ込んでいることがわかって疑われたり混乱したりを経て、息子を逃がそうとする父親の想いに着地するのです。いい話なのに半裸で居続ける父親がいることで、通奏低音のようにベースにクスクスが続くエンタメらしい楽しさ。父を演じた川崎誠一郎はずっとそうあり続けるテンション。実際のところ、出演する役者に合わせてキャラクタを変えられる役が多くていろいろと変化させて行けそうに感じるワタシです。

「コインランドリー〜」は既に2回も上演しているという、この企画のマスターピースのひとつ(ワタシは一つしか観てないけれど)。 まあまあ大量の物語を細かくつぎ込むのはどこかグランドホテル形式風。 元アメフト選手だけど会社員になった男、かつての元カノの姉(この絶妙な距離)から知らされる元カノの結婚。 妻に逃げられその追憶のように柔軟剤の匂いを探し続ける男。 コインランドリーに来てるのにまったく洗濯をしたことがなさそうなスーツ女と、出て行ったヒモの男。 彼女を連れてきて洗濯するでもなくテーブルがあるからここでコンビニで買ってきたケーキで彼女の誕生日祝いにしようとするバンド男。 左遷が決まり泥酔した課長と同僚たち。
いくつもを細かく組みあわせつつ、「名前の無い家事」が存在していることを自覚することを二組の男女に性別を違えて語らせたり、会社員がバンド男に云う上から目線にカチンときたり、泥酔したあまり勝手にギターを弾いた課長がまあまあ格好良かったり。日常のアップデートに芽を配りつつ、一人の人物だって格好良かったり格好悪かったり、いいところも悪いところも併せ持つ人物の造形がそれぞれの役に課されてて、こちらも若い役者でさまざまにバリエーションが作れそう。泥酔した課長を演じた経塚祐弘の判りやすい酔っ払いとカッコイイ瞬間、本気で悔しがるバンド男を演じた妹尾竜弥の若者っぽさ、怒りながらもファミレスに誘い出す齊藤由佳の可愛らしさが眩しい。

「ダンスフロア〜」は災害のあと、税金をつぎ込んで作ったはいいけど数年で維持が難しくなっている防災公園、イマドキらしくテナントを入れるがそれも困難を極めていて、出店者の思いだけで続いている限界感。災害時のボランティア、そこから繋がった公園に対してのスポンサー契約。あるいは外からの若い女性というだけでのぼせ上がったりするラーメン屋店主。スポンサー契約の打ち切りの中で吹き出す、店主の妻の不満、同じ若い女性に希望を見いだし一歩を踏み出す不器用な男。全体としては抱える本音を出せる相手と出せない人々を細かく描きだして、引きこもり男がフラれても店を出そうと踏み出す一歩、な些細な未来。

「パーは〜」もまた三演めだけれど、ワタシは初見。古い旅館、だらだらと働く従業員たち、なんか似つかわしくない金持ち客。就活中の男はこの客に目をかけられ、就職が目前だけれど、指輪の「盗難事件」によってあぶり出される、従業員たちそれぞれのバックグランド。 あるいは金持ちのカップル客でも女を見下している男、あるいは彼らが見下す従業員たちという抗いづらい格差がどんどん明らかに。 旅館なのに時々紛れ込むルンペンもしくは裸の大将風の男がかき混ぜつつも、この「盗難事件」を解決するのはとても強引でスピーディで実は楽しかったりするワタシです。ここで見える、誤りは誤りとしてきちんと謝らせようとする従業員と、素直に謝る金持ち客の男、本当は当たり前なのに、「謝ったら死ぬ」ぐらいに考えている人がホントに多い私たちの世界というか為政者への絶望を感じたりもするのです(そんなに大きい話じゃないか)。年上のストリッパーと恋仲になっている大学生という取り合わせの昭和な感じも楽しい。

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