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2022.12.25

【芝居】「世界が私を嫌っても」劇団劇作家

2022.12.17 18:00 [CoRich]

2019年にリーディング公演として拝見した諏訪生まれの女性の物語。120分TACCS1179。

諏訪で女性に学は必要ないといわれた娘、母親を振り切って女学校に入ったたい子は、教師を目指す伊藤千代子、紡績会社のミツと仲良くなる。卒業式の日その足で諏訪を出ることに決め上京する。社会運動家やアナーキストと恋に落ちたり満州に渡ったりしつも、戦後は不死鳥と呼ばれ、「転向作家」とよばれながらも夫と、身のまわりの面倒を見てもらうために雇ったミツと暮らしているが、二人は愛人関係になっていて。

リーディングでは平林たい子以外の人物はわりと別の名前にしていたりとフィクションにしていました。とりわけ、三吉という変幻自在な創作された人物が物語を縫い合わせていたのです。今作では、現実に居る同じ時代の人物が友だちだったかもしれないというフィクションを滑り込ませます。史実を増やしたことによって、その史実をなぞるために手間取るように感じるワタシで、リーディグの自由さが少し懐かしくなったりするのです。

フィクションであった三吉の代わりとなるフィクションの人物は紡績会社の娘であるミツだと思うけれど、会社がたち行かなくなり、半ば家政婦のように住み込んでいて、しかも居なくなったと思ったら(平林たい子の)夫が愛人として他に囲っていたという飛躍よりは、ワタシはリーディングの小作から駅員、刑事という変幻自在のフィクションを楽しかったと思うのです。今作では、融通をきかせる刑事にその痕跡があります。いろいろな理由や調べてブラッシュアップしたが故の窮屈なのかもしれません。

平林たい子を演じた小石川桃子は小学生から女学生、妻でもあって、力強く生きる確かな造型。社会運動家の伊藤千代子を演じた小泉まきはある種たい子に「かぶれて」人生が流転したという人物の細やかな造型。恐らくは創作された人物・岡谷ミツを演じた山本由奈はいい家の子にうまれたゆったりとしていたのに、夫を労働争議の余波で亡くし、それゆえに忙しく働くという長いスパンの説得力。

母・かつ美を演じた久行敬子は女性に「諦めて」家に入るべきという時代ゆえの規範と、かつて女学生であった本人が理不尽をなんとかしようと思っていたのに、娘にはその規範に従うようにしていく引き裂かれるような気持ちを細やかに。父を演じた中嶌聡は理解ある父親、やりたいことをやらせたいというけれど、あたふたする感じの弱さ。

アナーキストを演じた近藤隼は強面のチンピラ風情の格好良さ。林芙美子を演じた秦由香里は華やかな雰囲気を纏い続けて、いわゆる「人気者」であっただろう説得力が圧倒的なのです。

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2022.12.24

【芝居】「凪の果て」動物自殺倶楽部

2022.12.17 18:00 [CoRich]

鵺的の高木登による個人ユニット。95分。久々に訪れた雑遊はいつの間にか地下ではなく一階に移っていました。

夫が愛人を作り、夫妻両方が弁護士を立てて争う。妻は高圧的な言葉を投げつけ、しかし決して離婚はしないと言い張る。 原因を作った夫はおどおどした態度で離婚して愛人と暮らしたいと言い続けばかりで妻との対話は拒否していて、謝罪すらも拒み、双方の弁護士は困っている。
その少し前、夫の弁護士が夫の愛人と会っているところに妻が訪れる。愛人はストーカーめいた電話も困っているし、結婚を積極的には望んでいないし、法廷にも立ちたくないというのは、実は暴力を振るう夫から逃れたいのと、暴力を振るわないで泣き言を言うだけの男が傍らにいてくれることが平穏の暮らしなのだという。

暴れる妻と、怖がり続ける夫という描写で始まる物語、観客はもちろん夫の側に近い感情だと思うのだけれど、徐々に夫の意味の分からない拗らせが徐々に明かされます。負けた気がするから謝りたくないし、かといって、妻の剣幕が怖いから、妻の側で勝手に忖度して、離婚が成立して、愛人と一緒になりたいのだということが判ってくるにいたり、夫の難しさと周りの困り具合が明らかになるのです。

妻の側の弁護士(男性)は優秀で、夫の側の弁護士(女性)とかつて夫婦で、やや上からの目線で、この案件から手を引くことを決めるというのが一幕の結末。

時間は巻き戻り、愛人を加えて、登場人物の女性三人(愛人、妻、夫の弁護士)での会話劇になります。実は愛人もそこまでは結婚を望んでいないこと、だけれど誰か男が傍らにいてほしい「タイプ」でずるずると関係を続けていることが明らかになることと、 愛人の存在を妻の優秀な弁護士は利用して離婚をちからづくで勝ち取ってしまうアングルを読んだ弁護士は依頼者である夫を裏切ることを決めるのです。つまり離婚を成立させないために女性三人がスクラムを組む、というどんでん返しは職業論理的に悩んでるように見えないと言う点でやや強引だけれど、痛快ではあるのです。全体の構図としては愛人を結婚させず、離婚を成立させず、しかも上から目線の男性弁護士の裏をかいたという意味で女性弁護士もある意味で勝つ、という三人の女性の勝利もまた痛快。とはいえ、勝利になんかグラデーションある気はするけれど。

三脚の椅子、観客を向いていたりしていても、それは向かい合っていたりという役者を正面から捉えるという演出。終始、不穏な「音」が流れている舞台の不安さもちょっとおどろおどろしく。

男性二人は結果的にはヒールの立ち回り。妻の弁護士を演じた函波窓は上から目線の造型でいけすかない感じ。夫を演じた橋本恵一郞はすさまじく拗らせて面倒という言葉では言い表せないほどの扱いづらい造型で邪悪なヒールをきっちりと。

愛人を演じたハマカワフミエは、夫の暴力には耐えかねていて、暴力を振るわないというだけで傍らにいてしまうという、男が居ないと不安で仕方ない人物を細やかに奥行きを。妻を演じた三浦葵は暴れ回り強い言葉と強い目力でシンボリックな造型で、強烈な印象を残します。夫の弁護士を演じた赤猫座ちこは若い女性だけれど芯の力強さという「希望」を物語に貫く役をしっかりと。

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2022.12.15

【芝居】「瞬きと閃光」ムシラセ

2022.12.4 17:00 [CoRich]

ムシラセの新作。女子校の写真部をめぐる濃縮の120分。12月4日までシアター風姿花伝。似顔絵の相関図が有り難い。1月30日まで配信中

ミッション系の女子校、写真部。兼部も居るし、写真の好き度合いもさまざまな部員たち。コンクールが近づいてそれぞれ作品を作るが、もう十年ぐらい賞を取っていない。文化祭も近づいてる。
部員の一人は優等生だけれど、コンテストになんとしても入賞したいと知恵を巡らせる。写真がもの凄く好きな一人は、部室の中で「お化け」を見てしまうが、「もじゃ」と呼び、仲良くなって写真を教えて貰ったりする。

女子高生たちと、彼女たちが仕事とか恋とか、これから先の人生に思いを巡らせたり、あるいは大人たちが過去の自分を重ねたりと交差するつくりは、まさにジュブナイル。骨格をこのままに60分にできれば、高校演劇で人気になりそう。

物語の骨格は後半になって明らかになるのだけれど、写真好きな女と親友、あるいは「もじゃ」と親友だった教師の一人、という二組の親友たち。写真が好きすぎるのに、入賞したのはそれほど写真好きでもない親友の方で、喧嘩してしまう、という鏡映しの構造。高校生たるもの、才能と友情とプライドを巡る彼女たちの葛藤やある種の不安定さ、それは時代が変わってもそこかしこで起こっていることで、そのただ中の彼女達の姿が本当に眩しいのです。過去の一組は仲直り出来ずに亡くなってしまうけれど、いまただ中の一組はきちんと修復できるという希望の結末はとてもよくて。

この骨格を持ちつつ、写真をめぐる様々を現在の価値観できちんと。たとえば、一人はルッキズムを巡る男女の非対称性やその変化を大人びて語り(それは家族の想いの通りには行きたくないという戦略によるものだけれど)、一人は女性で写真家を仕事にしようとするときに直面してきた様々な理不尽を語るのです。それはもちろん、女性でもあり写真家でもある作家ゆえの切実さを持った言葉として強い力をもつのです。

スタジオで使うような背景幕をいれた舞台も美しいし、序盤で使うフラッシュ、あるいは暗室で使うような赤いライトの光のコントロールもとてもいいのです。

写真好きを演じた輝蕗はホントに元気いっぱいなボーイッシュで物語を牽引。親友を演じた元水颯香は見守るようで、このどこまでも親友な雰囲気のよさ。男性に対してやたらに厳しい女性教師を演じた渡辺実希はすらりと、しかしどこかズレたようなコミカルを挟みつつリズムを。やる気の無い顧問を演じた辻響平のしかし生徒を見ていることの繊細、終幕これもただ早く帰りたいだけじゃなくて、介護なのだという人物の救いもいいし、恋心を持った同僚を演じた小口ふみかの「頑張っている」という見方の正しさでもあって。教務主任を演じた菊池美里はどこまでも温かくしっかり、という役が私の記憶の限りではちょっと珍しく印象的。「もじゃ」を演じた工藤さやのラフさから、あるいは女子高生たちの少し先輩な視点から眺める表情がいちいち優しく、見守る大人。あるいは、仕事で理不尽に揉まれてきたことの説得力も細やかに。学校の中を歩いている部外者はついに舞台に現れないのだけれど、キャストに名前のある松尾太稀、なるほど舞台を見守っているよう、とも感じてしまうけど、でもそれはそれで。R.I.P.

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2022.12.13

【芝居】「蛍」第27班

2022.12.3 18:00 [CoRich]

第27班の新作、135分。再演のようですが、ワタシは未見です。11日まで三鷹市芸術文化センター 星のホール。

ライターとして認められたい女、同居するメイクの女の紹介で新進気鋭の棋士のインタビューをする。要領を得ない感じだが歩いて話すうち、名前が売れたい、それ連絡の取れない姉に見つけられて再会を願っている。
演劇部部室で将棋を刺す男の一人やたらに強く、プロ棋士の女が負けられない戦いの前に練習のために通う。
妻が顔を見てもいない冷え切った夫婦。夫は後輩との出張の一夜で過ちを起こす。
DVする母親のもとで暮らす男児、無職の男と遊びゲームをするとやたらに強い。出所してきた「姉」は母親から離れて東京に逃れようとしていたが、思い直し、弟だけを東京に逃がす。

四つの舞台それぞれの組の役者で舞台を構成します。つまり、「天才棋士の物語を追う記者の部屋」「部室に集まる学生たち」「冷めきった夫婦と不貞する男」「とある家族の過去」(当日パンフによれば)。それぞれ独立に始まる物語をカットバックで見せて、実は終盤に向かって時間軸の前後関係、別々の役者による一人の人物の重なりが徐々にするするとピントが合ってくる構成の巧みさ。

ネタバレ覚悟で云えば、無職の男と遊ぶ男児は天才棋士に成長して記者の奮闘で「姉」の居場所を知り会いに行くが会えず、DV母から事実を告げられますし、部室で強かった男はプロ棋士を目指し告白するが別の友だちと付き合っていることを知り絶望しかけるが、プロ棋士になり、そのあと結婚した妻とはとっくに冷え切っていて。ビッグタイトルで天才棋士とプロ棋士の男と対決するのです。静かな対局のなかで、それぞれの役者が個々までに積み重ねて来たことを心の声として思い切り叫ぶのが圧巻の迫力。あるいはその妻の心の平穏を取り戻す切っ掛けが天才棋士だったり、あるいは天才棋士となるキッカケは無職の男が餞別代わりにくれた小さな将棋セットだったりとか。伏線を余すところ回収する緻密さ。

正直に云えば、夫がそれほどのビッグタイトルで対戦する男の顔を知らない、というのは少々ひっかかりますが、まあ夫に興味が無いということかなと思ったり。

母を演じた石井舞のやさぐれた迫力と、ずっと秘めてきた告白の細やかな説得力。無職の男を演じた大垣友のふわっとしたダメ男だけれど男児が救われる風のリアリティ。ライターと同居する二人の女を演じた鈴木あかりと、もりみさきの二人の近しさの繊細。

とりわけ、終盤のプロ棋士対局の4人のコントラスト。静かに対局する天才棋士を演じた松田将希と髙橋龍児の「静」と、それぞれの心の声を演じたふたり、男児だった天才棋士を演じた小関えりかと、学生だった男を演じた佐藤新太のそれぞれの振り絞るような絶叫の「動」。あるいは互いの「天才」と「努力家」もまたもう一つのコントラストなのです。

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2022.12.11

【芝居】「水辺にて ~断酒のできない断酒会~」菅間馬鈴薯堂

2022.12.3 15:00 [CoRich]

菅間馬鈴薯(ポテト)堂の新作。40本目。無料公開の台本アーカイブが今日時点で39で前回とダブったのはご愛敬。 荒川の岩淵水門ちかく、「断酒できない断酒会」に集う人々。老いたが元気な女、50間近になって結婚を決めた男女。 馴れそめを聞いたりするうち、歌ったり川を渡ろうとする「年下の兄と年上の弟」、ここを熱い砂浜だと遊ぶ親子、 橋の下に住む男は困ったことがあれば声掛けろ、という。

川原ならまあまあ声を出したり飲酒してたりしても大丈夫な夜、 静かな序盤、ダンスして待ってたり、合流して「断酒のできない断酒会」と、まあ諦めてる人々、カップルの男女は食堂のパートと毎週来る客の関係を馴れそめとして結婚を決めることを報告します。そこになんかおじさんたちが歌ったり、親子が砂浜だと遊んだり、とさまざまな人が。豚(とん)君と呼ばれる男は管理者のようなホームレス風情。男女は出向のため二人で名古屋に行くといい、片付けをして去って行くのです。

決して判りやすい話では無い気がして、これを20代で観ていたら、ちんぷんかんぷんだったろうと思います。50過ぎてから判る感覚、人が去って行くこと、自分の周りに少しはコミュニティがあることだったり。歳を取るのも悪くないな、と思う有り難さ。

劇団の主演女優、稲川実代子はもう序盤から身体の柔らかさに圧倒され、あるいは結婚する男女、舘智子、西山竜一のまあいい歳になってからの恥ずかしがる馴れそめのリアリティ。「年上の弟と年下の兄」なる大間剛志と津田タカシゲのコメディと時に馬鹿騒ぎ。子を演じた田中彩優希の子供に見えてしまう説得力と父を演じた村田与志行のハーモニカの格好良さと。橋の下の男を演じた市川敬太、この場所を守る気持ちの凜々しさ。

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2022.12.08

【芝居】「ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!」waqu:iraz

2022.11.20 16:30 [CoRich]

オノマリコ脚本によるワクイラズの手によるロミジュリ、ミュージカル。130分の千穐楽。APOCシアター。

現代のとある二つの王室の物語。先代の死後に国王となった姉は高校生の娘・ジュリエットに跡を継がせたいと考えている。国王になれなかった妹は夫を亡くし喪服ですごし王家となりたいと思っているが、その娘は一般人と結婚して王家を離れ、息子・ロミオに王となる望みが託されるが、その気はないし、友人の政治家の息子に恋心を抱いていて、パーティ中のキス写真をSNSで拡散される。そこにはジュリエットが居た。
居てはいけないパーティが見つかりそうになり、森へ逃げることになったジュリエットとロミオは疲労困憊してたまたまUber配達員の食べたことがないファストフードを貰って、知らないことが沢山有ることを知る。

ミュージカルでロミジュリで、とは思いつつ、なんせひと癖ある作家(失礼)です。ケイタイやSNSやUberのある現代の物語に引き寄せて再構築しています。伝統の重さとそれに押しつぶされそうになる若者という二項対立にしてるのが面白い、と思ったら作家が書いてました(そりゃそうか。でもオープンに書いてくれるのは嬉しい。答えなんかないんだけど、正解にたどり着けた気がして)。

この構造にすることで、それぞれの家の中での対立というという軸が出来た効果は絶大で、国王の娘たちである姉妹の対立、さらに姉である国王が継がせたいという娘への呪いと、妹が夫を亡くし王家となりたくて子供たちにかけた呪いという三つの対立(あるいは呪いと反発)を作り出している発明なのです。

終幕、その押しつぶされそうな若者たちがナイフを手にして、という不穏な結末は、経過はだいぶ違うのに、ロミジュリ的な悲劇かとも思うし、タイトルのドーン(Dawn=夜明け)かもしれない、というかすかな希望があったらいいなと思ったり。

ミュージカルは得意でないワタシは、これだけ歌える役者を取りそろえていても、ワクイラズ常連の役者以外初見でした。コンパクトな劇場ゆえなのかはわからないけれど、圧倒的な声量、とりわけパーティのシーンの男たち(都竹悠河=ロミオ、尾曲凱=マキューシオ、若尾颯太=ペンヴォーリオ)のある種のホモソーシャル感も含めてとてもよいのです。あるいは、ジュリエット(隈元梨乃)のカタブツ家庭教師なティボルト(植竹悠理)の慌てる感じもいいし、モンタギュー(を亡くした妻=松尾音音(youtube))のあの小さい身体から出る声量も凄い。

ワクイラズ常連組はもちろんの安定感。二人の若者の新しい扉を開くキッカケになるUber(乳母!)配達員を演じた武井希未はポップな語り部というかそれぞれの役と観客たちを繋ぐ役割の要をしっかりと。呪いを早々に察知して一般人と結婚して王家を出たロザラインを演じた小林真梨恵は演出や振付も兼ねていて、しかもこの凛とした立ち姿。「姉」キャピュレットを演じた関森絵美は娘にずっと呪いをかけ続けるある種のヒール役で居続けるある種の怖さはトラウマ級の説得力なのです。

選挙で落とされる政治家とは違い、血筋だけといえばその通りの王家は何を云われても反抗をあからさまに出来ないという重圧の厳しさは現在の日本の姿であったり、詳しくは知らないけれど英国の姿にリンクする構図も描き出します。そんな物語の中にあっても、Uber配達員から貰ったマクドナルドを「濃い塩味のポップ、油っこいけどカラフル」(だと思う..)なんて初めていいものを見つけた時のキラキラしたセリフを書いてしまう作家に舌を巻くワタシです。

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2022.12.01

【芝居】「うたかた」studio salt

2022.11.19 13:00 [CoRich]

スタジオソルトの新作、絵画などアートとのコラボレーションを謳う105分。11/23まで溝ノ口劇場。

カフェで落ち合う三姉妹、長女は母と同居し介護、次女は妊娠しているが恋人は介護施設補助で稼ぎは少ない、三女はバンドマンの40男に半ば貢いでいて昼も夜も働いている。長女は結婚も彼氏もないけれど、初めて結婚してもいいと思う推しが出来たので、年末のカウントダウンイベントの為に韓国に行きたいので、妹たちに支えて欲しいという。(「水たまりは明日消えるだろう」銅版画:オバタクミ)
保険プランナーの男は、作曲と飲食店バイトをしている男との結婚を決めて、久しぶりに弟に紹介する。障害者支援施設のパン屋の店長をしている。(「マスクメロン」切り絵:久保修)
三姉妹の妊娠中の次女、父となる男と一緒に、その母親に会う。子供の頃のネグレクトで祖母に育てられその後施設を経て通信制大学に通う。母親は気さくで盛り上がるが、男は想うところがある。(「わたしはたまご」イラストレーション:はかたてつや)
その二年後、結婚を決めた二人、みんなが集まる(「ミモザ」油彩:浅生田光司)

舞台奥に大きなLEDスクリーン、それぞれの物語ごとに絵画を背景に敷いて芝居が進みます。

「水たまり〜」はそこそこの年齢の女たち、それぞれに問題があって、独身で介護を一人で担う長女、男が稼げない次女三女。長女がほぼ初めて持った「希望」はアイドルの追っかけで、介護を一時的に代わってくれないかという望みに戸惑うのです。「わがまま」といえばそうだけれど、子供の頃からの風景を共有してほぼ初めての「わがまま」を受け入れる緩やかな時間がとても暖かいのです。背景の銅版画はグレー一色で長女の日常を写すよう。

「マスクメロン」は同性婚を考えるふたり、知的障碍の兄への紹介というどちらかというとマイノリティな男三人。野球好きだった父親と兄弟による子供の頃の「家族甲子園」の情景、兄はあくまで兄で弟を真っ直ぐに思いやること、同性婚だって何の違和感もなく受け入れるあくまでピュアな気持ち。兄だって責任をもって働いているという造型がリアルなのです。背景の切り絵は鮮やかな緑色でピュアな雰囲気を

「わたしは〜」はネグレクトを経て今でも稼げていない男はそれでも大学に進み向上しようという気持ち、酒焼けの声にブーツな母親の側だって当時は高校生での妊娠、子供が子供を産むこと、ある種の貧困の連鎖を思わせます。二人を繋ぐ子供の頃の絵本の話、生まれるのが嫌で足が生えて逃げ回る卵、という童話が挟まれて互いの共有されていた時間を思い出すこと、しかし謝って欲しいというわだかまり、和解する二人を女が見守ります。背景のイラストは劇中語られる絵本の表紙、と思ってたけど架空の絵本だとか。すっかり信じてしまったワタシです。

「ミモザ」はここまでの三つの物語を繋ぐ大団円。「わたしは〜」のあれから2年、2人の結婚披露パーティの練習、という時間の経過。長女はビックリするほど生き生きと変化してるリアル、それは推しがあることのパワーなのか、あるいはいろんな意味で自由が手に入ったのかを思ったりしますが、彼女の指導というダンスシーンが生きて生活していくというパワーのように圧巻。かつてのダンスシーンを思い出したり。

思い出すと云えば、彼らの芝居の多くに登場する「消え物」もまた生きていくことメタファで、今作はそれぞれに存分に。カレーを黙々と食べたり、みたらし団子に「ポコポコメロンパン」をこれでもかと食べるコミカル、あるいはコーヒー一つでも思い切り甘くしてという親子の共通など、それぞれに効果的なのです。

長女を演じた本木幸世の一本めの地味さから四本めの鮮やかな変化がとても物語をハッピーエンドに思わせます。兄を演じた浅生礼史は、正直こういう役が多いという感じはあるけれど、この物語でも収まりはとてもよいのです。酒焼け声の母親を演じた、みとべ千希己が年齢を重ねてもロックな感じの格好良さだけれど、それはこうしなければ生きて来れなかったというある種の虚勢なのかと思わせる造型のリアル。

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