【芝居】「恥ずかしくない人生」艶∞ポリス
2023.1.15 17:00 [CoRich]
主演女優が怪我で降板という中、二人の代演をたてて走りきった95分。1月15日までシアターTOPS。
女子留置場の留置担当の部長と、副所長は不倫を続けている。留置担当官たちは、いい歳をして声優の夢をキラキラと語っていたり、刑事になりたすぎていろいろ行き過ぎたり、同僚からの圧力をうまくかわせなかったりとそれぞれ。
ある日、姑を刺したとして、新たな留置者がやってくる。部長とは幼馴染だった。面会に訪れる夫は芸術家を名乗るが仕事も家事もしておらず、勝手なことを言ってたりする。
幼馴染の二人、独身だったり結婚してたりと思えば遠くに来たものだという時間の流れはありつつ、そこそこに仲が良いと思っていた片思いに近い非対称な関係。部長の方は仕事をここまでこなすようになるけれど、だらしない不倫を続けているし、怒らないという特性はアンガーマネジメントのスキルというよりは、父親からの怒らないようにと半ば呪いをこの歳になっても持ち続けているということ。いっぽうの刺した女の方はマザコン夫とその母のわがまま放題で言葉も思い込みもひどく、何をやっても怒らないと舐められ耐え忍ぶ人物という造型。
恋を逃してまでバリバリのキャリアで生き続けてきた女と、結婚し家庭に入った女という両極端であっても、自分のしたいことをしたいと言い出せない呪縛の中で生き続けてこの歳に。いらつく言動を続けるマザコン夫を殴ったのは幼なじみで、その夫が答えられなかった「妻の好きなもの」をこの部長は知っていて。何でも出来るはずだったあの頃に戻るような安心感と爽快感。実際の問題は実のところ明確に解決されるわけではないけれど、あの時には確かに持っていた何かを認識できたのだ、ということが一歩になるのだと思うワタシです。途中挟まれる女たちのラップバトル的なシーンはミュージカルのような心情の吐露で圧巻の迫力だけれど、描かれているのは結局のところ彼女たちの閉塞感のバリエーションで、女たちがみな持っている何かを広く敷衍する感じがします。
留置担当官や留置者たちもまた一癖も二癖も。自分のキャリアを手に入れたいがために人を陥れることに躊躇がなったり、いい歳をしてもなお夢を追い求めるある種のイタサを包み隠さず持っていられる強さだったり。この声優の夢のオーディション費用がまあまあ盗られる怪しさとか、金をせびっていると見せかけての借金という逆転もちょっとほろ苦く面白く。 歯の絵を描く不器用な留置者、実は知る人ぞ知るアーティストってのも、なんか今っぽくてちょっと面白い。
代役として部長を演じきった関絵里子の生真面目な造型、元々の今藤洋子や前半の代役となった異儀田夏葉それぞれのバリエーションはちょっと見たかった気も。幼なじみを演じた小林きな子の穏やかにみえて見え隠れする秘めた強さ。再犯を繰り返す留置者を演じた徳橋みのりの直情でヤンキー風情も面白く、マザコン夫を演じた近江谷太朗は自覚のない横暴さ、穏やかなのに観客を苛つかせるすごい力。
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