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2023.02.12

【芝居】「エンケラドスの水」あひるなんちゃら

2023.1.22 14:00 [CoRich]

あひるなんちゃら、久しぶりに劇場で上演する新作。75分。駅前劇場の有観客、千穐楽。

夫婦の家に遊びに来た女にかかってきた電話。よくわからないけれどノーベル賞がもらえるのだという。妻と女はスウェーデンに旅行することを決めてしまう。女が勤めている研究室の先生はノーベル賞がほしすぎて像のフィギュアを飾ったりしているが、女の同僚のアルバイトがシフトの相談からの勢いで嘘をついてしまったことは言い出せない。先生はやっぱりスウェーデンに行って裏ノーベル財団の陰謀を暴こうと思っている。

夫婦の家、研究室の先生とアルバイトたちの二箇所をベースに、スウェーデンの旅先を織り交ぜながら。

研究室でアルバイトこそしてるけどノーベル賞受賞するような人ではない女に降り掛かってきた受賞の誘いの怪しさの序盤から、それにホイホイと乗ってしまうある種の軽さが作家の持ち味と感じるワタシです。あるいは、土星の惑星・エンケラドスに生命の起源を探求する研究者が、ノーベル賞が欲しくてしょうがないという俗な感じはワタシに地続きな感じで楽しい。空港で先生とアルバイトの女がすれ違うのをいちいち画的に止めてみせるベタな感じも。

作家の個人企画で続いていた宇宙を巡る物語を劇団公演の中央に据えたのは初めてだったかどうか記憶が怪しいワタシですが、ノーベル賞のために訪れたスウェーデンで見るオーロラとか、探査機を送り込まずに視覚などの間接的な手段で宇宙を研究する意義などそこかしこにロマンが見え隠れするのもちょっといいのです。

終盤、観測数値に新しい傾向をみつけたアルバイト、先生に言わずに論文出しちゃうかと企んだりするけれど、今の生活が続いていればそれでいい、というところから、終幕に夫婦の家を再訪した女が、2年で人類は進歩した(マスクは要らないぐらいに)という今のワタシたちに直結させ、さらには序盤での「飲み物飲むのが面倒くさい」ということもコップも含めてマイムだからマスクもモノ無しで演じていたのだということが解決する巧みさに舌を巻くのです。

ノーベル賞を貰えると言われた女を演じた篠本美帆のそのまま信じて歩いてしまうある種のパワー。アルバイトの女二人を演じた石澤美和、松木美路子のホントにコミカルで小気味いい空気。夫婦を演じた根津茂尚とワタナベミノリの困らせられる感じもちょっといい。 今作においては、とりわけ先生を演じた杉木隆幸はごく生真面目なのに、どこか抜けてるとうかズレてるという研究者っぽさの間合いと説得力が抜群なのです。

この劇団の前説は作演が自ら行うのだけれど、携帯電話を止めなくていい、笑ってもいい、みたいな緩さを客席に醸成させるのがホントにうまくて、千穐楽では電話がなっても他の客も気にしないでおだやかにいこう、というマインドセットが功を奏していて、上演中ロビーから聞こえた子供のわりと大きな声もおだやかで居られるワタシです。全ての芝居がこの手を使えるわけではないけれど、少なくとも今作においては、そういうハプニングから結果として芝居空間を守ってる強さを信頼するワタシです。 -

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