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2022.10.28

【芝居】「ウロボロスの筆」LOST WALKER

2022.10.15 13:30 [CoRich]

まつもと演劇祭参加作品。ワタシとしては始めて入った空間・上土下町会館はこの地域の町並みの象徴の一つ。長野市で昨年旗揚げの劇団、再演のようですが、ワタシは劇団初見です。45分。

作家が執筆の大詰めとなり、旅館を訪れる。女学生と教師の許されない逃避行の中、帰宅を促す教師に反発した女学生は洞窟に教師を誘い出す、という小説を書いている作家。行き詰まる執筆を進めるため、仲居に原稿を読ませてイメージを膨らませる。

ごくコンパクトな空間、ちゃぶ台とスタンド、畳の和室の一角という風情の装置。言葉を読むことで小説の世界に取り込まれる仲居、さらには現実と虚構の区別が曖昧になっていく狂気の姿はやがて、女学生による教師の監禁というサイコスリラーな展開、包丁で刺すという終幕を用意していた作家なのに、物語を完結させるために自分を刺すよう懇願する作家と包丁を手渡される仲居が小説世界でエコーチェンバーとなっていく二人の怖さがこの小さな空間に濃密に描き出されます。作家を演じた伊東昌恒の真面目で大人な雰囲気、仲居を演じた佐藤美穂子は素直でしかし取り込まれていく変化が鮮やかに。

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【芝居】「キャベツの類」信州大学劇団山脈 & 劇団 (人間) 山脈

2022.10.15 11:30 [CoRich]

久々開催のまつもと演劇祭。信州大学の学内劇団・山脈(やまなみ)と、そのOBによる劇団(人間)山脈による公演。前田司郎作の「キャベツの類」70分。上土ふれあいホール。

記憶を取り出した男は妻との会話も覚束ない。妻は妻で記憶が青虫に食われまだらに失っている。二人の元にやってくるダンサーと妹、その先生、なんかファミレスのボス風情の神様を名乗る男などやってくる。男は妻の頭の青虫退治を神様に依頼するが、妻は巨大化し男からは見えなくなってしまい、妻の雰囲気はどんどん薄くなる。

唐突に踊ったり、巨大化したりとコミカルで夢の中のように次々起こる不思議な出来事。妻が世界ぜんぶとおなじぐらいに巨大化し希薄化することで徐々に失っていく悲しさにもみえるけれど、キャベツを剥き、青虫をみつけ泣き続ける夫の姿は、生まれるときの赤ん坊のようでもあります。赤ん坊はキャベツから生まれる、という欧米の伝承風と捕らえれば、輪廻の物語と想ったりもします。

ファミレスに集まるヤンキー風情の神様が絶妙な造型。大きめ会議室ぐらいの大きさの決してタッパもない劇場空間にしっかりブランコを作り込むのも、雰囲気をきちんと。

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2022.10.25

【芝居】「YOKOHAMA 3 PIECES」theater 045 syndicate + 虹の素 + G9/Project

2022.10.13 19:00 [CoRich]

神奈川県演劇連盟(TAK)所属の劇団が神奈川芸術劇場(KAAT)で定期的に上演する企画公演、「TAK in KAAT」。2022年秋は3団体によるオムニバス公演。神奈川芸術劇場・大スタジオ。10月16日まで。100分。

絶滅を防ぐためのトキの繁殖センター、「おじさん」に懐いたトキも捉えられる。30年生きて繋いでいき、同じ檻の中を通り過ぎるトキたち、中国のトキから繋がる。「サイゴノトキ」(虹の素)
教室の窓をバットで割ったとして取り押さえられる札付きの男子生徒は、しかし否認する。職員会議で退学を審議し全会一致で退学が決まるかに思われたが、スクールカウンセラーが異議を唱え、再調査を提案する。「職員会議」(G/9プロジェクト)
共学校に入ったのに一度も女子に会わないままの男子生徒。教師は女子生徒にも教えているらしい。なぜかある高い壁の向こうに女子がいると思った男子生徒たちは、合唱で声を届けてモテれば、と思いつく。「音~2022~」

神奈川県で芝居を観ていてもTAKという連盟を知らなかったワタシです。なるほど多彩に、たのしく。

「サイゴノトキ」はトキセンターに居るトキたちを中心に、あるいは人間の都合の理不尽さを描きます。白い羽衣のように見える衣装に紅などの差し色の衣装でのダンスが美しい。タッパの高い劇場を埋めているモール状のLED、トキが死んでいくたびに点灯するのは、数珠のように見えたりもするワタシです。

「職員会議」は、映画「12人の怒れる男」をモチーフにして、職員会議で生徒の再調査に至るまでを描きます。高校らしく、恋バナとかの状況から生徒会長の嘘を疑うではあるのだけど、正直に云えば聞き取りの雑さが顕わと感じるワタシです。「12人〜」と違うのは、対等ではない権力を持つ校長や教頭という人物が存在することなのだけれど、そこが必ずしもオリジナリティにならないのが惜しい気がするワタシです。神奈川で「職員会議」というタイトルだから、studio saltのアレかと思ってたのは秘密です。

「音〜」はオイスターズ・平塚直隆作による芝居 (1, 2)。 男子生徒たちと教師、出入りの業者たちが大騒ぎしながの物語の爆笑編は変わりません。テンション芸といってもいい芝居はコントの風合い。この広い舞台を存分に飛び回り、空間をしっかり埋める、045 syndicate の確かなチカラ。

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2022.10.23

【芝居】「「没入すると怖いよね、恋愛」の略で没愛」ガレキの太鼓

2022.10.9 17:00 [CoRich]

ワタシ的には2018年から久々に、劇団名をオープン屋号にしてからは初めて。しかも(恐らくは作家の)実話ベースという90分。10/9までOFF OFFシアター。作演は舘そらみですが、体調不良により演出は途中で伊藤毅に交替とアナウンスされています。

36歳まで結婚に興味のなかったイラストレータの女。観光パンフレットの仕事で訪れた山間の自治体の男から、数回しか会っていないのに結婚を申し込まれ混乱するが、誠実で真っ直ぐなアプローチに心動かされ付き合うことを決める。男の親や友人たちは悪意はないが36歳という年齢やこの土地に住まないことを言われたり、日常的な干渉に強いストレスを感じる。東京に戻っても、原因不明の体調不良が続き、それは恨みを買った地元の元カノの生霊によるものだと言われる。男が裏切るであろうこと、あるいは自分が一番なのに仕方なく二番なのだという頭の中の声に悩まされる。

結婚(やそれに類する事実婚)を巡る人の感じ方の多様性が認識されるようになっている昨今、今作はいわゆる古くからの価値観が未だにある田舎に嫁ぐことを決めた都会(や海外)に住んできた女性が感じる違和感を主軸に描きます。描き方はポップで疾走感すら溢れていて情報量が多くて、振り落とされそうになりながらも、終演後の帰路でセリフを噛みしめてみたり。たとえば序盤、「20代の結婚相談所に行ってはみたものの、条件を出せなかったということは結婚に興味がない、ということ」というの前提ゼロで観客を引き込む感じが、ああ久々に拝見する作家の持ち味だなと思ったりするのです。

その真ん中で翻弄され語る女を演じた異儀田夏葉はポップさと戸惑いとコミカルの絶妙なさじ加減。友人を演じた日高ボブ美の友人たる距離感の説得力。バーのマスターを演じた奥田努のダンディで踏み込んでこない安心感。夫を演じた富川一人、生まれ育った場所に疑問を持ってるような、それが達成されていないようなある種の幼さを感じさせる造型は作家の描いたものだけれど、それをきちんと体現します。

字幕によれば、実話として11月に入籍予定とのこと、どうか、お幸せにと願うばかり(なのに、不安ばかりが感じてしまうこの芝居どうなんだ)

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2022.10.19

【芝居】「How to stop falling in love」スクランブル

2022.10.9 14:00 [CoRich]

50歳になる女の誕生日、男と別れたばかりの彼女を祝うために友人たちが集まるが、嵐の夜、男を連れ込んでいて、まだ恋仲にはなってない。男の元カノとその友人が諦めずにきている。プロポーズ断ったじゃないかというがそれは口臭だろうとか、でもタトゥーを入れるほどには惚れている。友人とホテルで添い寝というが信じない。

恋多き女、なんか巻き込まれた感のある素敵そうなオトコ、そしてその元カノという三角関係を軸に、親戚のカウンセラー、その母親である叔母が見合い写真を持ってきていたり、あるいは社員達が工夫を凝らしてサプライズを企んだりとわりとカオスな雰囲気で物語が進みます。 いろんな人々が居る、という当たり前の風景をいくつも並べて見せている雰囲気で、関係性がある人物たちのクラスターが複数あって、その間での敵対を早々に描いているわりに、その顛末を描く時間がわりと長くて時間の歩みがゆがんでいるような感覚を覚えるアタシです。正直に云えば、果たしてそれは意図的なものなのか、結果なのか、はたまたワタシが歪んでるのかが今ひとつ判らず。時間の歩みという点では会話の間合いが微妙で、空白の時間がいくつも差し挟まるのも違和感の一つです。会話で話されていることは自然なのにこの不思議な感覚は他では感じたことのないものです。

それにしても芸達者の役者を揃えたもので、唯一の男性を演じた中根道治の巻き込まれるヒトの完璧な造型、カウンセラーを演じた竹内もみのしっかりした人物の描き方、その母親を演じた岡本みゆきの隙を見れば見合い写真を差し込もうという虎視眈々のコミカル(覆面プロレスラーの夫ネタも楽しく)、恋多き女を演じた環ゆらは、社長で恋多いとかのいろいろな説得力。

広いダイニングをもつ豪邸、という雰囲気をごくシンプルにつくる装置もとてもよく。いわゆる配信やDVD販売こそないけれど、チケットを買えばきちんと複数カメラで編集した動画ファイルを後日送るというのもいい。動画ファイルを送る、ということはずっと残る可能性があり、コピーだってあり得るのに、観客を信用してくれている感じもワタシは嬉しい。

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2022.10.18

【芝居】「かつて生命があったという惑星に向かって僕らは、」乙戯社

2022.9.23 12:00 [CoRich]

ワタシは初見の劇団です。音楽劇が主だったけれど初めてのストレートプレイと謳う90分。神奈川県立青少年センター・HIKARI。

火星移住の選抜のため、閉鎖空間で共同生活をしている人々。霊視的に何かが見えるという者、依存症に悩む者、大切な人を亡くしても目標に向き合う者、自分だけがこうして「生きている」ことに苛まれる者たち。船内の停電により暗闇の中で、それぞれがむき出しに。

舞台中央上部に螺旋状のオブジェ、役者たちは手のひらに球体を載せて舞うオープニングは星の動きを模したよう。この選抜で(ほぼ)初めて出会った人々がそれぞれに背負うものが徐々に見えてくる、という物語は、ナイーブな感性で組み上げられた空気を纏うのです。

正直にいえば、おそらくは片道切符となる火星移住に応募する人々、何かを亡くし孤独を抱えた人だということが皆後半に向かって開示されるので、序盤は単にギクシャクした感じ、後半は情報が一気に出てくるので渋滞して少々理解が追いつかないと感じてしまうのは、ワタシの物語を読み解く能力が劣化したからかなとかなんとか思ったりしますが、まあそれは自己責任。

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2022.10.07

【芝居】「田瓶奇譚集(奇)」肋骨蜜柑同好会

2022.9.17 19:00 [CoRich]

肋骨蜜柑同好会や日本のラジオが何年か前から設定( 1, 2) している架空の町「田瓶市」を舞台にした短編を5つの劇団が上演。100分ほど。9月25日まで駅前劇場。正直にいえば、二種類の公演なので、CoRichのエントリ分けて頂くと嬉しいなぁ、ワタシは。

町工場に勤める男は住処の音がうるさく夜眠れなくなって仕事を休む。心配する先輩と呼び出された後輩が訪れて宴会をしている。そこに訪れた女は「私を治して欲しい」という「ゴーシュ」(AURYN 作・演:窪寺奈々瀬)
水と空気の町の選挙事務所。事務所を貸している社長、近所の面倒見のいい主婦、優秀な弟とそうでもない兄も兄弟で参加している。わかりやすく地縛霊も居たりする。誰を応援してるかも皆はぼんやりしている日常の筈だったが「そして誰もいなくなるまで待って」(Mrs.fictions 作・演:中嶋康太)
一軒家をタダで貰った女。職場で言い寄られたり、税務署に税金で詰め寄られたり。助けてくれる職場の同僚の本心を実は知っている。「もっけの幸い」(肋骨蜜柑同好会 作・演:フジタタイセイ)

「ゴーシュ」は眠れない男を訪ねる先輩の男と後輩の女、後輩の女が印象が変わっている、という隠し味。そこに訪ねてきた女に導かれ、高校の裏、空き地に埋まってる人形とオルゴール。それを直すことで男は眠れるようになり、しかし後輩の女は何も覚えていない、朧な着地は綺麗。

「そして誰も〜」、選挙事務所に集う人々、応援することによって何かを得られるような、あるいはぼんやりそこに出入りしてるよう。序盤早々にあからさまな「地縛霊」を登場させて、爆笑編での序盤がとても楽しい。集まる人々の俗っぽさ、場所を貸している社長の甘い汁の皮算用、面倒見のいい主婦売春の元締め。あるいは出入りしている「兄」は後半に至って誰かに唆されて無差別毒殺(一液、二液とか帝銀事件っぽいディテールが巧い)に。公務員なのに出入りしている優秀な「弟」が、実はこの一連を日々繰り返し、テープやハードディスクを本当に跡形無く消すために繰り返し上書きするのだ、という終幕、それは事件とは無縁の「水と空気の町」がウリのこの町、が見事。パソコン好きなワタシ、よくよく考えると同じ事を上書きしていたらそれは消えないで、記録が強調されるんじゃないか、と思ったりもするけど、それはご愛敬。

「もっけの幸」、貰った一軒家に住む東京から引っ越してきた女、愚図というか隙がありそうに見えるから、親切に見える職場の同僚や店長の目論見は知っていて、身を守る術がある。自分は幸せで居続けなければいけないという強い意志ゆえに引っ越してきて、それは「あの子」の為に、という理由。「敵認定」した人々を卵にするので姿を消す、というのはくるりと一回りするようで、残酷だけれど、優しいような。

「怪」「奇」両方を通じて出演する図書館の女・嶋谷佳恵、当日パンフにも、CoRIchの出演欄にも名前が無いのがちょっと残念だったりも。

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