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2023.03.27

【芝居】「橋の上で」タテヨコ企画

2023.3.11 19:00 [CoRich]

タテヨコ企画の、(多分)新作。3月12日までB1。

地方新聞社のオフィス。若い女性記者が二人の子供が殺された二十年前の事件を改めて調べる企画を立てるが所属する生活文化部向きではないとデスクは却下しようとするが、偶然訪れた元社会部記者のフリージャーナリストの女は話を聞くだけでもと後押しし、同僚たちに企画を説明する。

一つ目の事件で娘を失ったが事故として解決してしまったことが不満で目撃者を探すビラを蒔くなど地域でも浮いていたなか起きたもう一つの事件での悪目立ちすることで、実は犯人ではないかと注目を集め、やがて殺人を自供する、という事件のあらましのあと、母親の生育環境を語っていきます。役者たちは現在の新聞社オフィスに居る記者たちと、過去の事件やその周辺の人物を演じ、オフィスになったり事件現場の橋の上になって事件の核心となる娘、母、祖母にあたる役はその役だけを演じます。

事件の概要を説明している前半では過熱する報道とメディアスクラムによる混乱を描き、後半は貧しさゆえに教師からもいじめられる学生時代から意図しない妊娠・出産からシングルマザー、この田舎町、貧しさから抜け出したいという意図とは裏腹に精神的にギリギリの生活、日常的なオーバードーズの中で殺人に至るまでの追い詰められていく女の半生を描きます。120分という上演時間で、事件を起こした女を中心に据えながら、報じる側の問題とそういう状況を作り出した私たちの社会の問題の両面を濃厚な物語としてぎゅっと詰め込んで描くのは、くっきり二つに別れちゃうという感はあるものの、見応えのある一本なのです。

シングルマザーの母親・あかりの「ともだち」とクレジットされる役は少々不思議な立ち位置で、あかりが殺してしまう娘でもあり、あるいはいじめられる頃から生まれ、メディアスクラムの中ではあかりを守るように口の悪い罵声を浴びせます。追い込まれる中で生まれた自分を守るためのもう一つの人格、いわばイマジナリーパートナーだと読み取るワタシです。それゆえ敵となるものに刃向かおうとしたり、あかりを慰めたり、という存在なのだけれど、娘が生まれ、生きている間はその人格は消え、娘が亡くなると再び現れるのです。娘が生きている間は「もう一つの人格」が姿を消しているというのは一人の役者が演じるという配役ゆえに効果的で巧みなのです。

現実の事件をモチーフにして 「いまさら」過去の事件をとりあげるためかどうか、地方新聞社を舞台にとり、事件に興味を持つ記者の熱意がデジタル版とはいえ企画として採用されること、という全体を括る枠はシングルマザーに限らず女性の立場の危うさを現在の視点で描くためという意図はわかるものの、その視点ゆえに全体としては再現ドラマ二本立てのような観客の視点が遠く感じられるのは痛し痒しだなと思ったり思わなかったりするワタシです。

開幕、そして終幕の橋の上でクルマのウィンカーだけが大きく響き、娘が橋から川に落ちたその時を描いたシーンはその静けさゆえに舞台を強く印象づけるシーンになりました。

シングルマザーを演じたリサリーサは本当に追い込まれた人物を二時間演じきるのは見ているこちらすら凄いストレスの人物造型で、本当に凄みがあって、心の平穏を願うばかり。「ともだち」を演じたエレナ、少女と母親の年齢との行き来の鮮やかさ。若い記者を演じたいまい彩乃はどこか不器用なしかしまっすぐな若い人物をきっちりと。

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2023.03.25

【芝居】「デラシネ」鵺的

2023.3.11 14:00 [CoRich]

鵺的の新作は、人気の脚本家の家に住む弟子と師匠の物語。3月12日までシアタートップス。115分。

何本ものドラマを掛け持ちするほど人気の脚本家、実はもうあんまり掛けていなくて、弟子たちがほぼ書いている。弟子は女性ばかりで住み込みと通い、一軍と二軍を部屋で分けている。妻と娘は同居しているし、師匠のマネージャーも居る。あるいはプロデューサーや女優も出入りする。
弟子のトップは鉛筆で書き続けている。師匠は才能に惚れているが、手を出さずに抱え込みたい。新入りの弟子は作家の本が好きで初日から翔と認められこの一軍の部屋への出入りを許される。女ばかりの弟子を個人の名前でデビューするには、師匠が目をかけ、抱かれたものが優先され、デビューしている女も居る。

師匠の看板があるからテレビ局からの発注があり、暮らしていけるというパワーバランス。ドラマの脚本家は俳優やスタッフの要望をきいて手直ししていく過程で作家の描きたいことはほぼのこっていないというあるあるらしいと言うことが序盤で語られます。 プロデューサーからの新たな発注、一人で書き切ってドラマの賞を取れば(抱かれなくても)デビューさせる、という条件を出されて発憤するのです。

何があってもデビューしたいという女の想いは、自死した同僚の想いがあり、新人がわざわざここに弟子入りしたのには実は男の娘なのだとか、人々の想いを幾重にも重ねて重厚さを紡ぎます。パワーバランスに胡座をかきパワハラセクハラの限りをつくしたこのコミュニティは結局崩壊するのだけれど、しかしその終幕はもう、ほぼ任侠映画のよう(ちょっと違うか)な迫力なのです。

弟子のトップを演じた、とみやまあゆみははほぼ出ずっぱりで動きも少なく、ここに渦巻く想いを一身に集めるよう。マネージャーを演じた田中千佳子は軽さと気遣いと、あるいは自分の挫折あわせもつ人物造型をしっかり。プロデューサーを演じた川田希は業界人っぽくきりりと、しかしこの家で起きていることの理不尽を知っていても仕事のためと割り切ってしまっていたことが、最後通牒を言い渡すのもカッコイイ。男を演じた佐瀬弘幸は、パワフルな絶対権力者の姿で終始ありつつける姿、なんか凄い。妻を演じた米内山陽子の圧倒的なラスボス感はさすがに大笑いするワタシです、凄い。

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2023.03.19

【芝居】「日記」カリンカ

2023.2.26 18:30 [CoRich]

劇団普通の石黒麻衣による外部のユニット・カリンカへの書き下ろし新作。OFF OFFシアター。105分。(わりと15分ずつきっちりエピソード。組み替えられそうでもある。)

遠くに住む両親を通い介護していた妻は、便利な自分のマンションに両親を呼び寄せる。車はないが駅チカで狭いなかのやりくり。高価なマットレスを買ったり自分たちは狭い部屋で寝起きするようしたり、さまざま準備をして、気を遣って暮らし、夫の親や姉夫婦との関係でちょっと違和感があるようなないような感じをしながら、しかし大事件は起こらないまま、2ヶ月経って両親はもとの実家に戻ってしまうまでの期間を細やかに描きます。

作家が主宰する劇団で2022年4月上演した「秘密」は倒れた年老いた両親の通い介護する人々を描いた前作から茨木弁の会話劇でもあり繋がるような感じなのだけど、登場人物も役者も全く異なる別の物語。介護そのものを描いているわけではないけれど、老いていく両親、会話の微妙さ、悪意も邪心もないけれど、なんかズレを感じ違和感を感じることなど、「どこにでもある」親と子供の物語ということでもあると思うのです。

若い人々の日常の目線で描かれることの多い小劇場だけれど、この作家の近作は、介護を身近に感じるような老いた両親と子供を描くようになってきています。どうも意図的にこういう作風に着地してきているようです。茨木弁でこそないけれど、年老いた両親を観て感じるリアリティを感じるこのシリーズは身に迫るのです。日常に近いものを芝居で観たいかというと微妙ではあるのだけれど、こういうスタイルをきちんと描く芝居の存在はワタシにとってはとても貴重で愛おしさすら感じるのです。

老いた両親を演じた贈人、ザンヨウコ、夫の父親を演じた用松亮の老人造形の繊細さ。それはセリフの辻褄のあわなさだったり、指示代名詞の意味不明感、繰り返しだったり、身体、とりわけ重心の動きのリアリティなどが物語世界の強靭さをつくりあげているのです。

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2023.03.18

【芝居】「15 Minutes Made in本多劇場」Mrs.fictions

2023.2.26 [CoRich]

120分。本多劇場。舞台上には本多劇場外壁を思わせる筒状の赤い格子、劇場のロゴをあしらって。終演後に全団体が登場しての挨拶で、主催者が声を詰まらせる一瞬もエモい千穐楽。

近所の寂れた商店街で行われる綱引き大会に出場する夫婦。夫は頑張るが妻は鼻毛を抜くブラジリアンワックスが抜けず両手で隠し応援だけ。向こうに見えるのはみどりがかった人。劣勢の中、妻は離婚を切り出すと、俄然夫はがんばる「西瓜橋商店街綱引き大会」(ロロ)
インド人の友人から魔術を習おうとした男、欲があると術は使えないという。習得して、別の友人の家で魔術をみせ、いきがかかりのカードゲームでもとは恋人だった友人の妻を取り返せる可かもしれないと、欲をだして、夢から覚める。「魔術」(演劇集団キャラメルボックス)
妻のピアノ発表会に向かった男が事故に遭い死んでしまう。男の思いにほだされて、ピアノ教師の精子に生まれ変わらせれば聞けるという。「ワルツ」(ZURULABO)
校舎の屋上で会えなくなった人に会えるという伝説を聞いて、事故で亡くした兄に会いたいと友人と学校に忍び込むと兄の友人たちも来ている。兄の声が聞こえ、一人ずつ屋上にあがる。「真夜中の屋上で」(ブリーズアーツ)
踏切で立ちつくす男、とおりかかる男女。漫才の相方を探しているといい、巻き込まれる。「またコント」(オイスターズ)
主演俳優の楽屋に迷い込んだ幼いアンサンブルの女。隣に座り化粧を直し、なんか慣れていって、二人は夫婦になったり離婚したり。「上手も下手もないけれど」(Mrs.Fictions)

「〜綱引大会」は、商店街の端から端を使っての、しかし寂れた綱引き大会での対決。舞台上手・下手で互い舞台外に伸びた綱を背中合わせに引き合うことで、距離感を持たせつつカット割りのように見せる見た目の面白さ。唐突なエイリアン、唐突に切り出される離婚、それも妻が抜き続けた千円を夫が気付かないからという理不尽の波状攻撃がコミカルでペーソスのようでもあって、ちょっといい。

「魔術」は芥川龍之介の原作をもとに、3人の役者が叩くペール缶のパーカッション、語り手を代わりながら流れるように美しく。手に入れたはずの魔術は、欲から逃げられない俗物な人間ゆえにするすると手からこぼれ落ちてしまうよう。力のある役者のコンパクトなエンタメの楽しさ。

「ワルツ」は、事故で行けなかった発表会への断ち切れない想いをゴーストのように再会を叶える、という枠組みは美しそうなのに、 精子やら卵子やらの下ネタ風味に漬け込んで台無しにしてしまうというのもまた小劇場のありかた。この下ネタを維持するためにショック死などの無理筋、もっとパワーで乗り切ったらなと思ったり思わなかったり。

「〜屋上で」声優事務所の声優によるリーディング風味の演劇、という体裁。無くなった男に心残り、想いを寄せる人々、さらにはこれから生きていく若者の未来の物語であって、物語としてはごくシンプルでストレート。マイクを立ててアフレコ風に見せるので動きは制約されるところを、役者の声の力、しっかりと。ホントの中学生が混じってたりして素直にびっくり。主宰・緒方恵美のなんともいえないラスボス感というか存在も声量も段違いなパワーを体感できたのはちょっとお得な感じ。

「またコント」は、踏切を前にカバンを置きただならぬ雰囲気に声を掛ける男女、お笑いの相方を探しているという無茶振りの巻き込まれのコメディ。渋々はじめてもやがてノリノリになっていくテンポのいい会話。女はお笑い芸人を応援しようとはしていても、相方になるつもりはなくて、置き去りにして先に進んでる罪悪感からという距離感が絶妙。15分ぐらいだとコントの味付けはよく合うということがわかります。

「上手も〜」はこの劇団のマスターピースとも云える手慣れた一本。大舞台だからこそ手堅く持ってきたのは正解で、締めをきっちり。(1, 2) 役者と若い駆け出しの女優という2人の物語を結婚生活に置き換えるあざやかなグラデーション。ちょっと欧米ドラマ風の癖のあるセリフにするのも、微妙に客観視点になるよう。記憶は曖昧だけど、キスをイヤだとはっきり断り、共演者に手を出しまくるクズ男と断じる下り、いままであったかしら。バージョンアップなら時代にきちんと寄り添ってるし、もともとこうだったなら、時代のちょっと先を行ってたんだなと思ったりするワタシです。しかし掛けられている衣装に特攻服(しかも「時間堂上等」だ)が混じるのはどんな芝居なんだ。

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2023.03.12

【芝居】「Bug」serial number

2023.2.19 16:30 [CoRich]

去年11月に予定されていた公演が(クオリティを理由として)中止となり、キャストを一新しての上演。2月19日までサンモールスタジオ。120分。

パーティに行く女友達が男を連れてきた。男はパーティに行かず、この家にとどまる。女の元夫が仮釈放で出てきて来ることに怯えている女は男を泊めるが何事もなく一夜をすごす。果たして、元夫が現れ暴力をふるい、金を持って出ていく。戻ってきた男にここに居てほしいと願い、暮らし始めるが、男が虫に刺されたと騒ぎ出すが、女友達には見えていないし、連れて行かれた医師は自傷と診断するが、一緒に暮らす女は殺虫剤、殺虫灯などを持ち込む男と暮らし続ける。男は軍隊にいて研究で人をコントロールする機械を受け付けられ、それが虫になのだという。女には息子が居たが、9年前に突然消えたのは、軍の研究でその息子から虫を作ったのだという。医者を名乗る男を指して殺してしまうが、このままでは人類が危機を迎えると考えた二人はガソリンを撒き、火を放つ。

偶然に出会った男女、女は元夫の暴力から身を護るために男を必要とし、男に絡め取られるようにいわゆる陰謀論に堕ちていく物語。息子の体から作られた虫という荒唐無稽をそれまでの会話から巧みに組み立てたり、自分は軍隊からのというそれっぽい話だったり。ふたりきりの部屋の中はエコーチェンバーのように互いに作り上げていく二人の「物語」は共鳴を超えてハウリングを起こす終盤は単なる観客であるはずのワタシすら気が狂いそうになる圧巻なのです。

医師と称して訪れる男は刺されて死んでいるのに、ずっとガムを噛み続けているのが本当に違和感があるのだけれど、この演出家が意図せずそれを描くわけはなく、理由を考えるワタシです。これは(悪)夢なのか、時間軸が狂っているのか。終幕を観ていて気が狂いそうになるワタシに正気を保たせてくれたのは、この綻びに見える一点があったから、と考えたり、つらつらと。

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2023.03.05

【芝居】「Auld Lang Syne」渡辺源四郎商店

2023.2.19 11:00 [CoRich]

なべげんが上演を続ける青函連絡船の物語(1)、ワタシは一本しか観られてないけれど、シーズン4と題して、最も古い時代の比羅夫丸、田村丸の物語。「蛍の光」の原曲となるスコットランド民謡「Auld Lang Syne」をタイトルに。

スコットランドで建造された2つのタービン船・比羅夫丸と田村丸は国力を増す時代、北海道の石炭を運ぶために最新鋭の技術で当時日本最速を誇り青森函館を4時間で結んでいた。

列強に勝つために、あるいは勝ったりしたために、燃料となる石炭、人の往来を担うための連絡船は二隻ではじまり、傭船を入れ替えながら、ロシア船も傭船として使いながら、どんどん運ぶために増やしていく時代を描きます。日本の姿が変わっていく時代をたった五人の女優が描きます。

平和を望んで生まれてきた船、ではあるのだけど思えばスタートからきな臭い物語なのです。なんぜ、北の異民族を征伐した阿倍比羅夫、坂上田村麻呂にあやかった船名だったり、軍艦から転用したり、敵国の沈めた船を転用したりと工夫と準備不足のバタバタと、しかし国の形をこう変える、という為政者の意図は、青函連絡船の出航に使われた「蛍の光」の3番4番もきな臭く。さまざまな要素を編み合わせるのです。

前も書いた気がするけれど、福岡のギンギラ太陽'sを思い出すワタシ、モノ語りをする二つの劇団、いつかどこかで共演して欲しいと思ったり。

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【芝居】「嵐風呂滑郎一座」おのまさしあたあ

2023.2.17 19:30 [CoRich]

去年初日だけで終演してしまった作品をスピード再演。1h20。2月19日まで神奈川新町駅近く、横浜ベイサイドスタジオ。
記憶が曖昧になりがちなワタシですが、初演から序盤の雰囲気は随分と変わったと感じます。初演では外連に溢れていた気がするのだけれど、今作はずっと落ち着いています。一人芝居は観客のテンションをどれだけ維持し続けられるかが勝負だと思うのだけれど、初演では傾いてテンションを維持する糸だった演出でしたが、再演ではずいぶんと落ち着いています。静かなままでもイケると演出が観客を信じたのでしょう、と思うワタシです。

座らせらせることで固定できて人数をたくさん出せる人形は初演に引き続き。終幕、孤独で自閉した男の独り言は同じ着地。断然支持しちゃうワタシです。ラストの曲を変えたらしいのだけど、記憶がザルなワタシは覚えてないw。

去年末の「贋作・テンペスト」が見やすかったのは、これの初演があったから、かなと思ったりも。

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