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2023.04.22

【芝居】「父と暮せば」Ping-Pong Base

2023.4.8 18:00 [CoRich]

ワタシは初見の井上ひさしの戯曲を、当初予定されていた演劇公演を変更してリーディング公演として。4月8日までクウネル。90分。

父と「暮らしている」女。原爆の直撃で死んだ父親だが、女の前によく現れている。図書館に勤めている女は、原爆に関する資料を集めたいという利用者の男から好意をもたれているが、多くの人が原爆で亡くなっていて自分が幸せになってはいけないと考え、男に会えないといっているが、父はその恋を応援するという。
多くの資料の置き場として女の家に置くことになり、運び込んでいるが、女は男にはもう会わないように荷物をまとめて出ようとするが、父は思い直すように言う。

広島の原爆の犠牲者とその娘の二人芝居。今作ではト書きをもう一人の役者が読んでリーディングの形式にして、パーカッションを中心とした音を付けて四人編成の上演。カミナリを大きなトタン板を鳴らすことで表現したり、ちょっとコミカルなリズムがあったりと、シンプルな劇伴だけれど、上質な空間を作ります。

幸せになってはいけないと思い込んでいる女、幸せになって欲しいの願い続ける死んだ父親。なぜそう思い込んでいるのか、なぜ助かったのかを徐々に開示していく流れで、二人きりの芝居の90分はあっという間に。助からなかった人々のある種の恨み言も折り込んでいるというのもまた、丁寧に描くのです。生きてはいるけれど幸せをねがってはいけないという閉塞感から、前を向いて生きていくことを選び取るまでの一週間、細やかにきちんと。芝居ではなくリーディングで最初に触れられたことは、井上ひさし節も含めて味わえたなぁと思ったりもするワタシです。

映画版があることに気付きました。U-nextの配信で見られるのだけれど、わりとキチンと二人芝居だなぁと思ったり。

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2023.04.16

【芝居】「SHARE'S (G・H)」視点 (アガリスクエンターテイメント+MU)

2023.3.19 19:00 [CoRich]

mu主宰のハセガワアユムによる演劇セレクト・視点によるイベント。全部は行けなかったけれど、二コマだけの二つめ。3月19日まで座・高円寺1。120分ほど。

明治には廃刀令が出されず、公式の場には帯刀が当然とされている日本。戦後は女性も手にできるようになっている。相次ぐ殺傷事件を受けて廃刀令の議論が盛んになって、両方の意見を戦わせるタウンミーティングが開かれている。日本人の心だという主張の男、刀を持つべきではないが国に廃刀を決められることに納得がいかない作家、刀剣業界の広報担当者、かつて刀で人を傷つけたが更正し講演会を続ける男、フェミニズム派のジャーナリスト、もの作りの観点で新しい刀剣を提案する技術者、刀より鎖鎌だという男、区長選を狙う元区議。「令和5年の廃刀令(杉並区会場)」(アガリスクエンターテイメント)※このあと4月末に墨田区、5月頭に豊島区あり。

100万円が欲しい市井の人々にインタビューをして、100万円配っているお金配りオジサン。五組の人々。地下アイドルのチケット買い占めをしたいシングルマザー、サブカル個人書店の起業に失敗した男、YouTubeで一時的に人気にはなったが妻が出て行ったことで更新がとまる理髪師の男、前に貰った100万円で借家を勝手に防音工事して借主の同棲相手に叱られ修繕費を狙う男、意識高く副業農家と自販機で稼ごうとする男。「変な穴(2003)」MU ( 1, 2)

「〜廃刀令」は「議論の場」を得意とするあがりすくアガリスクの新作。劇場を変えて都内三区を巡る公演の最初の開催地として。廃刀令が明治に出なかった架空の日本を舞台に。日本人の心とか業界のありかたとかのいかにも刀剣を巡る議論や、持たない女性が性被害に遭うことが多いという別の視点だったり、スマート刀剣なるもはや刀剣という形だけで武器としての意味を取り去ってしまうものまで、カオスともいっていいほどのさまざまをギュッと一つに。結論を導き出す議論の過程というよりは、対立する人々のズレ、噛み合わなさとか、意見を押し切るための無理筋などを大量に積み重ねていくことでコメディとして描くというのが作家の持ち味。

「Suicaとモバイルバッテリーとスマートウオッチの機能を併せ持つスマート刀剣」なるものを登場させています。それは技術による解決の糸口という科学技術の期待というよりは、武器としての機能をそぎ落として、邪魔になる大きなものを持たせる意味を後付けするように何の議論をしてるかを無効化させるよう。議論としての面白さというよりは、大喜利になってしまう感じでコメディとして押し切るのかと思いきや、終盤、公務員で中立を求められる司会者がそれでも語り始める、議論の発端となった児童無差別殺人の被害者との距離の近いウエットな語り口で、舞台の雰囲気を導いてるという感じではあるのです。

「変な穴」は同じタイトルの2011年作を換骨奪胎、と銘打って。大金を持つ主人とドレーなる人々をめぐる無駄な浪費を続ける人々を描いた初演とは確かに随分雰囲気が違います。SNSを通じて大金を配る男とそれに群がる人、という距離感になっていて、更には終盤でその男すらも雇われている舞台俳優で、それも解雇されると相対化してみせて、確かな視点など何もないのだ、と嘯いてみせるよう。

正直に云えば、金持ちの男(を演じた男)がともかく露悪的で空虚の「穴埋め」なのだと読み解こうとしても、なかなか乗り切れなかったワタシです。作家によるライナーノーツによれば、「関係が無い」ことをひたすら描き、「いじわるな気持ち」が積まれていくのだというのは、まさにその意図にすっぽりとハマったのです。喫煙室での会話、関係の無いものがふれ合うことが一縷の望みなんだというのは、なるほど。こんなライナーノーツも含めてが、作家の持ち味。

8団体を2つずつ、4グループに分けての上演なのは、シャッフル形態とことなり重ならずみやすい感じではあるけれど、平日だけの上演団体とか、週末祝日を含めたステージががある団体とかの偏りがあって、週末観劇者のワタシには当然コンプリートは難しく、なんとかならんかな、と思ったりも

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2023.04.11

【芝居】「四兄弟」パラドックス定数

2023.3.19 15:00 [CoRich]

ロシア・ソ連の指導者を思わせるような人物を四兄弟としてしかし固有名詞には一切言及しないまま、国の存亡史を描きます。120分。3月26日までシアター風姿花伝。

父親の支配から自由を手に入れた四兄弟。長男が書き記した赤いノートの教えを広めて村を、町を、国を広げて行く。次男は力をもって支配し勝ち上がり、国を大きく、恐慌を乗り切り、個人崇拝にまで行き着く。三男は職人で、次男のさまざまを否定し、計画的に産業を興し、戦争をしないことでアイドルのように海外からの人気も博し、しかし、自分たちの世界の外の凄さに圧倒される。農業で土地を守っていた四男は、赤いノートを捨て、全体を解体しして国の形を変えていく。しかし、再び武力で押し切る次男が台頭する。

ロシア・ソ連の国の象徴するような「社会主義思想」「武力」「工業力」「農業」の四つのアイテムを特性にした四兄弟。長男は社会主義思想の父・レーニン、次男は力で粛正し独裁的な力をもち粗野なスターリン、三男は風貌で西側にも人気を集めたフルシチョフ、四男は自由経済と民主化を進めたゴルバチョフ、といった感じなことを、wikipediaとか検索(とか、流行ってるChatGPTとかで要約させたりなんかして)で調べて当てはめてみたりするのも楽しい。

ロシア・ソ連を作ってきた指導者を四兄弟に置き換えて歴史を語った、といえばそうなんだけど、むしろ国のありかたを四人に象徴させて四兄弟の物語に昇華させたつまり「国を擬人化し」「四人キャストで演じた」と感じるワタシです。なので、最後がプーチンという五人めなのではなくて、一度はなくなった赤い教えを長男がけしかけ、三男の工業力がギルドになり、次男が再び台頭して武力行使に至るといったぐあいに、これまでの国の在り方の要素をあわせもったものが今のあの国の姿なのだ、という終幕に感じられます。

ワタシに知識がないから出来ないけれど、ロシア・ソ連でなくても他の国の来し方をこの四兄弟に投影することだって、要素としてはもしかしたら可能で、それは、もしかしたら国というものの一つの在り方をもっとメタな視点で描くというすげえコトに挑もうとしているのか、と思ったりもします。とても奇妙な物語だけれど、ずっと見続けていられるものすごい牽引力があるのです。

長男を演じた小野ゆたかは、すこしナイーブでしかし長男として皆から慕われる人物の説得力。武力で押す次男を演じた西原誠吾は強権を、しかしそれが国の為だという信念がこれぽちも揺れない強烈な人物をしかし軽快に。戦争をしないアイドルという唐突な造型の三男を演じた井内勇希は、西側にも親しまれた人物を、人間臭く、印象的に。木訥に農業一筋で支えてきたけれど、全ての元になった赤いノートを捨てるという大胆な四男を演じた植村宏司は、生真面目さゆえの必死さがその時代そのものを表すよう。深刻な話題もあるけれど、語り口はあくまで軽快で、時にぼやき、時にはしゃいだりもして人間臭い造型で、物語を見続ける確かなフックになるのは、この作家の持ち味で、ワタシが彼らを積極的に見続けたいと思う原動力でもあります。

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2023.04.10

【芝居】「SHARE'S (E・F)」視点 (やみ・あがりシアター+劇団肋骨蜜柑同好会)

2023.3.18 19:00 [CoRich]

mu主宰のハセガワアユムによる演劇セレクト・視点によるイベント。全部は行けなかったけれど、二コマだけの一つ目。3月19日まで座・高円寺1。120分ほど。

新婚夫婦、夫両親が移住したあとの実家に住んでいるが、営んでいた蕎麦屋を潰して戻ってきて同居する。姑は嫁に辛く当たり、料理を誰が作るか揉めたりする。「背に描いたシアワセ」(やみ・あがりシアター)
遊女と恋仲の大店の使用人。持ち上がった縁談を断るため受け取っていた持参金を返そうとしたが友人にいっとき貸し付けるが、逆に証文を偽っているといわれて痛めつけられてしまう。濡れ衣を着せられた男は、死を覚悟するが遊女と再会し、二人は心中を決める「恋の手本 ~曾根崎心中~(令和版)」(肋骨蜜柑同好会)

「背に〜」は、 いわゆる戦後の高度経済成長期のような雰囲気の妻と夫のホームドラマ風で始まる序盤。姑はやけに嫁に厳しく、だらりと続くホームドラマ風なのだけれど、徐々にわかるおかしいこと。本当は、祖母・息子夫婦・孫とその恋人という三世代の家族なのに、何かのきっかけで祖母=ワタシは嫁いできたばかりの孫の嫁、という「歪み」が全てに波及していることがわかります。この構造の面白さが今作の真骨頂なのです。

その中で浮かび上がる、権力勾配というか人間関係だったり、あるいはテレビを買う金とか不動産の権利書に対する拘泥が顕わになるのも、やけにリアル。関係の入れ替わりというか齟齬がコメディなのだけれど、認知症の一種ととれないこともなくて、そういう意味ではこんなにコミカルなのにワタシにとっては切実で身に迫る迫力を感じたりもして。元々の嫁と姑の関係は逆転しているというのが象徴的だけれど、子供ができなかったと嘯くワタシに、本当の息子が「あなたは子供を産んだ」と訴えるシーンがちょっと凄い。

現代の話なのに、この嫁にとっての時代は自分の新婚時代であり、花柄のポット、テレビを買う買わないの高度経済成長が織り込まれたような話から入るので、時代観があれれ、と軽く振り回されるのだけれど、思いのほか混乱しないで見られるのは情報の出し方が実に巧いのだと思うのです。四角い舞台の出入り口・ドアを実はくるくると何カ所かを使い分けているのは、どこか不安定さを感じさせているのと同時に、初演(未見)からはずいぶん短くなった上演時間にも出捌けの点で貢献しているのかもしれません。

「曾根崎心中」、実は不勉強でちゃんとは知らないワタシ。今作は徳兵衛・お初の二人を三組の男女で演じます。恋愛工学のワークショップ、という胡散臭い体裁こそ序盤に持ってくるけれど、芝居の大部分はテキストのほとんどは近松のものであり、そこに時には現代語を交え、身体表現としては現代のもので演じるという構成。所作だけでおおまかな話の流れはわかるので、テキストそのものでついていくことを諦めたとしても、物語自体はシンプルなので、近松ならいくらでもあらすじはあとから探せるわけで台詞はもはやサウンドであり音楽でありという感じにはなるけれど、じつは面白くてぐいぐいみせる迫力があるのです。それは、まったくわからない言語の映画を字幕無しでみたときに、たまたま面白いものを見つけた感じ、もっといえば子供のころのセサミストリートな感じ、というか。いろいろ応用範囲はありそうな気がします。

どちらも再演作で、もともとはもう少し長かったのでしょう。60分という括りで見せるのはある種の再編集版の試みでもあって、たとえば高校演劇の展開とか、上演の障壁を下げて機会を増やすためのバリエーションを作るという可能性を感じるのです。

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2023.04.06

【芝居】「鉄音、轟然。」M2

2023.3.12 14:00 [CoRich]

成田闘争を若い世代が描きます。90分。3月12日まで、神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI。

女性記者が三里塚闘争に参加していた男を訪れる。あの頃のこと。
降って湧いた国策としての国際空港の話。農民は土地を守るために立ち上がるが、切り崩しの条件闘争で土地を手放すものが続出するなか、 満足な教育も受けずにの場所で暮らす老婆のまわりに人が集まり、闘争の拠点の一つとなっていく。

闘争の現場、鉄パイプを組み上げた塔を舞台背面に。未だ続いてはいるけれど、あの頃の熱狂は遠くなった時代から、あの時代を見つめる物語。国と土地を守りたい農民という基本の構図、条件闘争による引き剥がし、あるいは他から来る運動家たちもさまざま。徐々に一人の老婆にピントが合っていく過程のゾクゾクとする感じ。隣の県立図書館で調べたって出てくる、大木よねという実在の人物(たとえば)。さまざまな人が彼女の人柄に惚れ酒を酌み交わし、その場で「(運動も含め)暮らしてきた」ことがわかります。

現在から見つめる二人、女は父親が国労の活動家で、元は成田闘争の一員だった男は、警官に死者が出たことで妹から諭されるように活動から離れたという立場で、微妙に当事者とは距離のある感じが巧いのです。

老婆を演じた内海詩野を初めて拝見してからもう随分経って、しかも久しぶり( 1, 2, 3, 4)。 巧い役者だとは思っていましたが、この迫力、土の上で生きているという力強さ。 面倒を見るような若い男を演じた中根道治と、かみ合うようなかみ合わないような、しかし日々を暮らしているということがしっかり判る二人のシーンが実によいのです。

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