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2023.01.28

【芝居】「エゴ/エバ」酔ひどれ船

2023.1.7 18:00 [CoRich]

西嶋咲紀による個人企画による「企み事」の二回目。ワタシは初見の劇団です。1月9日まで、絵空箱。80分。

三人姉妹の長女と三女は両親がおらず、叔父が同居している。長女と同じ介護施設で働く叔父は、ある日出勤を渋るが理由を答えない。次女は家を出ていた次女が帰ってくる。

絵空箱のバーカウンター側を舞台に、ダイニングキッチンのカウンターを模した形は珍しい。まだ三人とも結婚していないと思われる三人姉妹、介護施設で働き生真面目な長女、次女は家を出ていて、会社勤めをしているが水商売もしていてある日酔ってこの家に戻ってくる。三女は仕事はしているらしいけれど、パソコンばかりしているという造形。

三人姉妹がそれぞれの生き方を模索しながら生きている、という家族の物語。親は居なくなっていて叔父さんが同居しているという設定は三人姉妹と叔父さんの距離感がうまく醸される設定で巧い。長女が恋心を抱いている同僚から叔父さんがいじめられている、というのが物語の幹になるけれど、正直に云えばこの一つの幹が三人姉妹全体には波及せず、それぞれの悩みや考え方を持っている、ということにとどまるのは惜しい感じがします。

居なくなった母親の不倫や水商売が許せないという三女を軸にのもう一つ物語。次女が三人とも子供を育てていないと指摘するのは水商売をダブルワークでやっているがために見えるという視点で、あるいはもう少しそもそも年上だったから母親の生き方に寄り添うような対比軸になっていて、それゆえに三女もかつて母親が学校に呼び出されたあとに、パピコを分けてくれた思い出が蘇ったりと距離感の変化がここからの前向きを予感させるのです。

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2023.01.22

【芝居】「すずめのなみだだん!」やみ・あがりシアター

2023.1.7 14:00 [CoRich]

2017年初演作、劇団の再演希望アンケートで1位という触れ込みの100分。ワタシは初見です。1月8日まで駅前劇場。

「横の声は聞かず、ダダンの縦の声を地面から聞く」教えを忠実に守り世間から隔絶して暮らす人々。その教えを広める期待を背負って若い二人が郷里を離れて人里へおりていく。

途中で離ればなれとなった二人の一人は、靴職人の家に住むことになる。地面の音を聞くために靴を履くのを嫌がりダダンの教えを守りながら通う定時制の学校にはさまざまな人が居る。そんな日々のなか、久しぶりに再会したもう一人はマッサージ師として働きむしろ地面から離れたいと考えている。

大勢で足踏みならす序盤の圧巻、そして一人足を踏みならし続ける力強さを通奏しつつ、 隔絶されある宗教を信じてくらす人々の中から、いわゆる私たちに近い価値観の現在の世界にやってきたことで巻き起こす物語。クリスチャンとその子供の関係なども交えていて、初演がどうだったかわからないけれど、宗教二世という「問題」が通奏低音のように流れていると感じるワタシです。

隔絶されている宗教、横の声とは人の意見、縦の声とは過去の人々つまり自分で考えるという教えなのだけどあとになって、その実、考えを口にすることで人々が考えをすり合わせて落ち着き処に着地するという説明が見事で、一人になったすーちゃんにダダンの声は聞こえず不安になる、ということの説得力。もう一人は閉鎖された宗教的集団の中でネットを通じて外の世界を知り得たからここから抜け出したいと思うというのも、昨今の宗教二世に通じる感覚なのです。

ひたすらに明るくまっすぐであるヒロインは、工事現場でキツイ仕事をする若者だったり半笑いで軽薄に生きているように見える若者、若くして妊娠する女、友だちが居なくて帰りたいといい続ける女、子供のために手に職を付けたい女などさまざまな人々を巻き込み、郷里が無くなってしまった彼女はこのコミュニティの中で生きていくことを決めるのです。終幕、若者が作ってくれた靴を履くシーンがとても象徴的。

ヒロインを演じた土本燈子は裸足のままで演じ続ける底ぢからと、人々を巻き込む説得力。もう一人郷里を出てきた女を演じた加藤睦望はその逆にひっそりと、郷里を忘れて生きていきたいがゆえにさっさと靴を履きこちら側で生きているリアリティ。ヤンキーだけど簿記を勉強したい女を演じた星秀美の生きる力、マッサージに通う男を演じたふじおあつやの斜に構えるけれど人に向き合う感じ、帰りたいといいつづける女を演じた小林桃香の生きづらさの解像度が印象に残ります。

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2023.01.19

2022年は75本でした。

気がつけば新年明けて二週間以上。感想書くのどんどん遅くなり。あけましておめでとうございます。

2021年は52本でしたから、少しは増えている感じはあるし、まつもと演劇祭など遠征もぼちぼち。でもまあ、コレぐらいのペースがいいのだろうと思いつつ。

映画館で見た映画はアニメ特撮ばかりたったの3本「サンダーバードGoGo」「シン・ウルトラマン」「ククルス・ドアンの島」。

テレビでわりと楽しんで見てたドラマシリーズは「エルピス」「水星の魔女」「ドンブラザーズ」まさかこの歳で日曜朝の戦隊モノにハマるとは。濃密すぎて楽しくて。

配信系では「FATHER」(認知症、身近ゆえに)、「スペースフォース」(SFコメディドラマシリーズ、楽しい)、「SNS-少女達の10日間」「レディープレイヤーワン」(遅まきながら)、「ドライブ・マイ・カー」「天国と地獄」(古めの邦画、迫力がすごい)、「ドクターフーシリーズ」(これも今更、U-next配信分だけ)

今年もよろしくお願いいたします。

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【芝居】「gaku-GAY-kai 2022 贋作・テンペスト」フライングステージ

2022.12.30 14:00 [CoRich]

フライングステージの年末恒例企画。70分の演劇「贋作・テンペスト」の前半と、さまざまな余興的バラエティの後半を組み合わせて2時間半ほど。12月30日までシアターミラクル。

第一部「贋作・テンペスト」
女装を理由に新宿を追い出された男は孤島にたどりつき女装の道を選び美しく育っている。 新宿の王と渋谷の王は旅の途中、嵐で船が難破して、この島に別々にたどりつく。渋谷の王子は女装の男に恋をする。
第二部

  • 「佐藤達のかみしばい 僕の話をきいてください」佐藤達
  • 「ドラァグクイーンクイーンストーリータイム のばら 小川未明」関根信一
  • 「水月モニカのクイアリーディング 超訳サロメ」水月モニカ
  • 「小夜子なりきりショウ リヴァイタル:メテオール」モイラ
  • 「中森夏奈子のスパンコール・チャイナイト vol.14」中森夏奈子
  • 「今年もアタシ、第二部で何かやろうかねぇ」エスムラルダ

年末の風物詩、いつもの楽しみ。「~テンペスト」は贋作として、新宿という土地、恋する男女を男と「女装」で組みあわせて、しかしコンパクトにまとめられているとはいえ、わりとキッチリとテンペスト。魔法の杖を置くのが百恵ちゃんぽかったり、孤島だった場所が地続きとなり新宿二丁目になる、なんてあたりの洒落っ気も楽しい。

「~かみしばい」ももうすっかり定着の一本。年末のビッグニュースがあっても特に触れることはなく、しかし皆その祝福ムードで温かく。五反田駅前のポストで助けてくれた郵便のおじさんの恩返しをしたいたぬきのはなし、ほっこり。
「ドラァグクイーン~」は小川未明「のばら」(青空文庫)大国と小国の国境に居るそれぞれの国の兵士の物語、ロシア・ウクライナのいまだからこそ。
「クイアリーディング」はサロメ、コンパクトに。
「小夜子~」の妖艶でスローでタイトなダンス。
「チャイナイト」は定着の明菜ネタだけれど、ご本人の露出少なめでも、毎年観られる嬉しさと歌唱力の迫力と。
「今年もアタシ~」曲に会わせてのフリがちょっと怖かったりと楽しめるし、ジャグリングやって、そしてラストナンバー「エスムラルダでマンボ」で大団円。

年末たった二日の公演、なかなか行けるかどうかが綱渡りの昨今の私だけれど、今年も拝見出来た嬉しさ、観劇納め。

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2023.01.12

【芝居】「RAIN~改訂版~」螺旋階段

2022.12.24 18:00 [CoRich]

16年前の旗揚げ公演を改定しての再演とのこと。ワタシは初見です。12月25日まで小田原市生涯学習センターけやき。105分。

2006年の探偵事務所。夫の浮気を疑う妻が探偵の依頼に訪れたりしている。その事務所にやってきた男は、自転車で恋人の元に向かう途中で気がついたら自分の居た1976年からこの時代にタイムスリップしてきたという。超高速で自転車を走らせ元の時代に送り返しても、すぐ男は戻ってきてしまう。浮気を疑われた夫は、両親亡きあと結婚することもなく育ててくれた伯母が病気で先が長くないことを妻に隠していた。

タイムスリップして消えてしまった男を待ち続けた恋人は独身のまま歳を重ねていて、その寿命も尽きかけようとしているときに待ち続けた恋人が若いまま現れ再会する、という物語は二つの時代を超えたクリスマスらしいファンタジー色の強いラブロマンス。振り返ってみれば、このシンプルで太い物語にきちんと収束するように、浮気を巡る話、養子をとって育てた独身の女、あるいはマセラティを駆るライバルの粋な探偵、わりとやりたい放題の大家など、緻密に組み合わされた人物も魅力的で見応えがある一本だし、バック・トゥ・ザ・フューチャー風味のタイムスリップや、きっちりボンネットを再現した高級外車みたいな外連も楽しいのです。

探偵よりも年上の探偵助手を演じた露木幹也は落ち着き、時にコミカル。やりたい放題の大家を演じた岡本みゆきの軽快なコミカルと会わせて物語にリズムを。ライバル探偵を演じた水野琢磨はキメてもどこか三枚目風味の楽しさ。待つ女を演じた田代真佐美と「時をかける中年」を演じた緑慎一郎は、ひたすらシリアスラインであり続けるラブストーリーの要をしっかり。実は男はタイムスリップではなく、亡くなっているのだという終幕は悲しいけれど、きっちりクリスマスらしく。

公共ホールではわりとありがちな広い客席の劇場だけれど、客席の場所をぎゅっと狭くしてすくなくとも濃密な空間を作り出すのはとてもいいアイディアで、三鷹市芸術文化センター星のホールの手法でよく知られるけれど、もっと使われていい方法だと思います。

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2023.01.08

【芝居】「パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。」趣向

2022.12.24 11:00 [CoRich]

コロナ禍で書かれた2021年作を再演。ワタシは初見です。東京の風姿花伝での上演は12月25日まで、兵庫での公演は中止に。

コロナ禍で家に集まり、戯曲「人形の家」「三月の5日間」「サロメ」を持ち寄り、読み合わせをする人々。描かれた登場人物を共感したり糞だといったりしあう。友だちを連れてきたりして続ける。

読み合わせをきっかけに、再び繋がって集う人々、コロナ禍関係無くそもそも生きづらい人も混じっている。サロメの登場人物、ヨカナーンを(戯曲で読み合わせして)「支援団体の人みたい、説教するし」という台詞が秀逸で、もちろんそれぞれの立場ではあるけれど、彼らがそう思っていることをこの場所だから云える場所。むしろ肩寄せ合わない、踏み込まない、さらりとした人物。心地よい居場所ともちょっと違うある種の緊張感を持った人々が集える場所の重要さを端的に描くのです。

登場人物の名前はアルファ、ベータと名付けられていて、当日パンフには、一言で人物の見た目(髪の色や髪型、着てるモノなど)が書かれているのが記憶力ザルのワタシにはありがたい。ひたすら明るいピンクの髪の女性(アルファ)を演じた三澤さきは、性的虐待の過去を内包する強いコントラストが明暗を繊細に。安らげない家を出て一人暮らしを始めた女性(デルタ)を演じたKAKAZUはすらりと背が高く、裕福な家をわざわざ出て行きたい理由の襞。しかし手作り4品、冷食NGとか有るかも知れない現在の問題もきちんと。正義が時に暴走するおかっぱ頭(オメガ)を演じた大川翔子、決して大きくはない背丈で飛びかかるような勢いに驚くワタシです。もうずいぶん長いこと拝見してる役者の安心感。ワタシが勝手に作家を投影する主催者を演じた伊藤昌子(イプシロン)、物語の中では全体を包み込むような存在なのに、彼女もまた不完全だったり何かが欠落している造型の人物を描くのが作家、自分にも容赦がない(と勝手に思うワタシ)。

生きづらいこと、生きていくことを耐える、ということ。パンは生物として生き、バラは心で生きるというタイトルに戻る終幕。 ワタシの観た回は更に手話通訳者が3名舞台の上で登場人物に混じり、手話をしながら、という演出は、さまざまな人々が集う場所、というこの物語の説得力。

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2023.01.06

【芝居】「秒で飛び立つハミングバード」かるがも団地

2022.12.18 17:00 [CoRich]

かるがも団地の新作は、20代後半の男女が燃え尽きたり迷ったりの110分。OFF OFFシアター千穐楽。

倉庫でアルバイトしている男はアスリートとして大成できず燃え尽きている。鳥が好きすぎる教員の女はいろいろ不器用。二人は同棲を始めたカップルの引っ越しの手伝いで出逢う。カップルの男は会社員だがわりと職場で使われないと思われがちで自己肯定感が上がらない。女は歯科医で順風満帆に来たがルーチンにはまり何かを変えるなら最後だと思っている。倉庫のアルバイトの同僚には寿退社と言ったのに仕事を続けて居づらい女がいたりするし、教員の女が勤める中学には目標とする先輩が居たが休職している。教員の新人の男は何かと気にしていてドライブに誘うが、なぜか倉庫アルバイトの男とかたくさんついてくる。

周囲には後輩の世代、先輩の世代などを配して奥行きを持たせつつ、社会に出て何かの立場になったり、何かを失ったり、何者にもなれていなかったりという20代後半の人々を中心に描きます。カップルは出てくるしほのかな恋心がコミカルに描かれたりはするけれど、基本的には自分の来し方と処し方を迷ったり考えたり不安になったりというそれぞれを描くのです。

女性教師を演じた柿原寛子、不器用に一所懸命だけれど、鳥となると軽快で前のめりのパワーのコントラストの人物像。倉庫で働く男を演じた袖山駿は燃え尽きた男のレジリエンスの力強い造形。カップルの女を演じた武田紗保はハイスペの充実してる中でもルーチンというこの物語の中では孤高の強さ。その恋人を演じた大嵜逸生は自己肯定感低めだけれど、部活の先輩とのわちゃわちゃ楽しい会話の雰囲気が楽しい。一年目の教師を演じた家入健都は先輩に憧れる感じ、困ったことになっても受け入れちゃう若いゆえの柔軟さ。元同僚の先輩教師を演じた一嶋琉衣は不器用な女教師が目標とする少し上の存在の説得力。倉庫バイトの同僚を演じた助川紗和子、凛としてすらりとカッコよい立ち姿と声質、ヨガ講師の説得力。「森羅万象」を演じた宮野風紗音の軽やかなコミカル、大家から歯科医院の院長まで自在に、物語というよりは舞台のリズムを作る確かな存在という稀有な役者。

日本にいないハチドリを見つけた、という大団円かに見せてアウトな大家、という終幕がクスリと、楽しい。

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