【芝居】「四兄弟」パラドックス定数
2023.3.19 15:00 [CoRich]
ロシア・ソ連の指導者を思わせるような人物を四兄弟としてしかし固有名詞には一切言及しないまま、国の存亡史を描きます。120分。3月26日までシアター風姿花伝。
父親の支配から自由を手に入れた四兄弟。長男が書き記した赤いノートの教えを広めて村を、町を、国を広げて行く。次男は力をもって支配し勝ち上がり、国を大きく、恐慌を乗り切り、個人崇拝にまで行き着く。三男は職人で、次男のさまざまを否定し、計画的に産業を興し、戦争をしないことでアイドルのように海外からの人気も博し、しかし、自分たちの世界の外の凄さに圧倒される。農業で土地を守っていた四男は、赤いノートを捨て、全体を解体しして国の形を変えていく。しかし、再び武力で押し切る次男が台頭する。
ロシア・ソ連の国の象徴するような「社会主義思想」「武力」「工業力」「農業」の四つのアイテムを特性にした四兄弟。長男は社会主義思想の父・レーニン、次男は力で粛正し独裁的な力をもち粗野なスターリン、三男は風貌で西側にも人気を集めたフルシチョフ、四男は自由経済と民主化を進めたゴルバチョフ、といった感じなことを、wikipediaとか検索(とか、流行ってるChatGPTとかで要約させたりなんかして)で調べて当てはめてみたりするのも楽しい。
ロシア・ソ連を作ってきた指導者を四兄弟に置き換えて歴史を語った、といえばそうなんだけど、むしろ国のありかたを四人に象徴させて四兄弟の物語に昇華させたつまり「国を擬人化し」「四人キャストで演じた」と感じるワタシです。なので、最後がプーチンという五人めなのではなくて、一度はなくなった赤い教えを長男がけしかけ、三男の工業力がギルドになり、次男が再び台頭して武力行使に至るといったぐあいに、これまでの国の在り方の要素をあわせもったものが今のあの国の姿なのだ、という終幕に感じられます。
ワタシに知識がないから出来ないけれど、ロシア・ソ連でなくても他の国の来し方をこの四兄弟に投影することだって、要素としてはもしかしたら可能で、それは、もしかしたら国というものの一つの在り方をもっとメタな視点で描くというすげえコトに挑もうとしているのか、と思ったりもします。とても奇妙な物語だけれど、ずっと見続けていられるものすごい牽引力があるのです。
長男を演じた小野ゆたかは、すこしナイーブでしかし長男として皆から慕われる人物の説得力。武力で押す次男を演じた西原誠吾は強権を、しかしそれが国の為だという信念がこれぽちも揺れない強烈な人物をしかし軽快に。戦争をしないアイドルという唐突な造型の三男を演じた井内勇希は、西側にも親しまれた人物を、人間臭く、印象的に。木訥に農業一筋で支えてきたけれど、全ての元になった赤いノートを捨てるという大胆な四男を演じた植村宏司は、生真面目さゆえの必死さがその時代そのものを表すよう。深刻な話題もあるけれど、語り口はあくまで軽快で、時にぼやき、時にはしゃいだりもして人間臭い造型で、物語を見続ける確かなフックになるのは、この作家の持ち味で、ワタシが彼らを積極的に見続けたいと思う原動力でもあります。
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