【芝居】「うたかた」studio salt
2022.11.19 13:00 [CoRich]
スタジオソルトの新作、絵画などアートとのコラボレーションを謳う105分。11/23まで溝ノ口劇場。
カフェで落ち合う三姉妹、長女は母と同居し介護、次女は妊娠しているが恋人は介護施設補助で稼ぎは少ない、三女はバンドマンの40男に半ば貢いでいて昼も夜も働いている。長女は結婚も彼氏もないけれど、初めて結婚してもいいと思う推しが出来たので、年末のカウントダウンイベントの為に韓国に行きたいので、妹たちに支えて欲しいという。(「水たまりは明日消えるだろう」銅版画:オバタクミ)
保険プランナーの男は、作曲と飲食店バイトをしている男との結婚を決めて、久しぶりに弟に紹介する。障害者支援施設のパン屋の店長をしている。(「マスクメロン」切り絵:久保修)
三姉妹の妊娠中の次女、父となる男と一緒に、その母親に会う。子供の頃のネグレクトで祖母に育てられその後施設を経て通信制大学に通う。母親は気さくで盛り上がるが、男は想うところがある。(「わたしはたまご」イラストレーション:はかたてつや)
その二年後、結婚を決めた二人、みんなが集まる(「ミモザ」油彩:浅生田光司)
舞台奥に大きなLEDスクリーン、それぞれの物語ごとに絵画を背景に敷いて芝居が進みます。
「水たまり〜」はそこそこの年齢の女たち、それぞれに問題があって、独身で介護を一人で担う長女、男が稼げない次女三女。長女がほぼ初めて持った「希望」はアイドルの追っかけで、介護を一時的に代わってくれないかという望みに戸惑うのです。「わがまま」といえばそうだけれど、子供の頃からの風景を共有してほぼ初めての「わがまま」を受け入れる緩やかな時間がとても暖かいのです。背景の銅版画はグレー一色で長女の日常を写すよう。
「マスクメロン」は同性婚を考えるふたり、知的障碍の兄への紹介というどちらかというとマイノリティな男三人。野球好きだった父親と兄弟による子供の頃の「家族甲子園」の情景、兄はあくまで兄で弟を真っ直ぐに思いやること、同性婚だって何の違和感もなく受け入れるあくまでピュアな気持ち。兄だって責任をもって働いているという造型がリアルなのです。背景の切り絵は鮮やかな緑色でピュアな雰囲気を
「わたしは〜」はネグレクトを経て今でも稼げていない男はそれでも大学に進み向上しようという気持ち、酒焼けの声にブーツな母親の側だって当時は高校生での妊娠、子供が子供を産むこと、ある種の貧困の連鎖を思わせます。二人を繋ぐ子供の頃の絵本の話、生まれるのが嫌で足が生えて逃げ回る卵、という童話が挟まれて互いの共有されていた時間を思い出すこと、しかし謝って欲しいというわだかまり、和解する二人を女が見守ります。背景のイラストは劇中語られる絵本の表紙、と思ってたけど架空の絵本だとか。すっかり信じてしまったワタシです。
「ミモザ」はここまでの三つの物語を繋ぐ大団円。「わたしは〜」のあれから2年、2人の結婚披露パーティの練習、という時間の経過。長女はビックリするほど生き生きと変化してるリアル、それは推しがあることのパワーなのか、あるいはいろんな意味で自由が手に入ったのかを思ったりしますが、彼女の指導というダンスシーンが生きて生活していくというパワーのように圧巻。かつてのダンスシーンを思い出したり。
思い出すと云えば、彼らの芝居の多くに登場する「消え物」もまた生きていくことメタファで、今作はそれぞれに存分に。カレーを黙々と食べたり、みたらし団子に「ポコポコメロンパン」をこれでもかと食べるコミカル、あるいはコーヒー一つでも思い切り甘くしてという親子の共通など、それぞれに効果的なのです。
長女を演じた本木幸世の一本めの地味さから四本めの鮮やかな変化がとても物語をハッピーエンドに思わせます。兄を演じた浅生礼史は、正直こういう役が多いという感じはあるけれど、この物語でも収まりはとてもよいのです。酒焼け声の母親を演じた、みとべ千希己が年齢を重ねてもロックな感じの格好良さだけれど、それはこうしなければ生きて来れなかったというある種の虚勢なのかと思わせる造型のリアル。
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