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2022.09.13

【芝居】「Show me Shoot me」やみ・あがりシアター

2022.9.3 14:00 [CoRich]

やみ・あがりシアター、MITAKA NEXT枠として初登場。9月11日まで三鷹市芸術文化センター 星のホール。120分。

社宅に住む人々。ベランダでの漫才を日課とする夫婦。それなりにネタはやっているけれど、漫才が終われば会話らしい会話がない。ある日、隣に大阪から夫婦が引っ越してきて、彼らがまるで漫才の掛け合いのように止めどなく会話するのを目の当たりにして衝撃を受ける。

序盤はいくつかの短いコントを繋げて見せるテイで、登場人物や場面を繋いで見せます。実はコント自体は本筋ではないけれど、するするとイキオイがあって見事。そこで描かれる社宅で暮らす人々。物語の軸になる二組の夫婦の他にはクリエータの妹と会社勤めの兄で暮らす二人、兄の恋人だが妹の投稿する動画にネガティブコメントを付けたりが楽しみな女、あるいは読み聞かせに通ってくる総務の女、句会に通ったりする同僚の女、喫煙所で会話している部長となんか態度が大きな新人など、同じ会社に勤める人々が集います。

漫才をする夫婦が会話をできなくなっているのは、面白くなければとか笑わせなければと云うなかば強迫観念で、その呪縛の末にたどり着いた漫才というフォーマットを、隣の関西人夫婦は軽々と日常会話で超えてしまうのです。漫才妻はひたすら真面目に、その関西人スキルを得ようと、関西人妻につきまとい(他人との距離の詰め方もちょっとおかしい)、「面白いこと」を求めて社宅の人々の「カブトムシ採取」「句会」に参加するドタバタ、夫の方も似たようなもので、「早朝のランニング」や「読み聞かせ」になんとなく揃って参加したりしますが、実際のところ、何も変わらなかったり。

終幕近くで、漫才する二人はマッチングサイトで身体の関係から出会い、そのあとに何気なく入ったお笑いライブでの気まずさを抱えたまま、なぜか二人で暮らし始めてしまったのだということが語られます。互いを深く知って夫婦になったのではなくて、よくわからないままに狭い社宅で二人で暮らしを始めてしまったこと、ましてや女の方は近所づきあいも殆どないという状態で暮らしている閉塞感の中で見つけた希望が漫才であり、それを軽々と超えた関西人の会話スキルに劣等感を抱くのだけれど、無遠慮な若者に教えられた、サイト「ゆっくり」を使って、半ば仮面をかぶったようなフラットな会話を得ていくのです。どうせ二人で暮らしていく日々、時間をどう潰していくかだというのはあまりにバッサリに過ぎる気はするけれど、一面真理だなとおもったり思わなかったり。

いっぽうの大阪からの夫婦の見事なほどの掛け合いの会話。近所の人々にも素早く馴染む社交的な感じ。二人の妻があれこれに挑戦するドタバタの中でもツッコミ、あるいはうまく溶け込んで見せたりとそつがないのです。物語に大きく影響するわけではないけれど、妻は友人関係も仕事も捨てて夫の転勤についてきていて、専業主婦状態、しかしそれはそれで気が張り詰めていたということを吐露する瞬間。そういえば二人の妻はどちらも社宅の中の専業主婦でその独特の位置が物語の肝になっているような気もします。

漫才をする夫婦を演じた川上献心、加藤睦望の生真面目さ、そして面白さに対するややゆがんだ憧れの塩梅の見事さ。関西人夫婦を演じた小切裕太、さんなぎは本当に見事で大量に繰り出される台詞と間合い、かと思えば結びつく愛情の深さの振れ幅がとてもよくて物語を牽引します。会社の上司を演じた小寺悠介、無遠慮な新人を演じた阿部遊劇手の二人もまた、漫才のような掛け合いをここにも見事に。

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