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2023.05.28

【芝居】「おしまいの夜」空間ベクトル

2023.5.5 19:00 [CoRich]

2022年夏に予定されていたがコロナ禍で延期された公演。座組は馴染みの役者だけれど、山ノ井史主宰の劇団としては初見。5月7日まで、古民家いせやほり。60分ほど。

元は質屋だった蔵のある一軒家。一人住んでいた母親が亡くなり、売りに出した実家に三姉妹と長男の妻、長男の友人が片付けのために訪れており、家具やガラクタをトラックに積み送り出し、一段落した宵の口、酒を酌み交わして一段落して。

杉並区、環七と甲州街道の大原交差点ほど近く、高層マンション立ち並ぶ中の路地に現れる古民家。普段はギャラリなどの用途で使われているようです。畳の一部屋、上手側に縁側、下手側に廊下その向こうに蔵(見学可)。

独身らしい三人姉妹、長女は金を預かってはいるが、仮想通貨とかネズミ講とか不穏な単語が見え隠れ、遅れて現れる次女は政治家秘書で忙しくしてるが大義を失って辞めることに、三女は漫画家アシスタントで、先生の妻に不倫で訴えられいたり。唯一の男兄弟の長男はコロナ隔離で妻が幼い息子と手伝いに来ていて、運転手かつ男手として長男の友だちが来ていて。三人姉妹はそれぞれの稼ぎ方や生き方を見失っているものをもっていて、長男の妻と友人は既婚だけれど、二人は淡い恋心。男は告白し女は一度は断るけれど迷いは断ち切れないし、それを三人姉妹が知ることはなく。

蔵の中に置き忘れていた昔の本で思い出したり、母が亡くなるときに間に合わなかったことへのギクシャクを挟んだりもしながらも、物語の中心は彼らの過去でも未来でもなく、現在進行のまさのその瞬間を切り取って見せるのです。 人々が交わり迷いを見せたりはするけれど、それほど互いに深入りはしない距離感。実際のところ、問題点は提示されるだけで、何も解決しないどころか、方向を決めた風でもなく。「おしまいの夜」は「片付ける」でもあり、何かの「おわり」でもあり。もちろん明日からも彼らは生きて生活は続くのだけれど、時が止まったような今夜、まさにその瞬間の断面を見せている感じのひととき、なるほどソワレ公演しか行わないタイムテーブルはその雰囲気によくあっているのです。

終盤で母の名残を思わせるガラス、建物のわずかな揺れのような演出があるのだけれど、ワタシの観た回はなんせ風が強くておそらくは演出の意図通りとは行かなかった模様。とはいえ、その雰囲気はもちろん、きちんと。 長女を演じた環ゆらは長女なのにしっかりさよりはちょっと欲にまみれた泥臭さが珍しい感じ。次女を演じた中野架奈のしっかりきりりとスーツ姿、父母の遺影に酒を手向けるという小さな心配りも説得力。三女を演じた木村衣織はわかくまだ何者にもなれない感じではあるのに、女としての顔が出てしまう年齢という危ういボーダーな感じ。長男の妻を演じた萩原美智子、三人姉妹とはもちろん少し違う距離感、だけれど、ちゃんと家族というか親戚というかという寄り添いの暖かさ、長男の友人を演じた窪田壮史、がっちりしたやや強面なのだけど、若い故かの一種のチョロさと、恋心と新しい仕事でこれから何者かになる前向きを持ち合わせ、なんか眩しい。

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2023.05.21

【芝居】「空に菜の花、地に鉞」渡辺源四郎商店

2023.5.6 14:00 [CoRich]

渡辺源四郎商店の新作、戦争を考える2作品連続上演としてのひとつめは鉞(まさかり)の形の半島の付け根にある町をめぐる物語。5月5日までザ・スズナリ。70分。

東北、半島の付け根にある核燃料サイクル施設、新人として採用された男は、実は独裁者の国から工作員として弾道ミサイルを原子力施設に誘導すべく送り込まれた改造人間だったが、PR施設で働く娘に恋をする。

マサカリを思わせる形の下北半島の付け根、六ケ所村や横浜町を思わせる核燃料サイクル施設や菜の花畑を散りばめ、原子力発電と核燃料サイクルと北からの脅威に巻き込まれ直面させられている青森の当事者のシリアスなことを語っているのに、笑いにあふれる語り口で、たくさんのサブカル的パロディも織り込んだエンタメなのです。

北の独裁国から送り込まれ核施設を狙う弾道ミサイル誘導のための改造人間と、PR施設の娘の恋物語ゆえに飛んでくるミサイルを菜の花畑を超えた別の場所に誘導する物語はどこかジュブナイルSFのようでもあるシンプルで美しい物語。よく考えたら風を感じる改造人間にイカ人間ってことは、ああそうかライダーか。

キャストは日替わりの配置で、ワタシの見た5月5日昼。
青年を演じた松尾健司の爽やかでちょっと情けない感じの主人公感。将軍様を演じた工藤良平はあんなに酷いことをするのに、実にコミカルで、B級コメディ映画の独裁官のようなぶっとび具合。この街で育った最後の反対派を演じた三津谷友香は人見知りな感じに秘めるパワフルな造形。ガイドを演じた木村慧はヒロインをしっかり。もうベテラン勢側ともいえる山上由美子、音喜多咲子は脇でしっかり支え、安心感。

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2023.05.14

【芝居】「Please just a minute」劇団スクランブル

2023.4.29 14:00 [CoRich]

横浜の劇団・スクランブルの新作。95分。30日まで神奈川県立青少年センター・スタジオHIKARI。

公演が近づく稽古場。なかなかメンバーや小道具が揃わなかったり、演出が定まらなかったり、まだ立ち稽古を一度もやっていない役者がいる。出演予定だった子役の降板が決まり大御所俳優は代役探しを請け負って連れてくる。遅れてきた主演女優は突然降板を申し出る。

ショーが始まる前の稽古場のマストゴーオンな物語だけれど、終幕に向かって加速する混乱。病気による降板、代役のあれこれや座組の中での恋愛のドロドロなど偶発的な要素はあるけれど、結局のところは立派なことを言う作演が細かな段取りや小道具、グッズの準備や稽古場の準備などをすべて役者を兼ねた演出助手にぶん投げていることに起因していて、その不条理さが積み重なる現場の姿、コメディではあるしもちろん大笑いするけれど、良く考えると終幕は実際のところ何も解決しない地獄絵図、苦しさで気持ちがチクチクするワタシです。 「ショー・マスト・ゴー・オンなんかくそくらえ」「こんな状態で上演するなんて最低だ」なセリフの幕切れは、もちろん痛快さはなくて、シニカルのバランスが本当に微妙というか絶妙というか、客を選ぶ気はするけれど、「最高の暇つぶし」を標榜する劇団らしいといえばらしい。

演出助手を演じた中根道治、全てを押しつけられる理不尽に負けないまま続ける抑圧の末の幕切れの凄み。全てを押しつける側の作演を演じた竹内もみはヒールと言えばヒールなんだけど、人垂らしそのもの、という説得力。安請け合いしがちでセリフが覚えられない大物俳優を演じた中山朋文は見栄を張る絶妙なコミカルさが楽しい。妻を演じた岡本みゆき、実は夫が本当に好きという造型が可愛らしく。降板したい女優を演じた江花実里の不満持つ素と、役に入ったときの振り幅が凄い。

当日パンフに混ぜて織り込まれていたのは、劇中稽古をしている芝居の公演チラシ。ちゃんとしたカラーオフセット印刷(たぶんw)でホンモノと見紛うばかりだけれど、地名など絶妙に嘘を折込み、役者の交代も取り消し線でやってたり、twitterアカウントまで(公演終了後に、作演はパリで遊んでるしw)。細かいことだけれど、スタッフ名もわりと書いてあるのに、劇中こんなに仕事を押し付けられてひどい目にあう演出助手のクレジットがそもそもないというひどい扱いの物語から地続きのリアリティがすごい。

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2023.05.06

【芝居】「年金未納者ミャーキ」気晴らしBOYZ

2023.4.22 19:00 [CoRich]

友人に誘われて初見の劇団。パンクな物語と絵柄のマンガ原作を2.5次元風に舞台化。(劇団公演を謳うのに、今作だけでドメイン取るのはどうなんだとはおもいつつ。)120分。4月23日まで、あうるすぽっと。

ハローワークで仕事を探していたら、年金未納を理由に送られた働き先。年金を払っていた老人たちが医療によって若いままで青春を謳歌している。

もともとは、酒と放射性物質と鬱屈した想いを抱えた男のがん細胞が宿主を殺しても、そのまま増殖し続けるという荒唐無稽な設定だけれど、そんな技術がもし存在していたら、そういう世界になっているかもしれないという切実なバランスの物語。 ごく短い原作(電子書籍買ってしまった..)をそれぞれの人物の造型をわりと丁寧に描いている印象ではあります。というか、むしろこれを2.5次元的に舞台化しようというある種の蛮行をやりきったというのは凄いことだと思うのです。原作は2007年、それでも価値観が古いところはあるし、クイズのシーンなどをカットし、更には2017年の後日譚をブレンドして、諦める若者たちという現在の私たちの気持ちを拾い上げるようにパッケージするのもたいしたものだと思うのです。

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【芝居】「彼女も丸くなった」箱庭円舞曲

2023.4.16 13:00 [CoRich]

箱庭円舞曲の新作、4月18日まで、シアタートップス。紙ではハガキ大の配役表、パンフレットはwebで提供して貰える、観る側には絶妙に有り難い。

オフィス勤めの会社員たち。同性愛の女性が飲み会で泥酔して同僚とセックスしてしまう。女性の恋人は許せないし、当の女性は妊娠してしまう。
スーパーのバックヤード、子供を置いて家を出て何年も経つ元レディースの総長が後輩と働いている。
登校できなくなった女子高生の家、呼びかけに訪れる同級生や担任。男手ひとつで育ててきた父親は来た人々にお茶とかごはんを勧める。断られても、しつこく。

ほぼ同じ時代の三つの場所で母・長女・次女を設定した物語だけれど、序盤はそれを伏せてバラバラに語り始めます。細かなシーンを時間軸を曖昧にしながらも、それぞれの人物の要素、関係などを積み重ねていくことで、三人の女性と周りの人々の関係が見えてくるのです。妊娠、同性愛の長女、実はいじめられてないし何なら裏SNSでは人気者の側なのに登校できず同級生や担任が扉の前で語りかけられる次女、家を出て、暮らすためにパートで働く母親という三人の物語が強固な柱。

細かくシーンを区切ることで、その周囲の人々の位置付けが見えてくるのが楽しい。たとえば、人を傷つけたことがないと一点の曇りもなく断言する若い会社員だったり、裏SNSで人を絶妙に渾名をつけていて人気がある不登校の女子高生と友だちや担任との微妙な距離感だったり、再会したかつてのレディースの仲間たちのそれぞれの人生だったりと、実に絶妙で細やかに描き出します。

同性愛のカップルで子供が欲しいと思った女が企んだことという物語の一つのキーは、当事者の現実がそうだったとしても、周りからみえる「事実」とは飲み込みづらくなってしまいそうなところを絶妙に説得力を持つのは作家のちからだと思うワタシです。この話と母親と娘たちという関係で成立する物語をさらに、不登校の女子高生が一般的にありがちなイジメとは別の感情ゆえにそうなってしまったことや、人の美醜を渾名にすることの名手というありかただったり、あるいは教師がこうなってしまうと研修うけなきゃいけない辛さとか、あるいはいつのまにか結婚にこぎ着けるまあまあ中年二人、偏差値は高いのに人を傷つけたことがないと言い切れるある種のサイコパスの若者だったりと、てんこ盛りの関係の多さは物語の主題を一つに絞るよりもさまざまな人々が生きている今を細やかに描き出す深みを感じるのです。

母を演じた松本紀保、やけにレディース総長に説得力。父を演じた依乃王里は見ていて気が狂いそうになるぐらいにサイコパスな人物の造型の凄み。週一で通う同級生を演じた土本燈子は気弱なフォロアーという解像度の造型。担任を演じた藤田直美のあけすけな雰囲気はコミカルでありつつ切実。偏差値男を演じた鳥居功太郎もまた、苛つかされる人物だけれど、終盤の活躍が格好良く。妊娠させた男を演じた鈴木ハルニは巻き込まれたヒールという絶妙さ。妊娠した女を演じた白勢未生、一瞬現れる妹も演じることで人物の振り幅の大きさが凄い。

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2023.05.01

【芝居】「風の中の街」東京乾電池 大人のお芝居入門

2023.4.9 15:00 [CoRich]

東京乾電池劇団員によるシニア向け演劇教室の第七期生による本公演。 別役実がピッコロ劇団に書き下ろした戯曲を4キャスト構成上演。4月12日までせんがわ劇場。

リアカーを引いて街から街へと彷徨う家族。内縁関係の男女とそれぞれの連れ子と赤ん坊。男は名人ともいわれる当たり屋、身体を張っている。妻は赤ん坊を産んでそれを続けられず、いよいよ長男だがなかなか踏み出せない。

電柱と街路灯という別役実の世界観、そこにリアカーを引いた家族。ちょっと休みたいといい、ゴザを広げ、箪笥などの家財道具を広げて半ば居座る人々。街の人々は違和感持ちつつも、交通事故や赤ん坊といった要素のある種の同情によって、受け入れられると言うよりは街の人の心に忍び込むように定着していくのです。狂言回しとなる刑事が、日常に忍び込む家族の在り方を喋りながら、しかしそれを糾弾するわけでもなく、ただただ提示してみせるのです。

定まった場所ではなく、風のように流れ暮らしていく家族の在り方は現代では一般的とはいえないけれど、大金を持ち合わせてホテルに泊まりまくるというのでなければ、それぞれの街に暮らす人々との折り合いのつけかた、あるいはつかなさみたいなことが紡ぎ出されている今作、印象に残るのです。

別役実にしては登場人物が多いなと思うとなるほど、日本初の県立劇団のために書き下ろされたもので、それも初演時は阪神淡路大震災によって上演が中止になったのだといいます。ワタシはほとんど芝居見始めの頃でたぶん、ピッコロ劇団も別役実も知らない頃でした。ネットで探しあてた1996年のパンフ、なんとニフティサーブの演劇ベストテンの話題が載ってたりして、四半世紀以上を経てぐるりと一回り、勝手に感慨深い。

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