【芝居】「橋の上で」タテヨコ企画
2023.3.11 19:00 [CoRich]
タテヨコ企画の、(多分)新作。3月12日までB1。
地方新聞社のオフィス。若い女性記者が二人の子供が殺された二十年前の事件を改めて調べる企画を立てるが所属する生活文化部向きではないとデスクは却下しようとするが、偶然訪れた元社会部記者のフリージャーナリストの女は話を聞くだけでもと後押しし、同僚たちに企画を説明する。
一つ目の事件で娘を失ったが事故として解決してしまったことが不満で目撃者を探すビラを蒔くなど地域でも浮いていたなか起きたもう一つの事件での悪目立ちすることで、実は犯人ではないかと注目を集め、やがて殺人を自供する、という事件のあらましのあと、母親の生育環境を語っていきます。役者たちは現在の新聞社オフィスに居る記者たちと、過去の事件やその周辺の人物を演じ、オフィスになったり事件現場の橋の上になって事件の核心となる娘、母、祖母にあたる役はその役だけを演じます。
事件の概要を説明している前半では過熱する報道とメディアスクラムによる混乱を描き、後半は貧しさゆえに教師からもいじめられる学生時代から意図しない妊娠・出産からシングルマザー、この田舎町、貧しさから抜け出したいという意図とは裏腹に精神的にギリギリの生活、日常的なオーバードーズの中で殺人に至るまでの追い詰められていく女の半生を描きます。120分という上演時間で、事件を起こした女を中心に据えながら、報じる側の問題とそういう状況を作り出した私たちの社会の問題の両面を濃厚な物語としてぎゅっと詰め込んで描くのは、くっきり二つに別れちゃうという感はあるものの、見応えのある一本なのです。
シングルマザーの母親・あかりの「ともだち」とクレジットされる役は少々不思議な立ち位置で、あかりが殺してしまう娘でもあり、あるいはいじめられる頃から生まれ、メディアスクラムの中ではあかりを守るように口の悪い罵声を浴びせます。追い込まれる中で生まれた自分を守るためのもう一つの人格、いわばイマジナリーパートナーだと読み取るワタシです。それゆえ敵となるものに刃向かおうとしたり、あかりを慰めたり、という存在なのだけれど、娘が生まれ、生きている間はその人格は消え、娘が亡くなると再び現れるのです。娘が生きている間は「もう一つの人格」が姿を消しているというのは一人の役者が演じるという配役ゆえに効果的で巧みなのです。
現実の事件をモチーフにして 「いまさら」過去の事件をとりあげるためかどうか、地方新聞社を舞台にとり、事件に興味を持つ記者の熱意がデジタル版とはいえ企画として採用されること、という全体を括る枠はシングルマザーに限らず女性の立場の危うさを現在の視点で描くためという意図はわかるものの、その視点ゆえに全体としては再現ドラマ二本立てのような観客の視点が遠く感じられるのは痛し痒しだなと思ったり思わなかったりするワタシです。
開幕、そして終幕の橋の上でクルマのウィンカーだけが大きく響き、娘が橋から川に落ちたその時を描いたシーンはその静けさゆえに舞台を強く印象づけるシーンになりました。
シングルマザーを演じたリサリーサは本当に追い込まれた人物を二時間演じきるのは見ているこちらすら凄いストレスの人物造型で、本当に凄みがあって、心の平穏を願うばかり。「ともだち」を演じたエレナ、少女と母親の年齢との行き来の鮮やかさ。若い記者を演じたいまい彩乃はどこか不器用なしかしまっすぐな若い人物をきっちりと。
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