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2022.09.29

【芝居】「田瓶奇譚集(怪)」肋骨蜜柑同好会

2022.9.17 15:00 [CoRich]

肋骨蜜柑同好会や日本のラジオが何年か前から設定( 1, 2) している架空の町「田瓶市」を舞台にした短編を5つの劇団が上演。100分ほど。9月24日まで駅前劇場。

ソーセージ工場が半ば廃墟となっていた古い団地を買い上げて寮とした部屋。二人が住んでいる。手取りの殆どを家賃とアメニティとして徴収されているが、いつか都会に出て成功することを夢見ている。最近やってきた男は夢で絵を描くのが好きで工場で働いている男になっている。「腸詰と極楽」(肋骨蜜柑同好会 作:ホトンドケイ素 演出:フジタタイセイ)
大学に入り古いアパートで一人暮らしを始めた女はあちこちがきしむ音や薄い壁の向こうから聞こえる人の声や猫の鳴き声に悩まされオカルト好きと怖がりの友人に相談して家に来て貰う。「隣は猫をする人ぞ」(たすいち 作・演:目崎剛)
小学校教諭であるワタシは同僚から子供たちの間での噂話「くるくるさん」聴かされる。事故に遭い失われた娘の小指を探し続けているという。ワタシは夢で指を探せないと自分の指を奪われるといわれるが、事故に遭ったのは同級生の少女ではなかった、と思い出す。「くるくるさん」(日本のラジオ 作・演:屋代秀樹)

「腸詰〜」は意識高い若者が搾取されている構図に、居なくなった人は都会に出て行ったのではない、ということが徐々に判る怖さがジワジワと。絵を描ける男がパッケージもデザインし、しかしそこから絶望にたたき落とされるという物語の起伏が見事。なぜその夢をみたか、という物語の「仕掛け」もキチンとしていて見やすい。抜け出すための出口はソコしかない絶望だけれど、「行かねえよ、そんなところ」という終幕の台詞のキレはいいけれど、それは力強さか絶望の中での空元気か。

「隣は〜」は一人暮らしを初めてしたときに聞こえる声や軋みがちょっと怖いという記憶を思い起こさせるような開幕から、隣は一人暮らしの筈なのに、なんか夜に猫耳をつけている男とか、いつの間にか入ってきている隣人とかの気味の悪さ。一緒に謎を解明する女3人のコントラスト、怖がりとオカルト好きと住人というのも見事。仕掛けが判った終幕、もう一度大家が呟く一言はこれが終わりではなく、続くであろう怪談の仕上げ。

「くるくるさん」は田瓶wikiにあるしないのバスの名前につながり、道路を巡る物語、さすがに作家は手慣れた感じです。正直に云えば、私が座った端の席では、小学校教諭の「私」の向こう側で喋る女性が全く見えないまま、という見切れの残念さはあるのだけれど、夢と現実を行き来し、子どもの頃を思い出し辿る時間、そして指をなくしたのは少女じゃなかったと思い至り、でも今見えている風景はそうではないから、と自分から合わせに行くという狂気。なるほど「怪」。

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2022.09.18

【芝居】「SHINE SHOW!」Aga-risk Entertainment

2022.9.3 18:00 [CoRich]

アガリスクエンターテイメントの新作は 新宿三井ビルの実話をもとに。9月4日までシアターアルファ東京。150分。

夏の高層ビルの広場に組まれたステージで行われるのは、入居企業だけで行われる対抗のど自慢の会場。会社員は忙しく、ビルの管理会社のスタッフもこの祭りを楽しみ、作っている。会社員それぞれの思いを歌に込めたり、歌がうまいというだけで出されることになって怖くなったり、元アイドルが派遣で働いていたり、デスマーチ中の会社員は歌合戦に出ると云って出てきたら、着信拒否されたり、ドア認証が通らなかったり。あるいは、何かの告発を企む出場者が居たり。毎年連続でエライ人が名物になっていたり。

会社らしくシュレッダーの紙ゴミを紙吹雪にしたりという特徴もきっちり、あるいはラジオ局のディレクターとアナウンサーが取材に来たりは舞台の説明として緻密なことに作家の舌を巻きます。ワタシに素晴らしかったのは、孫請けの会社員が元の発注企業の社長(実はVIP席にいる)に告発を仕掛けるシーン。今作の中では唯一のラップで、告発という機能がとても巧く機能しているのです。孫請けだから間に別の会社が入っているというのが絶妙で、告発も実はその間の会社からの伝聞だという危うさ。更には告発された社長がトラメガでそのラッブバトルに応戦し、誤解を互いに知り、解り合うというのに泣いてしまうワタシです。正直にいえば、ラップを客席からどう応援したらいいかは知れ渡ってるとは言いがたく、司会の女性が手を真上にあげ、手のひらをプレイヤーに向けて前後に動かすということをしてガイドしても、同じことが客席で起こらなかったのが残念だったりするのですが。

物語の核となるスタッフを演じた熊谷有芳はイベントへの愛と危機管理の素晴らしさを体現しつつ、危機に際してステージに上がって歌うまでをきっちり。ビルの警備員を演じた淺越岳人は仕事をしつつ、アイドルに凄く詳しく、元アイドルの派遣社員が居ることも判った上で喋りすぎず見守る塩梅の良さ。デスマーチ中の企業の社員を演じた三原一太はいろいろ困ってしまう雰囲気がそれらしくて説得力。外資系証券のエライ人を演じた中田顕史郎のコミカル、楽しみにしているのど自慢よりも仕事をキッチリ取る格好良さが見事。ラップで告発する役を演じた平田純哉、それに応えた役員を演じた北川竜二(ラップするとは思えない風貌なのがとてもよい)の二人がホントに素晴らしく。

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2022.09.13

【芝居】「Show me Shoot me」やみ・あがりシアター

2022.9.3 14:00 [CoRich]

やみ・あがりシアター、MITAKA NEXT枠として初登場。9月11日まで三鷹市芸術文化センター 星のホール。120分。

社宅に住む人々。ベランダでの漫才を日課とする夫婦。それなりにネタはやっているけれど、漫才が終われば会話らしい会話がない。ある日、隣に大阪から夫婦が引っ越してきて、彼らがまるで漫才の掛け合いのように止めどなく会話するのを目の当たりにして衝撃を受ける。

序盤はいくつかの短いコントを繋げて見せるテイで、登場人物や場面を繋いで見せます。実はコント自体は本筋ではないけれど、するするとイキオイがあって見事。そこで描かれる社宅で暮らす人々。物語の軸になる二組の夫婦の他にはクリエータの妹と会社勤めの兄で暮らす二人、兄の恋人だが妹の投稿する動画にネガティブコメントを付けたりが楽しみな女、あるいは読み聞かせに通ってくる総務の女、句会に通ったりする同僚の女、喫煙所で会話している部長となんか態度が大きな新人など、同じ会社に勤める人々が集います。

漫才をする夫婦が会話をできなくなっているのは、面白くなければとか笑わせなければと云うなかば強迫観念で、その呪縛の末にたどり着いた漫才というフォーマットを、隣の関西人夫婦は軽々と日常会話で超えてしまうのです。漫才妻はひたすら真面目に、その関西人スキルを得ようと、関西人妻につきまとい(他人との距離の詰め方もちょっとおかしい)、「面白いこと」を求めて社宅の人々の「カブトムシ採取」「句会」に参加するドタバタ、夫の方も似たようなもので、「早朝のランニング」や「読み聞かせ」になんとなく揃って参加したりしますが、実際のところ、何も変わらなかったり。

終幕近くで、漫才する二人はマッチングサイトで身体の関係から出会い、そのあとに何気なく入ったお笑いライブでの気まずさを抱えたまま、なぜか二人で暮らし始めてしまったのだということが語られます。互いを深く知って夫婦になったのではなくて、よくわからないままに狭い社宅で二人で暮らしを始めてしまったこと、ましてや女の方は近所づきあいも殆どないという状態で暮らしている閉塞感の中で見つけた希望が漫才であり、それを軽々と超えた関西人の会話スキルに劣等感を抱くのだけれど、無遠慮な若者に教えられた、サイト「ゆっくり」を使って、半ば仮面をかぶったようなフラットな会話を得ていくのです。どうせ二人で暮らしていく日々、時間をどう潰していくかだというのはあまりにバッサリに過ぎる気はするけれど、一面真理だなとおもったり思わなかったり。

いっぽうの大阪からの夫婦の見事なほどの掛け合いの会話。近所の人々にも素早く馴染む社交的な感じ。二人の妻があれこれに挑戦するドタバタの中でもツッコミ、あるいはうまく溶け込んで見せたりとそつがないのです。物語に大きく影響するわけではないけれど、妻は友人関係も仕事も捨てて夫の転勤についてきていて、専業主婦状態、しかしそれはそれで気が張り詰めていたということを吐露する瞬間。そういえば二人の妻はどちらも社宅の中の専業主婦でその独特の位置が物語の肝になっているような気もします。

漫才をする夫婦を演じた川上献心、加藤睦望の生真面目さ、そして面白さに対するややゆがんだ憧れの塩梅の見事さ。関西人夫婦を演じた小切裕太、さんなぎは本当に見事で大量に繰り出される台詞と間合い、かと思えば結びつく愛情の深さの振れ幅がとてもよくて物語を牽引します。会社の上司を演じた小寺悠介、無遠慮な新人を演じた阿部遊劇手の二人もまた、漫才のような掛け合いをここにも見事に。

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2022.09.07

【芝居】「嵐風呂滑郎一座」おのまさしあたあ

2022.8.12 19:30 [CoRich]

初日のみ上演、その後は公演中止となった初日で拝見できました。「テンペスト」を下敷きに和物として仕上げる一人芝居。「あらしふろすべろう」一座、と読むのだそうで。

人気の芝居小屋、火の仕掛けを使い火事を起こしてその罪を背負い佐渡へ渡る途中の海で無人島に一人たどり着いた男。やがて屁で会話する「へのすけ」との会話で日々を過ごすうち、娘が探してやってくる。そもそもの火事がライバルの小屋の男が仕掛けて起こしたことだった。

「テンペスト」(wikipedia)にあまり馴染みのないワタシです。テンペストでは魔法とか妖精とかの空想譚に復讐心が重なりつつも改心し赦し和解する流れはなるほどいっしょ。

似顔絵を自立させる「システム」を多用してきた「おのまさしあたあ」ですが、今作は他の人物を人形にしていて雰囲気がずいぶん異なります。それでも、人が現れ救われ、ハッピーエンドな雰囲気で終盤を迎えます。

さまざまな出来事が起こった物語の終幕、他の人物は姿を消し、一人つぶやくような男が残ります。なるほど嵐などそもそも起こらず、佐渡に送られた男がひとり部屋に閉じ込められているなかで想像を掻きたてて思い描いた物語を観ていたのだと思うのです。

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2022.09.06

【芝居】「あつい胸さわぎ」iaku

2022.8.11 13:00 [CoRich]

若年性乳がんをテーマに据えた2019年作、娘以外のキャストは初演から引き続き、劇場を変えての上演。来年には映画の公開も予定されています。100分。スズナリで8月14日まで。

過去に観た芝居でもわりと物語を忘れがちなワタシです。他の人の感想で初演にはあった上の方の赤い糸(自分のblogに書いてるのにw)、とかすら覚えて居ないポンコツさ。アゴラからスズナリに替わり広くなった舞台は円形で役者たちがその円周に沿って出捌けというのはリズムがあったり、一方向に動く、あるいは反転するなどで意味があるようで面白いのです。

ワタシは男性なので、乳がんという病気の在り方だけでなくて、乳房を全摘出するか、残存するか再建するかなどの想いを本当の所は判らないのと思います。物語の軸はソコだけれども、そこから母親と娘の二人暮らしの日々、初めての恋心と本当に久しぶりに抱いた二人の恋心と広がる手際がいいスピード感が素晴らしいのに、出来すぎと思わせないのはどんな魔法だろうと思ったり。「無惨に失恋」する終幕だけれど、しかしそこからまた二人で前を向いて「まずは腹ごしらえして、ステーキを」食べて、暮らしていくという力強さがとてもいいのです(と、初演の感想にも書いてたw)。

娘を演じた平山咲彩は元気の良さの序盤が印象的。初演から引き続きの役者たちはいずれも濃密さを上げている印象。母を演じた枝元萌の肝っ玉かあちゃん風から恋して恥ずかしいの振れ幅が繊細。会社の同僚を演じた橋爪未萠里はヒールな役どころの色気溢れる説得力アップを感じてしまうワタシ。東京(実は千葉)から転職してくる同僚を演じた瓜生和成のあっけらかんと、気遣いできるのに(恋心に)気付かない絶妙な雑さの解像度の高さ。

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