【芝居】「生活と革命」マチルダアパルトマン
2023.2.11 18:00 [CoRich]
短編で紡ぐ105分。2月12日までOFF OFFシアター。
母親の葬式後、介護のために帰郷していた妹と、同居していた兄が帰宅する。葬式に参列し目立っていたアジア人女性と結婚を考えている兄、妹は東京に戻らず外国で働こうと考えている。「ふやけたヌードル」
男が死んでいる部屋で鉢合わせする二人の女性。殺したのはどちらか。付き合って2年目、8年目でマウント取り合うなか、もう一人。「のがしたフィッシュ」
男が友人を自宅に呼ぶ。キオスク店員を密かに慕い二人きりでファンクラブを作って見守ってきたが、抜けるのだという。偶然その店員に出逢って結婚することになったという。「ひみつのキヨスク」
クラブで出会い転がり込んで暮らし半年経った女が部屋を出て行くという。実は富山で結婚していて夫が遠洋漁業から戻るのだという「つらなるワンナイト」
田舎に帰るからネコを飼ってくれないかと友人に頼むが、自分は飼えないが、心当たりがあるといい聞いてみる。が、その人も自分では飼えないから心当たりをあたるといい「めぐるキャット」
互いには繋がりがなさそうな20分ほどの短編のオムニバス。
「~ヌードル」は田舎の町でくすぶる兄の外国人との結婚を機に、妹は国外に出る自分の姿をその婚約者に重ね「異国で暮らすこと」の厳しさを改めて感じとり、兄はこの土地を出たこともない今までの生活だけれど、その妹を訪ねたり新婚旅行で世界を広げてみようと思い立つという、兄妹の次の人生のステップという未来を感じさせる物語。静かな語り口だけれど、人物の厚みが滲むよう。妹を演じた松本みゆきは広がる前向き、兄を演じた坂本七秋は初めて世界を広がる覚悟の解像度。
「~フィッシュ」はエキセントリックな血まみれの死体と、女二人のあわや修羅場。恋人の取り合いというよりはマウントの取り合い、で会話を進めるうちになぜかババ抜きをする展開で落ち着いてしまう二人。血まみれで現れてあきらかに殺したのはこいつなんだけど、そこには目もくれず、二股が三つ股になっただけかのように、ババ抜きに取り込んでしまうのは、何が問題で何が混乱で何が勝ち負けかがわからず、ぼやけていく感じが楽しい。正直、若い女優二人の区別がつかないワタシ(歳取って加速してます)ですが、ある種のキャットファイトを安全な場所から眺める楽しさのような、すみません。
「~キヨスク」人知れず何かを尊く思うファンクラブという「あそび」。買い物はしたとしても直接はコンタクトしないのがもちろん暗黙のルールなんだけど、出逢ってしまって、恋に落ちて結婚まで至ってしまうという偶然だってあり得ないわけではなくて。置いてきぼりを喰らった男にとっちゃ絶望ですらあるけれど、彼がいたこのテンションだからこそ、二人がいままで口にしてこなかった結婚に踏み出せたともいえなくもないわけで。抜けることを決めた男を演じた葛生大雅は前半の男友達との会話と後半の彼女(松本みゆき)との会話のコントラスト。ある意味裏切られた男を演じられた久間健裕、滲む悔しさのパワー。
「~ワンナイト」わりと女にだらしない男だけれど、転がり込んで来た女と暮らすうちにちょっと真剣になりかけたところであっさりと去ろうとする女。最初のだらしなさから、行きずりのワンナイトを繰り返しているだけだと思っていた女と、ワンナイトではなくなって心寄せはじめてしまっている男のズレの楽しさ。遠洋漁業の夫が居ない隙のアバンチュールというのはなかなか強引だけどヤケに説得力がある感じ。
去る女を演じた小久音の決心の力強さ、男を演じる大垣友はこういう軽さがとても似合うと思うのはワタシの偏見か。
「~キャット」ネコを引き取ってくれる友だちの友だちを探してスクロールするように連なっていって、ぐるりと最初に戻る、というのはまあ早々に予想出来るところだけれど、フラれた男が思っていた女が飼っていたネコが来るのだという着地はちょっと面白い。この二人は再会するんだろうかどうだろうか。途中も、片想いや転職で離れるとか、寂しい女の一人暮らしとか、ネコを飼いそうな、シチュエーションのカットバックはちょっといい。
まさにアラカルト的に場面も関係も時間軸もバラバラなスマートで軽やかな5本は気楽に見られるけれど、何か裏テーマ的なものは有るのかしら。演出をそれぞれの役者が担うということのバラエティは楽しい。
最近のコメント