【芝居】「千里眼」渡辺源四郎商店 うさぎ庵
2023.5.7 19:00 [CoRich]
渡辺源四郎商店の「戦争を考える2作品連続上演」の二つ目は工藤千夏のうさぎ庵の新作。75分。5月10日までザ・スズナリ、そのあと青森。
第一次大戦前、ハレー彗星が接近し世間を騒がせている。岡谷医院、イギリスに留学する息子と医者に嫁いだ娘。それぞれが能力を持つが、父親は受け入れない。特に娘は、霊視の力で評判となったが実家に戻っており、そこに軍医が訪ねてくる。
戦争前とハレー彗星接近の騒がしい雰囲気。兵隊の脚気の原因を伝染病とみなしていた時代、オリザニン(アベリ酸、ビタミンB1)の発見(国立公文書館)と受け入れなかった医学界や陸海軍の対立。あるいは怪しげな千里眼や超能力を科学的に説明しようとしていた実在のブームを下敷きに。
また、そのブームの中で「千里眼」や「透視能力」の持ち主として世間を騒がせた現実の女性・御船千鶴子(wikipedia)をモデルにした女を軸に、史実の断片をつなぎ合わせ、巧みにフィクションとして物語を紡ぎ上げるのです。透視の実験によって、アベリ酸・オリザニンではなく、日本にはまだなかった「ビタミン」を言い当てるが誰にもそれがわからなかった、みたいな巧みな(しかし物語に大きく影響するわけではない)嘘を紛れ込ませながら、しかし作家が描くのは戦争や世間が要請したことに巻き込まれていく女性の戸惑いと勝手な世間の騒ぎのような気がしてなりません。
巧みな役者陣がこのオカルトなフィクションを人間の物語として描きます。騒ぎ、担ぎ上げる世間として、記者を演じた植本純米の人懐っこさ、軍医を演じた桂憲一の人を「利用」しようとする冷徹さ、離れ姉を気遣い自らも力に戸惑う語り部としての大井靖彦、娘息子に厳しくしかし家族を守る気概を持ちながらも科学者としてオカルトには与しない矜恃をもつ父親を演じた猪股俊明、巻き込まれながら、そこに悪意や邪心は一つも無く凛として生きる娘を演じた山藤貴子。うさぎ庵としての最強とも云える布陣の豪華さよ。
史実の「千里眼の女」は服毒自殺でこの世を去るけれど、今作の女は事務員として、能力を封じ「普通に」埋没して生きていくことの平穏を迎える週末は、作家の想いが溢れるよう。
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