【芝居】「彼女も丸くなった」箱庭円舞曲
2023.4.16 13:00 [CoRich]
箱庭円舞曲の新作、4月18日まで、シアタートップス。紙ではハガキ大の配役表、パンフレットはwebで提供して貰える、観る側には絶妙に有り難い。
オフィス勤めの会社員たち。同性愛の女性が飲み会で泥酔して同僚とセックスしてしまう。女性の恋人は許せないし、当の女性は妊娠してしまう。
スーパーのバックヤード、子供を置いて家を出て何年も経つ元レディースの総長が後輩と働いている。
登校できなくなった女子高生の家、呼びかけに訪れる同級生や担任。男手ひとつで育ててきた父親は来た人々にお茶とかごはんを勧める。断られても、しつこく。
ほぼ同じ時代の三つの場所で母・長女・次女を設定した物語だけれど、序盤はそれを伏せてバラバラに語り始めます。細かなシーンを時間軸を曖昧にしながらも、それぞれの人物の要素、関係などを積み重ねていくことで、三人の女性と周りの人々の関係が見えてくるのです。妊娠、同性愛の長女、実はいじめられてないし何なら裏SNSでは人気者の側なのに登校できず同級生や担任が扉の前で語りかけられる次女、家を出て、暮らすためにパートで働く母親という三人の物語が強固な柱。
細かくシーンを区切ることで、その周囲の人々の位置付けが見えてくるのが楽しい。たとえば、人を傷つけたことがないと一点の曇りもなく断言する若い会社員だったり、裏SNSで人を絶妙に渾名をつけていて人気がある不登校の女子高生と友だちや担任との微妙な距離感だったり、再会したかつてのレディースの仲間たちのそれぞれの人生だったりと、実に絶妙で細やかに描き出します。
同性愛のカップルで子供が欲しいと思った女が企んだことという物語の一つのキーは、当事者の現実がそうだったとしても、周りからみえる「事実」とは飲み込みづらくなってしまいそうなところを絶妙に説得力を持つのは作家のちからだと思うワタシです。この話と母親と娘たちという関係で成立する物語をさらに、不登校の女子高生が一般的にありがちなイジメとは別の感情ゆえにそうなってしまったことや、人の美醜を渾名にすることの名手というありかただったり、あるいは教師がこうなってしまうと研修うけなきゃいけない辛さとか、あるいはいつのまにか結婚にこぎ着けるまあまあ中年二人、偏差値は高いのに人を傷つけたことがないと言い切れるある種のサイコパスの若者だったりと、てんこ盛りの関係の多さは物語の主題を一つに絞るよりもさまざまな人々が生きている今を細やかに描き出す深みを感じるのです。
母を演じた松本紀保、やけにレディース総長に説得力。父を演じた依乃王里は見ていて気が狂いそうになるぐらいにサイコパスな人物の造型の凄み。週一で通う同級生を演じた土本燈子は気弱なフォロアーという解像度の造型。担任を演じた藤田直美のあけすけな雰囲気はコミカルでありつつ切実。偏差値男を演じた鳥居功太郎もまた、苛つかされる人物だけれど、終盤の活躍が格好良く。妊娠させた男を演じた鈴木ハルニは巻き込まれたヒールという絶妙さ。妊娠した女を演じた白勢未生、一瞬現れる妹も演じることで人物の振り幅の大きさが凄い。
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