【芝居】「風景」劇団普通
2023.06.04 18:00 [CoRich]
「病室」、「電話」(未見)、 「秘密」、 外部への書き下ろし「日記」を経ての 全編茨城弁による家族の物語、最新作。130分。6月11日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。
祖父の葬儀のため帰省した女。葬儀のあと祖父と同居していた叔父とその息子、従兄弟たちが話している。未婚だったり、まだ皆には知らせてない妊娠だったり、子供を作らないもしくは出来ない夫婦だったり。商売をしている叔父は少し派手で目立つ感じでその息子はむしろ気を遣いすぎな感じも。
数年後、祖父の墓参りのために帰省する女。兄夫婦は実家近くに引っ越してきているが、未婚だった女は結婚してあまり帰省していない。叔父とはもうほとんど行き来はない。
兄妹でのハンカチの貸し借り、洗って返すだのの些細なことを繰り言のように言う母親だったり、久々に会う親戚同士が近況を知らせ合ったり、叔父は自分の商売の跡を息子が継いでくれることを期待してるのにあっさり裏切られたり。全編基本的には抑揚の薄い、あるいは温度の低い会話で、少なくとも私にとっては言葉の強さと会話の間合いがズレがちな茨城弁で進む会話は、静かなのに持続し続ける緊張感が凄いのです。
ここまで濃密な親戚との会話をそれほど経験していない私だけれど、親戚の中でちょっと距離感のある人の感じとか、同年代でも結婚出産子育てあるいは仕事といったライフステージの違いを、地域差含めて感じたり、あるいは老いて認知機能が衰えていく両親の変化に戸惑ったり。日常の会話の延長なのに「生きていくこと」そのものを濃密に煮出したように描かれる人々の姿なのです。
たとえば、子供が親の面倒を見ること、子無しの人々の老後を親戚だという理由だけで看るのかということは、子なしで生きていくであろう今の私、これからの私に地続きの切実さ。あるいは墓参り前日、ごく近くに暮らしているのに没交渉になっている叔父親子と実家家族。うっすらと近況は知っているし気にはなるけれど、顔を合わせたら面倒だからわざとずらして墓参りに行こうと考える感覚など、濃密に。ほんとに。
チラシにもある女と祖父とだけの思い出、子供の居なかった祖父の兄夫婦の家で過ごした日は、物語に直接絡むわけでないけれど、ここまで重ねられた物語を別の角度から切り取ったような、あるいは縦糸を織り合わせるようにかんじられ、感情を伴った強固な物語を作り上げるよう。
父を演じた用松亮は今作では必ずしも出番が多いわけではなく物語を駆動するわけでもないのだけれど、そこに居るだけで、このシリーズの世界を作り出すほどに象徴的であり続ける説得力。娘を演じた安川まりもまた、老いた親と年齢を重ねる自分の時間の動きに戸惑う女の存在感。
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