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2023.06.24

【芝居】「風景」劇団普通

2023.06.04 18:00 [CoRich]

病室」、「電話」(未見)、 「秘密」、 外部への書き下ろし「日記」を経ての 全編茨城弁による家族の物語、最新作。130分。6月11日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。

祖父の葬儀のため帰省した女。葬儀のあと祖父と同居していた叔父とその息子、従兄弟たちが話している。未婚だったり、まだ皆には知らせてない妊娠だったり、子供を作らないもしくは出来ない夫婦だったり。商売をしている叔父は少し派手で目立つ感じでその息子はむしろ気を遣いすぎな感じも。
数年後、祖父の墓参りのために帰省する女。兄夫婦は実家近くに引っ越してきているが、未婚だった女は結婚してあまり帰省していない。叔父とはもうほとんど行き来はない。

兄妹でのハンカチの貸し借り、洗って返すだのの些細なことを繰り言のように言う母親だったり、久々に会う親戚同士が近況を知らせ合ったり、叔父は自分の商売の跡を息子が継いでくれることを期待してるのにあっさり裏切られたり。全編基本的には抑揚の薄い、あるいは温度の低い会話で、少なくとも私にとっては言葉の強さと会話の間合いがズレがちな茨城弁で進む会話は、静かなのに持続し続ける緊張感が凄いのです。

ここまで濃密な親戚との会話をそれほど経験していない私だけれど、親戚の中でちょっと距離感のある人の感じとか、同年代でも結婚出産子育てあるいは仕事といったライフステージの違いを、地域差含めて感じたり、あるいは老いて認知機能が衰えていく両親の変化に戸惑ったり。日常の会話の延長なのに「生きていくこと」そのものを濃密に煮出したように描かれる人々の姿なのです。

たとえば、子供が親の面倒を見ること、子無しの人々の老後を親戚だという理由だけで看るのかということは、子なしで生きていくであろう今の私、これからの私に地続きの切実さ。あるいは墓参り前日、ごく近くに暮らしているのに没交渉になっている叔父親子と実家家族。うっすらと近況は知っているし気にはなるけれど、顔を合わせたら面倒だからわざとずらして墓参りに行こうと考える感覚など、濃密に。ほんとに。

チラシにもある女と祖父とだけの思い出、子供の居なかった祖父の兄夫婦の家で過ごした日は、物語に直接絡むわけでないけれど、ここまで重ねられた物語を別の角度から切り取ったような、あるいは縦糸を織り合わせるようにかんじられ、感情を伴った強固な物語を作り上げるよう。

父を演じた用松亮は今作では必ずしも出番が多いわけではなく物語を駆動するわけでもないのだけれど、そこに居るだけで、このシリーズの世界を作り出すほどに象徴的であり続ける説得力。娘を演じた安川まりもまた、老いた親と年齢を重ねる自分の時間の動きに戸惑う女の存在感。

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2023.06.18

【芝居】「温泉旅館 湯けむりの里〜なんてったって! 親の顔が見てェもんだなァの巻」劇団麦の会

2023.06.04 14:00 [CoRich]

横浜のアマチュア劇団を自ら名乗る市民劇団、麦の会の人気演目、温泉旅館をめぐるコメディシリーズ。ワタシはシリーズ初見です。休憩10分を挟み130分。6月4日まで、のげシャーレ。

老舗温泉旅館。新人で入った女の父親は心配のあまり、付き人とともに仲居になりすまして娘を見守ることにする。娘は見習い板前にご執心だが、ポンコツで使い物になる気配もない。女将の息子は学校でボールペンを盗んだといわれるが、何かを隠している。息子が結婚する夫婦が、久しぶりに二人きりの時間のために訪れる。

老若男女さまざまで満員の観客。市民劇団らしく、客同士どころか家族同士の知り合いに挨拶したりな客席。1947年結成という市民劇団の厚み。物語といえば、短めの物語を重ね、大笑いさせたりほろりとさせたり、大衆演劇のような和やかな雰囲気。ほんとうに沢山の役者による大人数のパワー、決して大きな空間じゃないこの空間で人数押しのパワーはある種の懐かしさすら感じさせるのです。

子離れできない親の物語、子供だと思っていても人をかばい思いやるようになった気持ち、老舗旅館に生まれてしまったゆえの不安感、息子を送り出す両親なのに、グラマーで夫好みな新婦に心穏やかでない妻だけれど祝う心、突然割り込む絵に書いたような貧乏神家族、ビールや餃子の繰り返しのご発注在庫をなんとかしようと、奮戦する仲居たち。繰り返し重ね合わせていくことで作り上げる暖かな空間、これが続くの、ほんとにいいことだと思うのです。

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【芝居】「死んだら流石に愛しく思え Final Edition」MCR

2023.06.03 18:00 [CoRich]

シリアルキラー、ヘンリー・リー・ルーカスの史実(wikipedia)を下書きに、上演を繰り返す代表作の一本(2015, 2019)の最終版と銘打って。130分。6月4日までザ・スズナリ。デジタル版の当日パンフが有り難い。

再演では女性になっていた夢に悩まされる人物を初演と同様、男性で演じたのが初めての小野ゆたか、巻き込まれ、時におちゃらけ、困り悩みなダイナミックレンジの広さが魅力だけど、クズっぽさが減ってる感じなのはご愛敬。 シリアルキラーの二人を演じた川島潤哉と奥田洋平、冷静と狂気がグルーブし続ける圧巻、恐らくは再演からのグレープフルーツを潰し口にする終盤のシーン、やってることと爽やかな香りのギャップは判っていても印象的でずっと残るのです。天使と呼ばれる女も後藤飛鳥も初演からずっと同じ、オカシナコトをやっている兄と恋人を見守り普通に見えるけれど、しかし神様になっちゃう危うさも。巻き込まれる男を演じた澤唯は困る人物の安定感。友だちを演じた堀靖明の友だちを見守る気持ちの暖かさ。母親を演じた伊達香苗の狂気、初演からずっと続く凄み。

記憶力は相変わらずザルなワタシだけれど、誰にも愛されないかも知れないという男たちの孤独は確かに沁み一本なのは間違いなく、完成版に相応しいのです。

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2023.06.17

【芝居】「ココノイエノシュジンハビョウキデス(鶏キャスト)」 日本のラジオ

2023.6.3 16:00 [CoRich]

初演を観ているけれど、これが萩原朔太郎の歌集からの引用だとは気付かない程度には無教養のワタシが恥ずかしい。70分。2バージョンのうち、女性多めの鶏バージョンしか観なかったのは偶然です。6月4日まで駒場アゴラ劇場。

なるほど、萩原朔太郎だと思えば、唐突に挟まる「とをてくう とをるもう とをるもう。」(鶏)とか、「おわあ、こんばんは」(猫)とかが歌集のオノマトペ的な音の引用だと判ります。人が人と出会い、次を探す些細な会話の始まりはその言語を知らなければ、こんな音に感じられるのかも知れないなと思ったり。

初演の時に感じていた店主の不穏な心の動き。初演、ここまで判りやすかったか記憶があいまいなワタシです。自ら人さらいであることを白状し、通報して、妻には幸せに暮らすようにいう終幕。幼い頃の妻を気に留め再会したことで結婚まで至って平穏に暮らしているし、ときおり訪ねてくる妹は実は人さらいに、みたいな暴力の連鎖から抜けられない人間の業が、怖くて、しかしあり得る感じ。

しかし、今作では無料のパンフレットなのにフルカラーの冊子。もちろん嬉しいけれど、どういう収支なのかヒトゴトながら心配になったり。ええ、もちろん続けて欲しいけれど。

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【芝居】「夢見る無職透明」螺旋階段

2023.5.28 13:00 [CoRich]

螺旋階段の新作。120分弱。5月28日まで、神奈川県立青少年センター・スタジオHIKARI。

理不尽に解雇された中年の男は途方に暮れて夕方まで寝床にいる生活をしている。ある日夢をみたのは、新人の頃に先輩に連れられ通っていたスナックでの出来事だった。交通事故に合いそうになった若いホステスと入れあげる常連客、ガタイのいい若者を連れたサングラス姿の男、毎日のように通う未亡人だという女、あの頃のままに見える。若いホステスが怪我をしたと運び込まれてきて。

理不尽にクビになった中年サラリーマンを起点に、時間軸を行き来しながら大きく3+1のパートで描かれます。わりとネタバレですが

間にクビを宣告した上司との会話を挟みながら。
1) 若いホステスが事故にあい運び込まれ傷物になったといい求婚してくるが、なぜかおでんのチクワをエンゲージリングとか。ガタイのいい男が持ち込んだカバンの中の白い粉を見つけて打たれてしまう。
2) だいたいの流れは同じ、事故に遭うのはママだけどそのあと偶然若いホステスが怪我をして、一つ目のあれこれを教訓にして周到に同じにならないようにして求婚を受け入れたりして、ヤケに常連のエロいオヤジがエスカレートしたり、踊ったり。
3) 上司が新人だった男を初めてこの店に連れてきた日。ここまでの伏線を回収するかのように、求婚とかカバンの粉は近所の蕎麦屋の大将と店員が持ち込んでたりとか。
4) 男の家が火事になり家財を失うが、スーツ姿で就職活動を始める。女たちはしたたかだし、人々は集まるし、乾杯する。

理不尽なクビ、家に引きこもってみていたであろう白日夢はまるでこれまでの走馬燈、辻褄合わなくたって、印象的なシーンだけを編集したようなのはなるほど、夢だから。しかし、コレまでを精算して、次の一歩を踏み出す力強い物語。中年オヤジの汚さが混じってたりと、会場名称の「青少年」向けかはわからないけれど、人生はいろいろあるしレジリエンス(の力)は持っていた方がいいというのは少年、心のどっかに持っていた方がいいよとは思うほどにはオジサンのワタシ。

上司が新人を連れてきた日のシーンが実に良くて、未来には明るいことしかないと信じられたあの瞬間の眩しさ、店全体を包む幸せなさ、「スナックのいい女は幻で、ボトルの数だけ愛を返してくれる」なんて巧すぎるじゃないかと思ったりしつつ、泣きそうになるワタシです。

未亡人の常連客を演じた岡本みゆきはこの劇団のほぼ常連になりつつありますが、ある種観察者のような視点で居続ける人物をきちんと。クビになった中年男を演じた根本健の弾けたり挫けたりの振り幅。金払いのいい常連客を演じた露木幹也はここに来てまさかのエロオヤジな造型(初めて見た気がする)けど、ありそうな説得力。住安会じつは町内会会長を演じた新井人志の人なつっこさ、子分じゃ無くて店員を演じた須藤旭のガタイの良さが惚れ惚れするほど印象的な立ち姿。ママを演じた田代真佐美のパラパラの切れっぷり、若いホステスを演じた木村衣織の看板という説得力。上司を演じた緑慎一郎じつはいい人みたいな役、作家だからね。そこは自在に。

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2023.06.11

【芝居】「チキン南蛮の夜」くによし組

2023.5.21 14:00 [CoRich]

新作と再演を組み合わせて上演。ワタシは未見の2018年初演作の再演を。65分。21日までOFF OFFシアター。

チキン南蛮を吐いて過食嘔吐癖を持ってしまった女。吐かれたチキン南蛮は地縛霊となり女を見守っている。地元を離れ友だちもいない女はラジオ、インコと話しかける相手らしきものを手に入れるが、嘔吐まで真似されインコに手を上げ、インコは姿を消してしまう。同じ頃初めての彼氏が家を訪れるようになるが、金目当てだったりやがて別れる。再び一人となり何も口に出来なくなった女を、戻って来たインコは心配する。

若い一人暮らし、友だちいないけれど会話したい欲の目一杯、だれかと繋がりたいこと、あるいは彼氏を失いたくなくて依存しまくること、失って錯乱したり、いっぽうで手に入れたはずのインコとの生活を苛つきで手を上げてしまうこと。見ていて不安になるほどの不安定さめいっぱいの人物で、文字通り食事も喉を通らなかったりというメンタルの脆弱なのだけれど、あくまでコメディであり、SF風味でもありちゃんとフィクションとして娯楽に昇華する凄みがあります。

地縛霊は語り手でありツッコミであり、インコはボケまくってる感じで、女を中心に見守るような暖かさ。それはクズな彼氏をきっちりヒールとして描く形にもなっています。後半では、地縛霊が「触れば入れ替わる」というSFを少々唐突に持ち込み収束に向かいます。外形的には彼氏とヨリを戻し幸せに暮らしているように見えるけれど。 見守り続けていたのが嘔吐されたチキン南蛮しかいないというのもそうだけれど、不器用に生きる人がこの混沌と混乱のループの中から抜け出す奇跡を求めたい気持ちを描き出す作家の切実なのだと思うのです。もっとも、本人がそうか、とは判らないけれど、すくなくともそう考えてるのだろう、という意味で。

女を演じた小野寺ずるは切実なのにコミカルに、時に騒がしくも、この混沌の中でしかし生き続ける人物をきっちり。地縛霊を演じた 大見祥太郎はフィクション目一杯の存在なのに、温かく見守り続ける姿。インコを演じた渋谷裕輝の何を考えてるか判らない感、時におびえが見えたりする瞬間がなんか楽しい。彼氏を演じた永井一信の優しくしかしクズっぷりのなんか妙にリアリティ。

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2023.06.10

【芝居】「楽屋〜流れ去るモノはやがてなつかしき〜」劇団一大事P

2023.5.21 14:00 [CoRich]

劇団一大事のプロデュース公演、女優四人がっつりのスタンダード「楽屋」を。清水邦夫没後2年の2023年、作家の公式サイトもオープンした今年に。

オリジナルを、というほどにはこの戯曲に詳しくなくて、変化球な演出の印象ばかり強いワタシです。楽園というほどよく狭い場所に所狭しと詰め込まれた衣装や小道具っぽいもの、二方向の客席から眺める形になっていて、楽屋に一人(が、亡霊となった二人もそこには居る)居る時間を伴にするリアリティがあるのです。役名はA,B(亡霊)、C(出演中の女優)、D(心を病み退院して、役を返せという)なのだけど、各々ピンとこなかったワタシだけれど、今作でなんかしっくりくるように感じたのは、今作のスタンダードさゆえ、なのかもしれません。

Aを演じた咲田とばこ、Bを演じた夏野大の、コミカルに自虐を挟みながら舞台に作り出すリズムの小気味よさ。Cを演じたちかみれいは終演後私服に着替えた目の覚めるような赤い服へのコントラスト。Dを演じた岩井智恵は小柄、目がキラキラという無邪気と狂気の狭間。CとDの体格の差のコントラストも鮮やか。

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2023.06.07

【芝居】「独り芝居『月夜のファウスト』/前芝居『阿呆劇・注文の多い地下室』」串田企画

2023.5.20 18:00 [CoRich]

まつもと市民芸術館の芸術監督を退任した串田和美の新たな一歩。3年間で39公演を数えるライフワークとも云えるファウストの一人芝居版は初見(1)に、盟友・真那胡敬二と息子・串田十二夜による前芝居を添えて。20分ほどの前芝居+休憩+125分ほどの一人芝居。

地下室に入り、懐中電灯で照らして探る二人組。「1966->1996」と書かれている壁をみつけたり。前芝居『阿呆劇・注文の多い地下室』
ファウストは40年の寿命を得たが、昼も夜も無く欲望を体験した20年目、40年分だと告げられ焦る。あるいは、地主の娘を見た吉祥寺の風景、航空機の化粧室の照明がついたとき現れる鏡の向こうの誰かとか。独り芝居『月夜のファウスト』

説明無しで始まる「注文の多い地下室」。男二人で暗闇で話したり、あるいは位置が変わっていることが暗闇でもわかる(音像ともいうし、盲者の視点とも感じられる)序盤。やがて、そこに懐中電灯をつけて明るくなる感じ。実際のところ、後半の一人芝居で語られる、串田和美の劇場の場所の話だということは気付かなかったワタシです。とはいえ、親子ぐらいに年代の違う男二人のコミカルな会話が実に楽しく。

休憩を経ての後半、串田和美は休憩中の雑談という雰囲気で語り始めます。この場所がかつて自身の劇場・六本木自由劇場だったこと、劇場を閉じたあとに通りかかり、地下におりてみた体験は前芝居の謎解きでもあるし、戦後に住んだ吉祥寺の風景や航空機の化粧室で自身を鏡でみて感じたことだったりは、一人芝居に織り交ぜて、ファウストの物語と、恐らくは串田和美自身の体験の語りがないまぜになっていく不思議な感覚。唐突に切り替わるけれど、いろいろなルール、たとえば太鼓やベルで場面を切り替えるということを織り交ぜて馴染ませていく、奥行きのある舞台がそこに出現するのです。

時間に縛られ不自由だと決め、もうオシマイだと思うことを物語ながら、しかし愚かな人間にしか見られない夢は、これからも観ようじゃないか、今日はここまで、という結びは、まだまだ先へ、芝居を作っていこう、というある種血気盛んな若者のようなパワーがそこにあるのです。

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2023.06.04

【芝居】「千里眼」渡辺源四郎商店 うさぎ庵

2023.5.7 19:00 [CoRich]

渡辺源四郎商店の「戦争を考える2作品連続上演」の二つ目は工藤千夏のうさぎ庵の新作。75分。5月10日までザ・スズナリ、そのあと青森。

第一次大戦前、ハレー彗星が接近し世間を騒がせている。岡谷医院、イギリスに留学する息子と医者に嫁いだ娘。それぞれが能力を持つが、父親は受け入れない。特に娘は、霊視の力で評判となったが実家に戻っており、そこに軍医が訪ねてくる。

戦争前とハレー彗星接近の騒がしい雰囲気。兵隊の脚気の原因を伝染病とみなしていた時代、オリザニン(アベリ酸、ビタミンB1)の発見(国立公文書館)と受け入れなかった医学界や陸海軍の対立。あるいは怪しげな千里眼や超能力を科学的に説明しようとしていた実在のブームを下敷きに。

また、そのブームの中で「千里眼」や「透視能力」の持ち主として世間を騒がせた現実の女性・御船千鶴子(wikipedia)をモデルにした女を軸に、史実の断片をつなぎ合わせ、巧みにフィクションとして物語を紡ぎ上げるのです。透視の実験によって、アベリ酸・オリザニンではなく、日本にはまだなかった「ビタミン」を言い当てるが誰にもそれがわからなかった、みたいな巧みな(しかし物語に大きく影響するわけではない)嘘を紛れ込ませながら、しかし作家が描くのは戦争や世間が要請したことに巻き込まれていく女性の戸惑いと勝手な世間の騒ぎのような気がしてなりません。

巧みな役者陣がこのオカルトなフィクションを人間の物語として描きます。騒ぎ、担ぎ上げる世間として、記者を演じた植本純米の人懐っこさ、軍医を演じた桂憲一の人を「利用」しようとする冷徹さ、離れ姉を気遣い自らも力に戸惑う語り部としての大井靖彦、娘息子に厳しくしかし家族を守る気概を持ちながらも科学者としてオカルトには与しない矜恃をもつ父親を演じた猪股俊明、巻き込まれながら、そこに悪意や邪心は一つも無く凛として生きる娘を演じた山藤貴子。うさぎ庵としての最強とも云える布陣の豪華さよ。

史実の「千里眼の女」は服毒自殺でこの世を去るけれど、今作の女は事務員として、能力を封じ「普通に」埋没して生きていくことの平穏を迎える週末は、作家の想いが溢れるよう。

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